Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第19話 誇りと挫折

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『紅蓮の酒場』は、アークライトの裏通りにひっそりと佇んでいた。年季の入った木の扉は軋み、中からは怒号と下品な笑い声、そして安酒の酸っぱい匂いが漏れ出してくる。お世辞にも上品とは言えない、荒くれ者たちの巣窟。それが第一印象だった。

アレンは一瞬ためらったが、意を決して扉を押した。
ギィ、と嫌な音を立てて扉が開くと、中の視線が一斉に新参者に突き刺さる。値踏みするような、敵意に満ちた視線。だが、アレンはそれに臆することなく、堂々と店内へ足を踏み入れた。

酒場の中は薄暗く、紫煙が立ち込めている。テーブルでは腕っぷしの強そうな男たちがカード賭博に興じ、カウンターでは見るからに素性の悪そうな連中が酒を酌み交わしていた。
アレンはその中をゆっくりと進み、カウンターの隅に座る一人の人物に目を留めた。

長い、燃えるような赤髪を無造作に束ね、着古した革鎧の上からくたびれたマントを羽織っている。女性としては背が高く、その体つきは鍛え上げられているのが一目で分かった。テーブルの上には空になったエールのジョッキがいくつも転がり、彼女は手にした新たな一杯を、水でも飲むかのように呷っていた。
顔立ちは整っているが、その瞳はひどく荒んでおり、近寄る者全てを拒絶するような雰囲気を纏っている。
間違いない。この女が、ソフィアだ。

アレンは静かに彼女の隣の席に腰を下ろした。ソフィアは一瞥もくれず、ただ虚空を見つめて酒を飲み続けている。

「マスター、エールを一つ」
アレンが注文すると、傷だらけの顔をした恰幅のいいマスターが、黙って泡の立ったジョッキを彼の前に置いた。

しばらく、沈黙が続いた。アレンはエールを一口飲み、どう切り出すべきかと言葉を探す。
先に沈黙を破ったのは、ソフィアの方だった。

「……何の用だ」
視線はこちらに向けないまま、低い、少し掠れた声で呟いた。
「俺の隣に座るなんざ、よほどの物好きか、命知らずか、あるいはただの馬鹿か。あんたはどれだ?」

その声には、刺々しい棘があった。
「ただの冒険者だ」
アレンは平静を装って答えた。
「あなたに興味があって来た」

その言葉に、ソフィアは初めてアレンの方へ顔を向けた。その瞳は、獲物を射る猛禽のように鋭い。

「興味?ふん、くだらん。俺を口説こうってんなら、顔と度胸は及第点だが、見る目がないな。俺は安くないぜ」
彼女はそう言って、嘲るように唇の端を吊り上げた。自暴自棄になっている人間の、痛々しい虚勢だった。

「口説きに来たわけじゃない。パーティに誘いに来た」
アレンは単刀直入に本題を切り出した。
その瞬間、ソフィアの表情から嘲りが消え、代わりに深い侮蔑の色が浮かんだ。彼女は心底おかしいというように、喉の奥でくつくつと笑い始めた。

「パーティ?俺を?はっ、正気かあんた。俺の評判を知らないのか?仲間殺しだの、騎士団の面汚しだの、ロクな噂は聞かないはずだがな」

「噂は聞いた。だから来たんだ」

アレンの真摯な答えに、ソフィアの笑いがぴたりと止まった。彼女は怪訝な目で、アレンの顔をじっと見つめる。

「あんたの剣の腕は本物だと聞いた。俺は、確かな実力を持つ前衛を探している」

「……断る」
ソフィアは即答した。そして、再びジョッキを呷ると、興味を失ったように視線を逸らした。
「俺はもう、誰かと馴れ合うつもりはない。一人の方が気楽でいい」

それは、本心からの拒絶というよりは、これ以上傷つきたくないという臆病な自己防衛のようにアレンには聞こえた。

「本当にそうか?」
アレンは静かに問いかけた。
「あなたのその手を見れば、剣を捨てきれていないことくらい分かる」

アレンの視線は、カウンターに置かれたソフィアの右手に注がれていた。その手は節くれ立ち、いくつもの古い傷跡が刻まれている。そして何より、剣を握る部分にできた硬いタコは、彼女が今でも鍛錬を欠かしていないことを雄弁に物語っていた。

図星を突かれたのか、ソフィアはびくりと手を引っ込めた。その瞳に、一瞬だけ動揺の色が走る。

「……うるさい。あんたに何が分かる」

「俺も、あんたと同じだからな」
アレンは、ふっと自嘲気味に笑った。
「信じていた仲間に裏切られ、全てを失って、パーティを追い出された。無能だと、足手まといだと罵られてな」

その告白に、ソフィアは目を見開いた。彼女はアレンの姿を改めて見直す。小綺麗な旅装束を着てはいるが、その瞳の奥には、自分と同じ種類の深い絶望を乗り越えてきた者だけが持つ、静かな光が宿っていた。

「……あんた、もしかして……ギルドに貼り紙を出してた、あのアレンか?」
「そうだ」

ソフィアはしばらく黙り込んだ。ギルドでの噂は、彼女の耳にも届いていた。Sランクパーティを追放された、無能なヒーラー。その男が今、目の前で自分をパーティに誘っている。それは、あまりにも奇妙な組み合わせだった。

「……馬鹿なことを」
ソフィアは吐き捨てるように言った。
「落ちこぼれ同士で傷の舐め合いでもしろってのか?お断りだね。俺は、誰の同情もいらん」

「同情じゃない。俺は、あなたの剣が必要なんだ」

アレンはまっすぐにソフィアの目を見つめて言った。
「あなたの剣は、こんな酒場で腐らせるにはあまりにも惜しい。その剣は、誰かを守るためにあるべきだ。誇りを取り戻したいとは思わないのか?」

「誇り、だと……?」
ソフィアはその言葉に、激しく反応した。彼女はジョッキをカウンターに叩きつけ、ガタンと音を立てて立ち上がった。その瞳には、怒りと悲しみが入り混じった、激しい炎が燃え盛っていた。

「誇りなど、とうの昔に捨てた!あのクソ貴族どもに、騎士の誓いごと踏みにじられた日にな!あんたに、俺の何が分かるって言うんだ!」

彼女の怒声に、酒場中の視線が二人に集まる。マスターがやれやれという顔で首を振った。
ソフィアは荒い息をつきながら、アレンを睨みつけた。その姿は、まるで追い詰められた獣のようだった。誇りを失い、自暴自棄になりながらも、その実、誰よりも誇りに執着している。そんな彼女の心の叫びが、アレンには痛いほど伝わってきた。

アレンは、彼女の激昂にも動じなかった。彼は静かに立ち上がると、ソフィアに向かって、予想外の言葉を口にした。
「なら、証明して見せろ。あんたの誇りが、まだ死んでいないということを」
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