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第98話 託された世界、共に歩む道
しおりを挟む世界の危機が去り、再び平和条約のための会談が開かれた。
だが、その雰囲気は以前のものとは全く違っていた。人間側の代表であるアルフレッドたちの顔には、もはや魔族への警戒心はなく、共に戦った戦友に対する敬意と信頼が浮かんでいた。
そして、その会談の席には、俺の隣に白石紬の姿があった。
彼女の存在は、人間と魔族の架け橋として絶大な効果を発揮した。彼女が時折口にする、人間側の視点に立った穏やかな意見は、頑なだった貴族たちの心をも和らげていった。
条約は滞りなく締結された。
それはもはや単なる不可侵条約ではなかった。経済、文化、そして安全保障。あらゆる面で手を取り合う、真の同盟関係の始まりだった。
クラスメイトたちの帰還の日もやってきた。
元の世界へ帰る者、この世界に残る者。それぞれの選択は、以前の歴史と同じだった。
だが、その別れには悲壮感はなかった。
聖女だった栞は、帰還を選ばず、この世界で新たな道を歩むことを決めた紬の姿を見て、自らも彼女を手伝うことを申し出た。
「私も、誰かのために生きたいから」
そう言って微笑んだ彼女の顔は、憑き物が落ちたように晴れやかだった。
帰る者も、残る者も、誰もが紬に感謝の言葉を述べた。
「白石さん、ありがとう」
「君がいてくれて、よかった」
かつて傍観者として罪悪感に苛まれていた少女は、今やかつての仲間たちにとっての希望の象徴となっていた。
全てのクラスメイトを見送った後、俺は紬と共に城のバルコニーに立っていた。
「……よかったのか? 帰らなくて」
俺が問うと、彼女は静かに首を横に振った。
「私の居場所は、もうここだから」
彼女は眼下に広がるアーク・ノヴァの街並みを見つめた。
「それに……」
彼女は少しだけ頬を赤らめ、俺の顔を見上げた。
「あなたのいない世界に帰っても、きっと意味がないから」
その言葉に、俺は何も答えられなかった。
ただ、彼女のその手を、強く握り返すことしかできなかった。
俺たちが共に歩む道は、今始まったばかりだった。
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