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第7話 魔王のダンジョン
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ゴブリン部隊を送り出してから、数時間が経った。俺は玉座に座ったまま、スキルの詳細を確認したり、この城の構造について思考を巡らせたりしていた。暴走した魔力はすっかり体に馴染み、今では呼吸をするのと同じくらい自然に、その力を感じることができる。
やがて、玉座の間の外から、騒がしい足音と甲高い鳴き声が聞こえてきた。探索を命じたゴブリンたちが戻ってきたのだ。
部隊のリーダーに任命したゴブリンが、誇らしげな顔で俺の前に進み出て、深々と頭を垂れた。その手には、何かの骨の欠片と、錆びてボロボロになった兜が握られている。他のゴブリンたちも、ガラクタ同然のものを戦利品として抱えていた。
「……ご苦労だった」
俺が労いの言葉をかけると、ゴブリンたちは歓喜の声を上げた。彼らにとっては、俺に褒められることが何よりの報酬なのだろう。リーダーゴブリンが、ギャアギャアと鳴きながら、探索の結果を報告してくる。言葉は通じない。だが、スキル【万魔の支配者】を通して、彼が伝えたい内容が断片的に頭に流れ込んできた。
1階には敵対的な生物はいなかったこと。多くの部屋が崩落しているが、いくつかの通路はまだ生きていること。そして、城の外部へと通じる巨大な門を発見したこと。有用な情報だ。
「下がってよい。交代で休息を取れ」
命令すると、ゴブリンたちは恭しく一礼し、玉座の間の隅で思い思いに休息を取り始めた。その光景を眺めながら、俺は再び【支配領域】のウィンドウを開く。
ゴブリンたちの探索によって、俺の頭の中に広がる城のマップが更新されていた。彼らが通った場所が、黒い未踏領域から、詳細な構造が分かる既知領域へと変わっている。これは便利だ。斥候を放てば、安全に城の全容を把握できる。
だが、ただマップを広げるだけでは意味がない。この城は、俺の拠点であり、要塞だ。いずれ来るであろう敵、つまり赤城たちを迎撃するための、巨大な罠でなければならない。
俺はウィンドウを操作し、罠の設置機能を試すことにした。対象は、玉座の間に至るメイン通路。長さ100メートルほどの、真っ直ぐな石造りの廊下だ。
ウィンドウに『罠リスト』という項目が表示された。
【設置可能な罠】
・落とし穴(消費MP:100)
・毒矢(消費MP:150)
・スイングアックス(消費MP:300)
・スピアウォール(壁から槍)(消費MP:350)
……etc
リストはまだ少ないが、基本的な罠は揃っているようだ。おそらく、俺自身のレベルが上がったり、特定のアイテムを手に入れたりすることで、作れる罠の種類も増えていくのだろう。
「まずは、これだ」
俺はリストから『落とし穴』を選択した。すると、マップ上の通路がハイライトされ、どこに設置するかを指定できるようになった。操作は驚くほど直感的だ。通路の中ほどを指でなぞるようにイメージすると、そこに半透明の罠の設置予定エリアが表示される。
「ここに設置」
確定すると、俺のMPが100減少した。それと同時に、城のどこか遠くで、ゴゴゴ、と低い地響きがする。実際に、今この瞬間、通路の床がくり抜かれ、落とし穴が構築されているのだ。スキルを使えば、大掛かりな土木工事すら一瞬で完了する。まさに王の力だ。
次に、落とし穴の少し手前に『スイングアックス』を設置。天井から巨大な斧が振り子のように振れてくる、古典的だが効果的な罠だ。これもMPを300消費して設置を完了する。
罠だけではない。俺には魔物の軍勢がいる。
俺は『魔物配置』という機能を選択した。ウィンドウには、俺が創造した魔物の一覧が表示される。
【配下リスト】
・スライム×1
・ゴブリン×10
俺はスライムを選択し、マップ上の落とし穴の底に配置した。落下してきた侵入者の動きを、スライムの粘液で封じるためだ。さらに、ゴブリンを5体、スイングアックスのすぐ先の通路の角に潜ませる。罠を乗り越えて油断したところを、奇襲させる算段だ。
