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第五十一話 新たな夜明け
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ガイアスが光の粒子となって消え去った後。
巨大な魔法陣が完全に沈黙した地下空洞には、ただ静寂だけが残された。
俺たちの、長い因縁が終わった。その事実が、ずしりと重く心にのしかかる。
彼が最後に何を言おうとしたのか、もう知る術はない。ただ、彼の瞳から狂気と憎悪が消え、ただの人間の顔に戻っていたことだけが、記憶に焼き付いていた。
「……行こう」
俺は、疲れ果てて座り込むリリアの肩を貸し、静かにその場を後にした。セレスティアも、複雑な表情で俺たちの後に続く。
地上へ戻ると、ギルドマスターのボルガンと騎士団長アレスが、血相を変えて俺たちを待っていた。
「レイン!無事か!」
「地下の魔力の脈動が、完全に消滅した。……やり遂げたのだな」
俺は、静かに頷いた。
王都の地下で何が起きていたのか。その全ては、王国最高機密として処理された。『黄昏の蛇』の残党は、儀式の失敗と共に蜘蛛の子を散らすように姿を消し、その行方は掴めなかった。
だが、王都を、そして世界を救った俺たち『アルカディア』の功績は、隠しようもなかった。
俺たちは、再び国王陛下に謁見することになった。
玉座の間で、国王は自ら立ち上がり、俺たち三人の前に進み出た。
「英雄『アルカディア』よ。言葉では言い尽くせぬほどの感謝を、王国を代表して伝えたい。君たちがいなければ、この国は、いや、この世界は奈落の底に沈んでいただろう」
その声は、威厳に満ちながらも、心からの感謝に震えていた。
国王は、俺たちに特別な称号を与えた。『王国守護者』。それは、騎士団長に匹敵する、名誉ある地位だった。
そして、報酬として、王都で最も見晴らしの良い丘の上に立つ、城のような壮麗な館が与えられた。
「そこを、君たちの新たな拠点とするがいい。今後、王国は君たちの活動を、全面的に支援することを約束しよう」
その破格の待遇に、俺たちはただ頭を下げることしかできなかった。
新しい邸宅での生活は、まるで夢のように穏やかだった。
広大な書斎で、セレスティアは世界の謎を解き明かす研究に没頭している。
陽光が降り注ぐ中庭で、リリアは小鳥たちと戯れながら、穏やかな時間を過ごしていた。
戦いの傷は、ゆっくりと癒えていく。
俺は、テラスからそんな二人の姿を眺めながら、これからのことを考えていた。
ガイアスは消えた。『黄昏の蛇』も、今は鳴りを潜めている。
平穏が訪れた。だが、本当にこれで終わりなのだろうか。
『黄昏の蛇』は、なぜ魔神を復活させようとしたのか。その真の目的は、まだ何も分かっていない。
この世界には、まだ俺たちの知らない脅威が、きっとどこかに潜んでいる。
その夜、俺はリリアとセレスティアを、暖炉の火が揺れる談話室に集めた。
「二人とも、聞いてほしい」
俺は、真剣な眼差しで切り出した。
「俺たちの戦いは、まだ終わっていないかもしれない。俺たちだけの力では、これから先、本当に世界を揺るがすような脅威が現れた時、対応しきれないだろう」
二人は、黙って俺の言葉に耳を傾けている。
「だから、俺はギルドを作りたい」
「ギルド……?」
リリアが、不思議そうに首を傾げた。
「ああ。俺たちのギルドだ。同じ志を持つ仲間を集め、育て、どんな脅威にも立ち向かえるような、最強の組織を作る。俺たちの力と知識を、次の世代に繋いでいくための場所を」
それは、ずっと俺の胸の中にあった想いだった。
無能と蔑まれ、誰にも必要とされなかった俺だからこそ、誰かの才能を見出し、その居場所を作ってやりたい。
俺の言葉に、リリアの顔がぱっと輝いた。
「レインのギルド!すごい!わたし、さんせい!もっとたくさんのなかまができたら、きっとたのしい!」
セレスティアも、優雅に微笑んだ。
「ふふ、実にあなたらしい発想ですね。ギルドマスターとしてのあなた、ですか。面白い。私の知識も、後進の育成に役立てるとしましょう。喜んで、その船に乗らせていただきますよ」
二人の迷いのない瞳が、俺の決意を後押ししてくれた。
「ありがとう。ギルド名は、もう決めている」
俺は、暖炉の炎を見つめながら言った。
「『アルカビア』だ。理想郷の名を冠した、俺たちのギルドだ」
それは、新たな夜明けだった。
一人の追放された鑑定士と、二人の仲間から始まった物語は、今、新たな理想を掲げ、より大きな物語へと歩み出そうとしていた。
