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第八話 掘り出し物とレベルアップ
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翌朝、俺は宿屋の硬いベッドで目を覚ました。窓から差し込む朝日が、新たな一日の始まりを告げている。腕の中では、フェンがまだすやすやと寝息を立てていた。そのもふもふの体を優しく撫で、俺は静かにベッドから抜け出した。
今日の目的は、あの古代遺跡――未発見ダンジョンの再探索だ。
そのためには、まず準備を整えなければならない。銀貨4枚。心許ない資金だが、無いよりはましだ。
俺は眠っているフェンを部屋に残し、街の市場へと向かった。活気のある市場を抜け、冒険者向けの武具や道具を扱う店が並ぶ一角へ足を運ぶ。そこで、一軒の古びた武具屋が目に留まった。店先には埃をかぶった武具が無造さにごろごろと転がっている。店主はカウンターで居眠りをしており、お世辞にも商売熱心とは言えない。
「……こういう店にこそ、掘り出し物がある」
俺は【神の眼】を発動し、店先に並べられた商品の一つ一つを鑑定していった。
【錆びたショートソード】:鉄製。耐久度が著しく低い。ナマクラ。
【歪んだレザーシールド】:ゴブリンの爪痕あり。防御力は期待できない。
【欠けたナイフ】:価値なし。
やはり、ほとんどがガラクタだ。だが、俺は諦めずに鑑定を続けた。すると、無数の武器が詰め込まれた樽の底で、ある一本の短剣が俺の目に留まった。
【アイテム名】鋼鉄のダガー
【ランク】E
【状態】良好。手入れが行き届いていないため、本来の輝きを失っている。
【詳細】熟練の職人が鍛えた鋼鉄製のダガー。軽量でバランスが良く、刺突に適している。適切な手入れを施せば、Dランク相当の切れ味を発揮する。
これだ。見た目は他のガラクタと変わらないが、その品質は一級品だ。俺は樽からそのダガーを取り出し、居眠りしていた店主を起こした。
「親父、これ、いくらだ?」
「んあ……?」
眠そうな目をこすりながら俺を見た店主は、ダガーを一瞥して面倒くさそうに言った。
「ああ、それかい。そんなもん、銀貨1枚でいいや。持ってきな」
しめた。相場なら銀貨10枚は下らない品だ。
俺は銀貨1枚を支払い、鋼鉄のダガーを手に入れた。残りの金でポーションと保存食を買い、宿へ戻る。部屋では、目を覚ましたフェンが尻尾を振って俺を迎えた。
『カイン、遅かったです』
「すまない。準備に手間取った。これからダンジョンへ行くぞ」
俺はフェンを外套に隠し、再び『霧の森』を目指した。ギルドの前を通りかかると、ちょうど扉から出てきたエリアナとばったり会ってしまった。
「あ、カインさん! それにフェンちゃんも!」
彼女は嬉しそうに駆け寄ってきて、俺の外套の隙間から顔を出すフェンの頭を優しく撫でた。フェンは少しだけ嬉しそうに喉を鳴らしている。現金なやつだ。
「これからお出かけですか? まさか、また『霧の森』へ?」
「ああ。少し、やり残したことがあってな」
「もう! だからあれほど危険だと……。絶対に無理はしないでくださいね? もし帰りが遅くなるようなら、ギルドに一報入れてください。私が迎えに行きますから!」
「……分かった。ありがとう、エリアナ」
彼女の純粋な心配が、少しだけくすぐったい。俺は礼を言ってその場を後にした。背後から「フェンちゃん、またねー!」という声が聞こえてくる。
森に入り、人の気配がないことを確認してから、俺はフェンを外套から出した。
【影渡り】を使えば一瞬でダンジョンの入り口まで行けるが、今はまだこのスキルを隠しておきたい。俺たちは自分の足で、再びあの古代遺跡へとたどり着いた。
