死闘を求めた戦闘狂、異世界で最強スキル【闘神】を授かる 〜強敵と戦うほど無限に強くなるので、神だろうが殴りに行きます〜

夏見ナイ

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第四十七話 リリアナの覚醒

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ドッペルゲンガーを倒した後も、俺たちの周囲には常にまとわりつくような視線と心を蝕む幻聴が続いた。
この森そのものが俺たちの精神を削り、仲間同士の信頼を破壊しようとしている。

「くそっ、気味が悪ぃ……」
ガロウは絶えず周囲を警戒し、その神経をすり減らしていた。
俺もまた五感を最大限に研ぎ澄ませていたが、敵の本体は巧妙にその気配を隠し続けている。

この森の番人は物理的な強さではなく、精神的な揺さぶりを得意とするタイプのようだ。
最も厄介な敵。
そして、その矛先はパーティの中で最も精神的に繊細であろうリリアナへと向けられていた。

「……」
リリアナは先ほどから口数が少なく、その顔色は青白い。
彼女の瞳には時折、深い悲しみや絶望の色がよぎっていた。
ドッペルゲンガーの一件が彼女の心に深い傷を残したのかもしれない。あるいは、この森の幻惑が彼女の過去のトラウマでも抉り出しているのか。

俺たちが光るキノコが群生する開けた場所に出た、その時だった。
リリアナが突然足を止め、その場に崩れるように膝をついた。
「……リリアナ!?」
ガロウが慌てて駆け寄る。

「……ごめんなさい……。私……もう……」
彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「私がいなければ、お二人はもっと自由に戦える……。私は足手まといなだけ……。あの時も、私が森に出なければ騎士たちは死なずに済んだ……。全部、私のせい……」
自己嫌悪と罪悪感。
この森は彼女の心の最も弱い部分を的確に突き、その精神を内側から破壊しようとしていた。

「馬鹿野郎! 何言ってやがる!」
ガロウが彼女の肩を掴んで叱咤する。
「お前がいなきゃ、俺たちはとっくに死んでる! お前は俺たちの命綱なんだぞ!」

だが、ガロウの言葉は今の彼女には届かない。
「……もう、嫌……。戦いたくない……」
彼女は世界樹の杖を取り落とし、両手で顔を覆ってしまった。

その瞬間。
周囲の空間がぐにゃりと歪んだ。
美しいキノコの森は消え失せ、俺たちはいつの間にか完全な闇の中にいた。
そして、その闇の中心で一つの巨大な目がゆっくりと開かれていく。

それは瞳のない、ただ絶望の色を映すだけの巨大な眼球だった。
第二階層の番人、『深淵を覗く者』ナイトメア・アイ。
精神を支配し、相手の悪夢を現実にするという最悪の存在。

『……見つけた。壊れかけの、美しい魂を』
ナイトメア・アイの声が俺たちの脳内に直接響き渡った。
『その絶望、その悲しみ、我が糧として永遠に味わってやろう』

眼球から無数の黒い触手が伸び、リリアナの心へと侵食していく。
「あ……ああ……」
リリアナの体から急速に生命力が失われていくのが分かった。

「てめええええっ!」
ガロウが怒りの咆哮と共にナイトメア・アイへと突進する。
だが、その拳は手応えなく眼球をすり抜けた。
こいつもまた物理的な実体を持たない。

俺もまた闘気を込めた拳を叩き込んだ。
だが、ナイトメア・アイはデュラハンとも違う。俺の闘気ですらその精神体には届かない。まるで底なしの沼に拳を突っ込んでいるかのようだった。

「ククク……無駄だ。我は精神そのもの。物理的な干渉は一切通用せぬ」
ナイトメア・アイが嘲笑う。
「この娘の心が完全に折れた時、貴様らの精神もまた我が支配下に置かれることになる」

