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第62話:領民からの歓迎
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領民たちの熱狂的な歓迎を受けながら、アシュレイ様は私に向き直ると、馬車の中から優雅に手を差し伸べた。
「リナリア。降りてきなさい。私の大切な領民たちに君を紹介したい」
その声は領主としての威厳と、私への優しさが完璧なバランスで溶け合っていた。
私は少しだけ躊躇った。私のような者が、彼の大切な領民たちの前に姿を現して果たして良いのだろうか。
しかし、彼の紫の瞳に宿る絶対的な信頼の色を見て、私は意を決した。
私は彼の手を取り、馬車のステップをゆっくりと降りる。そして彼の隣にそっと立った。
その瞬間、領民たちの歓声が、一瞬だけぴたりと止んだ。
好奇と驚きと、そして戸惑いが入り混じった数十の視線が私一人に集中する。その無言の圧力に、私の心臓はきゅっと縮み上がった。
しかしアシュレイ様は、そんな私の肩を力強く、そして誇らしげに抱き寄せた。そして集まった全ての領民たちに聞こえるように、朗々と、しかしどこまでも明瞭な声で宣言した。
「皆、聞いてくれ」
彼の声には人々を惹きつけ、黙らせる不思議な力があった。
「こちらにおわすのは、リナリア嬢。……私の未来の妻となるお方だ」
未来の妻。
その言葉がまるで雷鳴のように、私の頭の中で響き渡った。
え……? い、今、この人、なんて……?
私の思考は完全に停止した。顔中の血液が一気に沸騰するような感覚。きっと今の私の顔は、茹でダコのように真っ赤になっているに違いない。
それは私だけでなく、そこにいた全ての領民たちにとっても衝撃的な言葉だった。
彼らは一瞬きょとんとした顔で、アシュレイ様と私を交互に見比べた。そして言葉の意味を理解した瞬間。
わああああああっ!
先ほどとは比べ物にならないほどの、地鳴りのような大歓声がアイゼンベルクの青い空に響き渡った。
「公爵様に、お妃様が!」
「なんと、なんと、おめでたいことだ!」
「道理で、見たこともないほどお美しい方だと思った!」
彼らの反応は、戸惑いや疑念ではなかった。
ただ純粋な、心からの祝福と歓喜だった。
「おめでとうございます、公爵様! リナリア様!」
「ようこそおいでくださいました、未来の公爵夫人様!」
彼らは口々に祝いの言葉を叫びながら、私たちを取り囲む輪をさらに縮めてくる。
私はあまりのことに、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。アシュレイ様の胸に顔をうずめ、この場から消え去ってしまいたいほどの羞恥心に襲われる。
そんな私の様子を見て、アシュレイ様は楽しそうに喉の奥で笑った。
その時だった。
人垣をかき分けるようにして、数人の子供たちが私たちの前へと駆け寄ってきた。その小さな手にはそれぞれ、道端で摘んできたのであろう素朴な野の花が握られている。
「……おくしゃまに、あげる!」
一番小さな女の子が、はにかみながら私に小さな白い花束を差し出した。
「まあ……」
私は羞恥心も忘れ、思わずその前にしゃがみこんだ。そしてその小さな花束を優しく受け取る。
「ありがとう。とても綺麗なお花ね」
私が心からの笑顔でそう言うと、子供たちはきゃっきゃっと嬉しそうに笑った。
その光景を見ていた年配の女性が、目に涙を浮かべながら私の手を取った。その手は長年の農作業で節くれだっていたが、とても温かかった。
「……未来の奥様。なんてお優しそうな方だ。公爵様は本当に良いお方をお選びになられた。どうか、どうか我らが公爵様を末永くよろしくお願いいたします」
彼女はそう言うと、私の手の甲に深く、深く頭を下げた。
その純粋で温かい言葉に、私の胸は熱くなった。
王都の貴族たちが向けてきた嫉妬や打算に満ちた視線とは全く違う。彼らの瞳には領主を敬愛し、その伴侶となる私を心から歓迎する温かい光だけが宿っていた。
噂はすでにこの土地にも届いていたのだろう。
「聖女様! わしらの村も奇病で困っております! どうか、お救いください!」
誰かがそう叫ぶと、他の者たちも口々に私に助けを求めてきた。
その声には悲壮感だけでなく、私が来たことによる確かな希望が満ちている。
私は立ち上がった。
そして集まった全ての人々の顔を、一人一人ゆっくりと見渡した。
もう戸惑いも羞恥心もなかった。
私の心を満たしていたのは、この温かい人々に受け入れられたという深い安堵と、そしてこの人々の期待に必ず応えなければならないという、聖女としての力強い使命感だった。
「……皆様」
私は澄んだ、そして凛とした声で言った。
「わたくしはリナリアと申します。この度、皆様の敬愛するアシュレイ様のお傍に仕えさせていただくことになりました。至らぬ身ではございますが、このアイゼンベルクの地と皆様のことを心から愛し、お支えすることをお約束いたします」
そして私は最も力強く、こう付け加えた。
「そして、この地を苦らせているという病も、この私が必ずや癒してみせましょう」
私のその宣言に、領民たちから再び割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
その様子を、アシュレイ様は一歩下がった場所からどこまでも誇らしげに、そして愛おしそうに見守っていた。
彼の選んだ女性が、彼の大切な領民たちに完全に受け入れられた瞬間だった。
温かい歓迎の波に包まれながら、私たちは再び馬車へと乗り込んだ。
私の手の中には、子供たちがくれた素朴な野の花束が優しく握られていた。
それはどんな高価な宝石よりも私の心を温かくする、最高の贈り物だった。
領民たちの歓声に見送られながら、馬車は奇病に苦しむ北の村へと再びゆっくりと走り出した。
私の心は、この土地と人々への深い愛情で、どこまでも、どこまでも満たされていくのだった。
「リナリア。降りてきなさい。私の大切な領民たちに君を紹介したい」
その声は領主としての威厳と、私への優しさが完璧なバランスで溶け合っていた。
私は少しだけ躊躇った。私のような者が、彼の大切な領民たちの前に姿を現して果たして良いのだろうか。
しかし、彼の紫の瞳に宿る絶対的な信頼の色を見て、私は意を決した。
私は彼の手を取り、馬車のステップをゆっくりと降りる。そして彼の隣にそっと立った。
その瞬間、領民たちの歓声が、一瞬だけぴたりと止んだ。
好奇と驚きと、そして戸惑いが入り混じった数十の視線が私一人に集中する。その無言の圧力に、私の心臓はきゅっと縮み上がった。
しかしアシュレイ様は、そんな私の肩を力強く、そして誇らしげに抱き寄せた。そして集まった全ての領民たちに聞こえるように、朗々と、しかしどこまでも明瞭な声で宣言した。
「皆、聞いてくれ」
彼の声には人々を惹きつけ、黙らせる不思議な力があった。
「こちらにおわすのは、リナリア嬢。……私の未来の妻となるお方だ」
未来の妻。
その言葉がまるで雷鳴のように、私の頭の中で響き渡った。
え……? い、今、この人、なんて……?
