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第63話:帝国の圧力
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ダンジョンの深淵を垣間見たクラウスは、完全に沈黙していた。
彼の軍人としての常識、帝国臣民としての誇り、そのすべてが地下に広がるあの非現実的な光景によって根底から揺さぶられていた。
門の前に戻っても彼はしばらくの間、ただ呆然とアルカディア村の豊かな畑と、そこに住む人々の穏やかな笑顔を信じられないものを見るかのように眺めていた。
やがて彼は我に返ったように、深く息を吐き出した。そして俺に向き直る。
その瞳から最初の傲慢さは消え去っていた。だが代わりに、帝国軍人としての冷徹な義務感が氷のように宿っていた。
「……アルフォンス殿。貴殿の村が我々の想像を絶する力を持っていることは理解した。正直に言おう、驚愕した。これほどの力が王国の、それも辺境の地に眠っていたとはな」
彼の声は低く、抑揚がなかった。
「だが」と彼は続けた。「だからこそだ。だからこそその力は、野放しにしておくわけにはいかない。それはもはや脅威だ。我がグライフ帝国にとって、そしてこの大陸全体の秩序にとってのな」
彼の論理は帝国という覇権国家の、冷徹な論理だった。
理解できない力、制御できない力は、それが善であれ悪であれ潜在的な脅威とみなし、管理下に置くか、あるいは排除する。それこそが彼らが大陸最強の国家たりえる所以なのだ。
「改めて問おう。我が帝国の提案を受け入れるか、否か」
クラウスは最後の通告を突きつけてきた。
俺は彼の目を真っ直ぐに見返した。
そしてアルカディアの領主として、俺たちの答えをはっきりと告げた。
「断る」
その一言は静かだったが、この場にいる誰の耳にも明瞭に届いた。
クラウスの顔がわずかにこわばる。
俺は続けた。
「俺たちは誰の庇護も慈悲も必要としない。俺たちの村は俺たちの手で守り、俺たちの手で発展させていく。あんたたちの皇帝に、その邪魔をする権利はない」
俺の揺るぎない拒絶。
それは帝国に対する明確な反逆の意思表示と受け取られても、仕方のないものだった。
クラウスの周囲の空気がピリピリと張り詰めていく。
「……それが貴殿の最終的な答えか」
「ああ」
クラウスはしばらく何も言わなかった。
ただ俺の瞳の奥にあるものを探るように見つめている。
やがて彼は静かに、しかしはっきりと宣告した。
「――ならば、交渉は決裂だ」
彼の言葉はもはや外交官のものではなく、敵国の将軍としての冷たい響きを帯びていた。
「アルフォンス殿。貴殿は大きな過ちを犯した。我がグライフ帝国の寛大なる申し出を無下に断った。その意味を、その身をもって知ることになるだろう」
彼は俺に背を向けると、自分の馬へと歩き始めた。
「待て」
俺は彼の背中に声をかけた。
クラウスが足を止める。
「……最後に一つだけ、忠告しておく」
俺は静かに言った。「お前たちの敵は俺たちだけじゃない。この世界にはお前たちの鋼鉄の軍団でも、到底太刀打ちできないような本当の『闇』が蠢いている。その闇はいずれ帝国も王国も、等しく飲み込むだろう」
それは邪教団に対する俺なりの警告だった。
俺の言葉にクラウスはわずかに肩を揺らした。
だが彼は振り返ることなく馬に跨ると、冷たく言い放った。
「……戯言を。我が帝国の前ではいかなる闇も、塵芥に同じだ」
彼はそう言うと馬首を返し、自軍の陣地へとゆっくりと戻っていった。
俺たちの交渉は終わった。
そして新たな戦いが始まろうとしていた。
クラウスが陣地に戻ると、帝国の軍勢はすぐに行動を開始した。
彼らは撤退するのではない。
