Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第二十二話 理不尽な天秤

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真実の書に浮かび上がった最後の一文。それは、静かに、しかし有無を言わせぬ圧力で俺に選択を迫っていた。
俺の腕の中では、フェンが何も知らずに首を傾げている。その純粋な金色の瞳を見ていると、腹の底から黒い怒りが込み上げてきた。

「……ふざけるな」

吐き捨てた声は、自分でも驚くほど冷たく、低かった。
世界か、フェンか。そんな天秤にかけること自体が、俺には許しがたい侮辱だった。
この小さな相棒は、俺が絶望の淵にいた時に出会った、たった一つの光だ。俺を信じ、共に戦い、その温もりで俺の心を救ってくれた。そんなフェンを、見ず知らずの世界とやらのために犠牲にできるわけがない。

「何が最後の試練だ。こんなものは、ただの脅迫じゃないか」
俺は真実の書を、まるで汚物でも見るかのように睨みつけた。
シルフィもまた、血の気の引いた顔で立ち尽くしていた。彼女の祖先が残した、あまりにも残酷な真実。その事実に、彼女自身も打ちのめされているようだった。

「……すまない、カイン。私の祖先が、こんな非道なことを……」
「あんたが謝ることじゃない。悪いのは、こんな理不尽なシステムを作り上げた連中だ」

俺は無理に平静を装い、腕の中のフェンの頭を優しく撫でた。
『カイン、どうしたのですか? なんだか、とても怒っている匂いがします』
「何でもないさ、フェン。少し、虫の好かない文章を読んだだけだ」

この残酷な真実を、フェンにだけは悟られたくなかった。
俺の葛藤を知ってか知らずか、図書館の奥の壁が静かに開き、新たな通路が現れた。最後の試練へと続く道だろう。
だが、俺はそこへ進む気にはなれなかった。このまま進めば、俺はフェンを犠牲にするか、あるいは封印の崩壊を座して待つかの二択を迫られることになる。どちらも、俺が望む結末ではない。

「……一度、街に戻ろう」
俺の提案に、シルフィは静かに頷いた。
「そうだな。少し、頭を冷やす必要がある。それに、この真実の書も、じっくり読み解けば別の道が見つかるかもしれない」
彼女はそう言って、書見台から『真実の書』を慎重に手に取った。

俺たちは重い足取りで図書館を後にし、古の神殿から脱出した。
霧の森を抜け、フロンティアの街へと戻る。街の喧騒が、ひどく遠い世界のことのように感じられた。

俺が向かった先は、バルドの工房だった。ソウルイーターを受け取り、万全の態勢を整える。それが、俺にできる最初の抵抗だった。
工房の扉を開けると、バルドが汗だくになりながら、巨大な剣を研いでいる最中だった。
その剣を見た瞬間、俺は息を呑んだ。

かつての錆びついた姿は、そこにはなかった。
そこにあるのは、闇そのものを凝縮して鍛え上げたかのような、禍々しくも美しい一振りの大剣。刀身は黒曜石のように鈍い光を放ち、そこから放たれる圧倒的な存在感が、工房の空気さえも歪めているようだった。

俺の気配に気づいたバルドが、満足げに顔を上げる。
「来たか、小僧。見ろ。お前の相棒の、本当の姿だ」
彼はそう言って、完成したソウルイーターを俺に差し出した。
ずしりとした重み。だが、それは不思議と手に馴染んだ。俺は早速、【神の眼】でその性能を鑑定する。

【アイテム名】魔剣ソウルイーター
【ランク】S
【状態】覚醒
【詳細】古代の魔王が自らの魂を込めて作り上げた伝説の魔剣。聖なるミスリルによって呪詛は浄化され、本来の力を取り戻した。
【固有能力】
・魂喰い:この剣で倒した敵の魂を吸収し、使用者の力に変換する。
・魔力解放:使用者の魔力に応じて、剣の切れ味と能力が無限に増大する。
・???:所有者の魂の在り方によって、さらなる能力が解放される可能性がある。

Sランク。そして、規格外の能力。
これさえあれば、どんな困難にも立ち向かえる。そんな確信が、心の奥底から湧き上がってきた。
「……素晴らしい。感謝する、バルド」
「ふん。礼なら、お前が持ってきたミスリルに言え。ワシはただ、最高の素材を最高の形にしただけだ」

ぶっきらぼうに言うバルドに、俺は深く頭を下げた。
工房を出て、俺は生まれ変わったソウルイーターを背負い直す。その重みが、俺の決意をさらに固くした。

宿屋への帰り道、隣を歩くシルフィが、静かに口を開いた。
「カイン。私は、お前と共に戦う。フェンを犠牲にするなど、私も許さない。もし世界がそれを望むなら、私は世界とさえ戦おう。それが、この森と友を守ると誓った、私の覚悟だ」
その言葉には、一切の迷いがなかった。翡翠色の瞳が、強い意志の光を宿して俺をまっすぐに見つめている。

「……ありがとう、シルフィ」
俺の心に、温かい光が灯った。
俺は一人じゃない。この理不尽な運命に、共に立ち向かってくれる仲間がいる。

俺は空を見上げた。夕焼けの空が、街を赤く染めている。
フェンを犠牲になどさせない。
そのために、俺は悪にだってなろう。世界を敵に回したって構わない。
最後の試練とやらが、俺に何を突きつけてこようと、俺の答えはただ一つだ。

「フェンは、俺が絶対に守る」

その鋼の誓いを胸に、俺は次なる戦いへと備える。
その頃、王都では、カインという名の有能な鑑定士を失った英雄パーティーが、いよいよ迷走の極みに達していることを、俺はまだ知らなかった。
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