Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第二十四話 亀裂

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『ブレイジング・ソード』が王都に帰還した時、彼らを迎えたのはいつものような万雷の拍手と歓声ではなかった。代わりに、ひそひそとした囁き声と、好奇と侮りが入り混じった視線が彼らに突き刺さった。

「おい、見ろよ。『ブレイジング・ソード』だ」
「なんだ、あの様は。ずいぶんボロボロじゃないか」
「ドラン様が足を怪我されているぞ。それに、アレクシス様の顔色も……」

英雄たちの見る影もない姿。その噂は、彼らがギルドにたどり着くよりも早く、王都中を駆け巡っていた。
アレクシスは、人々の視線を振り払うように足早にギルド本部へと向かう。彼の腕には、呪いの紋様を隠すための包帯が痛々しく巻かれていた。

ギルドマスターへの報告は、屈辱的なものだった。
「Aランクダンジョンの攻略に失敗。パーティーメンバー一名が重傷。リーダーは呪いの装備により魔力にデバフ。これが、王国最強のSランクパーティーの成果かね?」
ギルドマスターの言葉は、淡々としていたが、その分だけ深くアレクシスのプライドを抉った。
「……不測の事態が重なっただけです。次の依頼では、必ずや汚名を返上してみせます」
「そうかね。だが、君たちのパーティーは当分の間、高ランクの依頼は受注禁止だ。ドラン君の治療と、君の呪いの解除を最優先したまえ。それとも、また有能な支援職を切り捨てて、無理な探索を続けるつもりかな?」

ギルドマスターの言葉は、暗にカインの追放を皮肉っていた。アレクシスは唇を噛み締め、屈辱に耐えるしかなかった。

パーティーの拠点としている高級宿舎に戻っても、その雰囲気は最悪だった。
「そもそも、あなたの鑑定が杜撰だからこうなったのよ!」
アレクシスは、机を叩いてリリアナを怒鳴りつけた。呪いの影響か、彼の気性は以前にも増して荒くなっている。
「私のせいじゃないわ! あの罠も、呪いのアイテムも、あまりに巧妙すぎたのよ! あなただって、鑑定士でもないくせに、いつも偉そうに指示ばかりして!」
リリアナも、一歩も引かずに言い返す。かつての優雅な態度は見る影もない。

足を焼かれたドランは、ベッドの上で黙ってそのやり取りを聞いていた。その瞳には、リーダーへの不信と、パーティーの現状への諦めが色濃く浮かんでいる。彼はもう、何も言わなかった。
「やめてください、二人とも! 今、私たちがすべきなのは、いがみ合うことじゃないでしょう!」
ソフィアが涙ながらに仲裁に入るが、誰も彼女の言葉に耳を貸そうとはしない。

このパーティーは、もう壊れている。
ソフィアは、その事実を痛感していた。
原因は、カインの不在だ。彼がいた頃は、こんな言い争いは決して起きなかった。彼の的確な鑑定と冷静な判断が、パーティーの土台を支えていた。そして、彼の献身的な人柄が、このぎすぎすした人間関係の潤滑油になっていたのだ。

彼を追放したのは、間違いだった。
ソフィアは、今になってその過ちの大きさに気づいていた。だが、その言葉を口にすることはできなかった。リーダーであるアレクシスが、それを最も嫌うと知っていたからだ。

パーティーの評判は、地に落ちた。
高ランクの依頼を受けられなくなった彼らは、低ランクの討伐依頼などで日銭を稼ぐしかなくなった。だが、カインを失った彼らにとって、それはもはや簡単な仕事ではなかった。

ゴブリンの集落を叩けば、巧妙に隠された罠に気づかず、ソフィアが軽傷を負った。
オークの討伐では、敵の本当の弱点を見抜けず、無駄に消耗戦を強いられた。
ドロップしたアイテムの価値を見誤り、安値で商人に売りつけてしまうことも一度や二度ではない。

かつて彼らをちやほやしていた貴族や商人たちは、手のひらを返したように彼らから離れていった。英雄という肩書きがなければ、彼らはただの少し腕が立つだけの、使いにくい冒険者でしかなかった。

「くそっ……! くそっ!」
アレクシスは、自室で荒れていた。呪いは彼の魔力を蝕むだけでなく、精神をも不安定にさせていた。焦り、苛立ち、そして言いようのない不安が、彼の心を支配していた。
このままでは終われない。英雄である俺が、こんなところで終わるわけにはいかない。

汚名を返上しなければ。
何か、大きな手柄を立てて、世間を見返してやらなければ。

その時、彼の脳裏に、ギルドで耳にした噂が蘇った。
辺境の街フロンティアに、突如として現れた謎の新人。Fランクでありながら、Dランク級の魔物を次々と狩り、ギルド職員も一目置いているという。

「……辺境の、新人……?」
馬鹿馬鹿しい。そんな田舎者の噂に、なぜ俺が心を惹かれているんだ。
だが、焦燥感に駆られたアレクシスの心は、藁にもすがる思いで、その不確かな情報に傾き始めていた。
彼はまだ気づいていない。その判断が、自らをさらなる破滅の深淵へと突き落とすことになるということに。傲慢な英雄は、自らの過ちから目を背けたまま、ただひたすらに破滅への道を突き進んでいく。
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