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第64話:対等な国家として
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帝国軍による包囲網が完成してから数日が過ぎた。
だが彼らはすぐには攻めてこなかった。クラウスはバルトークのような愚かな猪武者ではない。彼は俺たちの農園という未知の要塞を徹底的に分析し、弱点を探り、最も確実な攻略法を練っているのだ。
斥候部隊が昼夜を問わず、遠巻きに壁の様子を窺っているのが俺の【神の農園】の監視網を通して手に取るように分かった。
その静かな睨み合いは、戦場に嵐の前の静けさのような異様な緊張感をもたらしていた。
村人たちの間にもさすがに不安の色が広がり始めていた。相手はあのグライフ帝国なのだ。その名が持つ重圧は計り知れない。
「……アルフォンス様。我々は本当に帝国と戦うのですか?」
評議会の席で村の長老の一人が、震える声で尋ねてきた。
俺は集まった村の代表者たちを見渡し、静かに、しかし力強く言った。
「戦うのではない。対話をするのだ。ただその対話のテーブルに着くために、俺たちはまず、俺たちが彼らと『対等』な存在であることを力をもって示さなければならない」
俺の言葉に人々は息を呑んだ。
「帝国が俺たちを辺境の蛮族と見下している限り、本当の意味での交渉は始まらない。彼らが俺たちを一つの独立した『国家』として認めざるを得なくなるまで、俺たちは決して屈しない。これは俺たちの尊厳を賭けた戦いだ」
俺の覚悟は村人たちの心に再び火を灯した。
不安は決意へと変わった。
そうだ。俺たちはもはや庇護されるべきか弱い村人ではない。
アルカディアという自分たちの国を、自分たちの手で守り抜く誇り高き国民なのだ。
そして包囲開始から五日目の朝。
ついに帝国軍が動いた。
だがそれは総攻撃ではなかった。
帝国の陣地から再び一人の使者が、白旗を掲げてこちらへとやってきたのだ。
それはクラウス本人だった。
彼は前回のように尊大な態度ではなく、一人の交渉人として俺との会見を求めてきた。
俺は再び一人で門の外へと出た。
クラウスは馬から降りると俺の前に立ち、静かに口を開いた。
「……アルフォンス殿。我が軍の分析の結果、貴村の要塞は通常の攻城兵器では攻略不可能であるとの結論に達した。貴殿の操るその大地を自在に変える力も、我々の理解を超えている」
彼は潔く俺たちの力の優位性を認めた。
だがそれは降伏を意味するものではなかった。
「しかし我々も帝国軍の誇りにかけて、このまま手ぶらで帰るわけにはいかん。そこで最後の提案だ」
彼は俺の目を真っ直ぐに見据えた。
「我々は貴村への武力侵攻を完全に放棄する。その代わり、貴村の持つゴーレムの製造技術、及びオリハルコンの加工技術の一部を我が帝国に『供与』していただきたい。これは対等な立場での『技術交換』という名目だ。これならば貴殿の面子も、そして帝国の面子も保たれるはずだ。どうだろうか」
それは最初の提案に比べれば遥かに譲歩した、現実的な落としどころだった。
技術の一部を渡すだけで帝国との戦争を回避できる。多くの者ならこの提案に飛びつくだろう。
だが俺は静かに首を横に振った。
「……その提案も断る」
「なっ……!?」
クラウスの顔に驚愕と、そして怒りの色が浮かんだ。「なぜだ! 我々はこれだけの譲歩を示しているのだぞ! 貴殿はそれでもなお帝国と事を構えるというのか!」
「違う」
俺は静かに言った。「俺が言っているのはそういうことではない。俺たちはあんたたちと戦いたいわけじゃない。ただ『対等な関係』を築きたいだけだ」
「技術交換という言葉は良い。だがそれは一方的な『供与』であってはならない。俺たちが技術を渡すなら、帝国もまた俺たちに相応の『対価』を支払うべきだ。それが対等な国家間の本当の『外交』というものだろう?」
俺の言葉にクラウスはぐっと言葉を詰らせた。
彼は気づいたのだ。俺が求めているのが目先の安全や利益ではなく、もっと根本的な『国家としての承認』であることを。
