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第98.5話:世界樹の奇跡
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俺の意識は、温かく、そしてどこまでも穏やかな光の中に漂っていた。
痛みも苦しみもない。
ただ、心地よい微睡みだけが俺を包んでいた。
これが、死なのだろうか。
もしそうなら、悪くないな。
俺はすべてをやり遂げたのだから。
そう思った、その時だった。
光の向こう側から、誰かが俺を呼ぶ声がした。
最初は一つ。
やがて、それはいくつもいくつも重なっていった。
『アルフォンス……』
シルフィの声。
『お頭! しっかりしろ!』
リズベットの声。
『領主様……!』
『王様……!』
アルカディアの民たちの声。
クラウスやボルガン、セバスチャン……世界中の仲間たちの声。
そして、その無数の声と共に、一つの巨大な、そして懐かしい意志が俺の魂に流れ込んできた。
『――まだ、眠る時ではありません。我が愛しき子よ』
ガイアの声だった。
俺の意識はゆっくりと覚醒へと導かれていく。
俺は自分がどこか巨大な木の根のようなものに、優しく抱かれていることに気づいた。
見上げると、そこには無限の星空をその枝に宿す、あの壮大な世界樹があった。
俺は第六階層、世界樹の苗床に戻ってきていたのだ。
『よく、戦い抜きました』
ガイアの労いの意志が俺を包み込む。『汝の勇気と愛は、邪神の混沌さえも生命の光へと変えた。世界は救われたのです』
「……そうか。良かった……」
俺は安堵の息を漏らした。
『だが、汝はその代償として、自らの生命のほとんどを使い果たしてしまった』
ガイアの声に悲しみの色が混じる。『汝の魂はもはや肉体を維持できない。このまま我と一つになり、永劫の時をここで過ごしますか?』
それは、ある意味救いの提案だったのかもしれない。
星と一つになる。それは神になることと同義だ。
だが、俺は静かに首を横に振った。
「……いやだ」
俺はか細い声で答えた。「俺はまだやりたいことがある。耕したい畑がある。育てたい作物がある。そして……」
俺の脳裏に、仲間たちの泣き顔が浮かんだ。
「……笑い合いたい仲間たちが、いる」
『……そう。そうでしょうね』
ガイアは優しく微笑んだようだった。『ならば奇跡を起こしましょう。汝が守り抜いたこの世界の、すべての生命の祈りを力に変えて』
次の瞬間、世界樹がこれまでとは比較にならないほどの眩い生命の光を放ち始めた。
それは邪神を浄化した光ではない。
傷つき疲弊した一つの魂を癒やし、再生させるための慈愛に満ちた奇跡の光。
連合軍の兵士たちの祈り。
アルカディアの民たちの祈り。
そして、シルフィとリズベットの愛にも似た強い祈り。
そのすべての善なる想いが世界樹の力と共鳴し、俺の失われた生命力へと注ぎ込まれていく。
俺の体はゆっくりと再構築されていった。
魂が満たされていく。
力が戻ってくる。
そして俺の心臓が、再び力強く鼓動を始めた。
光が収まった時、俺は完全に元の健康な体を取り戻し、世界樹の根元に立っていた。
疲労も傷もどこにもない。
それどころか以前よりも、さらに生命力に満ち溢れているかのようだった。
『行きなさい、我が子よ』
ガイアの声がした。『汝を待つ者たちの元へ』
『そして、これからもこの星を愛し、育み続けておくれ。汝こそがこの世界の新たなる希望なのだから』
俺はガイアに深く深く頭を下げた。
そして仲間たちが待つ地上へと、意識を向けた。
その頃、地上、アルカディア。
俺が光となって消滅してから、丸一日が過ぎていた。
シルフィとリズベットは、俺が消えた聖銀樹の根元で一睡もせず、ただひたすらに祈り続けていた。
村人たちも連合軍の兵士たちも、誰もその場を離れようとはしなかった。
世界は絶望的な静寂に包まれていた。
英雄の死。それは邪神の消滅という偉大な勝利さえも霞ませるほどの、深い悲しみだった。
だが、その時、奇跡は起こった。
黒く枯れ果てていた聖銀樹が、突如として内側から眩い銀色の光を放ち始めたのだ。
邪神の最後の呪いが完全に浄化されていく。
そして光が収まった時、聖銀樹は以前よりもさらに神々しく力強い姿で蘇っていた。
そして、その根元。
光の中心に一人の人影が立っていた。
見慣れた泥のついた作業着。
少し寝癖のついた髪。
そして仲間たちを見て、照れくさそうにはにかむその笑顔。
「……よお」
俺は少し気まずそうに手を上げた。
「……ただいま」
その一言が引き金だった。
「「アルフォンス(お頭)!!!!!」」
シルフィとリズベットが同時に絶叫し、俺の胸へと飛び込んできた。
二人とも涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!」
リズベットが俺の胸を拳で何度も叩く。「心配させやがって……!」
「う……うう……! よかった……本当に、よかった……!」
シルフィはただ、俺の胸に顔をうずめて泣きじゃくっていた。
俺はそんな愛しい二人を力強く抱きしめた。
「……ああ。ただいま、二人とも」
うおおおおおおおおおおおおっ!
