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第五十話 神の器と人の絆
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「お前との因縁、ここで終わらせる!」
俺の宣言が、決戦の合図だった。
「ほざけ、裏切り者が!」
ガイアスが吼えると、彼を守っていた『黄昏の蛇』の精鋭たちが、一斉に俺たちへと襲いかかってきた。その動きは、ただの人間ではない。禁断の力で強化された、異形の戦士たちだ。
だが、俺は彼らに目もくれなかった。俺が見据えるのは、ただ一人。魔人ガイアスだけ。
「リリア、セレスティア!雑魚は任せた!」
「うん、まかせて!」
「ええ、一体たりとも、あなたには近づけさせません!」
リリアとセレスティアは、俺の両翼となって駆け出した。
リリアの『竜穿剣』が、黄金の嵐となって敵陣を切り裂く。強化された戦士たちの硬い装甲も、伝説の剣の前では紙切れ同然だった。彼女はもはや、守られるだけの少女ではない。戦場を支配する、気高き剣聖だ。
セレスティアの杖から、無数の氷の槍が放たれる。一人、また一人と敵の動きを封じ、リリアの死角を完璧にカバーしていく。彼女の広範囲制圧魔法は、多数の敵を相手にする上で、絶対的な力を発揮した。
仲間への信頼。俺は、迷いなくガイアスへと突撃した。
「やっと二人きりになれたな、レイン!」
ガイアスは、歓喜に歪んだ笑みを浮かべ、その黒い魔剣を振るった。
Sランク時代とは比較にならない、神速の一撃。
だが、俺の【神眼】は、その軌道を完璧に捉えていた。
俺は最小限の動きでそれをかわし、懐に潜り込もうとする。
しかし、ガイアスの体から、黒い衝撃波が放たれた。
「ぐっ……!」
俺は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「どうした、レイン!お前の力はその程度か!俺を追い出した時のお前は、もっと輝いていたぞ!」
ガイアスは、俺の過去のトラウマを抉るように、言葉の刃を突きつけてくる。
「お前は、俺がいなければただの雑用係だったはずだ!俺の元で、俺の指示通りに動いていれば、お前は幸せだったんだ!」
歪んだ支配欲。彼は、まだ俺を自分の所有物だと思っている。
「……黙れ」
俺は立ち上がり、静かに言い放った。
「確かにお前の言う通りかもしれない。俺は、お前がいなければ、今も無能な鑑定士のままだっただろう。だがな、ガイアス。お前が俺を捨てたから、俺は本当の仲間に出会えた。お前が俺を絶望させたから、俺は本当の力に目覚めたんだ」
俺は『影縫いのダガー』を構え直す。
「お前に感謝こそすれ、恨みはない。だが、お前が俺の大切なものを脅かすなら、俺は全力でお前を叩き潰す!」
俺の覚悟に、ガイアスは怒りで顔を歪ませた。
「ほざけえええ!」
ガイアスが、闇の魔力を凝縮させたエネルギー弾を放つ。
俺は《シャドウダイブ》でその場から消え、彼の背後を取った。
だが、ガイアスは振り返りもせず、背中から生やした黒い触手で俺を薙ぎ払う。
完全に、人外の動きだ。
俺は触手を紙一重でかわし、距離を取る。
直接戦闘では勝てない。だが、俺には【神眼】がある。
俺は、ガイアス本人と、彼が立つ魔法陣全体を、一つのシステムとして解析し始めた。
膨大な情報が、脳内を駆け巡る。思考加速のペンダントが、熱を帯びて俺の脳を補助する。
そして、見えた。
ガイアスの心臓と、魔法陣の中心が、黒い魔力の奔流で繋がれている。
彼の憎悪、嫉妬、執着。その負の感情が、魔法陣の燃料となり、彼に人ならざる力を与えている。
そして、その力の奔流の中心。ガイアスの胸の中心に、一点だけ、極端に脆い『核』が存在していた。
あれが、彼の弱点。
「見つけたぞ、ガイアス!」