配置を終えると、俺は面白そうな機能を見つけた。『シミュレーション』というボタンだ。
押してみると、『仮想侵入者のレベルを設定してください』と表示された。試しに、レベル10の人間の剣士を一体、通路の入り口から侵入させてみることにした。
俺の脳内に、シミュレーション映像が流れ込んでくる。
剣士が慎重に通路を進む。スイングアックスの存在に気づき、タイミングを見計らって駆け抜けた。だが、罠を突破した安堵からか、足元への注意が疎かになる。そして、見事に落とし穴へと落下した。
落下のダメージで負傷した剣士に、穴の底で待ち構えていたスライムが覆いかぶさる。剣士は身動きが取れず、もがいていた。完璧なコンボだ。
「面白い……」
思わず声が漏れた。これは、もはやただの復讐の準備ではない。自分だけの城を、自分だけの迷宮を創り上げる、最高のゲームだ。
俺は夢中になった。
毒矢が飛び出す壁。槍が突き出す床。転がる巨大な岩。次から次へと罠を設置し、魔物を配置していく。MPが減れば、玉座に座って回復を待つ。その間も、頭の中では常に、より効率的に、より残忍に侵入者を排除するための方法を考えていた。
この作業は、俺が今まで感じたことのない、万能感と創造の喜びを与えてくれた。いじめられていた頃の俺は、何も生み出すことができなかった。ただ、奪われ、壊されるだけの存在だった。
だが、今は違う。
俺は、この城の創造主だ。俺の意思一つで、地形が変わり、悪夢が形作られていく。
半日ほど没頭し、玉座の間に続く通路は、もはや素人が踏み込んで生きて帰れるような場所ではなくなっていた。
俺は完成した悪夢の回廊を、シミュレーション映像で満足げに眺めた。
これは、始まりに過ぎない。この城全体を、世界で最も難攻不落なダンジョンへと作り変えてやる。
赤城。お前たちが、いつかこの城に辿り着いた時。
その時は、俺が作った最高の舞台で、盛大にもてなしてやろう。
死ぬ以上の苦痛と絶望で、な。
俺は不敵に笑うと、次なる課題へと意識を移した。ダンジョン作りには、大量のMPが必要だ。効率よくMPを回復させる手段か、あるいはMPの元となる何かを手に入れなければならない。
「ゴブリンたちに、今度は城の外を探索させてみるか」
新たな目標が、俺の復讐心をさらに燃え上がらせた。
やがて、玉座の間の外から、騒がしい足音と甲高い鳴き声が聞こえてきた。探索を命じたゴブリンたちが戻ってきたのだ。
部隊のリーダーに任命したゴブリンが、誇らしげな顔で俺の前に進み出て、深々と頭を垂れた。その手には、何かの骨の欠片と、錆びてボロボロになった兜が握られている。他のゴブリンたちも、ガラクタ同然のものを戦利品として抱えていた。
「……ご苦労だった」
俺が労いの言葉をかけると、ゴブリンたちは歓喜の声を上げた。彼らにとっては、俺に褒められることが何よりの報酬なのだろう。リーダーゴブリンが、ギャアギャアと鳴きながら、探索の結果を報告してくる。言葉は通じない。だが、スキル【万魔の支配者】を通して、彼が伝えたい内容が断片的に頭に流れ込んできた。
1階には敵対的な生物はいなかったこと。多くの部屋が崩落しているが、いくつかの通路はまだ生きていること。そして、城の外部へと通じる巨大な門を発見したこと。有用な情報だ。
「下がってよい。交代で休息を取れ」
命令すると、ゴブリンたちは恭しく一礼し、玉座の間の隅で思い思いに休息を取り始めた。その光景を眺めながら、俺は再び【支配領域】のウィンドウを開く。
ゴブリンたちの探索によって、俺の頭の中に広がる城のマップが更新されていた。彼らが通った場所が、黒い未踏領域から、詳細な構造が分かる既知領域へと変わっている。これは便利だ。斥候を放てば、安全に城の全容を把握できる。
だが、ただマップを広げるだけでは意味がない。この城は、俺の拠点であり、要塞だ。いずれ来るであろう敵、つまり赤城たちを迎撃するための、巨大な罠でなければならない。
俺はウィンドウを操作し、罠の設置機能を試すことにした。対象は、玉座の間に至るメイン通路。長さ100メートルほどの、真っ直ぐな石造りの廊下だ。
ウィンドウに『罠リスト』という項目が表示された。
