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第十四話 獣人との出会い
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リリアナの笑顔は、まるで強烈な閃光のように俺の目に焼き付いた。
一瞬、思考が止まる。美しいと思った。だが、その感情はすぐに霧散した。美しさなど、戦いにおいて何の意味も持たない。
「リリアナ様、ご無理を!」
騎士たちが慌てて彼女に駆け寄り、その体を支える。大規模な精霊魔法の行使は、彼女の魔力をほとんど空にしてしまったようだった。顔色は青白く、呼吸も浅い。
「……大丈夫です。それより、あなたの傷を」
リリアナは弱々しく微笑むと、負傷した騎士の肩に手をかざした。
彼女の手から再び淡い光が放たれ、騎士の深い傷がゆっくりと塞がっていく。治癒魔法まで使えるのか。どこまでも便利な女だ。
俺は黙ってその様子を見ていた。
そして、周囲に散らばる狼の死体を一瞥する。
「いつまでも、こんな場所にいるな。血の匂いは、次の厄介事を呼び寄せる」
俺の言葉に、騎士たちははっとした表情で立ち上がった。
「も、申し訳ありません! すぐに移動の準備を!」
俺たちは、ひとまずその場を離れた。
騎士の一人がリリアナを背負い、俺が周囲を警戒しながら進む。
一時間ほど歩いたところで、小さな洞窟を見つけた。ここなら、夜露と魔物を凌げるだろう。
洞窟の中で、ささやかな野営の準備が始まった。
騎士たちが火を起こし、リリアナは壁に寄りかかって消耗した魔力の回復に努めている。
俺は食料調達のため、一人で再び森の中へ出た。
三十分後、俺は肩に巨大な角兎を担いで戻ってきた。
「……ジン様、それは?」
騎士が、呆気にとられた顔で尋ねる。
「見ての通り、晩飯だ」
角兎は、俊敏で気性も荒く、Eランク冒険者でも狩るのは難しい魔物だ。
それを、俺は素手で首の骨を折って仕留めてきた。
騎士たちはもはや何も言うまい、という顔で黙々と兎の解体を始めた。
焚き火を囲み、無言で肉を喰らう。
不味くはないが、うまくもない。ただ、腹を満たすための作業だ。
沈黙を破ったのは、リリアナだった。
「……あの、ジン様」
彼女の声は、まだ少し弱々しい。
「はい」
「なぜ、そこまでお強いのですか? あなたは、一体何のために戦うのですか?」
真っ直ぐな問いだった。
翡翠色の瞳が、焚き火の光を反射して揺れている。
騎士たちも、固唾を飲んで俺の答えを待っていた。
俺は口の中の肉を飲み込むと、短く答えた。
「強くなるためだ」
「強くなって、どうされるのです?」
「もっと強い奴と戦う」
「……それだけ、ですか?」
リリアナの顔に、困惑の色が浮かぶ。
「ああ、それだけだ。他に何か理由がいるのか」
俺の答えは、彼女たちの理解を超えていたようだった。
騎士たちは顔を見合わせ、リリアナは俯いてしまった。
どうやら、彼らの常識では「誰かを守るため」とか「正義のため」といった答えを期待していたらしい。くだらない。
戦いに、そんな御大層な理由など不要だ。
ただ、目の前の敵を叩き潰す。その先に、より強い敵がいる。それを繰り返すだけ。
それが、俺という人間の本質だ。
その夜、俺は眠らなかった。
洞窟の入口に座り、夜の森を睨みつけながら、一人で思考に耽る。
リリアナの魔法。あれは、確かに強力だった。敵の動きを封じ、防御壁を築く。俺の破壊力と組み合わせれば、相性は悪くない。
戦いとは、ただ殴り殺すだけではない。
地形を利用し、敵の長所を殺し、味方の長所を最大限に活かす。
前世の俺は、圧倒的な個の力ですべてを捻じ伏せてきた。だが、この世界には魔法という変数がある。
「……悪くない」
俺の口から、再びその言葉が漏れた。
リリアナの力は、俺がさらに高みへ至るための、新たな武器になるかもしれない。
俺は彼女を「使える駒」として、明確に認識した。
翌朝、俺たちは再び歩き始めた。
リリアナの魔力も、騎士の傷も、一晩で随分と回復したようだ。
昨日の一件で、俺たちの間には奇妙な信頼関係が芽生えていた。騎士たちは俺の指示に絶対服従し、リリアナは俺の戦闘を補助する自分の役割を理解し始めたようだった。
それから五日。
俺たちは、嘆きの森をひたすら進んだ。
幾度となく魔物の襲撃を受けたが、その度に俺の暴力とリリアナの精霊魔法がそれらを退けた。
