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第13話 最初の四天王
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「このリリアナ・フォン・アークライト。我が魂の全てを懸けて、あなたに忠誠を誓います」
静まり返った地下牢に、リリアナの凛とした声が響き渡った。その真紅の瞳には、先ほどまでの試すような色はなく、ただ純粋な敬愛と忠誠だけが宿っている。
俺は満足げに頷いた。
「いいだろう。その誓い、確かに受け取った。ならば、その忌々しい封印を解いてやる」
俺は彼女を拘束している黒い鎖へと歩み寄った。鎖の表面には、無数のルーン文字が紫色の光を放ちながら蠢いている。先ほどゴブリンを弾き飛ばした、強力な拒絶の魔力が渦巻いていた。
「魔王様、お気をつけください。この封印は、人間の聖魔術と、裏切り者の魔族が用いた古代呪術を組み合わせたもの。並の魔力で触れれば、その魂ごと喰らわれます」
リリアナが忠告する。だが、俺は足を止めなかった。
「並の魔力、か。生憎だが、俺は『魔王』だ」
俺は鎖に手を伸ばした。指先が触れる寸前、バチバチと激しい魔力の火花が散り、空間が歪む。鎖に込められた封印術式が、俺を異物と認識し、全力で排除しようとしているのだ。
だが、俺は構わずその鎖を鷲掴みにした。
「ぐっ……!」
凄まじい衝撃が腕を駆け巡る。聖なる力と、呪われた力が混ざり合った混沌の奔流が、俺の魔力と激しく反発し合う。まるで腕を引き千切られるかのような激痛。だが、俺は歯を食いしばって耐えた。
ただ力をぶつけるだけでは駄目だ。それでは、いたずらに魔力を消耗するだけ。
俺はユニークスキル【万魔の支配者】の権能に意識を集中した。このスキルの本質は、ただ魔物を創り出すことではない。その名の通り、あらゆる『魔』を『支配』することにある。
ならば、この呪術もまた、俺の支配下にあるべきだ。
俺は鎖に込められた魔力の流れを読み解く。複雑に絡み合った、二つの異質な術式。その構造を、理を、魂で理解する。そして、その理そのものに、俺は魔王として命令した。
――解けろ、と。
俺の意思が、封印の術式に介入する。俺の魔力が、聖なる力を蝕み、呪術の構造を内側から書き換えていく。
すると、あれほど激しく抵抗していた鎖の力が、急速に弱まっていった。ルーン文字の輝きが明滅し、やがて光を失っていく。
ミシリ、と鎖に亀裂が走った。
「なっ……封印の術式が、内側から崩壊していく……?」
リリアナが、信じられないものを見るかのように目を見開いた。
「こんな芸当、先代魔王様ですら……」
俺は構わず、さらに魔力を注ぎ込んだ。亀裂は瞬く間に鎖全体へと広がり、やがて甲高い金属音と共に、リリアナを縛り付けていた全ての鎖がガラスのように砕け散った。
自由になったリリアナの体は、力なく床へと崩れ落ちそうになる。俺は咄嗟に前に出て、その華奢な体を支えた。
「大丈夫か」
「……はい。我が君」
腕の中にいる彼女の体は、氷のように冷たかった。だが、その体には今、数百年ぶりに本来の力が戻りつつある。彼女の肌に血の気が戻り、ボロボロだったドレスは、魔力によって漆黒の豪奢なゴシックドレスへと姿を変えていった。床にまで伸びていた銀髪は艶を取り戻し、月光のように輝いている。
完全に力を取り戻したリリアナは、ゆっくりと俺の腕から離れると、その場で優雅に一礼した。そして、俺の前に静かに片膝をつき、深く頭を垂れた。
「このご恩、生涯忘れません。我が魔王、レオン様。この命、あなたの望むままに」
その姿は、もはや囚われの姫君ではない。絶対的な力と気品を兼ね備えた、夜の女王そのものだった。
「顔を上げろ、リリアナ」
俺が言うと、彼女はゆっくりと顔を上げた。
「お前を、我が魔王軍の最初の幹部として任命する。四天王の筆頭だ。俺の右腕として、その力を存分に振るうがいい」
「はっ。身に余る光栄です」
