Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第三十一話 英雄の茶番

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「王国への反逆だと?」
俺は、衛兵隊長の言葉を鼻で笑った。あまりにも陳腐な言いがかりに、怒りよりも先に呆れが込み上げてくる。
俺の背後で、シルフィが弓に手をかけ、フェンが低い唸り声を上げる。だが、俺は二人を手で制した。ここで力に任せて暴れれば、それこそ相手の思う壺だ。

「隊長殿、随分と物騒な疑いをかけるものだな。その反逆とやらの、具体的な証拠はあるのか?」
俺の冷静な問いに、衛兵隊長は一瞬言葉に詰まった。
「そ、それは……これから取り調べて明らかにする! いいから、大人しく武器を捨てろ!」
「証拠もなく、ただの疑いで武装した冒険者を拘束するのか。フロンティアの法は、ずいぶんと乱暴らしいな」

俺の皮肉に、隊長の額に脂汗が浮かぶ。周囲を取り巻く街の人々も、ざわめき始めていた。彼らの多くは、俺たちの活躍で街が潤っていることを知っている。その俺たちが、王国に反逆するとは到底思えないのだろう。

その時、人垣を割って、二人の人物が姿を現した。
アレクシスとリリアナだ。彼らは、まるで舞台に登場する主役気取りで、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「見苦しいぞ、カイン。往生際が悪いな」
アレクシスが、芝居がかった口調で言った。
「お前たちがこの辺境で何かを企んでいることは、お見通しだ。素直に罪を認め、その危険な武具を差し出せば、この俺の温情で命だけは助けてやってもいい」
「危険な武具、ね。あんたには過ぎた代物だった、あの呪いの腕輪のことか?」

俺の切り返しに、アレクシスの顔が怒りで引きつった。
「黙れ! 衛兵隊長、何をしている! さっさとこいつらを捕らえろ!」

アレクシスの怒声に、衛兵たちが及び腰で俺たちに近づいてくる。
まさに、その時だった。
「そこまでだ」

低く、しかし鋼のような響きを持つ声が、その場に響き渡った。
人垣が再び割れ、姿を現したのはギルドマスターのガングと、その後ろに心配そうな顔で続くエリアナだった。

「ガング殿……!」
衛兵隊長が、狼狽した声を上げる。
ガングは衛兵隊長を一瞥すると、その鋭い視線をアレクシスに向けた。
「ワシのギルドに登録する冒険者に、何の真似だ、アレクシス殿。王国への反逆だと? この街を誰よりも豊かにしている者たちがか? 笑わせるな」

ガングの言葉に、周囲の商人たちが次々と頷く。
「そうだ! 『銀色の流星』さんたちのおかげで、俺の店はどれだけ助かってるか!」
「彼らがいなくなったら、この街はまた元の寂れた辺境に戻っちまうぞ!」
民衆の声が、明らかに俺たちを擁護し始めていた。

エリアナも、震える声ながら、毅然として前に進み出た。
「カインさんたちが、反逆などするはずがありません! 彼らは、誰よりも誠実に依頼をこなし、この街の平和に貢献してきました! それを、何の証拠もなく犯罪者扱いするなんて、あんまりです!」

ガングの威圧、民衆の声、そしてエリアナの必死の訴え。
形勢は、完全に逆転した。衛兵隊長は顔面蒼白になり、どうしていいか分からずにアレクシスの方を窺っている。

そのアレクシスは、信じられないものを見る目で周囲を見渡していた。辺境の街の住人たちが、自分ではなく、カインを支持している。その事実が、彼のプライドを粉々に打ち砕いていた。
「な……なぜだ……。なぜ、お前たちがこいつの味方をする! 俺は勇者だぞ!」
その悲痛な叫びは、もはや誰の心にも響かない。

俺は静かに一歩、前に出た。
「もう、終わりにしようぜ、アレクシス」
俺はソウルイーターの柄にそっと手を触れる。それだけで、アレクシスと衛兵たちがびくりと体を震わせた。
「お前の目的は、分かっている。俺への嫉妬と、再起のための道具欲しさ。だが、そのために街の人間まで巻き込むやり方は、あまりに卑劣で、そして見苦しい」

俺は衛兵隊長に向き直った。
「隊長殿。あんたが誰に唆されたのかは知らないが、これ以上事を荒立てるなら、俺たちはギルドの名において、正式に自衛権を行使する。それでもいいか?」
俺の言葉は、脅しではなかった。事実を告げただけだ。だが、それは何よりも重い響きを持っていた。

衛兵隊長は、完全に戦意を喪失した。彼はガングと俺の顔を交互に見比べると、やがて力なく手を振った。
「……ひ、引き上げるぞ!」
衛兵たちは、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ去っていった。

残されたのは、孤立無援の『ブレイジング・ソード』だけだった。
街の人々の冷ややかな視線が、彼らに突き刺さる。
「……覚えていろ、カイン」
アレクシスは、屈辱に顔を歪ませながら、それだけを吐き捨てた。リリアナは悔し涙を浮かべ、ドランとソフィアは終始俯いたままだった。

彼らは、逃げるようにその場を去っていった。
その後ろ姿は、もはや英雄のものではなかった。ただの、哀れな敗残者のそれだった。
こうして、彼らが仕掛けた陳腐な陰謀は、自らの首を絞めるだけの茶番として幕を閉じた。
そしてこの一件により、フロンティアにおける『銀色の流星』の名声と、『ブレイジング・ソード』の悪評は、不動のものとなったのだった。
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