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第59話:呪いと教団
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レオナルドによる尋問は苛烈を極めた。
闇の教団の暗殺者はその精神を狂信によって固めていたが、帝国騎士団が誇る尋問の専門家たちの前ではそれも長くは続かなかった。数日後、彼の砕け散った精神から断片的ではあるが極めて重要な情報が引き出された。
アシュレイは執務室でレオナルドからの最終報告書に目を通していた。
その表情は普段にも増して険しく、部屋の空気は凍りつくほどに張り詰めている。
報告書には闇の教団の組織体系、いくつかの潜伏先の候補地、そして彼らの崇める『神』の正体に関する記述があった。それは古代に封印されたとされる、魔瘴そのものを神格化した邪神の名だった。
しかしアシュレイの目を釘付けにしたのは、報告書の最後の一文だった。
そこには尋問の最後に暗殺者が呟いたという、うわ言のような言葉が記されていた。
『氷の皇子も……いずれは我らの同胞となる……教祖様が与えし聖痕の呪いは……そのための……楔……』
聖痕の呪い。
その言葉を目にした瞬間、アシュレイの全身を見えない電流が貫いた。
五歳の時に受けたあの呪い。
あれもまた、闇の教団の仕業だった。
「……そうか」
アシュレイの口から、低い地を這うような声が漏れた。
「……そういうことか」
全てが繋がった。
あの呪いは単なる次期皇帝への嫌がらせや無力化を狙ったものではなかった。
もっと深く、邪悪な目的があったのだ。
感情が昂るたびに呪いが活性化し、激痛が走る。
その苦痛から逃れるため、アシュレイは十七年間感情を殺し、心を氷で閉ざしてきた。
しかし、もし感情を殺しきれず絶望と憎しみに心が染まった時、この呪いはどうなるのか。
答えは明らかだった。
呪いは宿主の負の感情を糧とし、その魂を内側から蝕み、やがては魔瘴の眷属へと変貌させる。
暗殺者の言った『同胞』とは、そういう意味だったのだ。
アシュレイは闇の教団の計画の、恐るべき全貌を理解した。
帝国の次期皇帝を自分たちの傀儡、あるいは強力な魔人として手に入れる。そうなれば帝国は内側からいとも容易く崩壊し、彼らの『大いなる浄化』計画は盤石のものとなる。
リリアーナが現れなければ、自分はいつかその罠に嵌っていたのかもしれない。呪いの苦痛に耐えきれず、絶望に心を支配された時、自分は人間ではなくなっていたかもしれない。
その想像はアシュレイの背筋を凍らせた。
同時に彼の心の奥底から、かつてないほどの激しい怒りがマグマのように沸き上がってきた。
自分の人生を十七年間も弄んできた者たち。
そして今、自分の唯一の光であるリリアー-ナさえも奪おうとしている者たち。
許さない。
絶対に、許さない。
アシュレイは報告書を握る手に力を込めた。上質な羊皮紙がギリギリと悲鳴を上げる。
「レオナルド」
「はっ」
「教団の潜伏先の候補地、全てに部隊を派遣しろ。たとえ蟻一匹でも奴らの痕跡を見つけ出せ。本拠地の特定を最優先とする」
「御意!」
レオナルドが部屋を出て行くと、アシュレイは一人椅子に深く身を沈めた。
そして自分の胸にそっと手を当てる。
リリアーナの治療によって呪いの力はかなり弱まっている。しかしその根はまだ、彼の魂の奥深くに食い込んだままだ。
これが闇の教団が自分に打ち込んだ楔。
そしてリリアーナは、その楔を抜くことができる唯一の存在。
だからこそ奴らは彼女を狙う。
彼女を殺すか、あるいは捕らえてその力を悪用する。
どちらにしても自分から彼女を奪おうとしていることに変わりはない。
守らなければ。
彼女の身も、その力も、全て。
そのためにはもう躊躇している時間はない。
闇の教団というこの大陸を蝕む癌を、根源から断ち切る必要がある。
アシュレイはゆっくりと立ち上がった。
そして窓の外に広がる平和な帝都の景色を見下ろす。
その向こうに、彼が愛する少女のいる離宮が見えた。
彼はその穏やかな光景を守るためならば、鬼にでも悪魔にでもなる覚悟を決めていた。
自分の呪いと闇の教団。
二つの因縁がリリアーナという一点で交わった。
もはやこれは個人的な復讐ではない。