リリアナは、恍惚とした表情で俺を見つめた。その赤い瞳は、熱を帯びたように潤んでいる。
こうして、俺は最初の腹心を手に入れた。吸血鬼の真祖、リリアナ。彼女の存在は、俺の軍勢の質を飛躍的に向上させるだろう。
俺たちは、ゴブリンたちを連れて地下牢を後にした。玉座の間へと戻る道すがら、リリアナは数百年ぶりに見る城の惨状に、僅かに眉をひそめていた。
「……酷い有様ですね。先代様が築かれた栄華も、見る影もない」
「すぐに元通りになる。いや、それ以上にしてやるさ」
俺の言葉に、リリアナは嬉しそうに微笑んだ。
玉座の間へと戻ると、俺はまず、今回の試練で奮闘したゴブリンたちの労をねぎらった。傷ついた者には治癒魔法をかけ、全員に褒美として魔石のかけらを与える。ゴブリンたちは、主に認められたことに狂喜乱舞していた。
その光景を、リリアナは少し離れた場所から興味深そうに眺めていた。
「レオン様は、お優しいのですね。ゴブリンのような最下級の魔物にも、慈悲をおかけになるとは」
「慈悲じゃない。働きには、正当な報酬で応える。それだけだ。彼らは、俺の役に立った。だから報いる。それだけのことだ」
俺の答えに、リリアナはふ、と息を漏らした。
「……やはり、あなたは面白いお方だ。力だけではない。王としての器も、確かにお持ちのようだ。このリリアナ、人選の明があったというものですね」
彼女の忠誠が、さらに深まったのを感じた。
俺は玉座に腰を下ろし、傍らに立つリリアナに視線を向けた。
軍の基盤はできた。強力な腹心も手に入れた。
次の一手は、敵を知ることだ。
「リリアナ」
「はっ」
「お前の力で、外の世界の情報を集めろ。特に、俺をこの世界に呼び出した人間たちの国。そして、『勇者』とその仲間たちの動向をだ。奴らが今、どこで何をしているのか。詳細に調べ上げろ」
俺の命令に、リリアナは恭しく一礼した。
「御意のままに。我が眷属たる夜の獣たちを使えば、いかなる情報も御前にお届けできるでしょう」
彼女が指を鳴らすと、その影から数匹の蝙蝠が音もなく飛び立ち、開かれた窓から夜の闇へと消えていった。
復讐の舞台は整った。あとは、役者がどこにいるかを知るだけだ。俺は、来るべき再会の時を思い、静かに目を閉じた。
静まり返った地下牢に、リリアナの凛とした声が響き渡った。その真紅の瞳には、先ほどまでの試すような色はなく、ただ純粋な敬愛と忠誠だけが宿っている。
俺は満足げに頷いた。
「いいだろう。その誓い、確かに受け取った。ならば、その忌々しい封印を解いてやる」
俺は彼女を拘束している黒い鎖へと歩み寄った。鎖の表面には、無数のルーン文字が紫色の光を放ちながら蠢いている。先ほどゴブリンを弾き飛ばした、強力な拒絶の魔力が渦巻いていた。
「魔王様、お気をつけください。この封印は、人間の聖魔術と、裏切り者の魔族が用いた古代呪術を組み合わせたもの。並の魔力で触れれば、その魂ごと喰らわれます」
リリアナが忠告する。だが、俺は足を止めなかった。
「並の魔力、か。生憎だが、俺は『魔王』だ」
俺は鎖に手を伸ばした。指先が触れる寸前、バチバチと激しい魔力の火花が散り、空間が歪む。鎖に込められた封印術式が、俺を異物と認識し、全力で排除しようとしているのだ。
だが、俺は構わずその鎖を鷲掴みにした。
「ぐっ……!」
凄まじい衝撃が腕を駆け巡る。聖なる力と、呪われた力が混ざり合った混沌の奔流が、俺の魔力と激しく反発し合う。まるで腕を引き千切られるかのような激痛。だが、俺は歯を食いしばって耐えた。
ただ力をぶつけるだけでは駄目だ。それでは、いたずらに魔力を消耗するだけ。
俺はユニークスキル【万魔の支配者】の権能に意識を集中した。このスキルの本質は、ただ魔物を創り出すことではない。その名の通り、あらゆる『魔』を『支配』することにある。
ならば、この呪術もまた、俺の支配下にあるべきだ。
俺は鎖に込められた魔力の流れを読み解く。複雑に絡み合った、二つの異質な術式。その構造を、理を、魂で理解する。そして、その理そのものに、俺は魔王として命令した。