俺たちの村を完全な半円状に包囲するように、陣形を再編し始めたのだ。
それはバルトークの私兵が行ったような杜撰な包囲網ではない。
兵士たちの配置、物見櫓の建設、そして野営地の構築。そのすべてが完璧な計算と規律に基づいて行われる、教科書通りの完璧な『攻城陣』だった。
「……やる気だな、あいつら」
壁の上からその様子を見ていたリズベットが、ウォーハンマーを握りしめながら好戦的に呟いた。
「ええ。彼らは私たちを正式な『敵国』と見なしたのです」
シルフィも厳しい表情で敵陣を睨んでいる。
グライフ帝国。
その力は腐敗した代官の私兵など比較にさえならない。
一人一人の兵士は百戦錬磨の強者。その装備はドワーフの技術さえ取り入れた大陸最高水準のもの。そして何より、彼らを率いる指揮官は感情に流されることなく、冷徹な計算に基づいて軍を動かす本物の将軍だ。
俺たちの本当の力が試される時が来た。
これまでの戦いはすべて、この日のための予行演習に過ぎなかったのかもしれない。
俺は眼下に広がる鋼鉄の軍勢を見下ろした。
その圧倒的な威容を前にしても、俺の心に恐れはなかった。
なぜなら俺は知っているからだ。
このアルカディアがただの要塞ではないことを。
この大地が俺の、そして仲間たちの意志に応え、無限の力を与えてくれることを。
「……皆、準備はいいな」
俺は仲間たちに、そして壁の内側で息を潜める村の義y勇軍たちに静かに語りかけた。
「俺たちの本当の国造りの始まりだ。世界に示してやろう。俺たちの理想郷が誰にも、決して屈しないということを」
俺の言葉に仲間たちが力強く頷く。
壁の外では帝国軍が戦いの準備を着々と進めていた。
壁の内側では俺たちが静かに、そして燃えるような闘志を心に宿していた。
二つの決して相容れない力がこの辺境の地で、今、激突しようとしていた。
アルカディアの、そして大陸の歴史を揺るがす壮大な戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。
彼の軍人としての常識、帝国臣民としての誇り、そのすべてが地下に広がるあの非現実的な光景によって根底から揺さぶられていた。
門の前に戻っても彼はしばらくの間、ただ呆然とアルカディア村の豊かな畑と、そこに住む人々の穏やかな笑顔を信じられないものを見るかのように眺めていた。
やがて彼は我に返ったように、深く息を吐き出した。そして俺に向き直る。
その瞳から最初の傲慢さは消え去っていた。だが代わりに、帝国軍人としての冷徹な義務感が氷のように宿っていた。
「……アルフォンス殿。貴殿の村が我々の想像を絶する力を持っていることは理解した。正直に言おう、驚愕した。これほどの力が王国の、それも辺境の地に眠っていたとはな」
彼の声は低く、抑揚がなかった。
「だが」と彼は続けた。「だからこそだ。だからこそその力は、野放しにしておくわけにはいかない。それはもはや脅威だ。我がグライフ帝国にとって、そしてこの大陸全体の秩序にとってのな」
彼の論理は帝国という覇権国家の、冷徹な論理だった。
理解できない力、制御できない力は、それが善であれ悪であれ潜在的な脅威とみなし、管理下に置くか、あるいは排除する。それこそが彼らが大陸最強の国家たりえる所以なのだ。
「改めて問おう。我が帝国の提案を受け入れるか、否か」
クラウスは最後の通告を突きつけてきた。
俺は彼の目を真っ直ぐに見返した。
そしてアルカディアの領主として、俺たちの答えをはっきりと告げた。
「断る」
その一言は静かだったが、この場にいる誰の耳にも明瞭に届いた。
クラウスの顔がわずかにこわばる。
俺は続けた。
「俺たちは誰の庇護も慈悲も必要としない。俺たちの村は俺たちの手で守り、俺たちの手で発展させていく。あんたたちの皇帝に、その邪魔をする権利はない」
