スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第76話:アルカディア、国家として承認される

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グライフ帝国という鉄の嵐が去った後、アルカディアには嵐の前の静けさとは質の違う確固たる平和が訪れた。
大地に刻まれた巨大な傷跡『神の傷跡』は、アルカディアの力を世界に示す何よりも雄弁な証拠となった。それはこの地に手を出そうと考える愚かな者たちへの、永遠の警告として存在し続けるだろう。

その報せは瞬く間に大陸全土を駆け巡った。
そして、俺たちの予想通りアルカディア村には連日ひっきりなしに使節団が訪れるようになった。
東の商業連合、南の砂漠の王国、そして俺たちが元々属していた王都の王国からも。彼らは皆豪華な贈り物を携え、恐る恐る、しかし必死の形相で俺たちとの友好を求めてきた。

俺はアルカディアの初代領主として、彼らの代表と会談の席に着いた。
執務室のテーブルを挟んで向かい合った各国の使者たちは、誰もが緊張で顔をこわばらせていた。彼らは目の前のまだ年若い農夫のような身なりの男が、あの大陸最強の帝国軍を一蹴した神の如き存在であることが信じられないといった様子だった。

「――アルフォンス・アルカディア殿」
最初に口を開いたのは王国の宰相代理を名乗る年老いた貴族だった。「此度の貴殿の働き、見事であった。腐敗した代官バルトークを討ち、帝国の侵略から王国領を守ったその功績は計り知れない。国王陛下も貴殿に最大限の感謝と敬意を表しておられる」
その口上はどこか白々しく聞こえた。
彼らは俺が代官と戦っていた時、指一本動かさなかった。帝国の侵略に怯え、この辺境の地を見捨てようとしていた。だが、俺たちが勝利したと知るや否や手のひらを返してきたのだ。

「つきましては陛下は、貴殿を正式に『辺境伯』として叙爵し、このアルカディアを王国の最も重要な特別自治領として迎え入れたいとのお考えである。いかがかな?」
辺境伯。それは破格の待遇だった。だが、その言葉の裏には「我々の支配下に戻れ」という浅はかな思惑が透けて見えた。

俺は静かに首を横に振った。
「お申し出、感謝いたします。ですがアルカディアは、もはや王国の一領地ではございません」
俺の言葉に宰相代理の顔がわずかに引きつった。
「我々は自らの手でこの土地を、国を守り抜いた。ゆえに我々は誰の支配も受けない。独立した主権国家です。貴国とは今後、対等な隣人として友好関係を築いていきたい。そう考えております」

俺の揺るぎない宣言。
それは王国からの完全な独立を意味していた。
宰相代理は何か言い返そうとしたが、俺の背後に控えるリズベットが無言でオリハルコン製のウォーハンマーを床にトン、と置いただけで彼はすべての言葉を飲み込んだ。
他の国々の使者たちもそのやり取りを見て、アルカディアがもはや自分たちと同じ土俵に立つ、あるいはそれ以上の存在であることを認めざるを得なかった。
その日のうちにアルカディアは周辺のすべての国々から正式な独立国家として承認され、不可侵条約と通商協定が次々と結ばれていった。

外交という大きな嵐を乗り越えた日の夜。
俺は村の評議会のメンバーたちに緊急に招集されていた。
長老のオーギュスト、会計係のマルコ、義勇軍隊長のゴードン、そしてもちろんシルフィとリズベット。アルカディアの中枢を担う俺の最も信頼する仲間たちだ。

「アルフォンス様」
オーギュストが代表して重々しく口を開いた。「本日、我らがアルカディアは名実ともに一つの独立国家となりました。これはあなた様がいなければ決して成し得なかった偉業にございます」
集まった全員が深く頷く。
「ですが」と彼は続けた。「国には統治者が必要です。民を導き、未来を示す絶対的な象徴が。我々はもはやあなた様を、ただの『領主様』とお呼びすることはできません」