――解けろ、と。
俺の意思が、封印の術式に介入する。俺の魔力が、聖なる力を蝕み、呪術の構造を内側から書き換えていく。
すると、あれほど激しく抵抗していた鎖の力が、急速に弱まっていった。ルーン文字の輝きが明滅し、やがて光を失っていく。
ミシリ、と鎖に亀裂が走った。
「なっ……封印の術式が、内側から崩壊していく……?」
リリアナが、信じられないものを見るかのように目を見開いた。
「こんな芸当、先代魔王様ですら……」
俺は構わず、さらに魔力を注ぎ込んだ。亀裂は瞬く間に鎖全体へと広がり、やがて甲高い金属音と共に、リリアナを縛り付けていた全ての鎖がガラスのように砕け散った。
自由になったリリアナの体は、力なく床へと崩れ落ちそうになる。俺は咄嗟に前に出て、その華奢な体を支えた。
「大丈夫か」
「……はい。我が君」
腕の中にいる彼女の体は、氷のように冷たかった。だが、その体には今、数百年ぶりに本来の力が戻りつつある。彼女の肌に血の気が戻り、ボロボロだったドレスは、魔力によって漆黒の豪奢なゴシックドレスへと姿を変えていった。床にまで伸びていた銀髪は艶を取り戻し、月光のように輝いている。
完全に力を取り戻したリリアナは、ゆっくりと俺の腕から離れると、その場で優雅に一礼した。そして、俺の前に静かに片膝をつき、深く頭を垂れた。
「このご恩、生涯忘れません。我が魔王、レオン様。この命、あなたの望むままに」
その姿は、もはや囚われの姫君ではない。絶対的な力と気品を兼ね備えた、夜の女王そのものだった。
「顔を上げろ、リリアナ」
俺が言うと、彼女はゆっくりと顔を上げた。
「お前を、我が魔王軍の最初の幹部として任命する。四天王の筆頭だ。俺の右腕として、その力を存分に振るうがいい」
「はっ。身に余る光栄です」
リリアナは、恍惚とした表情で俺を見つめた。その赤い瞳は、熱を帯びたように潤んでいる。
こうして、俺は最初の腹心を手に入れた。吸血鬼の真祖、リリアナ。彼女の存在は、俺の軍勢の質を飛躍的に向上させるだろう。
俺たちは、ゴブリンたちを連れて地下牢を後にした。玉座の間へと戻る道すがら、リリアナは数百年ぶりに見る城の惨状に、僅かに眉をひそめていた。
「……酷い有様ですね。先代様が築かれた栄華も、見る影もない」
「すぐに元通りになる。いや、それ以上にしてやるさ」
俺の言葉に、リリアナは嬉しそうに微笑んだ。
玉座の間へと戻ると、俺はまず、今回の試練で奮闘したゴブリンたちの労をねぎらった。傷ついた者には治癒魔法をかけ、全員に褒美として魔石のかけらを与える。ゴブリンたちは、主に認められたことに狂喜乱舞していた。
その光景を、リリアナは少し離れた場所から興味深そうに眺めていた。
「レオン様は、お優しいのですね。ゴブリンのような最下級の魔物にも、慈悲をおかけになるとは」
「慈悲じゃない。働きには、正当な報酬で応える。それだけだ。彼らは、俺の役に立った。だから報いる。それだけのことだ」
俺の答えに、リリアナはふ、と息を漏らした。
「……やはり、あなたは面白いお方だ。力だけではない。王としての器も、確かにお持ちのようだ。このリリアナ、人選の明があったというものですね」
彼女の忠誠が、さらに深まったのを感じた。
俺は玉座に腰を下ろし、傍らに立つリリアナに視線を向けた。
軍の基盤はできた。強力な腹心も手に入れた。
次の一手は、敵を知ることだ。
「リリアナ」
「はっ」
「お前の力で、外の世界の情報を集めろ。特に、俺をこの世界に呼び出した人間たちの国。そして、『勇者』とその仲間たちの動向をだ。奴らが今、どこで何をしているのか。詳細に調べ上げろ」
俺の命令に、リリアナは恭しく一礼した。
「御意のままに。我が眷属たる夜の獣たちを使えば、いかなる情報も御前にお届けできるでしょう」
彼女が指を鳴らすと、その影から数匹の蝙蝠が音もなく飛び立ち、開かれた窓から夜の闇へと消えていった。
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