スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第75話:帝国の敗北

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ガイアタイタンが再び大地へと還り、アルカディアが元の穏やかな城塞都市の姿を取り戻した時、戦場には静寂だけが残されていた。
一万の帝国軍はもはや軍隊ではなかった。それは神の御業を目の当たりにし、その魂ごと屈服させられたただの巡礼者の集団だった。
彼らは武器を捨て大地にひれ伏し、ただ俺たちが何かを言うのを静かに待っていた。

その視線を一身に受けながら、俺は壁の上からゆっくりと口を開いた。
「……戦いは、終わった」
俺の声は魔力によって増幅され、敗北した帝国軍の一人一人の耳に明確に届いた。
「負傷者を連れて帰れ。お前たちの国へ。そして皇帝に伝えろ。アルカディアは侵略者に鉄槌を下すが、許しを乞う者に慈悲を与える国である、と」
俺は彼らを罰しなかった。
ただ静かに去ることを許した。
それが勝者として、そして一つの国の王としての俺の答えだった。

俺の言葉に、兵士たちは安堵と畏敬の念が入り混じった表情で静かに立ち上がった。
彼らは負傷した仲間を肩に担ぎ、隊列を組むこともなく、ただ黙々と自分たちの国への帰路についた。
その長い列が地平線の彼方へと消えていく。
その中にはヴァルケンハインの姿もあった。彼は一度だけこちらを振り返った。その瞳にはもはや憎悪はなく、ただ自分の理解を超えた存在に対する純粋な畏怖と、そしてわずかな敬意の色が宿っているように見えた。

こうして、アルカディアとグライフ帝国との短く、しかし激しい戦争は完全に終結した。
その報せは撤退していく兵士たちの口から、そしてセバスチャン率いるシルバークレイン商会の情報網を通じて瞬く間に大陸全土を駆け巡った。

『辺境の地に神国現る』
『大陸最強のグライフ帝国軍一万が、一人の王の前に戦わずして敗北』
『その王は大地を操り、天候を支配し、国そのものを巨人兵器へと変える』
そのニュースはあまりにも荒唐無稽で、にわかには信じがたいものだった。
だが、帝国軍が残した大地を一直線に切り裂く巨大な『神の傷跡』が、そのすべてが真実であることを何よりも雄弁に物語っていた。

世界は震撼した。
誰もがその存在を知らなかった辺境の小さな村が、一夜にして世界のパワーバランスを根底から揺るがす新たなる『超大国』としてその名を轟かせたのだ。
アルフォンス・アルカディア。
その名はもはやただの領主ではなく、神の代理人、あるいは神そのものとして人々の口に畏怖と、そして希望と共に語られるようになった。

周辺の小国や、俺たちが元々属していた王国は慌ててアルカディアに使節団を派遣してきた。
彼らは俺たちの前にひれ伏し、アルカディアを正式な独立主権国家として承認し、不可侵条約と友好通商条約の締結を懇願してきた。
俺はそれらをすべて受け入れた。
俺が望むのは支配ではない。ただ対等な関係と平和な共存だ。

アルカディアは、その建国からわずか一年足らずで、誰にも決して無視することのできない確固たる地位をこの世界に築き上げたのだ。
それは俺が望んだスローライフとはかけ離れた結果だったかもしれない。
だが、俺の周りには仲間たちの笑顔があった。
村人たちの平和な暮らしがあった。
俺が守りたかったものは、確かにここにあった。

戦いが終わった数日後。
俺は一人ガイアズ・エッジを手に、新しく生まれたあの巨大な渓谷の底に立っていた。
ここは俺の力がこの星に刻みつけた傷跡。
その圧倒的な破壊の痕跡を前に、俺は改めて自分が手にした力のその巨大さと恐ろしさを実感していた。

「……これで良かったのだろうか」
俺は誰に言うでもなく呟いた。
この力は使い方を間違えれば、世界を容易く破滅へと導いてしまう。
俺は、その重すぎる力を正しく使いこなすことができるのだろうか。

その時、背後から優しい声がした。
「あなたは、一人ではございませんよ、アルフォンス」
振り返ると、そこにシルフィが温かいハーブティーを持って立っていた。
「あなたが道に迷いそうになった時は私がその手を引きます。あなたが重荷に潰されそうになった時は、リズベットがその背中を支えてくれるでしょう」
彼女は俺の隣に立つと、静かに渓谷の向こうを見つめた。
「あなたは神様なんかじゃありません。ただの優しくて少しお人好しな、私たちの王様です。それでいいのです」

彼女の温かい言葉が、俺の心にじんわりと染み渡っていった。
そうだ。俺は一人じゃない。
この仲間たちがいる限り、俺は道を踏み外すことはないだろう。

「……ありがとう、シルフィ」
俺は素直に礼を言った。

俺たちの大きな戦いは終わった。
だが、俺たちの本当の『国造り』の物語はまだ始まったばかりだ。
そして世界の闇の底では、セレスティアと邪教団が次なる計画を静かに、そして着実に進めている。
本当の最後の戦いは、まだこれからだ。

俺は仲間たちと共に築き上げたこの奇跡の国アルカディアを守り抜くことを、改めて心に誓った。
どんな困難が待ち受けていようとも、この仲間たちとこの国の民と共に俺は立ち向かい続ける。
俺が、この愛すべき神の農園の王である限り。
(第二部 完)
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