ダンジョンの中は、相変わらず不気味な沈黙に包まれていた。
俺たちは罠を避けながら、昨日ガーディアンスケルトンを倒した広間を抜け、さらに奥へと進む。すると、前方の通路から素早い動きの影が二つ、こちらへ向かってくるのが見えた。
『カイン、敵です』
「分かっている」
【神の眼】が即座に敵の情報を表示する。
【名前】シャドウクーガー
【種族】魔獣
【ランク】E
【状態】空腹、敵意
【弱点】光属性、音
【スキル】
・隠密 Lv.2
・鋭い爪 Lv.2
【攻略情報】
・影に潜むことで姿を消すが、聴覚が異常に発達しているため、大きな音に弱い。
・喉元の装甲が薄い。
影に潜む黒豹。二体同時となると、厄介な相手だ。
一体がふっと姿を消し、影に溶け込む。もう一体が、俺めがけて一直線に突進してきた。
「フェン、左の壁に向かって吠えろ!」
『ワン!』
フェンが甲高い声で吠えると、その方向の何もない空間から、姿を消していたシャドウクーガーが苦悶の声を上げて飛び出した。聴覚が弱点というのは本当らしい。
その隙に、俺はもう一体のシャドウクーガーに向き直る。
右手に構えた鋼鉄のダガーに、意識を集中させた。
「凍てつけ、『アイスアロー』!」
フェンとの契約によって得た、氷結魔法。体内の魔力が消費され、手のひらから氷の矢が生成される。矢は一直線に飛び、シャドウクーガーの喉元へ突き刺さった。
「ギャイン!」
悲鳴を上げて動きが鈍るクーガー。だが、まだ息はある。
「フェン、とどめだ!」
『お任せを!』
俺の指示で、フェンが弾丸のように飛び出す。その速さは、まさに神速。シャドウクーガーが反応するよりも早く、その喉笛に鋭い牙を突き立てた。黒豹は短い断末魔を上げて、光の粒子となって消えていく。
残るは一体。
フェンの咆哮で混乱しているクーガーに、俺はもう一度アイスアローを放つ。今度は的確に眉間を貫いた。二体目のクーガーも、あっけなく霧散した。
戦闘時間は、わずか数十秒。
Eランクの魔物とはいえ、二体をこれほど楽に倒せるとは。これも【神の眼】による弱点看破と、フェンとの連携のおかげだ。
その時、俺の体に温かい光が満ちるのを感じた。
【レベルが2に上がりました】
【ステータスが上昇しました】
ウィンドウに表示された文字に、俺は拳を握りしめた。レベルアップ。たった一体倒しただけだが、これが自らの力で得た経験値だ。体が軽くなり、魔力の最大量も増えたのが分かる。
「よし、この調子で行くぞ」
俺たちはさらにダンジョンの奥へと進んだ。
道中、いくつかの魔物と遭遇したが、すべて【神の眼】とフェンの力で危なげなく撃破していく。カインのレベルは順調に上がっていき、アイスアローの威力も増していった。
しばらく進むと、行き止まりの壁の前に出た。
だが、【神の眼】はその壁が偽物であることを見抜いていた。
【隠し通路:壁の一部が回転扉になっている。特定の石を押すことで開く】
俺は指示された石を押し込んだ。ゴゴゴ、と重い音を立てて壁が回転し、新たな通路が現れる。その先は小さな部屋になっており、中央にぽつんと石造りの宝箱が置かれていた。
「罠はないな……」
鑑定で安全を確認し、宝箱の蓋を開ける。
中に入っていたのは、一つの指輪だけだった。黒ずんだ銀色の、何の変哲もない指輪だ。
だが、俺がそれを手に取り、【神の眼】で鑑定した瞬間、その評価は一変した。
【アイテム名】???の指輪(名称不明)
【ランク】S
【状態】魔力枯渇、機能停止
【詳細】所有者の魔力を増幅し、魔法の詠唱速度を飛躍的に向上させる古代の秘宝。現在は力が失われているが、高純度の魔石を与えることで覚醒する可能性がある。