【設置可能な罠】
・落とし穴(消費MP:100)
・毒矢(消費MP:150)
・スイングアックス(消費MP:300)
・スピアウォール(壁から槍)(消費MP:350)
……etc
リストはまだ少ないが、基本的な罠は揃っているようだ。おそらく、俺自身のレベルが上がったり、特定のアイテムを手に入れたりすることで、作れる罠の種類も増えていくのだろう。
「まずは、これだ」
俺はリストから『落とし穴』を選択した。すると、マップ上の通路がハイライトされ、どこに設置するかを指定できるようになった。操作は驚くほど直感的だ。通路の中ほどを指でなぞるようにイメージすると、そこに半透明の罠の設置予定エリアが表示される。
「ここに設置」
確定すると、俺のMPが100減少した。それと同時に、城のどこか遠くで、ゴゴゴ、と低い地響きがする。実際に、今この瞬間、通路の床がくり抜かれ、落とし穴が構築されているのだ。スキルを使えば、大掛かりな土木工事すら一瞬で完了する。まさに王の力だ。
次に、落とし穴の少し手前に『スイングアックス』を設置。天井から巨大な斧が振り子のように振れてくる、古典的だが効果的な罠だ。これもMPを300消費して設置を完了する。
罠だけではない。俺には魔物の軍勢がいる。
俺は『魔物配置』という機能を選択した。ウィンドウには、俺が創造した魔物の一覧が表示される。
【配下リスト】
・スライム×1
・ゴブリン×10
俺はスライムを選択し、マップ上の落とし穴の底に配置した。落下してきた侵入者の動きを、スライムの粘液で封じるためだ。さらに、ゴブリンを5体、スイングアックスのすぐ先の通路の角に潜ませる。罠を乗り越えて油断したところを、奇襲させる算段だ。
配置を終えると、俺は面白そうな機能を見つけた。『シミュレーション』というボタンだ。
押してみると、『仮想侵入者のレベルを設定してください』と表示された。試しに、レベル10の人間の剣士を一体、通路の入り口から侵入させてみることにした。
俺の脳内に、シミュレーション映像が流れ込んでくる。
剣士が慎重に通路を進む。スイングアックスの存在に気づき、タイミングを見計らって駆け抜けた。だが、罠を突破した安堵からか、足元への注意が疎かになる。そして、見事に落とし穴へと落下した。
落下のダメージで負傷した剣士に、穴の底で待ち構えていたスライムが覆いかぶさる。剣士は身動きが取れず、もがいていた。完璧なコンボだ。
「面白い……」
思わず声が漏れた。これは、もはやただの復讐の準備ではない。自分だけの城を、自分だけの迷宮を創り上げる、最高のゲームだ。
俺は夢中になった。
毒矢が飛び出す壁。槍が突き出す床。転がる巨大な岩。次から次へと罠を設置し、魔物を配置していく。MPが減れば、玉座に座って回復を待つ。その間も、頭の中では常に、より効率的に、より残忍に侵入者を排除するための方法を考えていた。
この作業は、俺が今まで感じたことのない、万能感と創造の喜びを与えてくれた。いじめられていた頃の俺は、何も生み出すことができなかった。ただ、奪われ、壊されるだけの存在だった。
だが、今は違う。
俺は、この城の創造主だ。俺の意思一つで、地形が変わり、悪夢が形作られていく。
半日ほど没頭し、玉座の間に続く通路は、もはや素人が踏み込んで生きて帰れるような場所ではなくなっていた。
俺は完成した悪夢の回廊を、シミュレーション映像で満足げに眺めた。
これは、始まりに過ぎない。この城全体を、世界で最も難攻不落なダンジョンへと作り変えてやる。
赤城。お前たちが、いつかこの城に辿り着いた時。
その時は、俺が作った最高の舞台で、盛大にもてなしてやろう。
死ぬ以上の苦痛と絶望で、な。
俺は不敵に笑うと、次なる課題へと意識を移した。ダンジョン作りには、大量のMPが必要だ。効率よくMPを回復させる手段か、あるいはMPの元となる何かを手に入れなければならない。
「ゴブリンたちに、今度は城の外を探索させてみるか」
新たな目標が、俺の復讐心をさらに燃え上がらせた。
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