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第48話:【迎撃段階③】幹部の登場
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「ぐおおおおおっ!」
狂戦士ボルガの咆哮が夜の戦場に轟いた。
彼が振り下ろした巨大な戦斧は、カーム村の男たちが命懸けで守ってきたバリケードをまるで小枝のように粉々に砕き散らした。木片が宙を舞い、自警団の防衛線に致命的な亀裂が生じる。
「ひるむな! 隊列を組み直せ!」
ガレスが必死に叫ぶが、ボルガの圧倒的な破壊力を目の当たりにした村人たちの足は恐怖で竦んでしまっていた。
その隙を黄昏の蛇の構成員たちが見逃すはずがない。彼らは壊れたバリケードの隙間から、雄叫びを上げてなだれ込んできた。
「ここまでか…!」
マーカスが悔しそうに奥歯を噛み締める。
彼の部下である王国騎士たちが必死に前線を支えようとするが、雪崩れ込んでくる敵の勢いはもはや止めようがなかった。
村の防衛線は崩壊寸前だった。
ボルガはその光景に満足げな笑みを浮かべると、抵抗するガレスに狙いを定めた。
「元騎士様か。まずはてめえから血祭りにあげてやるぜ!」
ボルガがガレス目掛けて突進する。
その動きは巨体からは想像もできないほど素早く、鋭い。ガレスは渾身の力で剣を構えるが、ボルガの戦斧と彼の剣では大人と子供ほどの体格差があった。まともに打ち合えば、一撃で剣ごと両断されるだろう。
絶体絶命。
誰もがガレスの死を覚悟した。
その、刹那。
ひゅん、と夜風を切るか細い音が響いた。
次の瞬間、ボルガの巨体が不自然に前のめりによろめいた。
「ぐっ…!?」
ボルガは驚きの声を上げて自分の足元を見た。
彼の右足首に一本の細いワイヤーが深く食い込んでいる。いつ、どこから仕掛けられたのか、全く分からなかった。
ワイヤーは近くの家の柱に繋がれており、突進してきたボルガの勢いを完璧なタイミングで殺したのだ。
それはほんの一瞬の隙だった。
だが、その一瞬が戦いの流れを再び変えた。
「――はあああああっ!」
甲高い気合と共に一体の赤い影がボルガの死角から躍り出た。
リリアだ。
彼女は教会の野戦病院から戦況の悪化を察知して駆けつけてきたのだ。
彼女の剣は流星のように閃き、体勢を崩したボルガの鎧の隙間、脇腹を正確に捉えた。
浅くはない一撃。
だが、ボルガの肉体は常人のそれとはかけ離れていた。
「…小娘がぁっ!」
ボルガは脇腹の痛みに顔を歪めながらも怒りの咆哮を上げ、リリアに向かって戦斧を薙ぎ払った。
リリアは薪割りの動きで鍛えた体捌きで、辛うじてその一撃を紙一重でかわす。だが、戦斧が巻き起こした風圧だけで彼女の体は吹き飛ばされそうになった。
「リリア殿!」
ガレスが体勢を立て直して援護に入る。
マーカスも部下たちに指示を出し、ボルガを取り囲むように陣形を組んだ。
戦いの中心はボルガ一人を相手に、カーム村の最強戦力が対峙するという構図へと変わっていた。
「面白い…! 面白いじゃねえか! まとめてかかってこい! 全員、ミンチにしてやる!」
ボルガは狂的な笑みを浮かべ、戦斧を振り回す。
その一撃一撃は大地を割り、空気を震わせるほどの威力を持っていた。
ガレス、マーカス、そしてリリア。
三人は必死に連携してボルガに立ち向かう。
ガレスが正面から攻撃を受け止め、マーカスが側面から牽制し、リリアがその隙を突いて素早い一撃を叩き込む。
見事な連携だった。だが、それでもボルガという圧倒的な「個」の力の前に、じりじりと押し返されていく。
「くそっ…! 硬え…!」
マーカスの剣がボルガの鎧に弾かれる。
「力が、違いすぎる…!」
ガレスの盾にひびが入った。
そして、ついに限界が訪れた。
ボルガはマーカスの攻撃を意にも介さず、その巨体を回転させた。遠心力を乗せた戦斧の横薙ぎが三人を同時に薙ぎ払う。
「ぐあっ!」
「きゃあっ!」
三人の体は木の葉のように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
勝負は決した。
ボルガは勝利を確信し、ゆっくりと倒れる三人に歩み寄る。その顔には獲物をいたぶる捕食者の、残忍な笑みが浮かんでいた。
「さて、誰から殺してやろうか。やはり、一番威勢の良かったそこの小娘からか…」
