破滅の運命を覆すため、悪役貴族は影で最強を目指す 〜歴史書では断罪される俺だが、未来知識と禁忌の魔法で成り上がってみせる〜

夏見ナイ

文字の大きさ
100 / 100

第百話 終わらない物語

しおりを挟む
ヴァルハハイトの故郷で父と兄たちとの真の和解を果たした俺は、数日後、再びロヴェルトの地へと戻ってきた。俺の隣にはもう迷いはなかった。リリアーナも、そしてセラも、俺が築き上げる未来にはなくてはならない存在となっていた。
俺の小さな王国、ロヴェルトの地は春の訪れと共に、さらなる活気に満ち溢れていた。王都の商人との取引も本格的に始まり、『ロヴェルトの恵み』と名付けられた特産品は、その目新しさと質の高さから瞬く間に貴族たちの間で評判となっていった。軍馬の育成計画も軌道に乗り始め、この不毛の地は帝国内でも他に類を見ない独自の力を持つ領地へと、着実に変貌を遂げつつあった。
俺は領主として、多忙だが充実した日々を送っていた。
だが、その平穏な日々の裏で、俺は一つのことを決して忘れてはいなかった。
「黄昏の蛇」。
その首魁であった宰相ゲルハルトと枢機卿アウグストゥスは死んだ。実行部隊であった「黒曜石の牙」も壊滅した。だが、本当にそれで全てが終わったのだろうか。
あの巨大な組織がたった二人の指導者を失っただけで、完全に瓦解するとは俺には到底思えなかった。

その疑念が確信へと変わったのは、夏の初めのある日のことだった。
俺の元にカイウスから一通の極秘の親書が届いたのだ。
手紙には簡潔に、しかし重大な内容が記されていた。
『――宰相ゲルハルトの隠し部屋から、謎の暗号で書かれた数冊の日誌が発見された。解読には困難を極めたが、その一部がようやく判明した』
俺は息を呑んで、その先を読み進めた。
『日誌によれば、「黄昏の蛇」は我々が考えていたような帝国に根差した単一の組織などではなかった。それは、この大陸全土、いや、海の向こうの国々にまで根を張る遥かに巨大な国際的秘密結社の、エルドラント帝国における一つの支部に過ぎなかったのだ』
俺の背筋を冷たい汗が伝った。
『彼らの真の目的は、「始祖の遺産」のような世界各地に眠る古代の超兵器を復活させ、現在の世界秩序を一度完全に破壊し、彼らが理想とする新たな世界を創造することにあるらしい。ゲルハルトは、その壮大な計画における一人の駒に過ぎなかった』
手紙はこう締めくくられていた。
『アレン。君の戦いはまだ終わっていないのかもしれない。いや、僕たちの戦いはまだ始まったばかりなのだ。いつかまた君の力が必要になる時が来るだろう。その時まで、互いに牙を研いでおこう。友よ』

俺は手紙を静かに机の上に置いた。そして、窓の外に広がる平和な領地の風景を見つめる。
子供たちの笑い声。畑を耕す村人たちの歌声。風車の回る穏やかな音。
俺が命を懸けて守り抜いた、この日常。
だが、その平和はガラス細工のように脆く、そして儚いものだった。
地平線の向こう、俺たちの知らない場所で、新たな、そしてより巨大な脅威が今も蠢いている。
歴史書に記されていた俺個人の破滅の運命は、確かに覆した。
だがその結果、俺は歴史書には記されていなかった、世界そのものの破滅に繋がるより大きな運命の渦に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
「……面白い」
俺の口から乾いた笑いが漏れた。
それは絶望の笑いではなかった。
新たな、そしてより強大な敵の出現を前に、武者震いするような闘志の笑みだった。
「上等じゃないか」
俺は立ち上がった。そして、書斎の壁に飾られていたヴァルハハイト家の紋章を見上げる。
帝国の影として、帝国の闇を背負い続けてきた我が一族。その宿命はまだ終わってはいなかったらしい。
だが、俺はもうその宿命に怯えるだけの無力な少年ではない。
俺には信頼できる仲間がいる。
揺るぎない忠誠を誓ってくれる影の剣士(セラ)が。
絶対的な光で俺の道を照らしてくれる聖女(リリアーナ)が。
そして、背中を預けられる唯一無二の好敵手(カイウス)がいる。
父と兄たちも、それぞれの場所で戦っている。
そして何より、俺には守るべき民と帰るべき故郷がある。
俺は書斎の机に向き直った。そして一枚の新しい羊皮紙を広げ、羽ペンを手に取る。
これから始まる新たな戦いのための計画を練り始めるために。
それは歴史書には記されていない、全く新しい未来。
俺自身の手で仲間たちと共に切り拓いていく、終わらない物語。
俺の戦いはまだ始まったばかりらしい。
その事実が、なぜか俺の心を不思議なほどの高揚感で満たしていた。
悪役の仮面はもう必要ない。
だが、影の中で最強を目指す戦いは、これからも続いていく。
俺は窓の外の青い空を見上げ、静かに、しかし力強く微笑んだ。
(完)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

学生学園長の悪役貴族に転生したので破滅フラグ回避がてらに好き勝手に学校を魔改造にしまくったら生徒たちから好かれまくった

竜頭蛇
ファンタジー
俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。 やがて主人公に成敗されて死ぬ破滅エンドになることを思い出した俺は破滅を避けるために自分の学園長兼学生という立場をフル活用することを決意する。 それからやりたい放題しつつ、主人公のヘイトを避けているといつ間にかヒロインと学生たちからの好感度が上がり、グレートティーチャーと化していた。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

処理中です...