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第81話:それぞれの想い
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俺とセレスティアが、死と隣り合わせの潜入を開始している頃。
砦の正面、南側の森に潜む陽動部隊の野営地では、残された三人が、それぞれの想いを胸に、静かに出撃の時を待っていた。
リリアは、一人、大木の幹に背を預け、愛剣の手入れをしていた。
油を染み込ませた布で、刀身をゆっくりと拭き上げていく。その横顔は、もはやただの駆け出し冒険者の少女のものではなかった。師である俺の背中を追い、過酷な戦いを乗り越えた、一人の成熟した戦士の顔だった。
彼女の脳裏に、俺との出会いからの日々が、鮮明に蘇っていた。
フォレストボアに殺されかけていた、無力な自分。
師匠の、神業のような一撃。
畑仕事や薪割りという、奇妙な修行の日々。
そして、ゴブリンとの戦いで、初めて自分の成長を実感した、あの高揚感。
(師匠は、いつも私の前を歩いてくれる)
彼女は、そっと、俺のいる北の崖の方角を見やった。
(でも、いつまでも、その背中に守られているだけじゃ駄目なんだ。今度は、私が、師匠の背中を守る番)
彼女の役目は、陽動。
敵の注意を、一身に引きつける、最も危険な役回りだ。
だが、彼女の心に、恐怖はなかった。
師匠が、自分を信じて、この役目を任せてくれた。その事実が、何よりの力になっていた。
師匠が、中央塔への道を切り開く、そのための時間を、一秒でも長く稼いでみせる。
それが、弟子である自分の、最大の務めだと、彼女は信じていた。
彼女は、剣を鞘に納めると、静かに立ち上がった。
その瞳には、揺るぎない決意の光が灯っていた。
少し離れた場所では、ガレスが、地図を睨みつけながら、部下となる自警団の経験を持つ村人たち(今回のために志願した数名)に、最後の作戦指示を与えていた。
「いいか、俺たちの狙いは、敵の殲滅ではない。あくまで、時間稼ぎだ」
その声は、低く、そして重い。
「リリア殿が、敵の陣形を乱す。俺たちは、その隙を突き、正面ゲートに波状攻撃を仕掛ける。深追いはするな。攻撃しては引き、引いては攻撃する。狼の群れのように、執拗に、だ」
彼の頭の中には、俺が与えた「狼の群れ」という助言が、深く刻み込まれていた。
彼は、騎士団で学んだ、定石通りの戦術を、全て捨て去った。
今、彼が信じるのは、アランという、規格外の男が示した、戦いの本質だけだった。
(…アラン殿。あなたは、俺に、本当の『強さ』とは何かを、教えてくれた)
騎士としての誇り。正義感。それは、今も彼の根幹を成すものだ。
だが、ア-ランと出会い、彼は学んだ。
本当の強さとは、鎧や剣の性能ではない。肩書きや、名誉でもない。
守るべきもののために、最も合理的で、最も効果的な手段を、いかなる状況でも選択できる、その柔軟な思考と、揺るぎない覚悟なのだ、と。
「皆、死ぬなよ」
ガレスは、部下たちの顔を、一人ずつ見渡した。
「俺たちは、英雄になるために戦うのではない。生きて、カーム村に帰るために戦うのだ。そして、アラン殿が、安心して帰ってこられる場所を、守り抜くために」
「「「応!!」」」
男たちの、力強い返事が、森に響いた。
そして、その二人から、さらに離れた、丘の上の最も安全な場所。
エリアーナ王女は、侍女のリナと共に、小さな天幕の中で、静かに祈りを捧げていた。
彼女の前には、王国との連絡を保つための魔術通信機が、淡い光を放っている。
彼女の役目は、後方支援と、全体の指揮。
そして、万が一、作戦が失敗した場合に、最後の決断を下すという、最も重い責務を負っていた。
彼女の心に、俺との出会いからの、短い、しかし濃密な日々が、去来していた。
畑の中にいた、ただの汚れたおっさん。
騎士団総長への誘いを、一笑に付した、食えない男。
そして、国の宝である伝説の装備を、古びたナイフの方が手に馴染むと、あっさり断った、孤高の男。
彼は、彼女が今まで出会ってきた、どんな貴族や騎士とも、違っていた。
彼は、権力にも、名誉にも、富にも、一切の興味を示さない。
ただ、自らの平穏と、ささやかな日常だけを、何よりも大切にしている。
その、あまりに人間的な、そして同時に、何よりも気高い生き方に、エリアー-ナは、いつしか、強く惹かれていたのだ。
(アラン殿…)
彼女は、そっと、胸の前で手を組んだ。
(どうか、ご無事で。あなたが、この戦いを終わらせ、あなたの愛する、あの穏やかな日常へと、無事に戻れますように)
それは、王女としての祈りではなかった。
一人の少女としての、心からの、切なる願いだった。
彼女は、祈りを終えると、顔を上げた。
その瞳には、もはや、迷いの色はなかった。
王女として、この作戦の最高責任者として、自らが果たすべき役割を、完全に受け入れた、強い光が宿っていた。
それぞれの場所で、それぞれの想いを胸に。
リリアは、師への信頼を。
ガレスは、騎士としての新たな誇りを。
セレスティアは、先輩への複雑な忠誠心を。
そして、エリアーナは、国の平和と、一人の男への、淡い想いを。
ドリームチームは、その心を一つにして、最後の戦いへと、静かに歩を進めていた。