【備考】この指輪には、さらに別の力が秘められているようだ……。
ランクS。そして、未知の可能性。
俺は息を呑み、その黒ずんだ指輪を握りしめた。これは、ただの成り上がりのための元手ではない。俺を、世界の頂点へと押し上げるための、重要な鍵になるかもしれない。
今日の目的は、あの古代遺跡――未発見ダンジョンの再探索だ。
そのためには、まず準備を整えなければならない。銀貨4枚。心許ない資金だが、無いよりはましだ。
俺は眠っているフェンを部屋に残し、街の市場へと向かった。活気のある市場を抜け、冒険者向けの武具や道具を扱う店が並ぶ一角へ足を運ぶ。そこで、一軒の古びた武具屋が目に留まった。店先には埃をかぶった武具が無造さにごろごろと転がっている。店主はカウンターで居眠りをしており、お世辞にも商売熱心とは言えない。
「……こういう店にこそ、掘り出し物がある」
俺は【神の眼】を発動し、店先に並べられた商品の一つ一つを鑑定していった。
【錆びたショートソード】:鉄製。耐久度が著しく低い。ナマクラ。
【歪んだレザーシールド】:ゴブリンの爪痕あり。防御力は期待できない。
【欠けたナイフ】:価値なし。
やはり、ほとんどがガラクタだ。だが、俺は諦めずに鑑定を続けた。すると、無数の武器が詰め込まれた樽の底で、ある一本の短剣が俺の目に留まった。
【アイテム名】鋼鉄のダガー
【ランク】E
【状態】良好。手入れが行き届いていないため、本来の輝きを失っている。
【詳細】熟練の職人が鍛えた鋼鉄製のダガー。軽量でバランスが良く、刺突に適している。適切な手入れを施せば、Dランク相当の切れ味を発揮する。
これだ。見た目は他のガラクタと変わらないが、その品質は一級品だ。俺は樽からそのダガーを取り出し、居眠りしていた店主を起こした。
「親父、これ、いくらだ?」
「んあ……?」
眠そうな目をこすりながら俺を見た店主は、ダガーを一瞥して面倒くさそうに言った。
「ああ、それかい。そんなもん、銀貨1枚でいいや。持ってきな」
しめた。相場なら銀貨10枚は下らない品だ。
俺は銀貨1枚を支払い、鋼鉄のダガーを手に入れた。残りの金でポーションと保存食を買い、宿へ戻る。部屋では、目を覚ましたフェンが尻尾を振って俺を迎えた。
『カイン、遅かったです』
「すまない。準備に手間取った。これからダンジョンへ行くぞ」
俺はフェンを外套に隠し、再び『霧の森』を目指した。ギルドの前を通りかかると、ちょうど扉から出てきたエリアナとばったり会ってしまった。
「あ、カインさん! それにフェンちゃんも!」
彼女は嬉しそうに駆け寄ってきて、俺の外套の隙間から顔を出すフェンの頭を優しく撫でた。フェンは少しだけ嬉しそうに喉を鳴らしている。現金なやつだ。
「これからお出かけですか? まさか、また『霧の森』へ?」
「ああ。少し、やり残したことがあってな」
「もう! だからあれほど危険だと……。絶対に無理はしないでくださいね? もし帰りが遅くなるようなら、ギルドに一報入れてください。私が迎えに行きますから!」
「……分かった。ありがとう、エリアナ」
彼女の純粋な心配が、少しだけくすぐったい。俺は礼を言ってその場を後にした。背後から「フェンちゃん、またねー!」という声が聞こえてくる。
森に入り、人の気配がないことを確認してから、俺はフェンを外套から出した。
【影渡り】を使えば一瞬でダンジョンの入り口まで行けるが、今はまだこのスキルを隠しておきたい。俺たちは自分の足で、再びあの古代遺跡へとたどり着いた。
ダンジョンの中は、相変わらず不気味な沈黙に包まれていた。
俺たちは罠を避けながら、昨日ガーディアンスケルトンを倒した広間を抜け、さらに奥へと進む。すると、前方の通路から素早い動きの影が二つ、こちらへ向かってくるのが見えた。
