「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第九十六話 神託システム

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俺の午後のティータイムは、神聖にして不可侵でなければならない。
その崇高な目的のため、俺は究くの丸投げシステム、【全自動国家運営システム】の設計を完了させた。

構造はシンプルだ。
まず学長として辣腕を振るっているAIゴーレム【アリストテレス】を、大幅にアップグレードする。彼の思考回路を並列化し、本体は俺の公領の地下深くに設置したスーパーコンピューター(魔術的な意味で)に移す。

次に王都の各省庁、主要な貴族の屋敷、そして王城の玉座の間に、通信端末として小型の水晶玉を設置する。これらは全て、地下のアリストテレス本体と量子通信(これも魔術的な意味で)によって直結している。

全ての報告、申請、陳情は、この水晶玉を通じて行われる。紙の書類はもう不要だ。
アリストテレスは集約された全ての情報を、俺が設定した基本原則――『面倒なことは避ける』『効率を最大化する』『俺の安眠を妨害しない』――に基づいて分析し、最適解を導き出す。そして、その答えを『神託』として各端末に返す。

もちろん最終承認権は俺にある。だがその承認プロセスも、当然のように【全自動化】済みだ。俺が明確に『NO』と言わない限り、全ての決定は自動で承認される。俺はベッドの上で寝ているだけでいい。

「リノ」
俺が声をかけると、リノは待ってましたとばかりに駆け寄ってきた。
「これを、王都に設置してこい。『国父からの新たな贈り物』だとでも言っておけ」

俺はシステムの設計図と、量産した水晶玉の端末を彼女に渡した。
リノは、その設計図を一目見るなり歓喜に打ち震えた。

「すごい……! これはただの情報伝達システムではない! 国家という巨大な生命体の神経網そのものだ! 全ての情報を中央で統合し、最適化された意志を末端に伝える! マスター、あなたはついに国家という概念すらも自動化しようというのですね!」

「まあ、そんなところだ。俺のティータイムを邪魔されたくない、というだけだがな」

「それです! その、究くの個人的な動機こそが世界を変えるのです!」

リノは興奮冷めやらぬまま、転移魔法で王都へと向かった。
彼女が国王オルデウスにそのシステムを献上すると、王城は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

「国父様からの、新たな神託装置だと!?」
「これさえあれば我々も、いつでも国父様のご慧眼に触れることができるのか!」

大臣たちは半信半疑ながらも、その水晶玉をそれぞれの執務室に設置した。
そして、彼らは神の御業を目の当たりにすることになる。

最初にシステムを利用したのは財務大臣だった。彼は先の戦争で獲得した帝国からの莫大な賠償金をどう配分すべきか、何日も頭を悩ませていた。貴族たちは我田引水を主張し、議論は紛糾していた。
彼は藁にもすがる思いで、水晶玉に問いかけた。
『賠償金の、最も効率的かつ公正な配分案を求む』

数秒後。水晶玉が淡い光を放った。
そして宰相の脳内に、直接膨大な情報が流れ込んできた。
それは王国全土のインフラ整備計画、産業振興のための投資案、そして洪水被害に遭った地域への完璧な復興予算案だった。その全てが緻密なデータと、数十年先までの経済成長予測に基づいて完璧に裏付けられていた。

「……ば、かな」

財務大臣は、その場でへたり込んだ。自分が数週間かけても結論の出なかった問題を、この光る玉はたった数秒で、しかも自分の案など足元にも及ばない完璧な形で提示してきたのだ。

次に試したのは法務大臣だった。長年、複数の領地間で争いの種となっていたシオン川の水利権問題。彼はその複雑な問題を、水晶玉に諮問した。

答えはやはり数秒で返ってきた。
レイジが創り上げたダムと治水システムのデータを元に、各領地の必要水量と季節ごとの流量変化を完璧に計算。そして一滴の水も無駄にしない、驚くほど公平で合理的な取水ルールを提示してきたのだ。その案には反対する者など、一人もいなかった。

その日から、アルテア王国の政治は劇的に変わった。
大臣たちはもはや議論をしない。ただ、水晶玉に問いかけ、返ってきた『神託』を実行するだけ。
派閥争いや利権争いは消え失せた。なぜなら神託の前では、人間の浅はかな欲望など意味をなさないからだ。

政治は驚くほど清廉に、そして効率的になった。国は急速に豊かになり、民の生活は日に日に向上していった。

国王オルデウスは、その光景を玉座の間で静かに見守っていた。
彼の執務は今や、水晶玉から送られてくる完璧な報告書に王の印を押すだけになっていた。

(……もはや、この国に王は不要なのかもしれんな)

彼は自嘲気味に呟いた。だがその表情は、どこか晴れやかだった。
自分が王であることよりも、この国が、民が幸福であることが、彼にとってはなによりの喜びだったからだ。

(全ては、国父様のお導きのままに)

彼の信仰はもはや、王としての一線を越え、一人の敬虔な信徒としての絶対的な境地に達していた。

その頃。
全ての政治を自動化した偉大なる神は。
サンルームの安楽椅子で、完璧な静寂の中、極上の紅茶を味わっていた。

アリアからの報告はもうない。
リノからの緊急連絡もない。
ただ、穏やかな午後の日差しと紅茶の豊かな香りだけがそこにあった。

「……うん。これだ」

俺は心からの満足と共に、目を閉じた。
これこそが俺が本当に求めていた、完璧なティータイム。誰にも、何にも、邪魔されることのない至福の時間。

俺の頭上、俺の知らないところで、俺の思考を模したAIがこの国の全てを完璧に、そして自動で運営し始めている。

そのあまりにも壮大で、そしてあまりにも怠惰な事実に、俺は気づくこともなく。
ただ、次に飲む紅茶の茶葉は何にしようか、と。
そんな、平和なことだけを考えていた。
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