クラスごと異世界転移したら、俺だけジョブが『魔王』だったんだが? ~虐めてきた勇者(笑)ども、今からお前らを支配してやろうか~

夏見ナイ

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第45話 魔王領の礎

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人間国家が内輪揉めで揺れている間、俺たちは着々と国としての基盤を固めていた。鈴木智也への復讐は、単なる報復ではなかった。それは、これから俺たちが築く王国に絶対的に必要な『時間』を稼ぐための、戦略的な一手でもあったのだ。

魔王城の作戦室。そこは、かつての埃っぽい広間から、今や魔王軍の頭脳が集う中枢へと変貌していた。壁には巨大な大陸地図が掲げられ、テーブルの上には、鉱物資源の分布図や、農耕に適した土地の調査報告書が山積みになっている。

その中心に座るのは、軍師となったヴェスパーだ。彼の眼窩の紫炎は、休むことなく働き続け、この城に運び込まれた膨大な情報を処理し、未来への計画を紡ぎ出していた。

「――以上が、我が『魔王領』における、第一次五カ年計画の骨子となります」

ヴェスパーが、骸骨の指先で地図上の一点を示した。それは、魔王城を中心とした、広大な黒森とその周辺地域だった。

「まず、内政の安定化。オーク部隊による魔石及び鉄鉱石の採掘は順調です。これをさらに拡大し、安定した資源供給ルートを確立します。同時に、城の地下水脈を利用した食料生産を開始。ゴブリンたちを使役し、光を必要としないキノコや苔類の栽培、及び地底湖での魚の養殖を行います」

彼の計画は、具体的かつ現実的だった。戦争に備えるだけでなく、まずは我々が自給自足できる体制を築く。それこそが、国家の礎となる。

「次に、軍事力のさらなる強化。ガロウ殿の指導のもと、現有戦力の練度は日々向上しております。しかし、兵種の多様性がまだ足りませぬ。図書館の知識を利用し、新たな魔物の創造に着手すべきかと」

ヴェスパーの視線が、俺に向けられる。
「特に、魔法攻撃に特化した部隊と、高度な工兵部隊の育成が急務です。敵の城壁を破壊するための兵器開発や、我が領地を守るための防衛設備の建設。これらは、今後の戦局を大きく左右するでしょう」

「分かった。新たな魔物の創造は、俺が直接行う」
俺は、彼の提案に頷いた。
「魔法部隊は、インプの上位種である『デーモン』を。工兵部隊は、土木作業を得意とする『ゴーレム』を核として編成する」

俺の言葉に、ヴェスパーは満足げに頷いた。

「そして、最も重要なのが、外交、あるいは勢力拡大です」
ヴェスパーは、地図上に記された、他の魔族の集落を指し示した。
「竜人族が我らに加わったことで、我々の威信は周辺の魔族たちにも伝わり始めています。今こそ、彼らに積極的に接触し、我らの旗の下に集うよう、呼びかけるべきです」

「使者を送る、ということか?」
ガロウが、隣で尋ねた。

「左様。力で制圧するのではなく、対話によってです」
ヴェスパーは、断言した。
「我らが目指すは、魔族による統一国家。無用な内輪揉めで血を流すのは、愚の骨頂。我らが、彼らの生活を保障し、人間からの脅威から守ることを約束すれば、多くの者が喜んで我らに従うでしょう。もちろん、中には我らの力を試そうとする、ガロウ殿のような血気盛んな輩もいるでしょうが……」
ヴェス-パーが、悪戯っぽくガロウを見る。

「なっ……俺は、魔王様の器を見極めただけだ!」
ガロウが、顔を赤くして反論した。その様子に、リリアナがくすりと笑う。
この数週間で、四天王たちの間にも、確かな信頼関係が芽生え始めていた。

俺は、彼らのやり取りを微笑ましく思いながらも、思考を巡らせていた。
農業、鉱業、軍備拡張、そして外交。
まるで、国家運営シミュレーションゲームだ。だが、これはゲームではない。俺の選択一つが、ここにいる民の未来を左右する。その重責が、俺を王としてさらに成長させていた。

「計画は、承認する」
俺は、最終的な決断を下した。
「ヴェスパー、お前を内政及び外交の最高責任者とする。計画の実行は、お前に一任する。必要な人材、資源は、俺が全て用意しよう」

「はっ。身に余る光栄。この老骨に鞭打ち、必ずやレオン様の期待に応えてみせますぞ」
ヴェスパーは、恭しく一礼した。

その日を境に、魔王領は驚異的な速度で発展を始めた。
ヴェスパーの指揮のもと、ゴブリン農耕部隊が組織され、城の地下で安定した食料生産が開始された。オーク鉱山部隊は、新たに発見されたミスリルやアダマンタイトといった希少鉱物の採掘にも着手し、我が軍の武具の質は飛躍的に向上していく。

俺は、ヴェスパーが図書館の知識から復元した設計図を元に、新たな魔物を次々と創造した。
高位の魔法を操るデーモンメイジの部隊。
城壁の修復や、新たな砦の建設を行う、ストーンゴーレムの工兵部隊。
我が魔王軍は、力だけでなく、多様性と戦略性を兼ね備えた、近代的な軍隊へと変貌を遂げていった。

そして、ヴェスパーの外交政策も、着実に成果を上げていた。
ガロウとリリアナを使者として周辺の魔族の集落へと派遣し、俺の理念――魔族による、魔族のための国家建設――を説かせた。
最初は警戒していた集落も、竜人族が俺に従っているという事実と、俺たちが提示した食料や武具といった具体的な支援を前に、次々と我らの軍門に下っていった。

リザードマンの湿地戦闘部隊、オーガの重戦士部隊、ハーピィの空中偵察部隊。
様々な種族が、それぞれの文化と特技を持ったまま、魔王領という一つの国家の傘下に集っていく。
俺たちの領地は、日に日に拡大し、その人口も急増していった。

俺は、もはや単なる復讐者ではなかった。
多くの民の生活を背負い、一つの国家を治める、本物の『王』となっていたのだ。

人間国家が内乱の兆候に揺れ、勇者たちが無為な時間を過ごしている間に、歴史の舞台の裏側で、巨大な勢力が産声を上げていた。
やがて、世界がその存在に気づいた時、もはや誰にも止められない奔流となっていることを、まだ誰も知らなかった。
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