スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

文字の大きさ
61 / 76

第61話:邪教団の宣戦布告

しおりを挟む
セレスティアが自らの魂を贄にして消え去った後、アルカディア村の中央広場には異様な静寂と禍々しい魔力の残滓だけが残されていた。
空に開いたという空間の亀裂はすでに跡形もなく消えている。だが、あの冒涜的な気配は俺たちの脳裏に深く、そして不吉に焼き付いていた。

「……終わったのか?」
建物の陰から姿を現したリズベットが、警戒を解かずに呟いた。
「いいえ。終わってなどいません」
シルフィが黒く焼け焦げた聖銀樹の葉を拾い上げながら、静かに、しかしはっきりとした口調で言った。「むしろ始まってしまったのです。私たちの本当の戦いが」

彼女の言う通りだった。
セレスティアの最後の行動は単なる逃亡ではなかった。
あれは儀式だった。自らの敗北と魂を供物として、邪神復活の計画を次の段階へと進めるための。
そして俺たちアルカディア村に対する、明確で取り消し不能な『宣戦布告』だった。

俺はガイア・ガーディアンたちに広場の後片付けを命じながら、仲間たちと共に領主の館へと戻った。
執務室のテーブルを囲んでも、誰一人として勝利の余韻に浸る者はいなかった。俺たちの表情は皆、硬い。
「邪教団『黄昏の蛇』か。ずいぶんと物騒な連中が現れたもんだな」
リズベットが腕を組みながら唸る。「聖女様がそのトップの一人たあ、笑えねえ冗談だぜ」

「彼女の目的はこの村を『祭壇』にして邪神を復活させること。そのためにこの村に満ちる生命力と、私たちの魂を『贄』として求めている」
俺が状況を整理すると、シルフィが重い口を開いた。
「エルフの最も古い伝承に一つだけ記述があります。世界の理が乱れ星々の巡りが凶兆を示す時、『黄昏の蛇』は現れる、と。彼らは世界の終わりを告げる使者であり、その先触れとして最も輝かしい生命の地を堕とし、神々の眠る門を開く、と」

「……つまりこのアルカディア村が、その『最も輝かしい生命の地』に選ばれちまったってわけかい」
リズベットが忌々しげに吐き捨てる。
皮肉な話だった。俺たちが平和で豊かな理想郷を築き上げようとすればするほど、その輝きが世界の闇を呼び寄せてしまうのだ。

「このことは外部に知らせるべきだろうか」
俺は仲間たちに問いかけた。「アウグスト騎士団長やセバスチャン殿に伝えれば、国や商会が何らかの助けになってくれるかもしれない」
だがシルフィは静かに首を横に振った。
「おそらく無駄でしょう。邪教団の存在などほとんどの人間にとっては、おとぎ話でしかありません。確たる証拠もなく騒ぎ立てれば無用な混乱を招くだけです。最悪の場合、アルフォンス様が人心を惑わす危険人物と見なされてしまう可能性さえあります」

リズベットも同意だった。
「ああ。それに騎士団だか何だか知らねえが、あいつらがセレスティアの空間転移や魔人たちの力にどこまで対抗できる? 下手に巻き込んで無駄な犠牲を増やすだけかもしれねえぜ」

二人の意見は的を射ていた。
これはもはや通常の軍隊や国家権力が対処できるレベルの問題ではない。
神話や伝説の領域の戦いだ。
そしてその戦いに対抗できるだけの規格外の力を持っているのは、今のところこのアルカディア村だけなのだ。

「……そうか。そうだな」
俺は覚悟を決めた。「なら俺たちだけでやるしかない。この戦いは俺たちがこの村でケリをつける」

領主として俺は一瞬迷った。
この村の人々を、世界の命運を賭けたこんな途方もない戦いに巻き込んで良いのだろうか、と。
彼らはただ平穏な暮らしを求めてここへ来ただけなのだ。
だがもう選択の余地はなかった。
邪教団はこの村そのものを狙っている。逃げる場所などどこにもない。
戦うか、それともすべてを奪われ贄となるか。道は二つに一つだ。

翌朝。
俺はシェルターから出てきた村人たちを再び中央広場に集めた。
広場には昨夜の激戦の爪痕が生々しく残っている。村人たちの顔には不安と恐怖の色が浮かんでいた。
俺はその全ての視線を一身に受け止めながら、演台に立った。

嘘はつかなかった。
俺は昨夜何が起こったのか、ありのままに話した。
セレスティアの正体、邪教団『黄昏の蛇』の存在、そして彼らがこの村を狙う恐るべき目的。
俺たちの村が世界の終わりを目論む巨大な悪の標的となっていることを、誠実に、そして包み隠さずに語った。