私の思考は完全に停止した。顔中の血液が一気に沸騰するような感覚。きっと今の私の顔は、茹でダコのように真っ赤になっているに違いない。
それは私だけでなく、そこにいた全ての領民たちにとっても衝撃的な言葉だった。
彼らは一瞬きょとんとした顔で、アシュレイ様と私を交互に見比べた。そして言葉の意味を理解した瞬間。
わああああああっ!
先ほどとは比べ物にならないほどの、地鳴りのような大歓声がアイゼンベルクの青い空に響き渡った。
「公爵様に、お妃様が!」
「なんと、なんと、おめでたいことだ!」
「道理で、見たこともないほどお美しい方だと思った!」
彼らの反応は、戸惑いや疑念ではなかった。
ただ純粋な、心からの祝福と歓喜だった。
「おめでとうございます、公爵様! リナリア様!」
「ようこそおいでくださいました、未来の公爵夫人様!」
彼らは口々に祝いの言葉を叫びながら、私たちを取り囲む輪をさらに縮めてくる。
私はあまりのことに、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。アシュレイ様の胸に顔をうずめ、この場から消え去ってしまいたいほどの羞恥心に襲われる。
そんな私の様子を見て、アシュレイ様は楽しそうに喉の奥で笑った。
その時だった。
人垣をかき分けるようにして、数人の子供たちが私たちの前へと駆け寄ってきた。その小さな手にはそれぞれ、道端で摘んできたのであろう素朴な野の花が握られている。
「……おくしゃまに、あげる!」
一番小さな女の子が、はにかみながら私に小さな白い花束を差し出した。
「まあ……」
私は羞恥心も忘れ、思わずその前にしゃがみこんだ。そしてその小さな花束を優しく受け取る。
「ありがとう。とても綺麗なお花ね」
私が心からの笑顔でそう言うと、子供たちはきゃっきゃっと嬉しそうに笑った。
その光景を見ていた年配の女性が、目に涙を浮かべながら私の手を取った。その手は長年の農作業で節くれだっていたが、とても温かかった。
「……未来の奥様。なんてお優しそうな方だ。公爵様は本当に良いお方をお選びになられた。どうか、どうか我らが公爵様を末永くよろしくお願いいたします」
彼女はそう言うと、私の手の甲に深く、深く頭を下げた。
その純粋で温かい言葉に、私の胸は熱くなった。
王都の貴族たちが向けてきた嫉妬や打算に満ちた視線とは全く違う。彼らの瞳には領主を敬愛し、その伴侶となる私を心から歓迎する温かい光だけが宿っていた。
噂はすでにこの土地にも届いていたのだろう。
「聖女様! わしらの村も奇病で困っております! どうか、お救いください!」
誰かがそう叫ぶと、他の者たちも口々に私に助けを求めてきた。
その声には悲壮感だけでなく、私が来たことによる確かな希望が満ちている。
私は立ち上がった。
そして集まった全ての人々の顔を、一人一人ゆっくりと見渡した。
もう戸惑いも羞恥心もなかった。
私の心を満たしていたのは、この温かい人々に受け入れられたという深い安堵と、そしてこの人々の期待に必ず応えなければならないという、聖女としての力強い使命感だった。
「……皆様」
私は澄んだ、そして凛とした声で言った。
「わたくしはリナリアと申します。この度、皆様の敬愛するアシュレイ様のお傍に仕えさせていただくことになりました。至らぬ身ではございますが、このアイゼンベルクの地と皆様のことを心から愛し、お支えすることをお約束いたします」
そして私は最も力強く、こう付け加えた。
「そして、この地を苦らせているという病も、この私が必ずや癒してみせましょう」
私のその宣言に、領民たちから再び割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
その様子を、アシュレイ様は一歩下がった場所からどこまでも誇らしげに、そして愛おしそうに見守っていた。
彼の選んだ女性が、彼の大切な領民たちに完全に受け入れられた瞬間だった。
温かい歓迎の波に包まれながら、私たちは再び馬車へと乗り込んだ。
私の手の中には、子供たちがくれた素朴な野の花束が優しく握られていた。
それはどんな高価な宝石よりも私の心を温かくする、最高の贈り物だった。
領民たちの歓声に見送られながら、馬車は奇病に苦しむ北の村へと再びゆっくりと走り出した。
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