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第23話 パーティの盾
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「……叩き潰す、だと?」
ソフィアは、アレンのあまりにも突拍子もない提案に、呆気にとられた。
「何を言ってるんだ、あんた。相手は公爵家の嫡男だぞ。王国でも有数の権力者だ。俺たちみたいな、追放された者二人がどうにかできる相手じゃない」
その言葉には、かつての無力感と諦めが滲んでいた。彼女はもう、強大な権力に抗うことの無意味さを骨の髄まで思い知らされていたのだ。
「一人や二人じゃ無理だろうな」
アレンはあっさりとそれを認めた。
「だが、俺たちはこれから仲間を集める。あんたのような、確かな実力を持ちながら、世間から不当な扱いを受けている者をな」
「……」
「俺の力は見たはずだ。俺は、ただのヒーラーじゃない。俺がいれば、パーティは絶対に壊滅しない。どんな強敵が相手でも、どんな深手を負っても、俺が必ず仲間を守り抜く」
アレンの言葉には、揺るぎない自信が満ちていた。それは、ただの虚勢ではない。実際に死者を蘇らせ、自身の限界を超えた力を引き出した者だけが持つ、絶対的な確信だった。
「俺は、パーティの頭脳となり、生命線となる。だが、俺には敵を直接打ち砕く剣がない。仲間を守る、屈強な盾がない」
アレンは、まっすぐにソフィアの目を見つめた。その瞳は、まるで彼女の魂の奥底まで見透かすかのように、深く、澄んでいた。
「ソフィア・ヴァレンティン。あなたの剣は、腐らせるにはあまりにも惜しい。その卓越した剣技と、何者にも屈しない騎士の魂は、俺たちのパーティにこそ必要だ」
彼は静かに、しかし力強く言った。
「俺のパーティの『盾』になってくれませんか」
その言葉は、ソフィアの心の最も柔らかな部分を、優しく、しかし確実に打ち抜いた。
『盾』。
それは、かつて彼女が騎士として最も誇りにしていた役割だった。民を、弱き者を、そして主君を守るための盾。その誇りを、彼女は自ら捨てたつもりでいた。だが、この男は、その誇りがまだ自分の中に眠っていることを見抜いている。
ソフィアは、言葉を失った。反論しようにも、そのための言葉が見つからない。目の前の男は、自分の全てを見透かした上で、それでも自分を必要だと言ってくれている。こんなことは、騎士団を追われて以来、初めてのことだった。
「……なぜ、俺なんだ」
かろうじて、それだけを絞り出す。
「もっと腕の立つ剣士や、評判の良い冒険者はいくらでもいるだろう。なぜ、こんな酒浸りの、訳ありの女に声をかける?」
「言ったはずだ」
アレンは静かに答えた。
「俺も、あんたと同じだからだ。それに……」
彼は少しだけ笑みを浮かべた。
「あんたの目は、死んでいなかった。絶望の底にいても、その瞳の奥の炎は、まだ消えていなかったからな」
その言葉に、ソフィアはハッとした。
自暴自棄の日々。酒に溺れ、荒んだ生活を送っていた。だが、心のどこかで燻っていた。このままでいいのか、と。騎士として培ったこの剣を、このまま錆びつかせてしまっていいのか、と。
そんな自分自身の葛藤を、この男は正確に見抜いていたのだ。
アレンは、ソフィアの返事を待たずに立ち上がった。そして、カウンターに銀貨を数枚置くと、酒場の出口へと向かった。
「無理強いはしない。決めるのは、あんただ」
彼は扉に手をかけ、振り返りもせずに言った。
「もし、もう一度剣を取り、戦う覚悟が決まったなら、明日の朝、街の西門に来い。俺はそこで待っている」
それだけを言い残し、アレンは夜の闇の中へと姿を消した。
後に残されたソフィアは、一人カウンターで呆然としていた。
テーブルの上には、まだ半分以上残ったエールのジョッキと、彼女の愛剣が置かれている。
彼女は震える手で、その剣の柄をそっと握りしめた。ひんやりとした鉄の感触が、手のひらに伝わってくる。
(俺のパーティの『盾』になってくれませんか)
アレンの言葉が、何度も何度も頭の中で反響した。
それは、呪いのように彼女の心に絡みついて離れない。
もう一度、戦う?あの絶望を、もう一度味わうかもしれないというのに?
だが、このまま酒場で無為な日々を過ごし続けるのか?自分の誇りを、魂を、殺し続けるのか?