広場は水を打ったように静まり返った。
恐怖に息を呑む者、絶望に顔を青ざめさせる者。
俺はそんな彼らに向かって深く、深く頭を下げた。

「……申し訳ない」
俺の声は震えていた。「俺がこの村をこれほどまでに豊かにしてしまったせいで、皆をとんでもない危機に巻き込んでしまった。領主として失格だ」
「だが」と俺は顔を上げた。
「俺は諦めるつもりはない。この村を、ここにいる誰一人として奴らの好きにはさせない。俺は戦う。この命に代えても俺たちの家を、俺たちの日常を守り抜いてみせる」

俺は村人たち一人一人の目を見ながら続けた。
「……これは俺が背負うべき戦いだ。皆に強制はしない。もしこの村を離れたい者がいるなら、今すぐ俺が安全な場所まで送り届けることを約束する。だが、もし……もし俺と共にこの村で戦う覚悟を決めてくれる者がいるのなら、どうか力を貸してほしい」

俺の魂からの訴えだった。
静寂が広場を支配する。
誰もが固唾を飲んで互いの顔を見合わせている。
その重い沈黙を破ったのは村の長老、オーギュストだった。

彼はゆっくりと前に進み出ると俺の前に立ち、静かに、しかし力強い声で言った。
「アルフォンス様。顔をお上げください」
「我々がこの村を離れるものですか。ここが我々の故郷なのですぞ」

彼の言葉を皮切りに次々と声が上がり始めた。
「そうだ! 俺たちも戦うぜ、領主様!」
「代官様から俺たちを救ってくれたのはあんたじゃねえか!」
「この村は俺たちの希望だ! 邪神なんぞに渡してたまるか!」
元兵士が、農民が、職人が、母親が、老人たちが。
村の誰もが恐怖を乗り越え、戦う意志をその瞳に宿していた。

彼らは俺と共に戦うことを選んでくれたのだ。
俺の目から熱いものがこみ上げてきた。
俺は一人ではなかった。
俺の後ろにはこんなにも多くの心強い仲間たちがいる。

「……ありがとう。皆」
俺は声を振り絞って礼を言った。
「ありがとう……!」

うおおおおおっ!
広場は団結を誓う力強い雄叫びに包まれた。
邪教団の宣戦布告はアルカディア村の人々の心を恐怖で砕くどころか、むしろこれまで以上に固い一つの岩へと変えたのだ。

俺たちの平穏なスローライフはもう戻らないのかもしれない。
だが俺たちは絶望などしていなかった。
この仲間たちと共に新たな日常を、そして本当の平和をこの手で創り上げていく。
そのための新しい戦いが今、始まったのだ。
俺は仲間たちの力強い顔を見渡し、アルカディアの領主として、そしてこの世界を守る者として静かに、しかし燃えるような闘志を心に宿した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略

ゆきむらちひろ
ファンタジー
「追放」「ざまぁ」「実は最強」「生産チート」「スローライフ」「可愛いヒロイン」などなど、どこかで見たことがあるような設定を山盛りにして、ゆきむら的に書き殴っていく異世界ファンタジー。 ■あらすじ 勇者パーティーで雑用兼ポーション生成係を務めていた錬金術師・アルト。 彼は勇者から「お前のスキルはもう限界だ。足手まといだ」と無一文で追放されてしまう。 失意のまま辺境の寂れた村に流れ着いたアルトだったが、 そこで自身のスキル【アイテム・クリエーション】が、 実はただのアイテム作成ではなく、 物質の構造を自在に組み替える神の御業【物質創造】であることに気づく。 それ以降、彼はその力で不毛の土地を肥沃な農地に変え、 枯れた川に清流を呼び戻し、 村人たちのために快適な家や温泉まで作り出していく。 さらに呪いに苦しむエルフの美少女を救い、 お人好しな商人、訳ありな獣人、腕利きのドワーフなどを取り入れ、 アルトは辺境を活気あふれる理想郷にしようと奮闘する。 一方、アルトを追放した勇者パーティーは、なぜかその活躍に陰りが見えてきて……。  ―・―・―・―・―・―・―・― タイトルを全部書くなら、 『追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます ~今さら戻ってこいと泣きつかれても、もう遅い。周りには僕を信じてくれる仲間がいるので~』という感じ。ありそう。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。 ※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」 現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。 渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。 私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル! 「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」 提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。 家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。 裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。 錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。 主人公無双×のんびり錬金スローライフ!

防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました

黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった! これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。

風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏
ファンタジー
地味で不遇な風魔法──でも、使い方しだいで!? どこにでもいる男子高校生が、意識高い系お嬢様に巻き込まれ、毎日ダンジョン通いで魔法検証&お小遣い稼ぎ! 目指せ収入UP。 検証と実験で、風と火が火花を散らす!? 青春と魔法と通帳残高、ぜんぶ大事。 風魔法、実は“混ぜるな危険…

処理中です...