俺の帰還を目撃した村人たち、そして連合軍の兵士たちから、大地を揺るがすほどの歓声が上がった。
それは世界の本当の夜明けを告げる希望の雄叫びだった。
世界は救われた。
そして英雄は帰ってきたのだ。
俺は仲間たちの温もりを感じながら、青く澄み渡ったアルカディアの空を見上げた。
俺の長い長い戦いは終わった。
そしてここから、新しい物語が始まる。
この愛すべき仲間たちと共に。
この奇跡の大地の上で。
痛みも苦しみもない。
ただ、心地よい微睡みだけが俺を包んでいた。
これが、死なのだろうか。
もしそうなら、悪くないな。
俺はすべてをやり遂げたのだから。
そう思った、その時だった。
光の向こう側から、誰かが俺を呼ぶ声がした。
最初は一つ。
やがて、それはいくつもいくつも重なっていった。
『アルフォンス……』
シルフィの声。
『お頭! しっかりしろ!』
リズベットの声。
『領主様……!』
『王様……!』
アルカディアの民たちの声。
クラウスやボルガン、セバスチャン……世界中の仲間たちの声。
そして、その無数の声と共に、一つの巨大な、そして懐かしい意志が俺の魂に流れ込んできた。
『――まだ、眠る時ではありません。我が愛しき子よ』
ガイアの声だった。
俺の意識はゆっくりと覚醒へと導かれていく。
俺は自分がどこか巨大な木の根のようなものに、優しく抱かれていることに気づいた。
見上げると、そこには無限の星空をその枝に宿す、あの壮大な世界樹があった。
俺は第六階層、世界樹の苗床に戻ってきていたのだ。
『よく、戦い抜きました』
ガイアの労いの意志が俺を包み込む。『汝の勇気と愛は、邪神の混沌さえも生命の光へと変えた。世界は救われたのです』
「……そうか。良かった……」
俺は安堵の息を漏らした。
『だが、汝はその代償として、自らの生命のほとんどを使い果たしてしまった』
ガイアの声に悲しみの色が混じる。『汝の魂はもはや肉体を維持できない。このまま我と一つになり、永劫の時をここで過ごしますか?』
それは、ある意味救いの提案だったのかもしれない。
星と一つになる。それは神になることと同義だ。
だが、俺は静かに首を横に振った。
「……いやだ」
俺はか細い声で答えた。「俺はまだやりたいことがある。耕したい畑がある。育てたい作物がある。そして……」
俺の脳裏に、仲間たちの泣き顔が浮かんだ。
「……笑い合いたい仲間たちが、いる」
『……そう。そうでしょうね』
ガイアは優しく微笑んだようだった。『ならば奇跡を起こしましょう。汝が守り抜いたこの世界の、すべての生命の祈りを力に変えて』
次の瞬間、世界樹がこれまでとは比較にならないほどの眩い生命の光を放ち始めた。
それは邪神を浄化した光ではない。
傷つき疲弊した一つの魂を癒やし、再生させるための慈愛に満ちた奇跡の光。
連合軍の兵士たちの祈り。
アルカディアの民たちの祈り。
そして、シルフィとリズベットの愛にも似た強い祈り。
そのすべての善なる想いが世界樹の力と共鳴し、俺の失われた生命力へと注ぎ込まれていく。
俺の体はゆっくりと再構築されていった。
魂が満たされていく。
力が戻ってくる。
そして俺の心臓が、再び力強く鼓動を始めた。
光が収まった時、俺は完全に元の健康な体を取り戻し、世界樹の根元に立っていた。
疲労も傷もどこにもない。
それどころか以前よりも、さらに生命力に満ち溢れているかのようだった。
『行きなさい、我が子よ』
ガイアの声がした。『汝を待つ者たちの元へ』
『そして、これからもこの星を愛し、育み続けておくれ。汝こそがこの世界の新たなる希望なのだから』
俺はガイアに深く深く頭を下げた。
そして仲間たちが待つ地上へと、意識を向けた。
その頃、地上、アルカディア。
俺が光となって消滅してから、丸一日が過ぎていた。
シルフィとリズベットは、俺が消えた聖銀樹の根元で一睡もせず、ただひたすらに祈り続けていた。
村人たちも連合軍の兵士たちも、誰もその場を離れようとはしなかった。
世界は絶望的な静寂に包まれていた。
英雄の死。それは邪神の消滅という偉大な勝利さえも霞ませるほどの、深い悲しみだった。
だが、その時、奇跡は起こった。
黒く枯れ果てていた聖銀樹が、突如として内側から眩い銀色の光を放ち始めたのだ。
邪神の最後の呪いが完全に浄化されていく。
そして光が収まった時、聖銀樹は以前よりもさらに神々しく力強い姿で蘇っていた。
そして、その根元。
光の中心に一人の人影が立っていた。
見慣れた泥のついた作業着。
少し寝癖のついた髪。
そして仲間たちを見て、照れくさそうにはにかむその笑顔。
「……よお」
俺は少し気まずそうに手を上げた。
「……ただいま」
その一言が引き金だった。
「「アルフォンス(お頭)!!!!!」」
シルフィとリズベットが同時に絶叫し、俺の胸へと飛び込んできた。
二人とも涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!」
リズベットが俺の胸を拳で何度も叩く。「心配させやがって……!」
「う……うう……! よかった……本当に、よかった……!」
シルフィはただ、俺の胸に顔をうずめて泣きじゃくっていた。
俺はそんな愛しい二人を力強く抱きしめた。
「……ああ。ただいま、二人とも」
うおおおおおおおおおおおおっ!
俺の帰還を目撃した村人たち、そして連合軍の兵士たちから、大地を揺るがすほどの歓声が上がった。
それは世界の本当の夜明けを告げる希望の雄叫びだった。
世界は救われた。
そして英雄は帰ってきたのだ。
俺は仲間たちの温もりを感じながら、青く澄み渡ったアルカディアの空を見上げた。
俺の長い長い戦いは終わった。
そしてここから、新しい物語が始まる。
この愛すべき仲間たちと共に。
この奇跡の大地の上で。
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