Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ

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第四十七話 決戦前夜

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フロンティアの夜は、いつもより静かだった。
ギルドでの祝宴の熱気も冷め、街は深い眠りについている。だが、その静寂の下で、多くの人々が俺たちの無事を祈ってくれていることを、俺は知っていた。

決戦は、明日。
俺は宿屋の窓辺に立ち、夜空に輝く月を見上げていた。隣にはシルフィが、腕の中にはフェンが、静かに寄り添っている。
「……怖いか、カイン?」
シルフィが、そっと尋ねてきた。
「いいや」と俺は即答した。「怖いという感情は、もうない。ただ、少しだけ武者震いがするだけだ」

この戦いが終われば、俺たちはどうなるのだろう。
もし、俺たちが勝てば、世界は救われる。フェンを犠牲にする必要もなくなる。そして、俺たちは、またこのフロンティアの街で、穏やかな日常を送ることができるのだろうか。
そんな未来を想像すると、胸の奥から力が湧き上がってくるようだった。

「シルフィ。この戦いが終わったら、どうするんだ?」
「……そうだな」彼女は少し考え込んだ後、優しく微笑んだ。「まずは、この森での暮らしを続けたい。そして、たまにはお前たちと一緒に、まだ見ぬ世界を冒険するのも悪くない」
その答えは、彼女らしい、穏やかで、しかし確かな希望に満ちていた。
『フェンは、ずっとカインとシルフィと一緒にいます! そして、美味しいものをたくさん食べます!』
フェンの純粋な願いに、俺たちは思わず笑みをこぼした。

決戦の朝。空は雲一つなく晴れ渡っていた。
俺たちは、街の仲間たちに見送られ、最後の戦いの舞台へと向かった。
バルドは、夜通しかけて調整してくれたというソウルイーターを、無言で俺に手渡した。そのずしりとした重みが、彼の信頼の重さのように感じられた。
ガングは、俺の肩を強く叩いた。
「死ぬなよ、小僧。生きて帰ってきて、武勇伝を肴に一杯やるのが、ワシの楽しみなんだからな」
エリアナは、涙をこらえながら、手作りのお守りを俺とシルフィ、フェンに一つずつくれた。
「……必ず、帰ってきてくださいね」

仲間たちの思いを背に、俺たちは古の神殿へと足を踏み入れた。
フェンの【影渡り】を使い、俺たちは一気に、以前到達した最深部の手前まで跳んだ。そこから先は、未知の領域だ。

そこは、これまでのどの階層とも全く異なる、異様な空間だった。
壁も床も、まるで黒い水晶のような、光を吸収する物質でできていた。空気は重く、時間が引き延ばされているかのように、全てがゆっくりと感じられる。そして、空間そのものから、存在が削り取られていくような、根源的な恐怖が滲み出ていた。
ここが、『古の厄災』の影響が最も色濃い場所。虚無の領域だ。

俺たちが慎重に足を進めると、前方の空間がぐにゃりと歪み、そこから一体の魔物が滲み出てきた。
それは、決まった形を持たない、影の集合体だった。人の形をしているかと思えば、獣の形に変わり、次の瞬間にはただの黒い霧となる。実体がない。概念そのものが敵となったかのようだ。

【名前】カオス・イーター
【種族】虚無の眷属
【ランク】S(測定不能)
【状態】存在侵食
【弱点】創造の光
【スキル】
・因果律破壊
・存在抹消
【攻略情報】
・あらゆる物理、魔法攻撃を無効化する。存在そのものを『無』に還す攻撃のみを行う。
・世界の理から外れた存在であり、通常の手段では観測、干渉することすら不可能。

「こいつが、最後の番人か……!」
カオス・イーターが、その不定形の腕を俺たちに向けた。
瞬間、俺が立っていた場所の空間が、ごそりと抉られるように消滅した。攻撃の予備動作も、弾道も存在しない。ただ、『そこに在ったものが、無かったことになる』という、理不尽な現象だけが起きた。

「くっ……!」
シルフィが放った矢も、フェンの牙も、カオス・イーターに届く前にその存在が消されてしまう。
俺がソウルイーターで斬りかかっても、刃は手応えなく空を切るだけだった。
「どうすればいいんだ……! 攻撃が、通じない!」
シルフィが、焦りの声を上げる。

俺は冷静だった。
この敵に、俺たちのこれまでの戦い方は通用しない。ならば、俺もまた、新たな理で戦うまで。
俺は胸に手を当て、我が身に宿した『光の雫』の力を解放した。

「――創造の光よ。我が剣に宿り、虚無を穿て」

俺の呼びかけに応え、胸から溢れ出した眩い光が、ソウルイーターへと注がれていく。
魂を喰らう黒き魔剣が、その性質を一変させた。刀身は、闇の黒から、夜明けの光を思わせる白銀へと変化し、その刃からは創造のエネルギーがオーラとなって立ち上っていた。
ソウルイーターの能力、『虚無穿ち』が、光の雫の力によって完全に覚醒したのだ。

「カイン、その剣は……!」
「ああ。こいつを倒すための、俺たちの答えだ」

俺は白銀に輝くソウルイーターを構え、再びカオス・イーターと対峙した。
存在を消し去る虚無の攻撃。それを、俺は光の剣で迎え撃つ。
虚無と創造。無と有。
二つの対極の力が激突し、空間が激しく震えた。カオス・イーターの攻撃が、初めて俺の剣によって弾かれたのだ。

「効いている……!」
俺は確信を得て、地を蹴った。
「この世界から、消えろ!」
俺が振り下ろした白銀の刃が、カオス・イーターの不定形の体を、その概念ごと両断した。

断末魔の叫びさえなく、最後の番人は光の中に溶けるようにして消滅した。
後に残されたのは、静寂と、そしてその先に続く一つの道だけだった。
道の先には、巨大な空間の裂け目があった。渦巻く闇の中心。そこから、この世界の全てを飲み込まんとする、圧倒的な虚無の気配が漏れ出してくる。

あれが、『古の厄災』の中心。
俺たちの、最後の戦いの舞台だ。
俺は白銀の剣を握りしめ、仲間たちと共に、その深淵を睨みつけた。
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