俺はこのアルカディアを帝国や王国と並び立つ一つの独立主権国家として、世界に認めさせようとしているのだ。
「……馬鹿なことを」
クラウスは絞り出すように言った。「貴殿の村はまだ生まれて数ヶ月の小さな集落に過ぎん。それを千年の歴史を誇る我が帝国と対等だと? 傲慢にも程がある」
「歴史の長さは関係ない」
俺はきっぱりと言い放った。「国家の価値を決めるのは、その土地がどれだけ民を幸福にできるかだ。その点において俺たちのアルカデ-ィアは、あんたたちの帝国に決して劣っているとは思わない」
俺の背後には平和で活気に満ちた、俺たちの村が広がっている。
その光景こそが俺の言葉の何よりの証明だった。
俺とクラウスの視線が火花を散らして交錯する。
二人の指導者の信念と信念のぶつかり合い。
どちらも一歩も引くことはできない。
「……ならば」
クラウスは静かに、しかし決別を告げるように言った。「もはや言葉は不要か。どちらの正義がより強いか。それを力で証明するしかないようだな」
「ああ。望むところだ」
俺たちの最後の交渉は決裂した。
だがそれは単なる物別れではなかった。
互いが互いを侮れない敵として、そして敬意を払うべき相手として認め合った上での決裂だった。
俺はクラウスに背を向け門の中へと戻った。
そして壁の上から眼下の帝国軍を見下ろした。
クラウスが陣地に戻り天に向かって剣を掲げるのが見えた。
それは総攻撃の合図。
俺もまたガイアズ・エッジを抜き放ち天に掲げた。
それはアルカディアの民に戦いの始まりを告げる王の号令。
「――アルカディアの民よ! 我らが国の真の独立を勝ち取るための最初の戦いだ! 恐れるな! 俺たちの正義を世界に示す時だ!」
うおおおおおおおおおっ!
俺の言葉に応え、壁の内側から大地を揺るがすほどの力強い雄叫びが湧き上がった。
それはもはやただの村人の声ではない。
自分たちの国を自分たちの手で守り抜こうとする、誇り高き国民の声だった。
帝国の鋼鉄の軍勢が動き出す。
俺たちの大地の守護者たちが迎え撃つ。
アルカディアという小さな、しかし何よりも強い国家の独立戦争の火蓋が今、切って落とされた。
だが彼らはすぐには攻めてこなかった。クラウスはバルトークのような愚かな猪武者ではない。彼は俺たちの農園という未知の要塞を徹底的に分析し、弱点を探り、最も確実な攻略法を練っているのだ。
斥候部隊が昼夜を問わず、遠巻きに壁の様子を窺っているのが俺の【神の農園】の監視網を通して手に取るように分かった。
その静かな睨み合いは、戦場に嵐の前の静けさのような異様な緊張感をもたらしていた。
村人たちの間にもさすがに不安の色が広がり始めていた。相手はあのグライフ帝国なのだ。その名が持つ重圧は計り知れない。
「……アルフォンス様。我々は本当に帝国と戦うのですか?」
評議会の席で村の長老の一人が、震える声で尋ねてきた。
俺は集まった村の代表者たちを見渡し、静かに、しかし力強く言った。
「戦うのではない。対話をするのだ。ただその対話のテーブルに着くために、俺たちはまず、俺たちが彼らと『対等』な存在であることを力をもって示さなければならない」
俺の言葉に人々は息を呑んだ。
「帝国が俺たちを辺境の蛮族と見下している限り、本当の意味での交渉は始まらない。彼らが俺たちを一つの独立した『国家』として認めざるを得なくなるまで、俺たちは決して屈しない。これは俺たちの尊厳を賭けた戦いだ」
俺の覚悟は村人たちの心に再び火を灯した。
不安は決意へと変わった。
そうだ。俺たちはもはや庇護されるべきか弱い村人ではない。
アルカディアという自分たちの国を、自分たちの手で守り抜く誇り高き国民なのだ。
そして包囲開始から五日目の朝。
ついに帝国軍が動いた。
だがそれは総攻撃ではなかった。
帝国の陣地から再び一人の使者が、白旗を掲げてこちらへとやってきたのだ。
それはクラウス本人だった。
彼は前回のように尊大な態度ではなく、一人の交渉人として俺との会見を求めてきた。
俺は再び一人で門の外へと出た。
