Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第二十三話 落ちぶれる英雄たち

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都アークライト。その中心にそびえ立つ冒険者ギルド本部は、今日も多くの冒険者たちの熱気で満ちていた。その中でも、ひときわ注目を集めている一団がいた。
Sランクパーティー『ブレイジング・ソード』。
リーダーである【勇者】アレクシスを筆頭に、美貌の魔術師リリアナ、豪腕の斧使いドラン、聖女の再来と噂される神官ソフィア。彼らは、王国の希望そのものだった。

「次の依頼は、Aランクダンジョン『灼熱の迷宮』に決定だ。最近発見されたばかりの新ダンジョンで、まだ誰も最深部まで到達していない。我々が一番乗りを果たし、その名を王国中に轟かせるぞ」
アレクシスは、自信に満ちた声で仲間たちに告げた。その黄金の髪と整った顔立ちは、英雄という名にふさわしい輝きを放っている。
「ふふ、楽しみね。きっと素晴らしいお宝が眠っているに違いないわ」
リリアナが、優雅に髪をかきあげて微笑む。
「おう! どんな魔物が出てきても、俺の斧で真っ二つにしてやるぜ!」
ドランが、巨大な戦斧を担ぎ上げて豪快に笑った。
ソフィアだけが、少し不安そうな顔で俯いている。だが、その弱々しい声は、パーティーの活気にかき消されて誰にも届かない。

彼らが鑑定士カインを追放してから、早一月が過ぎようとしていた。
最初の数週間は、何も問題はなかった。カインがいなくても探索のペースは落ちず、むしろ彼の慎重すぎる鑑定に時間を取られることがなくなり、快適ですらあった。
彼らは、やはり自分たちの判断が正しかったのだと確信していた。カインは、やはりパーティーのお荷物だったのだと。

だが、その綻びは、彼らが気づかないうちに静かに、しかし確実に広がっていた。

『灼熱の迷宮』は、その名の通り、灼熱の溶岩と熱風が吹き荒れる過酷なダンジョンだった。
「ちっ、暑くてかなわねえな」
ドランが悪態をつきながら、額の汗を拭う。
「リリアナ、鑑定を頼む。この先に罠はないか?」
アレクシスの指示に、リリアナは優雅に杖を構えた。
「ええ、任せて。私の鑑定魔法によれば、この通路に罠の反応はないわ。安全よ」

彼女が自信満々にそう告げた直後だった。
先頭を歩いていたドランの足元の床が、音もなく崩落した。
「うおっ!?」
ドランは咄嗟に後方へ飛びのいたが、片足が灼熱の溶岩溜まりへと落ちてしまう。
「ぐあああああっ!」

凄まじい絶叫が響き渡る。ドランの頑丈な金属鎧のブーツは、一瞬で赤熱し、その下の皮膚を無残に焼き焦がした。
「ドラン!」「ドランさん!」
アレクシスとソフィアが慌てて駆け寄る。ソフィアがすぐに治癒魔法をかけるが、火傷はあまりにも深く、完全には治癒できない。ドランは激痛に顔を歪め、その場にうずくまった。

「リリアナ! 罠はないと言ったはずだぞ!」
アレクシスが、厳しい声でリリアナを詰問する。
「そ、そんなはずは……! 私の鑑定には、何の反応も……! おそらく、魔力を使わない原始的な罠だったのよ! そんなもの、見抜けなくて当然だわ!」
リリアナは顔を青くしながらも、必死に言い訳を並べ立てた。

カインがいれば、こんなことにはならなかった。
彼は、魔力反応だけでなく、床の構造的な脆さや空気の流れの僅かな変化から、罠の存在を看破していた。その地道で泥臭い鑑定作業を、彼らは「遅い」「臆病」と嘲笑っていたのだ。

ドランが戦線を離脱し、パーティーは重苦しい雰囲気のまま、探索を続行した。
しばらく進むと、一体のボスモンスターが待ち構えていた。炎の魔人、イフリートだ。
「リリアナ、弱点は分かるか!」
「待って……。炎の魔物だから、弱点は当然、氷属性のはずよ!」

リリアナの言葉を信じ、アレクシスは氷の魔力を宿した剣技を放つ。だが、イフリートはそれを意にも介さず、逆にその魔力を吸収してさらに巨大化した。
「馬鹿な! なぜ効かない!」
「そ、そんな……! 常識的に考えて、弱点は氷のはずなのに……!」

彼らは知らなかった。このダンジョンのイフリートは特殊個体であり、その核は氷の魔力でできていることを。本当の弱点は、同じ炎属性による過剰な魔力供給で、自壊を誘発させることだった。
カインがいれば、【神の眼】でその特殊な性質を瞬時に見抜き、最適な攻略法を提示していただろう。

結局、彼らは圧倒的な火力で、ゴリ押しでイフリートを撃破した。だが、その代償は大きかった。アレクシスもリリアナも魔力を使い果たし、ソフィアの神聖力も底をつきかけている。パーティーは満身創痍だった。

イフリートが消滅した後に残された宝箱。
リリアナが、疲労困憊の体でそれを鑑定する。
「……これは、『炎帝の腕輪』……! Aランク級の魔法道具よ! 炎の魔法を大幅に強化する効果があるわ!」
その言葉に、疲弊しきったパーティーにようやく笑顔が戻った。
「はは、苦労した甲斐があったな!」
アレクシスは腕輪を手に取り、その場で身につけた。

その瞬間、腕輪から黒い瘴気が噴き出し、アレクシスの腕に絡みついた。
「ぐっ……!? なんだ、これは!」
アレクシスの腕に、蛇のような黒い紋様が浮かび上がり、激痛が彼を襲う。
「『呪いの腕輪』……! 装備者の魔力を永続的に吸い取り続ける、呪われたアイテム……!」
ソフィアが、絶望的な声で鑑定結果を告げた。リリアナの鑑定は、またしても間違っていたのだ。

「リリアナ……! 貴様っ……!」
アレクシスの怒声が、ダンジョンに響き渡った。
「ひっ……! わ、私じゃないわ! こんな巧妙な偽装、誰にも見抜けっこない!」

その時、痛みに耐えていたドランが、吐き捨てるように言った。
「……カインなら、見抜いていた」

その言葉に、全員が凍りついた。
それは、誰もが心の奥底で思っていながら、決して口にしてはならない禁句だった。

「……黙れ、ドラン!」
アレクシスが、鬼の形相で叫んだ。
「あの役立たずの名前を出すな! 俺たちのパーティーに、あんな男は必要ない!」

その叫びは、虚勢だった。彼の心には、初めて後悔という感情が芽生え始めていた。
カインの的確な鑑定。カインの慎重な判断。カインの揺るぎない支援。
失って初めて、彼がいかに大きな存在だったかを、痛感させられていた。

だが、英雄としてのプライドが、それを認めることを許さない。
『ブレイジング・ソード』の栄光は、今、まさに音を立てて崩れ落ちようとしていた。その崩壊の足音は、彼ら自身の傲慢さが奏でる、破滅への序曲だった。
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