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第八十二話 暴露
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玉座の間は一瞬にして壮絶な戦場へと変貌した。
「者ども、かかれ! ヴァルハイトの反逆者どもを一人残らず血祭りに上げよ!」
宰相ゲルハルトの絶叫を合図に、「黄昏の蛇」の兵士たちが黒い津波となって俺たちへと殺到した。
それに対し、ヴァルハイトの軍勢もまた咆哮を上げて迎え撃つ。
「ヴァルハイトの誇りを見せてやれ!」
父ジークフリートの剛剣が雷光となって閃き、敵兵を薙ぎ払う。
「雑魚はどいていろ!」
長兄ゲオルグの戦斧が大地を揺るがし、敵の陣形を粉砕する。
「――塵と化せ」
次兄ベルトルトの魔法が炎の嵐となって敵を焼き尽くす。
そして、銀色の閃光が戦場を縦横無尽に駆け巡る。セラはまるで死の舞踏を踊るかのように、敵の首を次々と刈り取っていった。
それは少数ながらも、一人一人が伝説級の実力を持つ最強の家族による共闘だった。
俺はその戦いの中心には加わらなかった。俺の役目はそこではない。
俺はクロウの仮面の下で戦況を冷静に分析しながら、一体の影分身を玉座の間に響き渡る喧騒の裏で静かに動かしていた。
その影は壁を伝い、天井を這い、玉座の間に集ったある者たちの元へと忍び寄っていた。
それはこのクーデター騒ぎを遠巻きに、しかし興味深そうに眺めている数名の中立派の大貴族たち。そして皇帝陛下の側に控え、未だにどちらにつくべきか決めかねている帝国の上層部の官僚たちだった。
俺は彼らの耳元で、影分身を通して囁き始めた。
それは俺だけが知り得る帝国の真実。
『――宰相ゲルハルトこそが真の反逆者である』
『――聖女誘拐事件、ダンジョンでのスタンピード、その全てを裏で糸引いていたのは彼だ』
『――ヴァルハイトのクーデターは、その宰相の陰謀を暴き出すための苦肉の策なのだ』
囁きは誰にも聞こえない。だが、その言葉は彼らの心の中に直接疑念の種を蒔いていく。
彼らは目の前の戦闘を見ながら戸惑い始めた。本当にヴァルハイトが悪なのか? 宰相のあの狂気じみた姿は、本当に国を思う忠臣のものなのか?
俺の情報操作は、この戦いのパワーバランスを少しずつ、しかし確実に崩し始めていた。
戦況はヴァルハイト優勢で進んでいた。だが、敵の数はあまりにも多い。父や兄たちも徐々に疲労の色を見せ始めていた。
その時だった。
玉座の間の巨大な扉が、外側から凄まじい力で破壊された。
現れたのは第一王子カイウス・フォン・グランツ。そして彼が率いる帝国近衛騎士団の最強の精鋭たちだった。
「……何という、有様だ……」
カイウスは血と硝煙に満ちた玉座の間の惨状を呆然と見つめた。
彼の元にも俺の影分身が真実の断片を届けていた。彼は半信半疑ながらも、父である皇帝の身を案じこの場所へと駆けつけたのだ。
「カイウス王子!」
宰相ゲルハルトはカイウスの登場を見て、狂喜の笑みを浮かべた。
「よくぞ来た! 見よ、この反逆者どもを! 共に帝国の敵を討つのだ!」
宰相はカイウスが当然自分の味方につくと信じて疑っていなかった。
カイウスはしばらくの間、目の前で繰り広げられるヴァルハイト家と「黄昏の蛇」の死闘を複雑な表情で見つめていた。
彼の正義が今、試されている。
悪名高いヴァルハイトを討つのか。それとも得体の知れない情報と自らの直感を信じ、帝国の根幹を揺るがす宰相に剣を向けるのか。
その彼の葛藤を断ち切ったのは、一人の少女の声だった。
「――カイウス様! 騙されてはいけません!」
騎士団の後方からリリアーナが姿を現した。彼女はカイウスと共にこの場所へと駆けつけていたのだ。
彼女の翡翠色の瞳はまっすぐに宰相ゲルハルトを射抜いていた。