帝国の、そして大陸の未来を懸けた光と闇の避けられぬ戦い。
氷の皇子は、その戦いの先頭に立つべく静かに、そして冷徹に、その爪を研ぎ澄まし始めた。
闇の教団の暗殺者はその精神を狂信によって固めていたが、帝国騎士団が誇る尋問の専門家たちの前ではそれも長くは続かなかった。数日後、彼の砕け散った精神から断片的ではあるが極めて重要な情報が引き出された。
アシュレイは執務室でレオナルドからの最終報告書に目を通していた。
その表情は普段にも増して険しく、部屋の空気は凍りつくほどに張り詰めている。
報告書には闇の教団の組織体系、いくつかの潜伏先の候補地、そして彼らの崇める『神』の正体に関する記述があった。それは古代に封印されたとされる、魔瘴そのものを神格化した邪神の名だった。
しかしアシュレイの目を釘付けにしたのは、報告書の最後の一文だった。
そこには尋問の最後に暗殺者が呟いたという、うわ言のような言葉が記されていた。
『氷の皇子も……いずれは我らの同胞となる……教祖様が与えし聖痕の呪いは……そのための……楔……』
聖痕の呪い。
その言葉を目にした瞬間、アシュレイの全身を見えない電流が貫いた。
五歳の時に受けたあの呪い。
あれもまた、闇の教団の仕業だった。
「……そうか」
アシュレイの口から、低い地を這うような声が漏れた。
「……そういうことか」
全てが繋がった。
あの呪いは単なる次期皇帝への嫌がらせや無力化を狙ったものではなかった。
もっと深く、邪悪な目的があったのだ。
感情が昂るたびに呪いが活性化し、激痛が走る。
その苦痛から逃れるため、アシュレイは十七年間感情を殺し、心を氷で閉ざしてきた。
しかし、もし感情を殺しきれず絶望と憎しみに心が染まった時、この呪いはどうなるのか。
答えは明らかだった。
呪いは宿主の負の感情を糧とし、その魂を内側から蝕み、やがては魔瘴の眷属へと変貌させる。
暗殺者の言った『同胞』とは、そういう意味だったのだ。
アシュレイは闇の教団の計画の、恐るべき全貌を理解した。
帝国の次期皇帝を自分たちの傀儡、あるいは強力な魔人として手に入れる。そうなれば帝国は内側からいとも容易く崩壊し、彼らの『大いなる浄化』計画は盤石のものとなる。
リリアーナが現れなければ、自分はいつかその罠に嵌っていたのかもしれない。呪いの苦痛に耐えきれず、絶望に心を支配された時、自分は人間ではなくなっていたかもしれない。
その想像はアシュレイの背筋を凍らせた。
同時に彼の心の奥底から、かつてないほどの激しい怒りがマグマのように沸き上がってきた。
自分の人生を十七年間も弄んできた者たち。
そして今、自分の唯一の光であるリリアー-ナさえも奪おうとしている者たち。
許さない。
絶対に、許さない。
アシュレイは報告書を握る手に力を込めた。上質な羊皮紙がギリギリと悲鳴を上げる。
「レオナルド」
「はっ」
「教団の潜伏先の候補地、全てに部隊を派遣しろ。たとえ蟻一匹でも奴らの痕跡を見つけ出せ。本拠地の特定を最優先とする」
「御意!」
レオナルドが部屋を出て行くと、アシュレイは一人椅子に深く身を沈めた。
そして自分の胸にそっと手を当てる。
リリアーナの治療によって呪いの力はかなり弱まっている。しかしその根はまだ、彼の魂の奥深くに食い込んだままだ。
これが闇の教団が自分に打ち込んだ楔。
そしてリリアーナは、その楔を抜くことができる唯一の存在。
だからこそ奴らは彼女を狙う。
彼女を殺すか、あるいは捕らえてその力を悪用する。
どちらにしても自分から彼女を奪おうとしていることに変わりはない。
守らなければ。
彼女の身も、その力も、全て。
そのためにはもう躊躇している時間はない。
闇の教団というこの大陸を蝕む癌を、根源から断ち切る必要がある。
アシュレイはゆっくりと立ち上がった。
そして窓の外に広がる平和な帝都の景色を見下ろす。
その向こうに、彼が愛する少女のいる離宮が見えた。
彼はその穏やかな光景を守るためならば、鬼にでも悪魔にでもなる覚悟を決めていた。
自分の呪いと闇の教団。
二つの因縁がリリアーナという一点で交わった。
もはやこれは個人的な復讐ではない。
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