ボルガの視線がリリアを捉える。
彼女は必死に立ち上がろうとするが、全身を打った衝撃で力が入らない。
ボルガがリリアの頭上で巨大な戦斧を振り上げた。
止めの一撃。
誰もがその残酷な結-末を目を背けながら見つめていた。
その時、俺はボルガの背後にあった酒場の屋根の上に音もなく降り立っていた。
鐘楼からここまで、屋根から屋根へと誰にも気づかれずに移動してきたのだ。
俺は懐から小さな石ころを一つ取り出した。
そして全ての意識を指先に集中させる。
狙うはボルガが戦斧を握る、右手の甲。
ひゅっ、と乾いた音が響く。
俺の指から放たれた小石は夜の闇を切り裂き、一筋の黒い線となってボルガの手の甲を正確に撃ち抜いた。
「――ッ!?」
ボルガの口から驚愕と苦痛が入り混じった短い悲鳴が漏れた。
ただの石ころ。だが、俺が全身の捻りを加えて放ったそれはもはや投石の域を超え、弾丸と化していた。
手の甲の骨が砕ける鈍い感触。
ボルガの手から巨大な戦斧が滑り落ち、ガラン、と大きな音を立てて地面に転がった。
戦場に一瞬の静寂が訪れる。
何が起こったのか、誰にも理解できていない。
ただ、無敵に見えた狂戦士が武器を落とし、苦痛に呻いている。その事実だけがそこにあった。
「…誰だ」
ボルガが砕かれた右手を抑えながら低い声で呻いた。
彼の視線がゆっくりと、俺がいる屋根の上へと向けられる。
俺は闇の中からゆっくりと姿を現した。
黒い装束を身に纏い、顔はフードで隠れている。その手には一本の黒いナイフだけが握られていた。
月明かりが俺の姿を不気味に照らし出す。
その姿を見た瞬間、ボルガの顔から血の気が引いていくのが分かった。
「…てめえ、は…」
その声は震えていた。
狂戦士の仮面が剥がれ落ち、そこには十年前に植え付けられた根源的な恐怖に怯える、ただの男の顔があった。
「“神の影”…!」
その名が戦場に響き渡った。
黄昏の蛇の構成員たちの動きがぴたりと止まる。
カーム村の男たちも息を呑んで、屋根の上の謎の人影を見つめていた。
伝説が、ついにその姿を現したのだ。
俺は何も言わなかった。
ただ、冷たい目でボルガを見下ろしているだけだ。
本当の戦いは今、この瞬間から始まる。
俺は静かに屋-根から飛び降りると、まるで羽のように軽やかに戦場の中心へと降り立った。
狂戦士ボルガの咆哮が夜の戦場に轟いた。
彼が振り下ろした巨大な戦斧は、カーム村の男たちが命懸けで守ってきたバリケードをまるで小枝のように粉々に砕き散らした。木片が宙を舞い、自警団の防衛線に致命的な亀裂が生じる。
「ひるむな! 隊列を組み直せ!」
ガレスが必死に叫ぶが、ボルガの圧倒的な破壊力を目の当たりにした村人たちの足は恐怖で竦んでしまっていた。
その隙を黄昏の蛇の構成員たちが見逃すはずがない。彼らは壊れたバリケードの隙間から、雄叫びを上げてなだれ込んできた。
「ここまでか…!」
マーカスが悔しそうに奥歯を噛み締める。
彼の部下である王国騎士たちが必死に前線を支えようとするが、雪崩れ込んでくる敵の勢いはもはや止めようがなかった。
村の防衛線は崩壊寸前だった。
ボルガはその光景に満足げな笑みを浮かべると、抵抗するガレスに狙いを定めた。
「元騎士様か。まずはてめえから血祭りにあげてやるぜ!」
ボルガがガレス目掛けて突進する。
その動きは巨体からは想像もできないほど素早く、鋭い。ガレスは渾身の力で剣を構えるが、ボルガの戦斧と彼の剣では大人と子供ほどの体格差があった。まともに打ち合えば、一撃で剣ごと両断されるだろう。
絶体絶命。
誰もがガレスの死を覚悟した。
その、刹那。
ひゅん、と夜風を切るか細い音が響いた。
次の瞬間、ボルガの巨体が不自然に前のめりによろめいた。
「ぐっ…!?」
ボルガは驚きの声を上げて自分の足元を見た。
彼の右足首に一本の細いワイヤーが深く食い込んでいる。いつ、どこから仕掛けられたのか、全く分からなかった。
ワイヤーは近くの家の柱に繋がれており、突進してきたボルガの勢いを完璧なタイミングで殺したのだ。
それはほんの一瞬の隙だった。
だが、その一瞬が戦いの流れを再び変えた。
「――はあああああっ!」
甲高い気合と共に一体の赤い影がボルガの死角から躍り出た。
リリアだ。
彼女は教会の野戦病院から戦況の悪化を察知して駆けつけてきたのだ。
彼女の剣は流星のように閃き、体勢を崩したボルガの鎧の隙間、脇腹を正確に捉えた。