ゴードンがその言葉を引き継いだ。
「あんたは俺たちの『王』だ! 俺たちを圧政から救い、帝国から守ってくれた唯一無二の王だ! どうか俺たちの王として、この国を正式に治めてはいただけないだろうか!」
彼の言葉を皮切りに、その場にいた全員が俺の前に膝をついた。
「アルフォンス様を、アルカディア初代国王陛下に!」
その声は評議会の総意であり、この村に住むすべての民の総意だった。

「……待ってくれ」
俺は慌てて彼らを立たせようとした。「俺は王の器じゃない。ただの土いじりが好きな農夫だ。そんな俺が王なんて……」
俺は本気でそう思っていた。
王という重すぎる冠。それは俺が望んだスローライフとはあまりにもかけ離れている。

だが、シルフィが静かに俺の前に進み出て俺の手を取った。
「いいえ、アルフォンス。あなただからこそ王なのです」
彼女の翠の瞳はどこまでも真剣だった。
「あなたは誰よりもこの大地を愛し、この地に住む人々を家族のように想っている。権力や富のためではなく、ただ皆の幸せのためにその力を使うことができる。それこそが王に最も必要な資質ではありませんか」
「そうよ、お頭!」
リズベットも俺の肩を力強く叩いた。「難しいことは考えなさんな! あんたはあんたのままでいりゃいい。アタシたちがいつだってあんたを支えてやる! それがアタシたちの役目ってもんだ!」

仲間たちの温かい言葉。
そして評議会のメンバーたちの揺るぎない信頼の眼差し。
俺はもう逃げることはできなかった。
この国とここに住む人々の未来を背負う。
それが俺に与えられた運命なのだと、覚悟を決めた。

「……分かった。俺が王になろう」

俺の決意の言葉に、その場にいた全員の顔が喜びに輝いた。

それから三日後。
アルカディアの中央広場、聖銀樹の下で俺の戴冠式が執り行われた。
それは豪華絢爛なものではなかった。各国の王を招くこともなく、ただアルカディアの民だけが見守る簡素で、しかし厳かな式典だった。

俺はシルフィが聖銀樹の葉で編んだ簡素な礼服を身に纏い、民の前に立った。
リズベットが両手で一つの王冠を恭しく捧げ持っている。
その王冠は彼女がオリハルコンを溶かし、一晩で打ち上げた世界に一つだけの至高の芸術品だった。それは権威を誇示するような派手な装飾はなく、ただ大地と生命の循環をモチーフにした美しく、そして力強いデザインが施されていた。

シルフィがその王冠を受け取り、ゆっくりと俺の頭上へと載せた。
王冠が俺の頭に収まった、その瞬間。
聖銀樹が祝福するかのように、眩いほどの銀色の光を放った。
光の粒子が雪のように舞い降り、俺と、そして集まったすべての民の上に降り注ぐ。

俺は民の前に、初代国王アルフォンス・アルカディアとして最初の誓いを立てた。
「俺は誓う。この命ある限り、このアルカディアを、そしてそこに住むすべての民を愛し、育み、そしていかなる脅威からも守り抜くことを」

うおおおおおおおおっ!
大地を揺るがすほどの歓声。
それは一つの国の輝かしい誕生の瞬間だった。

だが、戴冠式が終わった後。
俺は王の装束を脱ぎ捨て、いつもの泥のついた作業着に着替えた。
そしてシルフィとリズベットが呆れるのを尻目に、ガイアズ・エッジを肩に担ぎ、一人夕焼けに染まる畑へと向かっていった。

「……おい、陛下? どちらへ?」
リズベットがからかうように尋ねる。
俺は振り返り、悪戯っぽく笑った。

「決まってるだろ。カボチャの水やりの時間だ」

王になっても俺は俺だ。
土を愛し、作物を育てるただの農夫。
俺の国造りはこれからもこの畑の上から続いていく。
俺は夕日に向かって力強く最初の一歩を踏み出した。
アルカディア初代国王としての、新しい日常の始まりだった。
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