Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第二十六話 銀色の流星

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俺たちが古の神殿から持ち帰った『真実の書』。その解読は、困難を極めていた。
シルフィと二人、宿屋の一室で連日その古文書と向き合っているが、記されているのは古代エルフの哲学や、今は失われた神々への祈りばかり。フェンを犠牲にしない別の道を示唆するような記述は、どこにも見当たらなかった。

「……やはり、この書は我々に選択を迫るためだけに存在するのかもしれないな」
シルフィが、疲れたようにため息をついた。
「だとしても、諦めるわけにはいかない。何か、ヒントがあるはずだ」
俺はそう言って、新たなページをめくった。だが、そこに書かれている難解な詩を理解することはできない。

結局、俺たちが行き着く結論はいつも同じだった。
この理不尽な運命に抗うには、圧倒的な力が必要だ。神殿の最奥で何が待ち受けていようと、それを捻じ伏せられるだけの力が。

「強くなるしかない、か」
俺の呟きに、シルフィは力強く頷いた。
「ああ。そして、お前ならそれができると私は信じている」
彼女の真っ直ぐな信頼が、俺の心を支えてくれていた。

日課となったダンジョン攻略は、かつてないほど順調に進んでいた。
俺の【神の眼】による指示、シルフィの【星詠みの魔導書】による予知、そしてフェンの神速。この三つが噛み合った時、俺たちは一つの完成された戦闘ユニットと化した。

中層エリアの深部で、俺たちは新たな敵と遭遇した。
それは、影で編まれた巨大な蛇、シャドウサーペントの群れだった。実体を持たず、物理攻撃がほとんど効かない厄介な相手だ。

「カイン、魔導書によれば、この魔物は光に極端に弱い! だが、影から影へと瞬時に移動するため、狙いを定めるのが難しいと!」
シルフィが叫ぶ。
「分かっている。フェン、奴らの影を喰らえ!」

俺の指示の意味を、フェンは即座に理解した。
彼は自らのスキル【影渡り】を逆用し、シャドウサーペントたちが潜む影そのものを飲み込み始めた。逃げ場を失った蛇たちが、苦し紛れに実体化する。
「今だ、シルフィ!」

そこへ、シルフィが光の矢を雨のように降らせる。光を浴びた影の蛇たちは、悲鳴を上げる間もなく霧散していった。
戦闘は、もはや作業と化していた。

連日の攻略で、俺たちのレベルは飛躍的に向上し、懐も潤っていく。手に入れた高純度の魔石は、Sランク指輪を目覚めさせるための貴重な糧となった。
そして、俺たちの活躍は、フロンティアの街に確かな変化をもたらしていた。

「よう、『銀色の流星』の旦那方! 今日もご活躍で!」
ギルドへ向かう道中、顔見知りの商人に声をかけられる。
銀色の流星。
いつの間にか、俺たちはそんな二つ名で呼ばれるようになっていた。銀色の髪を持つエルフのシルフィと、銀色の神獣フェン。そして、流星のような速度でダンジョンを攻略していく俺たちの姿から、自然とそう呼ばれるようになったらしい。

「カインさん、シルフィさん、フェンちゃん! お待ちしてました!」
ギルドに入ると、エリアナが満面の笑みで駆け寄ってきた。彼女の笑顔は、この殺伐とした辺境の街で、数少ない癒しの一つだった。
「すごいですよ! お二人が持ち帰ってくれる高ランク素材のおかげで、フロンティアの市場がすごく活性化してるんです! 最近は、王都から腕利きの職人さんや商人も集まってくるようになって……」

エリアナは自分のことのように喜んでいる。
彼女の言葉通り、街は以前よりも明らかに活気に満ちていた。これも、俺たちの活躍がもたらした副産物か。そう思うと、少しだけ誇らしい気持ちになった。

「そういえば、最近少し物騒な噂も聞きます。王都から流れてきた、素行の悪い冒険者パーティーが近隣でトラブルを起こしているとか……。カインさんたちも、どうか気をつけてくださいね」
エリアナが、心配そうに付け加えた。
王都から来た、素行の悪いパーティー。その言葉に、俺の脳裏に一瞬だけ、あの男たちの顔がよぎった。だが、まさかな。彼らが、こんな辺境にまで落ちぶれてくるはずがない。

俺はエリアナに礼を言うと、素材の換金を済ませた。
周囲の冒険者たちの視線も、以前とは全く違う。そこにあるのは、嫉妬や侮りではなく、純粋な畏怖と尊敬だった。中には、俺たちに憧れて辺境に来たという若者まで現れ始めた。
追放された日には、想像もできなかった光景だ。

宿屋への帰り道、俺はふと足を止めた。
「どうした、カイン?」
「いや……。少し、昔のことを思い出してな」

俺は、自分がどれだけ恵まれているかを、今更ながらに実感していた。
俺の力を信じてくれる仲間がいる。俺たちの活躍を喜んでくれる人がいる。俺に憧れてくれる人までいる。
失ったものは大きかった。だが、この辺境の地で得たものは、それ以上にかけがえのないものばかりだった。

『カイン、お腹が空きました』
腕の中のフェンが、俺の感傷を打ち破るように鳴いた。
「はは、そうだな。今日は少し奮発して、美味いものでも食いに行くか」
「賛成だ。たまには、休息も必要だからな」
シルフィも、楽しそうに笑った。

俺たちが和やかにそんな話をしていると、一人の少年が息を切らして駆け寄ってきた。バルドの工房で、弟子として働いている少年だ。
「はぁ、はぁ……! カインの旦那! 親方からです!」
少年は、一枚のメモを俺に手渡した。

『小僧、待たせたな。最高の逸品が、もうすぐ産声を上げる。工房へ来い』

短い、しかし力強いその言葉。
ソウルイーターが、ついに完成する。
俺はメモを握りしめ、バルドの工房へと続く道を見つめた。最強の魔剣を手にした時、俺たちの運命は、また大きく動き出すことになるだろう。
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