ソフィアの心は、激しく揺れ動いていた。
彼女はジョッキに残ったエールを一気に呷った。だが、アルコールは彼女の思考を鈍らせるどころか、むしろ頭を冴えさせていくようだった。
彼女はゆっくりと立ち上がると、剣を鞘に納め、腰に差した。そして、マスターに一瞥もくれず、フラフラとした足取りで酒場を出ていった。
その夜、ソフィアは自分の安宿に戻っても、一睡もできなかった。
彼女はただ、暗闇の中でベッドに座り込み、窓から差し込む月明かりに照らされた愛剣を、じっと見つめ続けていた。
剣が、彼女に語りかけてくるようだった。
お前は、このままでいいのか、と。
夜が明け、朝の光が部屋に差し込み始めた頃、彼女はゆっくりと立ち上がった。その顔には、もう迷いの色はなかった。
彼女は顔を洗い、髪をきつく結い上げると、革鎧のベルトを締め直した。そして、愛剣を腰に差し、静かに部屋を出る。
向かう先は、一つ。
街の、西門。
そこには、一人の男が待っているはずだった。
自分の眠っていた魂を揺り動かし、再び戦場へと誘う、不思議な力を持ったヒーラーが。
ソフィアの新たな人生が、そして、アレンの最初の仲間との出会いが、今、始まろうとしていた。
ソフィアは、アレンのあまりにも突拍子もない提案に、呆気にとられた。
「何を言ってるんだ、あんた。相手は公爵家の嫡男だぞ。王国でも有数の権力者だ。俺たちみたいな、追放された者二人がどうにかできる相手じゃない」
その言葉には、かつての無力感と諦めが滲んでいた。彼女はもう、強大な権力に抗うことの無意味さを骨の髄まで思い知らされていたのだ。
「一人や二人じゃ無理だろうな」
アレンはあっさりとそれを認めた。
「だが、俺たちはこれから仲間を集める。あんたのような、確かな実力を持ちながら、世間から不当な扱いを受けている者をな」
「……」
「俺の力は見たはずだ。俺は、ただのヒーラーじゃない。俺がいれば、パーティは絶対に壊滅しない。どんな強敵が相手でも、どんな深手を負っても、俺が必ず仲間を守り抜く」
アレンの言葉には、揺るぎない自信が満ちていた。それは、ただの虚勢ではない。実際に死者を蘇らせ、自身の限界を超えた力を引き出した者だけが持つ、絶対的な確信だった。
「俺は、パーティの頭脳となり、生命線となる。だが、俺には敵を直接打ち砕く剣がない。仲間を守る、屈強な盾がない」
アレンは、まっすぐにソフィアの目を見つめた。その瞳は、まるで彼女の魂の奥底まで見透かすかのように、深く、澄んでいた。
「ソフィア・ヴァレンティン。あなたの剣は、腐らせるにはあまりにも惜しい。その卓越した剣技と、何者にも屈しない騎士の魂は、俺たちのパーティにこそ必要だ」
彼は静かに、しかし力強く言った。
「俺のパーティの『盾』になってくれませんか」
その言葉は、ソフィアの心の最も柔らかな部分を、優しく、しかし確実に打ち抜いた。
『盾』。
それは、かつて彼女が騎士として最も誇りにしていた役割だった。民を、弱き者を、そして主君を守るための盾。その誇りを、彼女は自ら捨てたつもりでいた。だが、この男は、その誇りがまだ自分の中に眠っていることを見抜いている。
ソフィアは、言葉を失った。反論しようにも、そのための言葉が見つからない。目の前の男は、自分の全てを見透かした上で、それでも自分を必要だと言ってくれている。こんなことは、騎士団を追われて以来、初めてのことだった。
「……なぜ、俺なんだ」
かろうじて、それだけを絞り出す。
「もっと腕の立つ剣士や、評判の良い冒険者はいくらでもいるだろう。なぜ、こんな酒浸りの、訳ありの女に声をかける?」
「言ったはずだ」
アレンは静かに答えた。
「俺も、あんたと同じだからだ。それに……」
彼は少しだけ笑みを浮かべた。
「あんたの目は、死んでいなかった。絶望の底にいても、その瞳の奥の炎は、まだ消えていなかったからな」
その言葉に、ソフィアはハッとした。
自暴自棄の日々。酒に溺れ、荒んだ生活を送っていた。だが、心のどこかで燻っていた。このままでいいのか、と。騎士として培ったこの剣を、このまま錆びつかせてしまっていいのか、と。
そんな自分自身の葛藤を、この男は正確に見抜いていたのだ。
アレンは、ソフィアの返事を待たずに立ち上がった。そして、カウンターに銀貨を数枚置くと、酒場の出口へと向かった。
「無理強いはしない。決めるのは、あんただ」
彼は扉に手をかけ、振り返りもせずに言った。
「もし、もう一度剣を取り、戦う覚悟が決まったなら、明日の朝、街の西門に来い。俺はそこで待っている」
それだけを言い残し、アレンは夜の闇の中へと姿を消した。
後に残されたソフィアは、一人カウンターで呆然としていた。
テーブルの上には、まだ半分以上残ったエールのジョッキと、彼女の愛剣が置かれている。
彼女は震える手で、その剣の柄をそっと握りしめた。ひんやりとした鉄の感触が、手のひらに伝わってくる。
(俺のパーティの『盾』になってくれませんか)
アレンの言葉が、何度も何度も頭の中で反響した。
それは、呪いのように彼女の心に絡みついて離れない。
もう一度、戦う?あの絶望を、もう一度味わうかもしれないというのに?
だが、このまま酒場で無為な日々を過ごし続けるのか?自分の誇りを、魂を、殺し続けるのか?
ソフィアの心は、激しく揺れ動いていた。
彼女はジョッキに残ったエールを一気に呷った。だが、アルコールは彼女の思考を鈍らせるどころか、むしろ頭を冴えさせていくようだった。
彼女はゆっくりと立ち上がると、剣を鞘に納め、腰に差した。そして、マスターに一瞥もくれず、フラフラとした足取りで酒場を出ていった。
その夜、ソフィアは自分の安宿に戻っても、一睡もできなかった。
彼女はただ、暗闇の中でベッドに座り込み、窓から差し込む月明かりに照らされた愛剣を、じっと見つめ続けていた。
剣が、彼女に語りかけてくるようだった。
お前は、このままでいいのか、と。
夜が明け、朝の光が部屋に差し込み始めた頃、彼女はゆっくりと立ち上がった。その顔には、もう迷いの色はなかった。
彼女は顔を洗い、髪をきつく結い上げると、革鎧のベルトを締め直した。そして、愛剣を腰に差し、静かに部屋を出る。
向かう先は、一つ。
街の、西門。
そこには、一人の男が待っているはずだった。
自分の眠っていた魂を揺り動かし、再び戦場へと誘う、不思議な力を持ったヒーラーが。
ソフィアの新たな人生が、そして、アレンの最初の仲間との出会いが、今、始まろうとしていた。
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