戦いを重ねるたびに、俺たちの連携は洗練されていく。俺が敵陣に切り込み、リリアナがその援護と敵の足止めを行う。騎士たちが、リリアナの護衛に専念する。
それは、即席ながらも機能的な戦闘集団だった。
そして、旅の八日目の朝。
俺たちは、ついに森の出口にたどり着いた。
木々の隙間から、久しぶりに見るどこまでも広がる平原と、地平線へと続く街道が見えた。
「……抜けた! 嘆きの森を、抜けたぞ!」
騎士たちが、歓喜の声を上げる。
リリアナも、安堵の表情で胸を撫で下ろしていた。
俺は、名残惜しそうに森を振り返った。
結局、オーガリーダーを超える強敵には出会えなかった。
だが、収穫がなかったわけではない。
俺は隣に立つリリアナを一瞥した。
「お前の魔法、少しは役に立ったな」
「……はい!」
リリアナは、満面の笑みで頷いた。
俺たちは街道を歩き始めた。
ここから二日も歩けば、王都アルカディアが見えてくるという。
その日の夕方、俺たちは街道沿いにある宿場町に立ち寄った。
久しぶりの文明。ベッドで眠れることに、騎士たちは涙を流して喜んでいた。
俺たちは、街で一番大きな酒場兼宿屋に宿を取った。
酒場は、様々な種族の冒険者や商人たちでごった返していた。
その喧騒の中心で、一際大きな歓声が上がっている。人だかりの中心で、何かが行われているようだった。
腕相撲だ。
丸太のような腕を持つ、屈強な男たちが次々と挑戦し、そして敗れていく。
その勝者の席に座っていたのは、一人の獣人だった。
赤銅色の肌。獅子の鬣のような髪。そして、山のように盛り上がった筋肉。
その体躯は、オークジェネラルにも引けを取らない。
彼は挑戦者を軽々と捻じ伏せると、物足りなそうに咆哮した。
「おいおい、どうした! この街には、俺の腕一本へし折れるような奴はいねえのか!」
その姿を見た瞬間、俺の全身の血が、カッと沸騰した。
間違いない。
こいつは、強い。
俺の魂が、歓喜に打ち震えている。
ようやく見つけた。俺の渇きを潤してくれるかもしれない、本物の強者。
俺は席を立ち、人だかりをかき分けて進んだ。
リリアナが「ジン様?」と訝しげな声を上げるが、今の俺には聞こえない。
俺は、獣人の男の前に立った。
男は、俺の細身の体を見て、鼻で笑った。
「なんだぁ、ヒョロガリの人間か? 命が惜しけりゃ、とっととママのおっぱいでも吸ってな」
俺は、男の挑発を無視した。
そして、ただ一言だけ告げた。
「俺と戦え」
その言葉に、獣人の男の獰猛な目が、ギラリと光った。
一瞬、思考が止まる。美しいと思った。だが、その感情はすぐに霧散した。美しさなど、戦いにおいて何の意味も持たない。
「リリアナ様、ご無理を!」
騎士たちが慌てて彼女に駆け寄り、その体を支える。大規模な精霊魔法の行使は、彼女の魔力をほとんど空にしてしまったようだった。顔色は青白く、呼吸も浅い。
「……大丈夫です。それより、あなたの傷を」
リリアナは弱々しく微笑むと、負傷した騎士の肩に手をかざした。
彼女の手から再び淡い光が放たれ、騎士の深い傷がゆっくりと塞がっていく。治癒魔法まで使えるのか。どこまでも便利な女だ。
俺は黙ってその様子を見ていた。
そして、周囲に散らばる狼の死体を一瞥する。
「いつまでも、こんな場所にいるな。血の匂いは、次の厄介事を呼び寄せる」
俺の言葉に、騎士たちははっとした表情で立ち上がった。
「も、申し訳ありません! すぐに移動の準備を!」
俺たちは、ひとまずその場を離れた。
騎士の一人がリリアナを背負い、俺が周囲を警戒しながら進む。
一時間ほど歩いたところで、小さな洞窟を見つけた。ここなら、夜露と魔物を凌げるだろう。
洞窟の中で、ささやかな野営の準備が始まった。
騎士たちが火を起こし、リリアナは壁に寄りかかって消耗した魔力の回復に努めている。
俺は食料調達のため、一人で再び森の中へ出た。
三十分後、俺は肩に巨大な角兎を担いで戻ってきた。
「……ジン様、それは?」
騎士が、呆気にとられた顔で尋ねる。
「見ての通り、晩飯だ」
角兎は、俊敏で気性も荒く、Eランク冒険者でも狩るのは難しい魔物だ。
それを、俺は素手で首の骨を折って仕留めてきた。
騎士たちはもはや何も言うまい、という顔で黙々と兎の解体を始めた。
焚き火を囲み、無言で肉を喰らう。
不味くはないが、うまくもない。ただ、腹を満たすための作業だ。
沈黙を破ったのは、リリアナだった。
「……あの、ジン様」
彼女の声は、まだ少し弱々しい。
「はい」
「なぜ、そこまでお強いのですか? あなたは、一体何のために戦うのですか?」
