お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ

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第40話:イザベラの限界

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バークレイ王国の王城は、かつての華やぎを失い、重苦しく淀んだ空気に包まれていた。
原因不明の疫病は王都の富裕層にも広がり始め、夜な夜な現れる魔物の脅威に、人々は怯えて暮らしている。その元凶が、王家がリリアーナを追放したことにあるという噂は、もはや抑えきれないほどに民衆の間に浸透していた。

「どうなっているのだ、イザベラ! お前の癒やしの力は、まだ効果を発揮しないのか!」
玉座の間で、セドリック王子は苛立ちを隠しもせず、一人の少女を詰問していた。
その前に立つのは、男爵令嬢イザベラ・ロセッティ。かつては「宮廷の天使」ともてはやされた彼女も、今やその顔には疲労と焦りの色が濃く浮かんでいた。

「も、申し訳ございません、セドリック様……。わたくし、毎日、病に苦しむ方々のために祈りを捧げ、力を注いでおります。ですが、この病はあまりにも邪悪で……」
イザベラは涙を浮かべ、か細い声で弁明した。その可憐な姿に、以前のセドリックならばすぐに心を動かされただろう。しかし、今の彼には、その涙さえも無能さの言い訳にしか聞こえなかった。

彼の寵愛を受け、次期王太子妃の座も夢ではないと信じていたイザベラにとって、この状況は悪夢そのものだった。
彼女の持つ癒やしの力は、本物ではあった。しかし、それは健康な人間の軽い疲労や、小さな切り傷の痛みを和らげる程度の、ごく微弱なもの。魔瘴という、国土そのものを蝕む邪悪なエネルギーの前では、コップ一杯の水を大火事に注ぐようなもので、全くの無力だった。

それどころか、魔瘴に汚染された患者に下手に力を注ぐと、かえって瘴気を活性化させてしまうことさえあった。彼女が「治療」した兵士が、翌日になってさらに容態を悪化させる。そんな事例が相次ぎ、かつて彼女を天使と崇めた者たちからも、冷たい疑念の視線が向けられるようになっていた。

「言い訳は聞きたくない! お前は、リリアーナよりも優れた癒やし手だと言ったではないか!」
セドリックの怒声が、玉座の間に響き渡る。
リリアーナ。
その名前が出た瞬間、イザベラの顔が憎悪に歪んだ。
あの地味で、陰気で、何の取り柄もない女。自分が追い出してやったはずの女の影が、今になって亡霊のように自分を苦しめている。

「あの方の力など、まやかしですわ! きっと、何か邪悪な魔術でも使っていたに違いありません!」
イザベラは必死に叫んだ。
「わたくしの力こそが、清く正しい聖なる力なのです! この国の穢れが、強すぎるだけで……!」

しかし、その言葉は、もはや誰の心にも響かなかった。
玉座の間に控える大臣たちも、冷ややかな目つきで彼女を見ているだけだ。彼らは皆、心の底では気づいていた。本物はどちらだったのか。そして、自分たちがどれほど大きな過ちを犯したのかを。

セドリックは、苛立ちのあまり玉座の手すりを強く殴りつけた。
「くそっ……! あの女さえいれば……!」
無意識のうちに漏れ出た後悔の言葉。それを聞いたイザベラの顔から、さっと血の気が引いた。
セドリックが、自分ではなく、リリアーナを求めている。その事実は、彼女のプライドを粉々に打ち砕いた。

「わたくしは……わたくしは、まだやれます!」
イザベラは、最後の望みを託すように、セドリックに食い下がった。
「もっと、もっと強い祈りを捧げれば、きっと神は応えてくださいます! ですから、どうか、もう一度だけチャンスを……!」

しかし、セドリックはもう、彼女の顔さえ見ていなかった。
彼の頭の中は、失って初めて気づいたリリアーナの価値と、彼女を追放した自分への非難の声でいっぱいだった。
どうすれば、この状況を覆せるのか。どうすれば、失ったものを取り戻せるのか。
その答えが、隣国エルミート帝国にあるという噂を、彼はまだ知らなかった。

イザベラは、セドリックの冷たい沈黙に、自分の限界と終わりを悟った。
偽りの輝きは、本物の闇の前では、あまりにも無力だった。
彼女が築き上げてきた砂上の楼閣は、今、音を立てて崩れ落ちようとしていた。
そして、その崩壊は、彼女一人のものではなく、この国そのものの崩壊へと繋がっていく。
その絶望的な未来を、玉座の間にいる誰もが、暗黙のうちに予感していた。
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