「その方こそがこの国に混沌をもたらそうとする真の悪です! 私のこの目がそう告げています!」
聖女の曇りなき瞳。それは何よりも強い真実の証だった。
リリアーナの言葉に、カイウスの迷いは完全に消え去った。
彼は炎の剣を抜き放つと、その切っ先を宰相ゲルハルトへとまっすぐに向けた。
「……宰相。あなたを国家反逆罪の容疑で拘束する」
その宣言は、玉座の間の全ての者たちに衝撃となって響き渡った。
「……は、ははははは! 馬鹿な! この俺が反逆者だと!?」
宰相ゲルハルトは最初は驚愕し、やがて腹を抱えて笑い出した。
「面白い! 実に面白い余興だ! 王子も聖女も、そしてヴァルハイトも! 全員まとめてこの俺に逆らうというのか!」
彼の笑い声が不気味に玉座の間に響き渡る。
「良いだろう! そこまで言うのならば見せてやろう! この帝国の真の支配者が誰であるのかを!」
宰相の表情から笑みが消えた。代わりに浮かんだのは、神をも恐れぬ冒涜的なまでの狂気。
彼は玉座の裏に隠されていた一つの仕掛けに手をかけた。
ゴゴゴゴゴ……!
玉座そのものが低い地響きと共に横へとスライドしていく。
現れたのは地下へと続く暗い螺旋階段だった。
そしてその地下から、これまで感じたどの魔力とも比較にならない、おぞましく強大な邪悪な気配が奔流となって溢れ出してきた。
「な、なんだ、この気配は……!」
カイウスが息を呑む。
父ジークフリートもゲオルグもベルトルトも、その未知なる脅威を前に警戒に身を固くした。
俺はクロウの仮面の下で、静かにその時が来たことを悟った。
父が言っていた「始祖の遺産」。
そして宰相が隠し持っていた、最後の、そして最悪の切り札。
その正体が今、白日の下に晒されようとしていた。
戦いは終わっていなかった。
本当の地獄はここから始まるのだ。
「者ども、かかれ! ヴァルハイトの反逆者どもを一人残らず血祭りに上げよ!」
宰相ゲルハルトの絶叫を合図に、「黄昏の蛇」の兵士たちが黒い津波となって俺たちへと殺到した。
それに対し、ヴァルハイトの軍勢もまた咆哮を上げて迎え撃つ。
「ヴァルハイトの誇りを見せてやれ!」
父ジークフリートの剛剣が雷光となって閃き、敵兵を薙ぎ払う。
「雑魚はどいていろ!」
長兄ゲオルグの戦斧が大地を揺るがし、敵の陣形を粉砕する。
「――塵と化せ」
次兄ベルトルトの魔法が炎の嵐となって敵を焼き尽くす。
そして、銀色の閃光が戦場を縦横無尽に駆け巡る。セラはまるで死の舞踏を踊るかのように、敵の首を次々と刈り取っていった。
それは少数ながらも、一人一人が伝説級の実力を持つ最強の家族による共闘だった。
俺はその戦いの中心には加わらなかった。俺の役目はそこではない。
俺はクロウの仮面の下で戦況を冷静に分析しながら、一体の影分身を玉座の間に響き渡る喧騒の裏で静かに動かしていた。
その影は壁を伝い、天井を這い、玉座の間に集ったある者たちの元へと忍び寄っていた。
それはこのクーデター騒ぎを遠巻きに、しかし興味深そうに眺めている数名の中立派の大貴族たち。そして皇帝陛下の側に控え、未だにどちらにつくべきか決めかねている帝国の上層部の官僚たちだった。
俺は彼らの耳元で、影分身を通して囁き始めた。
それは俺だけが知り得る帝国の真実。
『――宰相ゲルハルトこそが真の反逆者である』
『――聖女誘拐事件、ダンジョンでのスタンピード、その全てを裏で糸引いていたのは彼だ』
『――ヴァルハイトのクーデターは、その宰相の陰謀を暴き出すための苦肉の策なのだ』
囁きは誰にも聞こえない。だが、その言葉は彼らの心の中に直接疑念の種を蒔いていく。
彼らは目の前の戦闘を見ながら戸惑い始めた。本当にヴァルハイトが悪なのか? 宰相のあの狂気じみた姿は、本当に国を思う忠臣のものなのか?
