クラスごと異世界転移したら、俺だけジョブが『魔王』だったんだが? ~虐めてきた勇者(笑)ども、今からお前らを支配してやろうか~

夏見ナイ

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第12話 封印の試練

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俺の言葉に、リリアナは真紅の瞳を細めた。その表情からは、彼女の真意を読み取ることはできない。しばらくの沈黙の後、彼女はくすりと妖艶に微笑んだ。

「ふふ……随分と威勢のいいお言葉。ですが、新しい魔王よ。我が主となるには、ただ言葉を並べるだけでは足りません」

鎖に繋がれたまま、彼女はどこか挑発的な視線を俺に向けてくる。

「数百年、この身は封じられてきました。この鎖も、この枷も、我が力の大部分を奪っている。それでも、真祖としての力は完全には失われていない。あなたに、この私を御するだけの器があるのか。この目で、見定めさせてもらいましょう」

リリアナがそう言った瞬間、彼女を中心に魔力が渦を巻いた。拘束している鎖がギリギリと軋み、刻まれたルーン文字が激しく明滅する。彼女は、封印の力を逆用して、僅かに残された自身の力を解放しようとしているのだ。

「我が血の眷属たちよ。目覚めなさい」

リリアナの静かな命令が響く。すると、彼女の足元の石畳から、じわりと血溜まりが滲み出した。それはみるみるうちに広がり、不気味に泡立ち始める。

ゴボゴボ、という水音と共に、血溜まりから何かが這い出てきた。
一体は、人間の上半身を模した、血でできたゴーレム。両腕は巨大な槌の形をしている。もう一体は、巨大な蝙蝠の姿をした血の塊。無数の小さな赤い目が、不気味にこちらを睨んでいた。

ブラッドゴーレムとブラッドバット。どちらも、リリアナの血から生み出された魔物なのだろう。その体からは、並のゴブリンなど比較にならないほどの濃密な魔力が放たれていた。

「さあ、見せてごらんなさい。あなたの力を。この程度の僕しもべを退けられぬようでは、我が主などと呼ぶには百年早い」

試練、というわけか。
面白い。望むところだ。
俺がこの城に来てから、まともな戦闘はこれが初めて。俺の指揮官としての腕前を試すには、ちょうどいい相手だ。

「ゴブリンども、入れ!」

俺が命じると、扉の外で待機していた5体のゴブリンたちが、雄叫びを上げて部屋になだれ込んできた。彼らは血の眷属の姿に一瞬怯んだが、俺の存在が彼らの恐怖を打ち消す。すぐに武器を構え、俺の次の命令を待った。

「キシャアアア!」

ブラッドバットが甲高い鳴き声と共に、弾丸のような速さで突撃してくる。狙いは俺だ。

「散れ! 左右の柱を盾にしろ!」

俺は即座に指示を飛ばした。ゴブリンたちは俊敏に反応し、左右の石柱の陰へと飛び込む。ブラッドバットの突撃は空を切り、壁に激突してぐちゃりという鈍い音を立てた。だが、すぐに体勢を立て直し、再びこちらを睨む。

その隙に、ブラッドゴーレムがのっそりと動き出していた。ズシン、ズシン、と地響きを立てながら、一体のゴブリンが隠れる柱へと迫る。

「おい、お前。ゴーレムの注意を引け。他は回り込んで足を狙え!」

俺は一体のゴブリンに陽動を命じた。そのゴブリンは勇敢に柱から飛び出し、ゴーレムに向かって石を投げつける。カン、と乾いた音がして、ゴーレムの注意がそちらに向いた。その隙に、残りのゴブリンたちがゴーレムの背後や側面に回り込む。

「やれ!」

俺の号令で、ゴブリンたちは一斉にゴーレムの足に斬りかかった。錆びた剣では、硬質な血の塊に大したダメージは与えられない。だが、無数の傷が集中することで、ゴーレムの動きが僅かに鈍った。

その戦況を、リリアナは鎖に繋がれたまま静かに見つめている。その表情は変わらないが、瞳の奥に微かな興味の色が浮かんでいるのを、俺は見逃さなかった。

「グルオオオ!」

動きを阻害されたブラッドゴーレムが、怒りの咆哮と共に腕の槌を振り回す。ゴブリンたちは素早く距離を取り、その薙ぎ払いを回避した。いい動きだ。彼らは弱い。だが、弱いなりに、生き残るための知恵と俊敏さを持っている。そして何より、俺の命令を完璧に遂行する。

問題は、空を飛ぶブラッドバットだ。ゴブリンたちの攻撃手段では、決定打を与えにくい。
俺は自身の魔力を練り上げた。スキル【深淵魔法】。まだレベルは1だが、初歩的な攻撃魔法くらいは使えるはずだ。

俺は右手をブラッドバットに向け、魔力を集中させる。

「ダーク・バレット」

呟きと共に、俺の手のひらからバスケットボール大の闇の塊が撃ち出された。それは正確にブラッドバットを捉え、その翼を撃ち抜く。

「ギャアッ!」

悲鳴を上げて、ブラッドバットが床に墜落した。飛翔能力を失えば、ただの的だ。

「今だ! とどめを刺せ!」

近くにいたゴブリンたちが、俺の命令に即応する。墜落してもがくブラッドバットに群がり、その心臓部と思わしきコアに、何度も何度も剣を突き立てた。やがて、ブラッドバットは動きを止め、どろりとした血の puddleへと還っていった。

残るはゴーレム一体。
俺はゴブリンたちに、ヒットアンドアウェイを徹底させ、ゴーレムの足を執拗に狙わせた。俺自身もダーク・バレットで援護し、その注意を惹きつける。

単調な攻撃しかできないゴーレムは、我々の連携に翻弄され、徐々にダメージを蓄積させていった。そして、ついにその動きが完全に止まる。

「総員、頭を狙え!」

俺の最後の命令。ゴブリンたちが、動かなくなったゴーレムの体に駆け上り、その頭部にありったけの攻撃を叩き込んだ。やがて、ゴーレムの体にも限界が来た。全身に亀裂が走り、次の瞬間、大きな音を立てて崩壊した。赤い飛沫が飛び散り、床を汚す。

静寂が戻った。床には、二つの大きな血のシミだけが残されている。ゴブリンたちは、息を荒げながらも、傷一つなく全員が生き残っていた。

俺は、リリアナへと向き直った。彼女は、驚きとも感心ともつかない、複雑な表情で俺を見ていた。

「……見事、と言うべきでしょうか」

やがて、彼女の唇からそんな言葉が漏れた。

「あなた自身の力はまだ未熟。配下の魔物も、最弱のゴブリン。それでも、あなたは勝った。的確な指示と、状況判断。そして、部下を駒として使い捨てない采配。あなたは、ただの暴君ではないのですね」

その赤い瞳が、俺を改めて『主』として見定めているのが分かった。

「どうだ。俺は、お前の主たる器か?」

俺が問いかけると、リリアナはゆっくりと、そして深く頷いた。

「ええ。認めましょう。あなたこそ、我が新しい主君。我が魔王」

彼女は、初めて俺に対して敬意のこもった声で言った。

「このリリアナ・フォン・アークライト。我が魂の全てを懸けて、あなたに忠誠を誓います」

試練は、終わった。
俺の最初の、そして最強の腹心が、今ここに生まれようとしていた。
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