「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ

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第98話:夜明け

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崩壊した「忘却の砦」を背に、俺たちは帰路についた。
行きとは違い、その足取りは安堵感と心地よい疲労感に満ちていた。時折誰かが戦いの武勇伝を語り、それに皆で笑い合う。そんな和やかな空気が俺たちの間を流れていた。

数日後。
俺たちがカーム村の入り口にたどり着くと、そこには信じられない光景が広がっていた。
村人たちが総出で俺たちの帰りを待ちわびていたのだ。その手には色とりどりの野の花が握られ、彼らの顔には心からの歓迎の笑みが浮かんでいた。

「おかえりなさい!」
「アラン様!」
「王女殿下!」

誰かが叫んだのを合図に、大きな大きな歓声と万雷の拍手が俺たちを包み込んだ。
空には子供たちが作ったのであろう、拙いが心のこもった紙吹雪が舞っている。

俺は、そのあまりに温かい歓迎にどう反応していいか分からず、ただ馬の上で固まってしまった。
隣を走るエリアーナは驚きに目を見開いた後、王女としての仮面を脱ぎ捨て、一人の少女として嬉しそうに、そして少し涙ぐみながら人々に手を振っていた。

俺たちは英雄としてカーム村へと凱旋した。
その日から数日間、村はまるでお祭りのような賑わいが続いた。
俺の家にはひっきりなしに村人たちが訪れ、採れたての野菜や焼きたてのパンを差し入れてくれた。
そのどれもが「ありがとう」という、素朴な、しかし心のこもった言葉と共に。

俺は、その一つ一つにぎこちなく、しかし確かに「ああ」と頷き返した。
俺が守りたかった日常は、失われてなどいなかった。
むしろこの戦いを通してより強く、より温かいものになって俺の元へ返ってきたのだ。

そして一週間後。
王都から正式な使者として騎士団総長デュランとあのマーカスが、大勢の騎士たちを率いてカーム村へとやってきた。
彼らがもたらしたのは、国王オルティウス三世からの正式な布告だった。

広場に集まった村人たちの前で、デュランは厳かにその羊皮紙を読み上げた。
一つ。暗殺者ギルド「黄昏の蛇」の完全壊滅に多大なる貢献をしたアラン、リリア、ガレス、セレスティア、そして王女エリアーナに、王国最高の栄誉である「救国の英雄」の称号を授与すること。
一つ。カーム村を王家直轄の特別保護区とし、今後一切の王家の許可なき開発や商業活動を禁じること。
そして、一つ。アラン・スミスという一人の農夫の平穏なる生活を、アステリア王国が国家の総力を挙げて保証すること。

エリアーナが俺と交わした約束。
それは国王の名の下に、完璧な形で果たされたのだ。

歓声が再び村を包み込んだ。
商業ギルドの連中はこの布告によって、すごすごと村から撤退していくことになるだろう。俺の家の前にに行列ができることももうない。
俺はついに本当の平穏を手に入れたのだ。

その日の夜。
俺の家でささやかな祝賀会が開かれた。
メンバーは俺とリリア、ガレス、セレスティア、エリアーナ、そしてデュランとマーカス。
この奇妙な物語を共に紡いできた仲間たちだ。

俺が作った、いつもと変わらない素朴な野菜スープ。
それを皆が美味い、美味いと笑顔で啜っている。
その光景を見ながら、俺は心の底から満ち足りた気持ちになっていた。

「…これからどうするのだ? アラン殿」
デュランがふと俺に尋ねた。
「英雄殿には王都で、その功績にふさわしい地位をご用意することもできますが」
「いらん」
俺は即答した。
「俺はここで畑を耕して生きていく。それだけだ」

俺の迷いのない答えに、デュランは少し寂しそうに、しかしどこか納得したように頷いた。

戦いは終わり、夜は明けた。
俺たちのそれぞれの新しい日常が始まろうとしていた。
ガレスは村の警備隊長として、この村に骨を埋めるだろう。
リリアは英雄としての名声を得たが、それでもまだ俺の弟子としてこの村で修行を続けると言って聞かない。
セレスティアは…彼女の進む道は、まだ決まっていないようだった。
そしてエリアーナも、いずれは王都へ帰り、一国の王女としての務めを果たさなければならない。

俺たちはまたそれぞれの道を歩き始める。
だが俺たちの間に生まれたこの温かい絆は、決して消えることはないだろう。

俺は窓の外に広がる穏やかなカーム村の夜景を見つめた。
そこには俺が命を懸けて守り抜いた、愛おしい日常が静かに広がっていた。

長い長い戦いだった。
だがその全ては、この温かい一杯のスープのためにあったのだと。
俺は今、心の底からそう思うことができた。
夜明けの光が俺たちの新しい未来を優しく照らしていた。
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