スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第62話:軍事国家からの使者

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邪教団との全面対決を決意し、アルカディア村は一つの巨大な要塞として、そして一つの運命共同体として新たな段階へと足を踏み入れた。
村人たちは恐怖を乗り越え、それぞれの立場で戦う準備を始めた。義勇軍の訓練は熱を帯び、リズベットの工房は対魔術兵装の量産で昼夜を問わず稼働し、シルフィは聖銀樹の力を応用した新たな防衛システムの開発に没頭していた。
村全体が静かだが、燃えるような闘志に満ちていた。

だが、セレスティアが残した脅威は邪教団だけではなかった。
彼女が引き起こしたあの天変地異のような戦い。魔人ガイウスの出現とオリハルコン装備のゴーレム部隊との激突。その情報は俺たちが思うよりもずっと早く、そして広く大陸中に伝播していたのだ。

ある日の午後。
壁の上で見張りをしていた義勇軍から緊急の知らせがもたらされた。
「りょ、領主様! 村の南方に所属不明の大規模な部隊が接近中です!」

俺とシルフィ、リズベットが櫓に駆け上がると、地平線の彼方に黒い鉄の塊のような一団が見えた。
それは代官の私兵や王国の騎士団とは全く質の違う軍隊だった。
一糸乱れぬ重装歩兵の密集方陣。その両翼を固める屈強な騎馬隊。そして掲げられた旗には、双頭の鷲の紋章が威圧的に描かれている。
その紋章に俺は見覚えがあった。

「……グライフ帝国」
俺が呟くと、隣でシルフィが息を呑んだ。
「大陸最強と謳われる、あの軍事国家がなぜこんな辺境に……」

グライフ帝国。
俺たちの住む王国とは山脈を隔てて隣接する巨大な軍事大国だ。彼らは魔法よりも、徹底的に鍛え上げられた鋼鉄の軍団による力と規律を信奉する国家として知られている。そして、その領土的野心は留まるところを知らない。

帝国の軍勢は、俺たちの村から矢の届かない絶妙な距離で停止した。
やがてその一団から、白馬に乗った一人の使者が白旗を掲げてこちらへと近づいてくる。
俺はリズベットに門を開かせると、一人でその使者を迎え入れた。

使者は精悍な顔つきをした若い将校だった。その鎧は一点の曇りもなく磨き上げられ、その立ち振る舞いには帝国軍人としての揺るぎない誇りが満ち溢れている。
彼は馬から降りると俺の前に立ち、帝国式の敬礼をした。だが、その瞳には俺を対等な相手と見る色はなく、ただ値踏みするような冷たい光が宿っていた。

「貴殿がこの地の支配者、アルフォンス殿か。私はグライフ帝国皇帝陛下が名代、ガイウス・フォン・リヒトホーフェン将軍が配下、第三騎士隊隊長、クラウス・フォン・ゲルハルトである」
クラウスと名乗る使者は、尊大な口調で名乗りを上げた。
「我が軍は先日この地で観測された、尋常ならざる魔力反応の調査のために派遣された。調査の結果、この『アルカディア』なる村がその発生源であると断定した」

やはりガイウスとの戦いが、彼らを呼び寄せてしまったのか。
俺は黙って彼の次の言葉を待った。
「貴村が保有する土くれの自動人形(ゴーレム)の軍団、そして伝説の金属オリハルコンの加工技術。それらはもはや一介の村が管理してよいレベルを遥かに超えている。下手をすれば大陸全体のパワーバランスを崩しかねない危険な力だ」

彼の言葉は正論だった。
俺たちの力は確かに強大になりすぎていた。
「そこで我がグライフ帝国より、貴殿に寛大なる提案を携えてきた」
クラウスは少し間を置いて続けた。その声には有無を言わせぬ傲慢な響きがあった。

「アルフォンス殿。貴村のその類稀なる技術と資源のすべてを我が帝国に提供せよ。さすれば皇帝陛下は貴村を帝国の『庇護下』に置き、その安全と繁栄を未来永劫保証してくださるだろう。これは命令ではない。野蛮な王国に属する哀れな辺境の民への、帝国からの『慈悲』である」

それはあまりにも一方的で、侮辱的な提案だった。
『庇護下に置く』。それは事実上の属国になれ、奴隷になれと言っているのと同じだった。
技術と資源をすべて差し出し、帝国の犬として生きろ、と。

俺の背後で話を聞いていたリズベットの肩が、怒りでわなわなと震えている。
だが俺は冷静だった。
邪教団という世界の理の外にいる敵と対峙した後では、人間の国家が持つ欲望などどこか矮小なものに感じられた。

俺はクラウスの目を真っ直ぐに見据えた。
「……提案、感謝する。だがその答えを返す前に、一つあんたたちに見てもらいたいものがある」
「何だ?」
「ついてきてほしい」

俺は訝しげな顔をするクラウスを促し、村の中央へと案内した。
シルフィとリズベットも黙って俺たちの後についてくる。
俺たちが向かった先は聖銀樹がそびえ立つ中央広場、そしてその地下に広がるダンジョンの入り口だった。

俺はクラウスを伴い、ダンジョンの第一階層へと降りていった。
地下に広がる太陽なき楽園の光景に、さすがの帝国軍人も驚きを隠せないようだった。
「……これは、一体……」

俺は彼に何も説明せず、さらに奥へと進んだ。
第二階層の岩石地帯、第三階層の湿潤洞窟、第四階層の灼熱洞窟、そして第五階層の星屑の鉱床。
俺はこのダンジョンが生み出す規格外の恵みと、その神秘のすべてを彼に見せた。

最後に俺は彼を、オリハルコン芋が鎮座するあの黄金の水晶の前に立たせた。
「……馬鹿な。神々の金属が芋のように……。我が帝国のどんな賢者も、こんな光景は信じないだろう……」
クラウスは完全に自らの常識を破壊され、呆然と立ち尽くしていた。

俺はそんな彼に向き直り、静かに言った。
「あんたたちの皇帝が欲しがっているのは、俺たちの技術や資源だろう。だがそれはこのダンジョンが生み出す恵みの、ほんの上澄みに過ぎない。このアルカディアの本当の価値は、あんたたちが考えるような矮小なレベルにはない」
「この村は無限に富と力を生み出し続ける。それはどんな帝国もどんな王国も、決して真似のできない神の領域だ」

俺の言葉にクラウスはぐっと唇を噛み締めた。
彼は認めざるを得なかったのだ。この村が自分たちの理解を、そして帝国の国力を遥かに超えた規格外の存在であることを。

地上に戻った俺たちは再び門の前に立っていた。
クラウスの顔にはもはや最初の尊大な態度はなく、深い困惑と、そしてわずかな畏怖の色が浮かんでいた。
俺はそんな彼にアルカディア村の領主として正式な返答を告げた。
その言葉はもはやただの農夫のものではなく、一つの独立国家の元首としての揺るぎない宣言だった。
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