「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ

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第47話:【迎撃段階②】村の抵抗

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東の森から這い出てきた残党たちの哀れな姿は、カーム村の自警団に複雑な感情をもたらした。ある者はその無力さに嘲笑を浮かべ、ある者はこれから始まるであろう本格的な戦闘を前に改めて気を引き締めた。

「…縛り上げておけ。尋問は後だ」
ガレスが冷静に指示を飛ばす。彼の目は残党たちではなく、その背後に広がる西の闇を鋭く見据えていた。

マーカスも部下たちに最終確認を指示していた。
「盾の列を崩すな。敵の突撃は必ず槍で受け止めろ。決して前に出るな。我々の役目はここで時間を稼ぐことだ」
彼の声にはエリートとしての自信ではなく、この村を守る一員としての地に足の着いた覚悟が宿っていた。

俺は東の森から村を横断するように移動し、西側の教会の鐘楼に陣取っていた。ここからなら西の街道から迫る敵本隊の動きが手に取るように分かる。

やがて地平線の闇が揺らめき始めた。
松明の灯りが無数に現れる。その数は百を優に超えているだろう。セレスティアの情報よりも多い。おそらく鉱山から逃げ出した連中も合流しているのだ。
軍勢の中心には、一際大きな体躯を持つ男の影が見えた。馬に乗り、巨大な戦斧を肩に担いでいる。あれが狂戦士ボルガに違いない。

「来たか…」
俺は静かに呟いた。

ボルガが率いる本隊は、東の別動隊のように隠密行動を取る気はさらさらないようだった。
大地を揺るがすような雄叫びを上げ、松明を振りかざし、一直線に村の入り口へと殺到してくる。その様はまるで黒い津波のようだった。
彼らは圧倒的な数と力で、この小さな村を正面から蹂躙し、踏み潰すつもりなのだ。

「…来るぞ!」
ガレスの檄が飛ぶ。
村の入り口に築かれた粗末なバリケード。その背後で自警団の男たちが盾を構え、槍の穂先を敵に向けた。彼らの顔には緊張と恐怖が浮かんでいる。だが、誰一人として持ち場を離れる者はいなかった。

先頭を駆けてきた数人のならず者がバリケードに殺到する。
「うおおお! 蹴散らせ!」
彼らが斧や棍棒を振り上げた、その瞬間。

バリケードの隙間から十数本の槍が、まるで一本の巨大な針のように一斉に突き出された。
ガレスとマーカスがこの二日間で徹底的に叩き込んだ、集団槍術の初歩。
「突けぇぇぇ!」

ザクッ、という鈍い音がいくつも重なる。
先頭にいたならず者たちは悲鳴を上げる間もなく、その勢いのまま槍衾に貫かれ絶命した。

「なっ…!?」
後続の者たちが味方の無残な死に、思わず足を止める。
ただの農民だと完全に侮っていた。彼らの抵抗は予想を遥かに超えて組織的で、そして効果的だった。

「怯むな! ただの百姓一揆だ! 押し潰せ!」
後方からボルガの怒声が響く。
その声に煽られ、黄昏の蛇の構成員たちは再びバリケードへと殺到した。

第二波、第三波の攻撃。
だが、カーム村の自警団は驚くべき粘り強さを見せた。
マーカスの的確な指示が常に戦線の綻びを防ぐ。
「右翼が薄い! 三名、援護に回れ!」
「敵の弓兵だ! 盾を上げろ!」

ガレスは自ら最前線に立ち、その熟練の剣技でバリケードを乗り越えようとする敵を次々と斬り伏せていく。
「俺に続け! この村は我々が守るんだ!」
彼の勇姿は恐怖に震える村人たちの心を鼓舞した。

戦いは拮抗状態に陥った。
黄昏の蛇は数の上で圧倒的に勝っている。だが、カーム村には地の利と守るべきものがあるという強固な意志があった。粗末なバリケードは何度も破壊されそうになりながらも、その都度男たちの意地で支えられた。

俺は、その光景を鐘楼の上から静かに見守っていた。
俺が手を出すまでもない。彼らは自分たちの力で見事に戦っている。
この村はもはや俺一人が守るべき弱い存在ではなかった。
その事実が俺の胸に静かな感動を呼び起こしていた。

だが、戦況は決して楽観できるものではなかった。
自警団の男たちは所詮は素人だ。体力も集中力も無限ではない。戦闘が長引くにつれて徐々に疲労の色が濃くなっていく。負傷者も出始めた。
教会に設置された野戦病院ではリリアが女たちを指揮し、運び込まれてくる負傷者の手当てに追われていた。

「くそっ…! キリがねえ…!」
ドルガンが盾で攻撃を受け止めながら悪態をつく。
彼の腕は度重なる衝撃で、もう限界に近かった。

このままではジリ貧だ。
防衛線が崩壊するのは時間の問題。

その時だった。
膠着した戦況を、一人の男が動かした。
狂戦士ボルガ。
彼は苛立ちに満ちた咆哮を上げると、自ら馬を降り巨大な戦斧を手に最前線へと躍り出た。

「どけ、雑魚ども! 俺がケリをつけてやる!」

その圧倒的な威圧感。
ボルガが一歩前に出るだけで、黄昏の蛇の構成員たちの士気が爆発的に高まった。
逆に、自警団の男たちはその巨体と人間離れした殺気に気圧され、僅かに後退った。

均衡は破られた。
ボルガの登場は、この戦いの流れを一気に変えてしまうだろう。

鐘楼の上で俺は静かに腰を上げた。
(…そろそろ、出番のようだな)

俺の役目は王を狩ること。
雑兵の相手は彼らに任せる。
だが、王の首は俺が獲る。

俺は鐘楼の縁に立ち、眼下の戦場を見下ろした。
ボルガが巨大な戦斧を大上段に振り上げ、バリケードを粉砕しようとしている。

その瞬間を狙い、俺は鐘楼から闇の中へと音もなく身を躍らせた。
村人たちの抵抗は見事だった。
だが、ここから先は俺の戦いだ。

“神の影”が、ついにその姿を戦場に現す。
クライマックスは、すぐそこまで迫っていた。
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