絶望的な状況。
俺たちの攻撃は一切届かない。
そして、俺たちの命運は今まさに心を壊されようとしているリリアナ一人の双肩にかかっている。

「……リリアナ!」
俺は叫んだ。
「立て! お前は足手まといなどではない! お前の魔法がなければ俺たちはここまで来れなかった! お前は俺たちの仲間だ!」

俺が誰かにこんな言葉をかける日が来るとは思ってもみなかった。
だが、それは偽りのない俺の本心だった。

俺の声が届いたのか。
リリアナの震えがわずかに止まった。
彼女はゆっくりと顔を上げた。その瞳にはまだ絶望の色が濃い。
だが、その奥で小さな、しかし確かな光が灯っていた。

「……ジン、様……」

『……無駄な足掻きを』
ナイトメア・アイがさらに強力な精神攻撃をリリアナに送り込む。
リリアナの目の前に彼女が最も恐れる光景が幻として映し出された。
血塗れで倒れる騎士たち。そして、彼女を責める俺とガロウの姿。

「あ……あああ……!」
リリアナの心が再び絶望に染まりかけた、その時だった。

彼女の懐で一つのものが淡い光を放った。
それはスタートニアの村を出る時、ティムという少年が俺にくれた拙い作りの木の鳥のお守りだった。俺はそれをいつの間にかリリアナに渡していたのだ。
「無事を祈る」という純粋な想いが込められた、ただのお守り。

だが、その小さな光が引き金だった。
リリアナの心の中にあった罪悪感や絶望といった黒い霧を、その光が貫いた。
そして、彼女は思い出したのだ。
仲間との絆。騎士たちの忠誠。そして、彼女自身が持つ王女としての誇り。

「……私は」
リリアナが震える声で呟いた。
「私は、負けない……!」

彼女の全身から凄まじい魔力が噴き上がった。
それはこれまでの彼女からは想像もできないほどの清浄で、そして強大な力。
世界樹の杖が呼応するように眩い緑色の光を放つ。

「私はエルフの国イルミナシルの王女、リリアナ・シルフィード・イルミナシル!」
彼女は立ち上がった。
その瞳にはもはや迷いはない。
王族だけが持つという絶対的な威厳と、そして仲間を守らんとする強い意志の光が宿っていた。

「我が仲間を、心を、弄ぶこと……。この私が、許さない!」

彼女の覚醒。
それはただ精神的な成長だけではなかった。
彼女の中に眠っていた王族としての本当の力が今、解き放たれたのだ。

『な……なんだ、この力は!?』
ナイトメア・アイが初めて狼狽の声を上げた。
リリアナから放たれる聖なる魔力は、精神体である彼にとって猛毒そのものだった。

「森羅万象の精霊たちよ、我が声に応えよ!」
リリアナが杖を天に掲げる。
「彼の者の存在そのものを、この世界から浄化せよ!」

彼女が放ったのは攻撃魔法ではなかった。
浄化の祈り。
だが、覚醒した彼女の祈りはどんな攻撃魔法よりも強力だった。
緑色の光が津波のようにナイトメア・アイを飲み込んでいく。

『ぎ……ぎゃあああああああああっ!』
断末魔の悲鳴。
絶望を糧とする番人はリリアナの絶対的な希望の光の前ではなす術もなかった。
その巨大な眼球は光の中で瞬く間に霧散し、後には静寂だけが残された。

『惑わしの森、突破を認める』
荘厳な声が響き、俺たちがいた闇の世界は消え元の幻想的な森の風景が戻ってきた。
そして、森の奥に次の階層へと続く新たな道が開かれていた。

リリアナはその場に崩れ落ちた。
だが、その顔には一点の曇りもない晴れやかな笑みが浮かんでいた。
彼女は自らの弱さと向き合い、そして打ち勝ったのだ。

俺とガロウはそんな彼女に駆け寄った。
俺は無言で彼女の頭を撫でた。
「……よく、やったな」

それは心からの称賛の言葉だった。
この第二階層はリリアナの、彼女一人の力で突破したのだ。
俺たちは彼女の本当の強さをこの目で見届けた。

俺たちのパーティはまた一つ強くなった。
それは物理的な強さではない。
どんな絶望にも屈しない心の強さ。
そして、仲間を信じ抜く絆の強さだった。
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