俺は、仲間たちに念話で最後の作戦を伝えた。
俺の合図に、セレスティアが詠唱を開始する。
「セレスティア!」
「ええ!《クロノ・スタシス》!」
セレスティアが放ったのは、対象の時間を停止させる、最高位の時空魔法。
ガイアスの動きが、ほんの一瞬、スローモーションのように鈍くなった。
「グ……オ……!?」
「リリアァァァッ!」
俺は、ガイアスの足元に、最後の影を作り出した。
リリアは、その影に向かって、一直線に駆け込む。
そして、ガイアスの目の前に、瞬間移動した。
ゼロ距離。
ガイアスが、驚愕に目を見開く。
リリアの『竜穿剣』が、これまでにないほどの、神々しい黄金の光を放っていた。
それは、彼女自身の魂の輝き。仲間を、そして俺を守るという、純粋で、そして何よりも強い意志の光だった。
「これで、おわりだあああああっ!」
少女の澄んだ声と共に、光の一閃が、ガイアスの胸の中心にある『核』を、正確に貫いた。
時間は、止まったように感じられた。
ガイアスの体から、黒いオーラが霧散していく。魔人としての肉体が、砂のように崩れ始める。
魔法陣の赤い光も、急速に失われていった。
彼は、崩れゆく体で、俺を真っ直ぐに見つめていた。
その瞳から、狂気と憎悪の色が消え、かつて俺が知っていた、ただの人間の瞳が戻っていた。
「……レイン……俺は……ただ……お前が……」
最期の言葉は、音にならなかった。
彼は、何を言いたかったのだろうか。
羨ましかったのか。認めてほしかったのか。
もう、知る術はない。
ガイアスは、光の粒子となって、完全に消滅した。
後に残されたのは、静寂と、力を失い停止した巨大な魔法陣だけだった。
俺たちの、長い因縁が終わった。
俺は、天を仰ぎ、静かに息を吐いた。
魔神復活の儀式は、阻止された。王都の、そして世界の危機は、去ったのだ。
俺は、疲れ果てて座り込むリリアと、静かに微笑むセレスティアの元へ、ゆっくりと歩み寄った。
俺たちの戦いは、終わったのだ。
そう、この時は、確かにそう思っていた。
俺の宣言が、決戦の合図だった。
「ほざけ、裏切り者が!」
ガイアスが吼えると、彼を守っていた『黄昏の蛇』の精鋭たちが、一斉に俺たちへと襲いかかってきた。その動きは、ただの人間ではない。禁断の力で強化された、異形の戦士たちだ。
だが、俺は彼らに目もくれなかった。俺が見据えるのは、ただ一人。魔人ガイアスだけ。
「リリア、セレスティア!雑魚は任せた!」
「うん、まかせて!」
「ええ、一体たりとも、あなたには近づけさせません!」
リリアとセレスティアは、俺の両翼となって駆け出した。
リリアの『竜穿剣』が、黄金の嵐となって敵陣を切り裂く。強化された戦士たちの硬い装甲も、伝説の剣の前では紙切れ同然だった。彼女はもはや、守られるだけの少女ではない。戦場を支配する、気高き剣聖だ。
セレスティアの杖から、無数の氷の槍が放たれる。一人、また一人と敵の動きを封じ、リリアの死角を完璧にカバーしていく。彼女の広範囲制圧魔法は、多数の敵を相手にする上で、絶対的な力を発揮した。
仲間への信頼。俺は、迷いなくガイアスへと突撃した。
「やっと二人きりになれたな、レイン!」
ガイアスは、歓喜に歪んだ笑みを浮かべ、その黒い魔剣を振るった。
Sランク時代とは比較にならない、神速の一撃。
だが、俺の【神眼】は、その軌道を完璧に捉えていた。
俺は最小限の動きでそれをかわし、懐に潜り込もうとする。
しかし、ガイアスの体から、黒い衝撃波が放たれた。
「ぐっ……!」
俺は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「どうした、レイン!お前の力はその程度か!俺を追い出した時のお前は、もっと輝いていたぞ!」
ガイアスは、俺の過去のトラウマを抉るように、言葉の刃を突きつけてくる。