真っ直ぐな問いだった。
翡翠色の瞳が、焚き火の光を反射して揺れている。
騎士たちも、固唾を飲んで俺の答えを待っていた。
俺は口の中の肉を飲み込むと、短く答えた。
「強くなるためだ」
「強くなって、どうされるのです?」
「もっと強い奴と戦う」
「……それだけ、ですか?」
リリアナの顔に、困惑の色が浮かぶ。
「ああ、それだけだ。他に何か理由がいるのか」
俺の答えは、彼女たちの理解を超えていたようだった。
騎士たちは顔を見合わせ、リリアナは俯いてしまった。
どうやら、彼らの常識では「誰かを守るため」とか「正義のため」といった答えを期待していたらしい。くだらない。
戦いに、そんな御大層な理由など不要だ。
ただ、目の前の敵を叩き潰す。その先に、より強い敵がいる。それを繰り返すだけ。
それが、俺という人間の本質だ。
その夜、俺は眠らなかった。
洞窟の入口に座り、夜の森を睨みつけながら、一人で思考に耽る。
リリアナの魔法。あれは、確かに強力だった。敵の動きを封じ、防御壁を築く。俺の破壊力と組み合わせれば、相性は悪くない。
戦いとは、ただ殴り殺すだけではない。
地形を利用し、敵の長所を殺し、味方の長所を最大限に活かす。
前世の俺は、圧倒的な個の力ですべてを捻じ伏せてきた。だが、この世界には魔法という変数がある。
「……悪くない」
俺の口から、再びその言葉が漏れた。
リリアナの力は、俺がさらに高みへ至るための、新たな武器になるかもしれない。
俺は彼女を「使える駒」として、明確に認識した。
翌朝、俺たちは再び歩き始めた。
リリアナの魔力も、騎士の傷も、一晩で随分と回復したようだ。
昨日の一件で、俺たちの間には奇妙な信頼関係が芽生えていた。騎士たちは俺の指示に絶対服従し、リリアナは俺の戦闘を補助する自分の役割を理解し始めたようだった。
それから五日。
俺たちは、嘆きの森をひたすら進んだ。
幾度となく魔物の襲撃を受けたが、その度に俺の暴力とリリアナの精霊魔法がそれらを退けた。
戦いを重ねるたびに、俺たちの連携は洗練されていく。俺が敵陣に切り込み、リリアナがその援護と敵の足止めを行う。騎士たちが、リリアナの護衛に専念する。
それは、即席ながらも機能的な戦闘集団だった。
そして、旅の八日目の朝。
俺たちは、ついに森の出口にたどり着いた。
木々の隙間から、久しぶりに見るどこまでも広がる平原と、地平線へと続く街道が見えた。
「……抜けた! 嘆きの森を、抜けたぞ!」
騎士たちが、歓喜の声を上げる。
リリアナも、安堵の表情で胸を撫で下ろしていた。
俺は、名残惜しそうに森を振り返った。
結局、オーガリーダーを超える強敵には出会えなかった。
だが、収穫がなかったわけではない。
俺は隣に立つリリアナを一瞥した。
「お前の魔法、少しは役に立ったな」
「……はい!」
リリアナは、満面の笑みで頷いた。
俺たちは街道を歩き始めた。
ここから二日も歩けば、王都アルカディアが見えてくるという。
その日の夕方、俺たちは街道沿いにある宿場町に立ち寄った。
久しぶりの文明。ベッドで眠れることに、騎士たちは涙を流して喜んでいた。
俺たちは、街で一番大きな酒場兼宿屋に宿を取った。
酒場は、様々な種族の冒険者や商人たちでごった返していた。
その喧騒の中心で、一際大きな歓声が上がっている。人だかりの中心で、何かが行われているようだった。
腕相撲だ。
丸太のような腕を持つ、屈強な男たちが次々と挑戦し、そして敗れていく。
その勝者の席に座っていたのは、一人の獣人だった。
赤銅色の肌。獅子の鬣のような髪。そして、山のように盛り上がった筋肉。
その体躯は、オークジェネラルにも引けを取らない。
彼は挑戦者を軽々と捻じ伏せると、物足りなそうに咆哮した。
「おいおい、どうした! この街には、俺の腕一本へし折れるような奴はいねえのか!」
その姿を見た瞬間、俺の全身の血が、カッと沸騰した。
間違いない。
こいつは、強い。
俺の魂が、歓喜に打ち震えている。
ようやく見つけた。俺の渇きを潤してくれるかもしれない、本物の強者。
俺は席を立ち、人だかりをかき分けて進んだ。
リリアナが「ジン様?」と訝しげな声を上げるが、今の俺には聞こえない。
俺は、獣人の男の前に立った。
男は、俺の細身の体を見て、鼻で笑った。
「なんだぁ、ヒョロガリの人間か? 命が惜しけりゃ、とっととママのおっぱいでも吸ってな」
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