Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第22話 ソフィアの過去

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ソフィアの全身から放たれる闘気が、夜の空気を震わせた。彼女の長剣が淡い紅蓮の光を纏い始める。それは彼女が騎士団時代に習得した、生命力を燃焼させて放つ奥義。その一撃に、彼女は残された誇りの全てを懸けていた。

「――喰らえ!《クリムゾン・ファング》!」

獣の牙を思わせる鋭い踏み込みと共に、ソフィアの姿が赤い閃光と化した。狙うはアレンの心臓。ただ一点。回避も防御も許さない、必殺の一撃。
野次馬たちは息を呑み、マスターは思わず目を逸らした。あの技は、騎士団の模擬戦で魔物役のゴーレムを粉砕したという逸話を持つ、ソフィアの代名詞とも言える剣技だったからだ。

だが、アレンは動かなかった。
彼は無防備に広げた腕をゆっくりと胸の前に戻し、紅蓮の牙が迫るその軌道上に、人差し指と中指の二本を静かに差し出した。
狂気の沙汰だった。鋼鉄の剣を、人間の指で止めようというのだから。

そして、運命の瞬間が訪れる。
紅蓮の刃が、アレンの指先に触れた。
キィン、という甲高い金属音が響き渡る。しかし、想像されたような肉が断ち切られる音はしない。
アレンの指は、まるで世界で最も硬い物質であるかのように、ソフィアの全力の一撃を、寸分の狂いもなく受け止めていた。

「な……に……!?」

ソフィアの目が、信じられないものを見るように見開かれる。剣先から伝わる衝撃は、岩を殴ったかのように硬く、そして重い。自分の全力の力が、いとも容易く止められている。

アレンは何も言わない。彼の指先から、スキルを発動した証である蒼い光が迸った。その光はソフィアの剣を伝い、まるで毒を浄化するかのように、刃に纏わりついていた紅蓮の闘気を霧散させていく。

(力が……抜けていく……!?)

ソフィアは愕然とした。剣に込めた生命力そのものが、アレンの指先から流れ込む力によって「癒され」、鎮められていくような感覚。戦うための力が、強制的に平穏な状態へと戻されていく。こんな現象は、彼女の知識の範疇を遥かに超えていた。

やがて、剣から完全に光が消え失せる。
カラン、と乾いた音がして、ソフィアの手から長剣が滑り落ちた。闘志を使い果たし、膝から力が抜けた彼女は、その場にがくりと崩れ落ちる。

模擬戦は、終わった。
アレンの、完全な勝利だった。

広場は、水を打ったように静まり返っていた。誰もが目の前で起きた超常現象を理解できず、ただ立ち尽くしている。
アレンは静かにソフィアの前に屈むと、彼女が落とした剣を拾い上げた。そして、それを彼女に差し出した。

「見事な剣だった。だが、その剣は少し、泣いているように見えた」

その言葉に、ソフィアは顔を上げた。その瞳には、もはや敵意はなく、ただ深い混乱と、敗北を認めた者の静けさがあった。

アレンは広場を囲む野次馬たちを一瞥した。その視線に射竦められた彼らは、蜘蛛の子を散らすように、そそくさと酒場の中へと戻っていった。
後に残されたのは、アレンとソフィア、そして遠くで成り行きを見守っていたマスターだけだった。

アレンはソフィアに肩を貸し、ゆっくりと立ち上がらせた。
「少し、話さないか」
ソフィアは何も答えず、されるがままにアレンに支えられ、酒場の中へと戻った。

カウンターには、いつの間にか新しいエールが二つ置かれていた。マスターからのサービスらしい。
二人は再び隣同士に座ったが、先程とは全く空気が違っていた。ソフィアは、まるで嵐が過ぎ去った後のように、ひどく静かだった。

しばらくの沈黙の後、彼女はぽつりと呟いた。
「……あんた、一体何者なんだ」
それは、純粋な疑問だった。
「言ったはずだ。ただのヒーラーだよ」
アレンの答えは変わらない。
「そんなヒーラーが、いるもんか……」

ソフィアは自嘲気味に笑うと、エールを一口飲んだ。そして、何かを決心したかのように、ゆっくりと語り始めた。

「俺は……王国騎士団の、第三騎士隊に所属していた。そこそこの家柄だったが、実力だけで副隊長の地位まで上り詰めた。我ながら、悪くない騎士人生だったと思う」

彼女の目は、遠い過去を見ていた。

「俺が仕えていたのは、辺境伯のクライヴ様だ。民を愛し、正義を重んじる、絵に描いたような高潔な方だった。俺は、あの人に心から忠誠を誓っていた」

しかし、その語り口に陰りが差す。

「だが、あの人の高潔さが、ある男の嫉妬を買った。公爵家の嫡男、バルドルという男だ。奴は権力欲の塊で、何かとクライヴ様を目の敵にしていた。そして、ある時、奴は卑劣な罠を仕掛けたんだ」

ソフィアは拳を強く握りしめた。その指の関節が白くなる。

「隣国との内通。反逆罪の濡れ衣だ。バルドルは偽りの証拠を次々と捏造し、クライヴ様を追い詰めた。俺たち第三騎士隊は、クライヴ様の無実を証明するために必死で動いた。だが、奴の権力はあまりにも強大で、俺たちの声はことごとく握り潰された」

彼女の声が、悔しさに震える。

「そして、奴は最後の仕上げに、俺を陥れた。俺がクライヴ様の密命を受けて、反逆の証拠を隠滅しようとした、と。その証拠として、俺の部屋から偽造された手紙が見つかった。もちろん、全ては奴が仕組んだことだ。だが、誰も俺の言葉を信じなかった。騎士団の上層部は、公爵家との対立を恐れて、早々に俺を切り捨てた」

「……」

「クライヴ様は、俺を庇おうとしてくれた。だが、俺がこれ以上抵抗すれば、今度こそクライヴ様自身の首が危うくなる。だから……俺は、全ての罪を被った。騎士の称号を剥奪され、不名誉除隊という形で、騎士団を追われた」

それが、ソフィアの過去だった。
信じていた正義に裏切られ、守るべき主君のために自らの誇りを捨てた。その絶望が、彼女を酒に溺れさせ、自暴自棄な日々へと追いやったのだ。

「それ以来だ。何もかも、どうでもよくなった。誇りも、仲間も、信じることさえも。全部馬鹿らしくなった。だから……あんたが『誇り』なんて言葉を口にした時、無性に腹が立ったんだ」

全てを語り終えたソフィアは、疲れ果てたように息を吐いた。
アレンは、黙って彼女の話を聞いていた。その目に、同情や憐れみの色はなかった。ただ、同じように全てを失った者だけが持つ、深い共感がそこにあった。

「そうか」
アレンは静かに頷いた。
「辛かったな」
その短い言葉には、どんな慰めよりも強い力が宿っていた。ソフィアは驚いてアレンの顔を見た。彼は、自分の痛みを、本当の意味で理解してくれている。そう感じた。

アレンは自分のジョッキを静かに置くと、ソフィアに向き直った。
「なら、話は早い」
彼の瞳に、再び強い光が宿る。
「その腐った貴族を、俺と一緒に叩き潰さないか?」
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