Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第三十話 蠢く陰謀

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過去との決別を果たした翌朝、フロンティアの空気はいつもと変わらず澄んでいた。
俺は宿屋の窓から差し込む光を浴びながら、静かに呼吸を整える。アレクシスたちとの再会は、俺の心に小さな波紋を立てた。だが、それはもう過ぎ去った嵐だ。俺が見据えるべきは、この先にある試練だけだ。

「カイン、準備はできたか?」
シルフィが、凛とした声で部屋に入ってきた。彼女の手には、昨日手に入れた『真実の書』が握られている。
「ああ。行こう。俺たちの新しい力を試しに」

俺たちは、古の神殿へと向かった。
目的は、ソウルイーターと星導の指輪の性能を完全に引き出し、俺の体と魂に馴染ませること。そして、最後の試練に備えて、さらなる高みへと到達することだ。

ダンジョン中層エリア。かつて苦戦したクリスタルゴーレムの群れが、俺たちの前に再び立ちはだかる。
だが、今の俺たちにとって、それはもはや障害ではなかった。

「シルフィ、頼む」
俺の短い言葉だけで、シルフィは意図を理解した。
彼女が魔導書を掲げ、星の運行を読む。
「星の導きによれば、三秒後、右から二番目の個体のコアが無防備になる」
未来予知。星導の指輪にも備わっていた力が、魔導書によってさらに増幅されている。

その三秒後。
俺はソウルイーターを抜き放ち、地を蹴った。
まるで、最初からそこにいることが分かっていたかのように、ゴーレムの懐に飛び込む。予言通り、その胸部中央に赤いコアが露出した。
俺は躊躇なく、ソウルイーターを突き立てる。

剣がコアを貫いた瞬間、凄まじい量の魂が剣に吸い込まれていくのを感じた。
『魂喰い』。吸収した魂が、俺自身の力へと変換されていく。ステータスが、スキルレベルが、目に見えないゲージを満たしていくような感覚。

「すごい……。なんて力だ」
一撃。たった一撃で、B+ランクに匹敵するゴーレムが塵と化した。これが、Sランクの魔剣の力。
残りのゴーレムたちは、フェンが神速で攪乱し、シルフィが的確な射撃でコアを破壊していく。戦闘は、数分とかからずに終わった。

「カイン、その剣……。使うたびにお前の力が増しているのが分かる」
「ああ。だが、まだだ。この力を完全に制御できなければ、意味がない」

俺たちはその後も、ダンジョンの深部を目指した。
ソウルイーターは敵を屠るたびに俺を強化し、星導の指輪は進むべき最適解を示してくれる。俺の【神の眼】による戦術指揮と合わさり、俺たちはもはや無敵の攻略機械と化していた。

その頃、フロンティアの衛兵詰所では、卑劣な陰謀が蠢き始めていた。
「……つまり、その『銀色の流星』とかいう連中は、素性の知れない危険な流れ者だということですか、アレクシス様」
恰幅のいい衛兵隊長が、額に汗を浮かべながら、媚びるような笑みを浮かべていた。
彼の目の前には、Sランクパーティー『ブレイジング・ソード』のリーダー、アレクシスがいる。落ちぶれたとはいえ、その肩書は辺境の役人にとっては絶大な権威を持っていた。

「その通りだ。奴らは、我々が追っていた凶悪犯の可能性が高い。特に、リーダー格の男カインは、危険な古代の武具を所持している。あれは、野放しにしておいていい代物ではない」
アレクシスは、平然と嘘を並べ立てた。正攻法でカインに勝てないと悟った彼が選んだのは、公権力を使った排除という、最も卑劣な手段だった。

「なるほど……。しかし、彼らはギルドにも貢献しており、街の商人たちからの評判も悪くないと聞いておりますが……」
衛兵隊長は、ギルドマスターであるガングの顔を思い浮かべ、少しだけ躊躇を見せた。
「それは奴らの見せかけの姿だ!」
リリアナが、甲高い声で割り込む。
「彼らのおかげで街が潤っているなどとんでもない! あのダンジョンから得られる富は、本来、王国に帰属すべきもの。それを、あの者たちが不当に独占しているのです! これは、王国に対する反逆行為に他なりませんわ!」

王国への反逆。その言葉に、衛兵隊長の顔色が変わった。
アレクシスは、その反応を見て、勝利を確信した笑みを浮かべた。
「まずは、武器の押収という名目で、奴らを拘束しろ。抵抗するようなら、公務執行妨害で捕らえればいい。後のことは、我々がうまくやる。そうすれば、お前の手柄にもなるのだぞ」

その甘い言葉は、権威に弱い衛兵隊長の心を完全に捉えた。
「わ、分かりました! この街の治安を守るのが、我々衛兵隊の務め! 早速、手配いたしましょう!」

その日の夕方。
ダンジョンから帰還した俺たちは、街の雰囲気がいつもと違うことに気づいた。
人々が、俺たちを遠巻きに見ている。その視線には、以前のような尊敬や憧れではなく、恐怖と不審の色が混じっていた。
「どうしたんだ、カイン。街の様子がおかしい」
「ああ。何かあったらしいな」

俺たちがギルドに入ろうとした、その時だった。
十数人の武装した衛兵が、俺たちの行く手を塞いだ。先頭に立つのは、あの恰幅のいい衛兵隊長だ。
彼は、震える声で、しかし尊大に言い放った。

「カインと名乗る者、及びその一行に告ぐ! 貴様らには、危険な禁制品の不法所持、及び王国への反逆の疑いがある! 武器を捨て、大人しく投降せよ!」

その言葉に、シルフィとフェンが即座に臨戦態勢に入る。
俺は、二人を手で制しながら、この茶番の裏にいる人物の顔を思い浮かべて、静かにため息をついた。
どうやら、あの落ちぶれた英雄は、まだ俺に付きまとうことを諦めてはいないらしい。面倒なことになった。だが、面白い。そこまで堕ちた彼らが、これからどんな無様な姿を晒してくれるのか。
俺はソウルイーターの柄を握りしめ、不敵な笑みを浮かべた。
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