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第97話 二人の英雄
しおりを挟む俺が次に意識を取り戻した時、そこは王城ノヴァの地下にある祭壇の間だった。魔法陣の青白い光は消え、代わりに側近たちの安堵に満ちた顔が目に飛び込んできた。
「陛下! お目覚めになられましたか!」
ヴェスパーの狼狽した声。ガロウの安堵の唸り声。そして、俺の手にそっと触れ、涙を浮かべているリリアナ。
俺の体は鉛のように重かったが、精神の崩壊は免れたようだった。
「……紬は……」
俺が最初に発した言葉は、彼女の名前だった。
ハッとして隣の白い椅子を見る。
そこには、俺と同じようにぐったりと、しかし確かに呼吸をしている紬の姿があった。彼女の肉体もまた、この場所へと無事に戻っていたのだ。
「……よかった……」
心の底から安堵のため息が漏れた。
俺たちが戻ってから三日が経過していたこと、そして世界の歪みが完全に消滅したことをヴェスパーから聞かされた。俺と紬は、世界を救った英雄として帰還したのだ。
紬が目を覚ましたのは、その日の夕刻だった。
俺は彼女の部屋を訪れた。二人きりの部屋に、少しだけ気まずい沈黙が流れる。
「……ありがとう」
先に口を開いたのは俺だった。
「お前がいなければ、俺は負けていた。世界は終わっていた」
「ううん」
紬は力なく、しかしはっきりと首を横に振った。
「私こそ……。ありがとう、レオンくん。私を一人で行かせないでくれて」
彼女は俺を「レオン様」ではなく、かつての教室での呼び名で呼んだ。その響きが、俺たちの間にあった壁を少しだけ溶かした気がした。
俺たちは多くの言葉を交わさなかった。だが、それで十分だった。精神の海で魂を重ね合わせた俺たちには、言葉以上の深い理解と絆が生まれていた。
その報はすぐに大陸中に広まった。
『観測者』という世界の脅威が去ったこと。そして、それを打ち破ったのが魔王レオンだけでなく、人間である一人の治癒師、白石紬との共闘によるものであったこと。
その事実は、人間と魔族の共存という理想に、何よりの力強い裏付けを与えた。
魔王と聖女。二人の英雄の物語は、吟遊詩人によって瞬く間に大陸中に歌い広められていった。
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