俺の情報操作は、この戦いのパワーバランスを少しずつ、しかし確実に崩し始めていた。
戦況はヴァルハイト優勢で進んでいた。だが、敵の数はあまりにも多い。父や兄たちも徐々に疲労の色を見せ始めていた。
その時だった。
玉座の間の巨大な扉が、外側から凄まじい力で破壊された。
現れたのは第一王子カイウス・フォン・グランツ。そして彼が率いる帝国近衛騎士団の最強の精鋭たちだった。
「……何という、有様だ……」
カイウスは血と硝煙に満ちた玉座の間の惨状を呆然と見つめた。
彼の元にも俺の影分身が真実の断片を届けていた。彼は半信半疑ながらも、父である皇帝の身を案じこの場所へと駆けつけたのだ。
「カイウス王子!」
宰相ゲルハルトはカイウスの登場を見て、狂喜の笑みを浮かべた。
「よくぞ来た! 見よ、この反逆者どもを! 共に帝国の敵を討つのだ!」
宰相はカイウスが当然自分の味方につくと信じて疑っていなかった。
カイウスはしばらくの間、目の前で繰り広げられるヴァルハイト家と「黄昏の蛇」の死闘を複雑な表情で見つめていた。
彼の正義が今、試されている。
悪名高いヴァルハイトを討つのか。それとも得体の知れない情報と自らの直感を信じ、帝国の根幹を揺るがす宰相に剣を向けるのか。
その彼の葛藤を断ち切ったのは、一人の少女の声だった。
「――カイウス様! 騙されてはいけません!」
騎士団の後方からリリアーナが姿を現した。彼女はカイウスと共にこの場所へと駆けつけていたのだ。
彼女の翡翠色の瞳はまっすぐに宰相ゲルハルトを射抜いていた。
「その方こそがこの国に混沌をもたらそうとする真の悪です! 私のこの目がそう告げています!」
聖女の曇りなき瞳。それは何よりも強い真実の証だった。
リリアーナの言葉に、カイウスの迷いは完全に消え去った。
彼は炎の剣を抜き放つと、その切っ先を宰相ゲルハルトへとまっすぐに向けた。
「……宰相。あなたを国家反逆罪の容疑で拘束する」
その宣言は、玉座の間の全ての者たちに衝撃となって響き渡った。
「……は、ははははは! 馬鹿な! この俺が反逆者だと!?」
宰相ゲルハルトは最初は驚愕し、やがて腹を抱えて笑い出した。
「面白い! 実に面白い余興だ! 王子も聖女も、そしてヴァルハイトも! 全員まとめてこの俺に逆らうというのか!」
彼の笑い声が不気味に玉座の間に響き渡る。
「良いだろう! そこまで言うのならば見せてやろう! この帝国の真の支配者が誰であるのかを!」
宰相の表情から笑みが消えた。代わりに浮かんだのは、神をも恐れぬ冒涜的なまでの狂気。
彼は玉座の裏に隠されていた一つの仕掛けに手をかけた。
ゴゴゴゴゴ……!
玉座そのものが低い地響きと共に横へとスライドしていく。
現れたのは地下へと続く暗い螺旋階段だった。
そしてその地下から、これまで感じたどの魔力とも比較にならない、おぞましく強大な邪悪な気配が奔流となって溢れ出してきた。
「な、なんだ、この気配は……!」
カイウスが息を呑む。
父ジークフリートもゲオルグもベルトルトも、その未知なる脅威を前に警戒に身を固くした。
俺はクロウの仮面の下で、静かにその時が来たことを悟った。
父が言っていた「始祖の遺産」。
そして宰相が隠し持っていた、最後の、そして最悪の切り札。
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戦いは終わっていなかった。
本当の地獄はここから始まるのだ。
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