クラウスは馬から降りると俺の前に立ち、静かに口を開いた。
「……アルフォンス殿。我が軍の分析の結果、貴村の要塞は通常の攻城兵器では攻略不可能であるとの結論に達した。貴殿の操るその大地を自在に変える力も、我々の理解を超えている」
彼は潔く俺たちの力の優位性を認めた。
だがそれは降伏を意味するものではなかった。
「しかし我々も帝国軍の誇りにかけて、このまま手ぶらで帰るわけにはいかん。そこで最後の提案だ」
彼は俺の目を真っ直ぐに見据えた。
「我々は貴村への武力侵攻を完全に放棄する。その代わり、貴村の持つゴーレムの製造技術、及びオリハルコンの加工技術の一部を我が帝国に『供与』していただきたい。これは対等な立場での『技術交換』という名目だ。これならば貴殿の面子も、そして帝国の面子も保たれるはずだ。どうだろうか」
それは最初の提案に比べれば遥かに譲歩した、現実的な落としどころだった。
技術の一部を渡すだけで帝国との戦争を回避できる。多くの者ならこの提案に飛びつくだろう。
だが俺は静かに首を横に振った。
「……その提案も断る」
「なっ……!?」
クラウスの顔に驚愕と、そして怒りの色が浮かんだ。「なぜだ! 我々はこれだけの譲歩を示しているのだぞ! 貴殿はそれでもなお帝国と事を構えるというのか!」
「違う」
俺は静かに言った。「俺が言っているのはそういうことではない。俺たちはあんたたちと戦いたいわけじゃない。ただ『対等な関係』を築きたいだけだ」
「技術交換という言葉は良い。だがそれは一方的な『供与』であってはならない。俺たちが技術を渡すなら、帝国もまた俺たちに相応の『対価』を支払うべきだ。それが対等な国家間の本当の『外交』というものだろう?」
俺の言葉にクラウスはぐっと言葉を詰らせた。
彼は気づいたのだ。俺が求めているのが目先の安全や利益ではなく、もっと根本的な『国家としての承認』であることを。
俺はこのアルカディアを帝国や王国と並び立つ一つの独立主権国家として、世界に認めさせようとしているのだ。
「……馬鹿なことを」
クラウスは絞り出すように言った。「貴殿の村はまだ生まれて数ヶ月の小さな集落に過ぎん。それを千年の歴史を誇る我が帝国と対等だと? 傲慢にも程がある」
「歴史の長さは関係ない」
俺はきっぱりと言い放った。「国家の価値を決めるのは、その土地がどれだけ民を幸福にできるかだ。その点において俺たちのアルカデ-ィアは、あんたたちの帝国に決して劣っているとは思わない」
俺の背後には平和で活気に満ちた、俺たちの村が広がっている。
その光景こそが俺の言葉の何よりの証明だった。
俺とクラウスの視線が火花を散らして交錯する。
二人の指導者の信念と信念のぶつかり合い。
どちらも一歩も引くことはできない。
「……ならば」
クラウスは静かに、しかし決別を告げるように言った。「もはや言葉は不要か。どちらの正義がより強いか。それを力で証明するしかないようだな」
「ああ。望むところだ」
俺たちの最後の交渉は決裂した。
だがそれは単なる物別れではなかった。
互いが互いを侮れない敵として、そして敬意を払うべき相手として認め合った上での決裂だった。
俺はクラウスに背を向け門の中へと戻った。
そして壁の上から眼下の帝国軍を見下ろした。
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それは総攻撃の合図。
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それはアルカディアの民に戦いの始まりを告げる王の号令。
「――アルカディアの民よ! 我らが国の真の独立を勝ち取るための最初の戦いだ! 恐れるな! 俺たちの正義を世界に示す時だ!」
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それはもはやただの村人の声ではない。
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