俺の揺るぎない拒絶。
それは帝国に対する明確な反逆の意思表示と受け取られても、仕方のないものだった。
クラウスの周囲の空気がピリピリと張り詰めていく。
「……それが貴殿の最終的な答えか」
「ああ」
クラウスはしばらく何も言わなかった。
ただ俺の瞳の奥にあるものを探るように見つめている。
やがて彼は静かに、しかしはっきりと宣告した。
「――ならば、交渉は決裂だ」
彼の言葉はもはや外交官のものではなく、敵国の将軍としての冷たい響きを帯びていた。
「アルフォンス殿。貴殿は大きな過ちを犯した。我がグライフ帝国の寛大なる申し出を無下に断った。その意味を、その身をもって知ることになるだろう」
彼は俺に背を向けると、自分の馬へと歩き始めた。
「待て」
俺は彼の背中に声をかけた。
クラウスが足を止める。
「……最後に一つだけ、忠告しておく」
俺は静かに言った。「お前たちの敵は俺たちだけじゃない。この世界にはお前たちの鋼鉄の軍団でも、到底太刀打ちできないような本当の『闇』が蠢いている。その闇はいずれ帝国も王国も、等しく飲み込むだろう」
それは邪教団に対する俺なりの警告だった。
俺の言葉にクラウスはわずかに肩を揺らした。
だが彼は振り返ることなく馬に跨ると、冷たく言い放った。
「……戯言を。我が帝国の前ではいかなる闇も、塵芥に同じだ」
彼はそう言うと馬首を返し、自軍の陣地へとゆっくりと戻っていった。
俺たちの交渉は終わった。
そして新たな戦いが始まろうとしていた。
クラウスが陣地に戻ると、帝国の軍勢はすぐに行動を開始した。
彼らは撤退するのではない。
俺たちの村を完全な半円状に包囲するように、陣形を再編し始めたのだ。
それはバルトークの私兵が行ったような杜撰な包囲網ではない。
兵士たちの配置、物見櫓の建設、そして野営地の構築。そのすべてが完璧な計算と規律に基づいて行われる、教科書通りの完璧な『攻城陣』だった。
「……やる気だな、あいつら」
壁の上からその様子を見ていたリズベットが、ウォーハンマーを握りしめながら好戦的に呟いた。
「ええ。彼らは私たちを正式な『敵国』と見なしたのです」
シルフィも厳しい表情で敵陣を睨んでいる。
グライフ帝国。
その力は腐敗した代官の私兵など比較にさえならない。
一人一人の兵士は百戦錬磨の強者。その装備はドワーフの技術さえ取り入れた大陸最高水準のもの。そして何より、彼らを率いる指揮官は感情に流されることなく、冷徹な計算に基づいて軍を動かす本物の将軍だ。
俺たちの本当の力が試される時が来た。
これまでの戦いはすべて、この日のための予行演習に過ぎなかったのかもしれない。
俺は眼下に広がる鋼鉄の軍勢を見下ろした。
その圧倒的な威容を前にしても、俺の心に恐れはなかった。
なぜなら俺は知っているからだ。
このアルカディアがただの要塞ではないことを。
この大地が俺の、そして仲間たちの意志に応え、無限の力を与えてくれることを。
「……皆、準備はいいな」
俺は仲間たちに、そして壁の内側で息を潜める村の義y勇軍たちに静かに語りかけた。
「俺たちの本当の国造りの始まりだ。世界に示してやろう。俺たちの理想郷が誰にも、決して屈しないということを」
俺の言葉に仲間たちが力強く頷く。
壁の外では帝国軍が戦いの準備を着々と進めていた。
壁の内側では俺たちが静かに、そして燃えるような闘志を心に宿していた。
二つの決して相容れない力がこの辺境の地で、今、激突しようとしていた。
アルカディアの、そして大陸の歴史を揺るがす壮大な戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。
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