クラスごと異世界転移したら、俺だけジョブが『魔王』だったんだが? ~虐めてきた勇者(笑)ども、今からお前らを支配してやろうか~

夏見ナイ

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第5話 朽ちた玉座

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俺の言葉は、引き金だった。覚醒したばかりの力が、俺の制御を離れて荒れ狂う。足元から溢れ出した闇のオーラは、もはや嵐ではなかった。それは神殿そのものを飲み込もうとする、巨大な津波のようだった。

「うわあああ!」
「助けてくれ!」

クラスメイトたちの悲鳴が遠のいていく。俺の視界も、黒い闇に染め上げられていた。体が引き裂かれるような、あるいはどこかへ無理やり引っ張り込まれるような奇妙な感覚。これが力の暴走か。だが、不思議と苦痛はなかった。むしろ、俺の魂がこの力を、この闇を、歓喜して受け入れているような感覚さえあった。

「魔王よ、鎮まりなさい!」

女神アストライアの声が響く。彼女が何か神聖な力を使おうとしているのが気配で分かった。だが、遅い。俺の魔力は既に、この空間の理を書き換え始めていた。

「させるかよ」

俺は無意識に呟いた。俺の意思に応え、闇がさらに濃密になる。空間がガラスのようにひび割れ、その裂け目から底知れない深淵が覗いた。

「空間転移魔法!? まさか、座標も定めずに……!?」

女神の驚愕の声が、俺の耳に届いた最後の音だった。
次の瞬間、俺の体は空間の裂け目へと吸い込まれた。凄まじいGが全身を襲い、意識が一瞬だけ途切れる。

そして、俺は硬い床に叩きつけられていた。

「……っつ」

全身を打った鈍い痛みで意識が覚醒する。ゆっくりと体を起こし、辺りを見回した。そこはもう、あの白い神殿ではなかった。

巨大な空間。天井は高く、ゴシック様式のアーチ構造が見える。だが、その至る所が崩れ落ち、分厚い埃と蜘蛛の巣に覆われていた。床にはひび割れた石畳が広がり、壁には色褪せた巨大なタペストリーが辛うじてかかっている。空気は澱み、長い時の流れを感じさせた。

ここは、城か。それも、長い間打ち捨てられた廃城だ。

俺は立ち上がり、服についた埃を払った。神殿での出来事が嘘のようだ。クラスメイトたちはどうなっただろうか。赤城は。女神は。
まあ、どうでもいい。いずれ、俺の方から会いに行ってやる。

俺はあてもなく、この広大な廃城を歩き始めた。自分の足音だけが、不気味なほど静かな空間に響き渡る。窓から差し込む月明かりだけが、唯一の光源だった。

しばらく歩くと、ひときわ大きな両開きの扉が見えてきた。重厚な、黒曜石のような扉だ。俺がそっと手を触れると、何百年も閉ざされていたはずの扉が、まるで主の帰りを待っていたかのように、ギイ、と重い音を立ててゆっくりと開いた。

扉の先にあったのは、玉座の間だった。
広大なホール。床には朽ちた赤絨毯が敷かれ、壁際には不気味な悪魔の石像が並んでいる。その全てが、ホールの最奥にある一つの玉座を見つめていた。

その玉座は、巨大なドラゴンの骨を組み上げて作られたかのような、禍々しくも荘厳なデザインだった。背もたれは天を突くほどに高く、肘掛けには恐ろしいガーゴイルの彫刻が施されている。だが、それもまた城の他の場所と同じように、埃を被り、所々が欠けていた。

朽ち果てた魔王城。そして、主を失った玉座。
ここが、俺の新たな居場所だというのか。

独りになったことで、俺は冷静さを取り戻していた。まずは、自分に何が起きたのかを正確に把握する必要がある。異世界転移といえば、あれだ。

「ステータス」

俺がそう呟くと、目の前に半透明のウィンドウが現れた。ゲームでよく見る、ステータス画面そのものだ。

----------------------------------------
名前:カゲヤマ レン
種族:魔人(デモンロード)
天職:魔王
称号:追放されし者、覚醒せし災厄

LV:1
HP:5000/5000
MP:10000/10000
筋力:300
耐久:450
敏捷:250
魔力:8000

【ユニークスキル】
◆万魔の支配者(ロード・オブ・デモンズ)
 世界のあらゆる魔を統べる魔王の権能。
 ・魔物創造:自身の魔力を使い、配下となる魔物を創造する。
 ・絶対服従:創造した魔物、及び格下の魔族を完全に従える。
 ・支配領域:魔王城を中心とした領域を支配し、領域内では全能力が上昇。領域の拡張、改築が可能。
 ・スキル吸収:倒した敵のスキルを一定確率で奪い、自身のものとする。

【スキル】
◆深淵魔法:LV1
◆魔王のカリスマ:LV1
----------------------------------------

なんだ、これは。
俺は自分のステータス画面を食い入るように見つめた。レベル1とは思えない、桁外れの数値。特にMPと魔力の値は異常だ。他のクラスメイトのステータスは知らないが、これがとんでもないチート能力であることだけは理解できた。

そして、何より目を引くのはユニークスキルの【万魔の支配者】。
魔物創造、絶対服従、支配領域、スキル吸収。
書かれていること一つ一つが、規格外の力であることを示している。魔物を自分で生み出し、絶対の忠誠を誓わせることができる。これさえあれば、俺はたった一人で軍隊を作り上げることができるじゃないか。

「は……はは……」

乾いた笑いが、自然と漏れた。

「ははははははは!」

笑いが止まらない。絶望の淵にいた俺に与えられたのは、あまりにも強大すぎる力だった。女神は言っていた。俺の穢れた魂が、魔王の器にふさわしいと。

その通りだ。
俺の心は、憎悪と復讐心で黒く染まっている。
ならば、この力は、そのためにこそある。

俺はゆっくりと玉座へ向かって歩いた。一歩、また一歩と進むたびに、心の奥底から力が湧き上がってくるような感覚がした。

そして、朽ちた玉座の前に立つ。
俺は振り返らない。もう、過去は見ない。
俺が見据えるのは、これから俺が作り上げる未来だけだ。

俺はゆっくりと、その玉座に腰を下ろした。硬く、冷たい感触。だが、不思議と体にしっくりと馴染んだ。まるで、最初からここが俺の場所だったかのように。

玉座に座った瞬間、城全体がゴゴゴ、と微かに振動した。分厚い埃が舞い上がり、城の至る所で、灯っていなかった燭台に紫色の炎が灯り始める。まるで、永い眠りから目覚めた主を、城が祝福しているかのようだった。

俺は肘掛けに頬杖をつき、暗い玉座の間を見渡した。
今はまだ、俺一人だ。この広すぎる城に、味方は誰もいない。

だが、すぐに変わる。
この力で、俺だけの軍隊を創る。
俺だけの、国を創る。

そして、俺を裏切ったあのクラスメイトたち全員に、思い知らせてやる。
誰を敵に回したのかを。
本当の絶望とは、どういうものなのかを。

俺は、影山蓮という無力な少年を殺した。
今ここにいるのは、魔王だ。
復讐を誓う、魔王だ。
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