Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第18話 訳ありの女騎士

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アークライトの街へと続く道は、以前と同じだった。乾いた土の道が地平線まで続き、時折、行商人の荷馬車が砂埃を上げて通り過ぎていく。しかし、その道を歩くアレンの心境は、かつてこの道を逃げるように歩いた時とは全く異なっていた。

足取りは力強く、迷いはない。背筋はまっすぐに伸び、その目は遥か前方の街を捉えている。彼の内には、守るべき故郷と、待っていてくれる少女の存在があった。それだけで、世界は全く違って見えた。追放されたヒーラーの絶望は、もうそこにはない。あるのは、明確な目的を持った一人の男の、静かな覚悟だけだった。

数日後、アークライトの高い城壁が再び彼の眼前に姿を現した。衛兵は彼の顔を覚えていなかった。当たり前だ。数多いる冒険者の一人、それも落ちぶれた男のことなど、誰も気にも留めない。彼は何の咎めもなく、人々の喧騒に満ちた街へと足を踏み入れた。

向かう先は一つ。冒険者ギルドだ。
かつて屈辱を味わった場所。心ない噂話と嘲笑が渦巻いていた忌まわしい記憶の場所。普通なら、二度と近づきたくもないはずだ。しかし、アレンは躊躇わなかった。ここから逃げ出した自分に、決着をつけるために。そして、新たな一歩を踏み出すために。

ギルドの重い扉を開ける。昼間だというのに薄暗い室内。酒と汗の匂い。がなり立てるような冒険者たちの声。全てが以前のままだ。
アレンが入ってきたことに、何人かが一瞥をくれた。しかし、小綺麗な旅装束に身を包み、堂々と歩く彼が、以前のボロボロの男と同一人物だとは誰も気づかない。それで良かった。

彼はまっすぐ受付カウンターへ向かった。そこにいたのは、幸か不幸か、以前と同じ栗色の髪の女性職員だった。彼女はアレンの顔を見ると、一瞬だけ「あれ?」という表情を浮かべたが、思い出せないようだった。

「ご用件は?」
事務的な声だった。
「パーティメンバーの募集をしたい」
アレンは簡潔に告げた。女性職員は少し驚いた顔をした。一人でパーティを立ち上げる者は、そう多くないからだ。

「承知しました。こちらの用紙にご記入ください。募集要項は、そちらの掲示板に貼り出されます」

渡された羊皮紙に、アレンは羽ペンを走らせた。

『パーティメンバー募集』
『当方ヒーラー。前衛職、特に防御に優れた剣士または戦士を一名求む』
『ランク不問。ただし、実力と協調性を重視する』
『過去は問わない。共に高みを目指せる意志ある者を歓迎する』
『面談希望者は、ギルド職員まで』
『アレン』

書き終えた用紙を職員に渡す。彼女は内容にさっと目を通すと、少し怪訝な顔でアレンを見た。
「……失礼ですが、アレン様は、以前【熾天の剣】に所属されていた方では?」
どうやら名前で思い出したらしい。
「今は違う」
アレンは短く答えた。その動じない態度に、職員はそれ以上何も聞けなかった。彼女はただ「承知しました」と言うと、募集用紙を受け取り、掲示板へと貼り出しに行った。

掲示板には、すでに多くの依頼書や募集の貼り紙が隙間なく貼られている。アレンの小さな紙切れは、その中にあってひどく目立たないものだった。
案の定、貼り紙を見た冒険者たちが、ひそひそと噂を始めた。

「おい、アレンだってよ。【熾天の剣】を追い出されたっていう」
「一人でパーティ作る気か。無謀なやつだ」
「ヒーラーがリーダーのパーティなんて、誰が入りたがるかよ。ましてやヒールしか使えないって話だぜ」

冷ややかな視線と、侮蔑を含んだ囁き。以前の彼なら、その場にいることすら耐えられなかっただろう。
だが、今の彼は違った。
(好きに言わせておけ)
アレンは彼らに一瞥もくれず、ギルドに併設された酒場へと向かった。すぐに応募者が来るとは思っていない。ここで情報を集めるのが先決だった。

彼はカウンターの隅に席を取り、硬いパンと干し肉のスープを注文した。食事をしながら、周囲の会話に注意深く耳を澄ませる。冒険者たちが集う酒場は、情報の宝庫だ。ダンジョンの最新情報、高額な依頼の噂、そして、腕利きの冒険者の評判。

しばらく聞き耳を立てていると、隣のテーブルに座った屈強な男たちの会話が、彼の注意を引いた。
「聞いたか?昨日、『紅蓮の酒場』でまたソフィアが暴れたらしいぜ」
「ああ、あの赤髪のか。勘弁してほしいよな。こっちが気持ちよく飲んでるってのに」

ソフィア。聞き慣れない名だ。

「だが、腕は確かだからな。あのチンピラども、五人がかりでいったのに、全員叩きのめされたって話だ」
男は楽しそうに、エールを呷った。
「馬鹿だな、あいつらも。あの女に絡むからそうなるんだ。なんでも、元は王国騎士団でも指折りのエリートだったらしいぜ」
「騎士団?そんな奴が、なんでこんな街でくすぶってるんだ?」
「さあな。なんでも、貴族の揉め事に巻き込まれて、不名誉な形で追放されたとか……。それで自棄になって、酒浸りの毎日ってわけだ。惜しいよな、あの剣の腕は本物なのに」

もう一人の男が、呆れたようにため息をついた。
「だが、あんなのとパーティは組めねえよ。いつキレるか分かったもんじゃねえ。それに、酒癖が悪すぎる。前に組んだ奴らも、報酬のことで揉めて斬りかかられたって言ってたぜ」

元王国騎士団。卓越した剣技。そして、訳あり。
その言葉の数々が、アレンの心に深く突き刺さった。
ランクや評判だけで仲間を選んでいては、ろくなことにならない。それは、かつてのパーティで嫌というほど学んだことだ。本当に必要なのは、確かな実力と、そして、心の奥底に燻る何かを抱えた人間かもしれない。自分と同じように、傷を負い、居場所を失った人間となら、あるいは。

アレンは静かに食事を終えると、席を立った。そして、先程の男たちがいたテーブルへ近づき、まだ残っていた一人に声をかけた。

「少し、いいか」
男は訝しげにアレンを見上げた。
「なんだ、あんた」
「さっき話していた、ソフィアという女騎士に興味がある。どこに行けば会えるか、知らないか」

男はアレンの顔をじろじろと見ると、面倒くさそうに吐き捨てた。
「あんたも物好きだな。やめとけ、やめとけ。あの女に関わると火傷するぜ。どうしてもってんなら、『紅蓮の酒場』にでも行ってみな。日が暮れる頃には、大抵カウンターで安酒を呷ってるさ」

礼を言って、アレンはその場を離れた。
『紅蓮の酒場』。アークライトの、治安が悪いとされる地区にある酒場だ。
普通の冒険者なら、関わり合いになりたがらないだろう。だが、アレンの心は決まっていた。
過去は問わない。募集要項にそう書いたのは、自分自身だ。ならば、自分の目で確かめるまでだ。噂が真実か、それとも誇張されたものか。そして、その剣は本物なのかを。

ギルドを出ると、空はすでにオレンジ色に染まり始めていた。
アレンは、男に教えられた酒場の場所を思い出しながら、雑多な人々の間を抜けて歩き出した。
新たな仲間探しの第一歩は、予想もしない形で始まった。それは、誇りを失った一人の女騎士との出会いへと、彼を導こうとしていた。
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