「お前は、俺がいなければただの雑用係だったはずだ!俺の元で、俺の指示通りに動いていれば、お前は幸せだったんだ!」
歪んだ支配欲。彼は、まだ俺を自分の所有物だと思っている。
「……黙れ」
俺は立ち上がり、静かに言い放った。
「確かにお前の言う通りかもしれない。俺は、お前がいなければ、今も無能な鑑定士のままだっただろう。だがな、ガイアス。お前が俺を捨てたから、俺は本当の仲間に出会えた。お前が俺を絶望させたから、俺は本当の力に目覚めたんだ」
俺は『影縫いのダガー』を構え直す。
「お前に感謝こそすれ、恨みはない。だが、お前が俺の大切なものを脅かすなら、俺は全力でお前を叩き潰す!」
俺の覚悟に、ガイアスは怒りで顔を歪ませた。
「ほざけえええ!」
ガイアスが、闇の魔力を凝縮させたエネルギー弾を放つ。
俺は《シャドウダイブ》でその場から消え、彼の背後を取った。
だが、ガイアスは振り返りもせず、背中から生やした黒い触手で俺を薙ぎ払う。
完全に、人外の動きだ。
俺は触手を紙一重でかわし、距離を取る。
直接戦闘では勝てない。だが、俺には【神眼】がある。
俺は、ガイアス本人と、彼が立つ魔法陣全体を、一つのシステムとして解析し始めた。
膨大な情報が、脳内を駆け巡る。思考加速のペンダントが、熱を帯びて俺の脳を補助する。
そして、見えた。
ガイアスの心臓と、魔法陣の中心が、黒い魔力の奔流で繋がれている。
彼の憎悪、嫉妬、執着。その負の感情が、魔法陣の燃料となり、彼に人ならざる力を与えている。
そして、その力の奔流の中心。ガイアスの胸の中心に、一点だけ、極端に脆い『核』が存在していた。
あれが、彼の弱点。
「見つけたぞ、ガイアス!」
俺は、仲間たちに念話で最後の作戦を伝えた。
俺の合図に、セレスティアが詠唱を開始する。
「セレスティア!」
「ええ!《クロノ・スタシス》!」
セレスティアが放ったのは、対象の時間を停止させる、最高位の時空魔法。
ガイアスの動きが、ほんの一瞬、スローモーションのように鈍くなった。
「グ……オ……!?」
「リリアァァァッ!」
俺は、ガイアスの足元に、最後の影を作り出した。
リリアは、その影に向かって、一直線に駆け込む。
そして、ガイアスの目の前に、瞬間移動した。
ゼロ距離。
ガイアスが、驚愕に目を見開く。
リリアの『竜穿剣』が、これまでにないほどの、神々しい黄金の光を放っていた。
それは、彼女自身の魂の輝き。仲間を、そして俺を守るという、純粋で、そして何よりも強い意志の光だった。
「これで、おわりだあああああっ!」
少女の澄んだ声と共に、光の一閃が、ガイアスの胸の中心にある『核』を、正確に貫いた。
時間は、止まったように感じられた。
ガイアスの体から、黒いオーラが霧散していく。魔人としての肉体が、砂のように崩れ始める。
魔法陣の赤い光も、急速に失われていった。
彼は、崩れゆく体で、俺を真っ直ぐに見つめていた。
その瞳から、狂気と憎悪の色が消え、かつて俺が知っていた、ただの人間の瞳が戻っていた。
「……レイン……俺は……ただ……お前が……」
最期の言葉は、音にならなかった。
彼は、何を言いたかったのだろうか。
羨ましかったのか。認めてほしかったのか。
もう、知る術はない。
ガイアスは、光の粒子となって、完全に消滅した。
後に残されたのは、静寂と、力を失い停止した巨大な魔法陣だけだった。
俺たちの、長い因縁が終わった。
俺は、天を仰ぎ、静かに息を吐いた。
魔神復活の儀式は、阻止された。王都の、そして世界の危機は、去ったのだ。
俺は、疲れ果てて座り込むリリアと、静かに微笑むセレスティアの元へ、ゆっくりと歩み寄った。
俺たちの戦いは、終わったのだ。
そう、この時は、確かにそう思っていた。
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