夜は、まだ明けない。
だが、彼らの心の中には、勝利という名の、確かな夜明けが、見えていた。
砦の正面、南側の森に潜む陽動部隊の野営地では、残された三人が、それぞれの想いを胸に、静かに出撃の時を待っていた。
リリアは、一人、大木の幹に背を預け、愛剣の手入れをしていた。
油を染み込ませた布で、刀身をゆっくりと拭き上げていく。その横顔は、もはやただの駆け出し冒険者の少女のものではなかった。師である俺の背中を追い、過酷な戦いを乗り越えた、一人の成熟した戦士の顔だった。
彼女の脳裏に、俺との出会いからの日々が、鮮明に蘇っていた。
フォレストボアに殺されかけていた、無力な自分。
師匠の、神業のような一撃。
畑仕事や薪割りという、奇妙な修行の日々。
そして、ゴブリンとの戦いで、初めて自分の成長を実感した、あの高揚感。
(師匠は、いつも私の前を歩いてくれる)
彼女は、そっと、俺のいる北の崖の方角を見やった。
(でも、いつまでも、その背中に守られているだけじゃ駄目なんだ。今度は、私が、師匠の背中を守る番)
彼女の役目は、陽動。
敵の注意を、一身に引きつける、最も危険な役回りだ。
だが、彼女の心に、恐怖はなかった。
師匠が、自分を信じて、この役目を任せてくれた。その事実が、何よりの力になっていた。
師匠が、中央塔への道を切り開く、そのための時間を、一秒でも長く稼いでみせる。
それが、弟子である自分の、最大の務めだと、彼女は信じていた。
彼女は、剣を鞘に納めると、静かに立ち上がった。
その瞳には、揺るぎない決意の光が灯っていた。
少し離れた場所では、ガレスが、地図を睨みつけながら、部下となる自警団の経験を持つ村人たち(今回のために志願した数名)に、最後の作戦指示を与えていた。
「いいか、俺たちの狙いは、敵の殲滅ではない。あくまで、時間稼ぎだ」
その声は、低く、そして重い。
「リリア殿が、敵の陣形を乱す。俺たちは、その隙を突き、正面ゲートに波状攻撃を仕掛ける。深追いはするな。攻撃しては引き、引いては攻撃する。狼の群れのように、執拗に、だ」
彼の頭の中には、俺が与えた「狼の群れ」という助言が、深く刻み込まれていた。
彼は、騎士団で学んだ、定石通りの戦術を、全て捨て去った。
今、彼が信じるのは、アランという、規格外の男が示した、戦いの本質だけだった。
(…アラン殿。あなたは、俺に、本当の『強さ』とは何かを、教えてくれた)
騎士としての誇り。正義感。それは、今も彼の根幹を成すものだ。
だが、ア-ランと出会い、彼は学んだ。
本当の強さとは、鎧や剣の性能ではない。肩書きや、名誉でもない。
守るべきもののために、最も合理的で、最も効果的な手段を、いかなる状況でも選択できる、その柔軟な思考と、揺るぎない覚悟なのだ、と。
「皆、死ぬなよ」
ガレスは、部下たちの顔を、一人ずつ見渡した。
「俺たちは、英雄になるために戦うのではない。生きて、カーム村に帰るために戦うのだ。そして、アラン殿が、安心して帰ってこられる場所を、守り抜くために」
「「「応!!」」」
男たちの、力強い返事が、森に響いた。
そして、その二人から、さらに離れた、丘の上の最も安全な場所。
エリアーナ王女は、侍女のリナと共に、小さな天幕の中で、静かに祈りを捧げていた。
彼女の前には、王国との連絡を保つための魔術通信機が、淡い光を放っている。
彼女の役目は、後方支援と、全体の指揮。
そして、万が一、作戦が失敗した場合に、最後の決断を下すという、最も重い責務を負っていた。
彼女の心に、俺との出会いからの、短い、しかし濃密な日々が、去来していた。
畑の中にいた、ただの汚れたおっさん。
騎士団総長への誘いを、一笑に付した、食えない男。
そして、国の宝である伝説の装備を、古びたナイフの方が手に馴染むと、あっさり断った、孤高の男。
彼は、彼女が今まで出会ってきた、どんな貴族や騎士とも、違っていた。
彼は、権力にも、名誉にも、富にも、一切の興味を示さない。
ただ、自らの平穏と、ささやかな日常だけを、何よりも大切にしている。
その、あまりに人間的な、そして同時に、何よりも気高い生き方に、エリアー-ナは、いつしか、強く惹かれていたのだ。
(アラン殿…)
彼女は、そっと、胸の前で手を組んだ。
(どうか、ご無事で。あなたが、この戦いを終わらせ、あなたの愛する、あの穏やかな日常へと、無事に戻れますように)
それは、王女としての祈りではなかった。
一人の少女としての、心からの、切なる願いだった。
彼女は、祈りを終えると、顔を上げた。
その瞳には、もはや、迷いの色はなかった。
王女として、この作戦の最高責任者として、自らが果たすべき役割を、完全に受け入れた、強い光が宿っていた。
それぞれの場所で、それぞれの想いを胸に。
リリアは、師への信頼を。
ガレスは、騎士としての新たな誇りを。
セレスティアは、先輩への複雑な忠誠心を。
そして、エリアーナは、国の平和と、一人の男への、淡い想いを。
ドリームチームは、その心を一つにして、最後の戦いへと、静かに歩を進めていた。
夜は、まだ明けない。
だが、彼らの心の中には、勝利という名の、確かな夜明けが、見えていた。
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