クラスごと異世界転移したら、俺だけジョブが『魔王』だったんだが? ~虐めてきた勇者(笑)ども、今からお前らを支配してやろうか~

夏見ナイ

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第48話 迎撃と罠

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硬い石の床の上で、アルフレッドはゆっくりと意識を取り戻した。全身を打った鈍い痛みよりも先に、彼の五感を支配したのは、濃密な魔力の気配だった。空気が、まるで重い液体のように肌にまとわりつく。

「……ここは……」

アルフレッドは身を起こし、周囲を見渡した。
そこは、薄暗い、だだっ広い石造りの部屋だった。壁の燭台に灯る紫の炎が、不気味に揺らめいている。
彼の部下たちも、次々と目を覚ましていた。幸い、全員意識はあるようだ。だが、彼らの武器は全て取り上げられ、体には魔力を封じる枷が嵌められていた。完全に、無力化されている。

そして、部屋の最奥。
数段高くなった壇上の、巨大な黒曜石の玉座に、一人の青年が座っていた。
漆黒の礼装を纏い、片肘をついて、まるで退屈そうにこちらを見下ろしている。その黒い瞳は、深淵のように静かで、一切の感情を読み取ることができない。
その両脇には、先ほど森で遭遇した隻眼の竜人将軍と、フードを目深に被った不気味な魔術師が、石像のように控えている。

「……ようこそ、我が城へ。エルトリア王国の騎士たちよ」

玉座の青年――魔王レオンが、静かに口を開いた。その声は、若々しいながらも、絶対的な王の威厳に満ちていた。

アルフレッドは、ゆっくりと立ち上がった。そして、部下たちを背後に庇うようにして、魔王の前に進み出た。彼は、騎士としての誇りを失うことなく、毅然とした態度で魔王を見据えた。

「……貴公が、魔王か」

「いかにも」

「見事な手際だ。我々は、完全に裏をかかれた。このアルフレッド、生涯の不覚だ」
アルフレッドは、潔く敗北を認めた。
「我々は、貴公の捕虜となった。殺すなり、煮るなり、好きにするがいい。だが、どうか我が部下たちには、慈悲を」

その言葉に、部下たちが「隊長!」と悲痛な声を上げる。

だが、俺は、アルフレッドのその態度を、鼻で笑った。

「慈悲、だと?」
俺は、玉座からゆっくりと立ち上がった。
「お前たち人間が、これまで我ら魔族に、一度でも慈悲をかけたことがあったか?」

俺の声は、静かだが、部屋の空気を凍らせるほどの冷たい怒りに満ちていた。

「お前たちは、我らを『悪』と断じ、一方的に狩り、殺し、その土地を奪ってきた。女子供であろうと、容赦はしなかった。違うか?」

アルフレッドは、言葉に詰まった。それは、紛れもない事実だったからだ。人間と魔族の長きにわたる闘争の歴史は、常に人間の勝利と、魔族の犠牲の上に成り立ってきた。

「……それが、世界の理だ。弱者は、強者に淘汰される。それだけの、ことだ」
アルフレッドは、苦しげに答えた。

「その通りだ」
俺は、彼の言葉を肯定した。そして、不敵に笑う。
「ならば、今、この瞬間から、その理は覆る。これより先は、我々が『強者』で、お前たちが『弱者』だ。文句は、ないな?」

俺の言葉に、アルフレッドは何も言い返せなかった。
力こそが正義。それは、彼ら騎士が信奉してきた、揺るぎない信条だったからだ。

「さて」
俺は、壇上を降り、彼らの前に立った。
「お前たちは、情報を求めてここに来た。ならば、くれてやろう。お前たちが知りたがっている、我が魔王軍の『力』というものを」

俺が指を鳴らすと、部屋の壁が、幻影のように透け始めた。
壁の向こうに映し出されたのは、この魔王城の、そして魔王領の、現在の姿だった。

アルフレッドたちは、息を呑んだ。
そこには、彼らの想像を絶する光景が広がっていた。

巨大な地下工房で、ゴーレムたちが黙々と新たな武具を生産している様子。
訓練場で、オークと竜人族の混成部隊が、完璧な連携で模擬戦を行っている光景。
研究室で、デーモンの魔術師たちが、新たな魔法兵器の開発に没頭している姿。
そして、城の麓に広がる集落で、様々な種族の魔族たちが、平和に、そして活気に満ちて暮らしている日常。

「……馬鹿な……」
副隊長のゲルハルトが、信じられないといった声で呟いた。
「これが……魔王軍……? 我々が戦ってきた、あの混沌とした魔物の群れとは、全く違う……。これは、一つの……『国家』だ……」

その通りだ。
俺が見せたかったのは、単なる軍事力ではない。
兵站、技術開発、そして、多種族が共存する社会システム。それら全てが有機的に結びついた、強固な『国』としての力。

「……お前たちの王国が、内輪の権力闘争で腐っている間に、我々はここまで来た」
俺は、静かに告げた。
「もはや、お前たちがどう足掻こうと、この流れを止めることはできない。人間たちの時代は、終わったのだ」

アルフレッドと彼の部下たちは、完全に沈黙していた。
彼らの顔には、敗北感よりも深い、絶対的な価値観が覆されたことによる、根源的な絶望の色が浮かんでいた。
彼らが信じてきた世界の秩序が、今、目の前で崩れ去っていく。

俺は、彼らにとどめを刺すように、最後の『情報』を見せた。
壁に映し出されたのは、忘却の図書館の、無限に広がる書庫だった。

「……これは……伝説の、忘却の図書館……!?」
アル-フレッドが、愕然として叫んだ。
「なぜ、魔王がこれを……!?」

「俺は、この図書館の全ての知識を継承した」
俺は、静かに事実を告げる。
「お前たちが、何百年もかかって築き上げてきた文明の歴史。その全てが、俺の頭の中にある。お前たちの考えること、これからやろうとすること、その全ては、俺の手のひらの上だ」

圧倒的な、軍事力。
盤石な、国家体制。
そして、世界の理さえも掌握する、無限の知識。

アルフレッドたちは、ようやく理解した。
自分たちが敵対している相手が、いかに規格外で、いかに絶望的な存在であるかを。
これは、もはや戦争ですらない。抗うこと自体が、無意味なのだ。

「……我々の負けだ」
アルフレッドは、力なくその場に膝をついた。騎士としての誇りも、生きる気力さえも、完全にへし折られていた。
彼の部下たちも、同様に、ただうなだれることしかできなかった。

俺は、その光景に満足し、壁の幻影を消した。
部屋は、再び薄暗い静寂に包まれる。

「……さて、騎士団長殿」
俺は、膝をつくアルフレッドに語りかけた。
「お前を、どうしてくれようか」

その声は、死刑執行人の冷酷な響きを持って、彼らの耳に届いた。
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