『カイン、敵です』
「分かっている」
【神の眼】が即座に敵の情報を表示する。
【名前】シャドウクーガー
【種族】魔獣
【ランク】E
【状態】空腹、敵意
【弱点】光属性、音
【スキル】
・隠密 Lv.2
・鋭い爪 Lv.2
【攻略情報】
・影に潜むことで姿を消すが、聴覚が異常に発達しているため、大きな音に弱い。
・喉元の装甲が薄い。
影に潜む黒豹。二体同時となると、厄介な相手だ。
一体がふっと姿を消し、影に溶け込む。もう一体が、俺めがけて一直線に突進してきた。
「フェン、左の壁に向かって吠えろ!」
『ワン!』
フェンが甲高い声で吠えると、その方向の何もない空間から、姿を消していたシャドウクーガーが苦悶の声を上げて飛び出した。聴覚が弱点というのは本当らしい。
その隙に、俺はもう一体のシャドウクーガーに向き直る。
右手に構えた鋼鉄のダガーに、意識を集中させた。
「凍てつけ、『アイスアロー』!」
フェンとの契約によって得た、氷結魔法。体内の魔力が消費され、手のひらから氷の矢が生成される。矢は一直線に飛び、シャドウクーガーの喉元へ突き刺さった。
「ギャイン!」
悲鳴を上げて動きが鈍るクーガー。だが、まだ息はある。
「フェン、とどめだ!」
『お任せを!』
俺の指示で、フェンが弾丸のように飛び出す。その速さは、まさに神速。シャドウクーガーが反応するよりも早く、その喉笛に鋭い牙を突き立てた。黒豹は短い断末魔を上げて、光の粒子となって消えていく。
残るは一体。
フェンの咆哮で混乱しているクーガーに、俺はもう一度アイスアローを放つ。今度は的確に眉間を貫いた。二体目のクーガーも、あっけなく霧散した。
戦闘時間は、わずか数十秒。
Eランクの魔物とはいえ、二体をこれほど楽に倒せるとは。これも【神の眼】による弱点看破と、フェンとの連携のおかげだ。
その時、俺の体に温かい光が満ちるのを感じた。
【レベルが2に上がりました】
【ステータスが上昇しました】
ウィンドウに表示された文字に、俺は拳を握りしめた。レベルアップ。たった一体倒しただけだが、これが自らの力で得た経験値だ。体が軽くなり、魔力の最大量も増えたのが分かる。
「よし、この調子で行くぞ」
俺たちはさらにダンジョンの奥へと進んだ。
道中、いくつかの魔物と遭遇したが、すべて【神の眼】とフェンの力で危なげなく撃破していく。カインのレベルは順調に上がっていき、アイスアローの威力も増していった。
しばらく進むと、行き止まりの壁の前に出た。
だが、【神の眼】はその壁が偽物であることを見抜いていた。
【隠し通路:壁の一部が回転扉になっている。特定の石を押すことで開く】
俺は指示された石を押し込んだ。ゴゴゴ、と重い音を立てて壁が回転し、新たな通路が現れる。その先は小さな部屋になっており、中央にぽつんと石造りの宝箱が置かれていた。
「罠はないな……」
鑑定で安全を確認し、宝箱の蓋を開ける。
中に入っていたのは、一つの指輪だけだった。黒ずんだ銀色の、何の変哲もない指輪だ。
だが、俺がそれを手に取り、【神の眼】で鑑定した瞬間、その評価は一変した。
【アイテム名】???の指輪(名称不明)
【ランク】S
【状態】魔力枯渇、機能停止
【詳細】所有者の魔力を増幅し、魔法の詠唱速度を飛躍的に向上させる古代の秘宝。現在は力が失われているが、高純度の魔石を与えることで覚醒する可能性がある。
【備考】この指輪には、さらに別の力が秘められているようだ……。
ランクS。そして、未知の可能性。
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