俺たちは、顔を見合わせ、未来への希望に満ちた笑みを交わした。
俺たちの本当の冒険は、ここから始まるのだ。
巨大な魔法陣が完全に沈黙した地下空洞には、ただ静寂だけが残された。
俺たちの、長い因縁が終わった。その事実が、ずしりと重く心にのしかかる。
彼が最後に何を言おうとしたのか、もう知る術はない。ただ、彼の瞳から狂気と憎悪が消え、ただの人間の顔に戻っていたことだけが、記憶に焼き付いていた。
「……行こう」
俺は、疲れ果てて座り込むリリアの肩を貸し、静かにその場を後にした。セレスティアも、複雑な表情で俺たちの後に続く。
地上へ戻ると、ギルドマスターのボルガンと騎士団長アレスが、血相を変えて俺たちを待っていた。
「レイン!無事か!」
「地下の魔力の脈動が、完全に消滅した。……やり遂げたのだな」
俺は、静かに頷いた。
王都の地下で何が起きていたのか。その全ては、王国最高機密として処理された。『黄昏の蛇』の残党は、儀式の失敗と共に蜘蛛の子を散らすように姿を消し、その行方は掴めなかった。
だが、王都を、そして世界を救った俺たち『アルカディア』の功績は、隠しようもなかった。
俺たちは、再び国王陛下に謁見することになった。
玉座の間で、国王は自ら立ち上がり、俺たち三人の前に進み出た。
「英雄『アルカディア』よ。言葉では言い尽くせぬほどの感謝を、王国を代表して伝えたい。君たちがいなければ、この国は、いや、この世界は奈落の底に沈んでいただろう」
その声は、威厳に満ちながらも、心からの感謝に震えていた。
国王は、俺たちに特別な称号を与えた。『王国守護者』。それは、騎士団長に匹敵する、名誉ある地位だった。
そして、報酬として、王都で最も見晴らしの良い丘の上に立つ、城のような壮麗な館が与えられた。
「そこを、君たちの新たな拠点とするがいい。今後、王国は君たちの活動を、全面的に支援することを約束しよう」
その破格の待遇に、俺たちはただ頭を下げることしかできなかった。
新しい邸宅での生活は、まるで夢のように穏やかだった。
広大な書斎で、セレスティアは世界の謎を解き明かす研究に没頭している。
陽光が降り注ぐ中庭で、リリアは小鳥たちと戯れながら、穏やかな時間を過ごしていた。
戦いの傷は、ゆっくりと癒えていく。
俺は、テラスからそんな二人の姿を眺めながら、これからのことを考えていた。
ガイアスは消えた。『黄昏の蛇』も、今は鳴りを潜めている。
平穏が訪れた。だが、本当にこれで終わりなのだろうか。
『黄昏の蛇』は、なぜ魔神を復活させようとしたのか。その真の目的は、まだ何も分かっていない。
この世界には、まだ俺たちの知らない脅威が、きっとどこかに潜んでいる。
その夜、俺はリリアとセレスティアを、暖炉の火が揺れる談話室に集めた。
「二人とも、聞いてほしい」
俺は、真剣な眼差しで切り出した。
「俺たちの戦いは、まだ終わっていないかもしれない。俺たちだけの力では、これから先、本当に世界を揺るがすような脅威が現れた時、対応しきれないだろう」
二人は、黙って俺の言葉に耳を傾けている。
「だから、俺はギルドを作りたい」
「ギルド……?」
リリアが、不思議そうに首を傾げた。
「ああ。俺たちのギルドだ。同じ志を持つ仲間を集め、育て、どんな脅威にも立ち向かえるような、最強の組織を作る。俺たちの力と知識を、次の世代に繋いでいくための場所を」
それは、ずっと俺の胸の中にあった想いだった。
無能と蔑まれ、誰にも必要とされなかった俺だからこそ、誰かの才能を見出し、その居場所を作ってやりたい。
俺の言葉に、リリアの顔がぱっと輝いた。
「レインのギルド!すごい!わたし、さんせい!もっとたくさんのなかまができたら、きっとたのしい!」
セレスティアも、優雅に微笑んだ。
「ふふ、実にあなたらしい発想ですね。ギルドマスターとしてのあなた、ですか。面白い。私の知識も、後進の育成に役立てるとしましょう。喜んで、その船に乗らせていただきますよ」
二人の迷いのない瞳が、俺の決意を後押ししてくれた。
「ありがとう。ギルド名は、もう決めている」
俺は、暖炉の炎を見つめながら言った。
「『アルカビア』だ。理想郷の名を冠した、俺たちのギルドだ」
それは、新たな夜明けだった。
一人の追放された鑑定士と、二人の仲間から始まった物語は、今、新たな理想を掲げ、より大きな物語へと歩み出そうとしていた。
俺たちは、顔を見合わせ、未来への希望に満ちた笑みを交わした。
俺たちの本当の冒険は、ここから始まるのだ。
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