浅くはない一撃。
だが、ボルガの肉体は常人のそれとはかけ離れていた。
「…小娘がぁっ!」
ボルガは脇腹の痛みに顔を歪めながらも怒りの咆哮を上げ、リリアに向かって戦斧を薙ぎ払った。
リリアは薪割りの動きで鍛えた体捌きで、辛うじてその一撃を紙一重でかわす。だが、戦斧が巻き起こした風圧だけで彼女の体は吹き飛ばされそうになった。
「リリア殿!」
ガレスが体勢を立て直して援護に入る。
マーカスも部下たちに指示を出し、ボルガを取り囲むように陣形を組んだ。
戦いの中心はボルガ一人を相手に、カーム村の最強戦力が対峙するという構図へと変わっていた。
「面白い…! 面白いじゃねえか! まとめてかかってこい! 全員、ミンチにしてやる!」
ボルガは狂的な笑みを浮かべ、戦斧を振り回す。
その一撃一撃は大地を割り、空気を震わせるほどの威力を持っていた。
ガレス、マーカス、そしてリリア。
三人は必死に連携してボルガに立ち向かう。
ガレスが正面から攻撃を受け止め、マーカスが側面から牽制し、リリアがその隙を突いて素早い一撃を叩き込む。
見事な連携だった。だが、それでもボルガという圧倒的な「個」の力の前に、じりじりと押し返されていく。
「くそっ…! 硬え…!」
マーカスの剣がボルガの鎧に弾かれる。
「力が、違いすぎる…!」
ガレスの盾にひびが入った。
そして、ついに限界が訪れた。
ボルガはマーカスの攻撃を意にも介さず、その巨体を回転させた。遠心力を乗せた戦斧の横薙ぎが三人を同時に薙ぎ払う。
「ぐあっ!」
「きゃあっ!」
三人の体は木の葉のように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
勝負は決した。
ボルガは勝利を確信し、ゆっくりと倒れる三人に歩み寄る。その顔には獲物をいたぶる捕食者の、残忍な笑みが浮かんでいた。
「さて、誰から殺してやろうか。やはり、一番威勢の良かったそこの小娘からか…」
ボルガの視線がリリアを捉える。
彼女は必死に立ち上がろうとするが、全身を打った衝撃で力が入らない。
ボルガがリリアの頭上で巨大な戦斧を振り上げた。
止めの一撃。
誰もがその残酷な結-末を目を背けながら見つめていた。
その時、俺はボルガの背後にあった酒場の屋根の上に音もなく降り立っていた。
鐘楼からここまで、屋根から屋根へと誰にも気づかれずに移動してきたのだ。
俺は懐から小さな石ころを一つ取り出した。
そして全ての意識を指先に集中させる。
狙うはボルガが戦斧を握る、右手の甲。
ひゅっ、と乾いた音が響く。
俺の指から放たれた小石は夜の闇を切り裂き、一筋の黒い線となってボルガの手の甲を正確に撃ち抜いた。
「――ッ!?」
ボルガの口から驚愕と苦痛が入り混じった短い悲鳴が漏れた。
ただの石ころ。だが、俺が全身の捻りを加えて放ったそれはもはや投石の域を超え、弾丸と化していた。
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ボルガの手から巨大な戦斧が滑り落ち、ガラン、と大きな音を立てて地面に転がった。
戦場に一瞬の静寂が訪れる。
何が起こったのか、誰にも理解できていない。
ただ、無敵に見えた狂戦士が武器を落とし、苦痛に呻いている。その事実だけがそこにあった。
「…誰だ」
ボルガが砕かれた右手を抑えながら低い声で呻いた。
彼の視線がゆっくりと、俺がいる屋根の上へと向けられる。
俺は闇の中からゆっくりと姿を現した。
黒い装束を身に纏い、顔はフードで隠れている。その手には一本の黒いナイフだけが握られていた。
月明かりが俺の姿を不気味に照らし出す。
その姿を見た瞬間、ボルガの顔から血の気が引いていくのが分かった。
「…てめえ、は…」
その声は震えていた。
狂戦士の仮面が剥がれ落ち、そこには十年前に植え付けられた根源的な恐怖に怯える、ただの男の顔があった。
「“神の影”…!」
その名が戦場に響き渡った。
黄昏の蛇の構成員たちの動きがぴたりと止まる。
カーム村の男たちも息を呑んで、屋根の上の謎の人影を見つめていた。
伝説が、ついにその姿を現したのだ。
俺は何も言わなかった。
ただ、冷たい目でボルガを見下ろしているだけだ。
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