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第85話 もしも、の言葉
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リリアはアレンたちが去った後も、しばらくの間村の入り口で動けずにいた。ソフィアとカイに突きつけられた厳しい言葉と、アレンの凍てつくような無関心な瞳が彼女の心を完全に打ち砕いていた。
(……帰ろう)
力なく立ち上がり、よろよろと歩き出す。だが、どこへ帰ればいいというのか。彼女にはもう帰る場所などどこにもなかった。
ただ当てもなく、来た道を戻る。その足取りはまるで死刑場へと向かう罪人のように重かった。
数歩歩いた時だった。
「……待って」
背後から少女のか細い声がした。
リリアが振り返ると、そこに立っていたのはエルフの少女、リーナだった。彼女はアレンたちから離れ、一人でリリアの後を追ってきたらしかった。
その小さな手には、焼き立てのパンが一つ握られている。
「……あなた、お腹すいてるでしょ?」
リーナは、おずおずとそのパンをリリアに差し出した。
そのあまりにも純粋で無垢な善意に、リリアは言葉を失った。
自分は彼女の大切なアレンを苦しめに来た敵のはずだ。なのに、この子は……。
「……どうして……?」
リリアの口から、かすれた声が漏れた。
「どうして私に親切にしてくれるの……?」
リーナは少し不思議そうな顔で首を傾げた。
「だって、あなたは泣いていたから」
そのあまりにも単純な答えが、リリアの荒んだ心をちくりと刺した。
「悲しい顔をしている人には優しくしなさいって、アレン兄がいつも言ってる」
アレン。
その名を聞いただけで、リリアの胸がまた痛んだ。
彼はこんなにも優しい子を育てている。
それに比べて自分は……。
「……ありがとう。でも、いらないわ」
リリアはリーナの差し出す手をそっと押し返した。
「私にはあなたの優しさを受け取る資格なんてないから……」
「……どうして?」
リーナの純粋な瞳がリリアを見つめる。
「あなたはアレン兄のお友達だったんでしょ?」
「……友達なんかじゃないわ」
リリアは自嘲気味に首を振った。
「私は……彼を裏切った。彼が一番辛い時に見捨てた……。最低の裏切り者よ」
その初めて口にする自分への断罪の言葉。
それを聞いたリーナは何も言わなかった。
ただ、じっとリリアの顔を見つめているだけだった。
その瞳は彼女の心の奥底まで全てを見透かしているかのようだった。
やがて、リーナはぽつりと呟いた。
「……私も一人だった」
「え……?」
「オークに、お父さんとお母さんを殺された時。もう世界に私一人だけなんだって思った」
リーナの瞳が悲しげに揺れる。
「すごく寒くて、怖くて……。もうどうでもいいやって思った」
「……」
「でも、アレン兄が助けてくれた。死んじゃったお父さんとお母さんを生き返らせてくれた。私に温かい場所をくれた」
その信じられない告白に、リリアは息を呑んだ。
死者を生き返らせた?
噂は本当だったのだ。
アレンは本当に、その禁忌の力を持っているのだ。
「だから、分かる」
リーナはリリアの目をまっすぐに見つめた。
「あなたが今、すごく寒くて一人ぼっちだってこと。だからアレン兄に助けてほしかったんでしょ?」
そのあまりにも的確な言葉に、リリアはもう何も隠すことができなかった。
彼女の堪えていた感情が、再び堰を切ったように溢れ出した。
「……そうよ……」
彼女は、その場に崩れ落ち子供のように泣きじゃくった。
「私は……ただやり直したかっただけなの……!もう一度皆と……!」
そして、彼女の口からずっと心の中で繰り返してきた、決して口にしてはならないはずの後悔の言葉が漏れ出した。
「もしも……もしも、あの時私が……!」
「私がガリウス様の横暴に逆らって、あなたを庇っていたら……!」
「もしも私があなたを見捨てずに、一緒にパーティを出ていたら……!」
「そしたら、こんなことにはならなかった……?私たち、まだ仲間でいられた……?」
それはあまりにも独り善がりで、そしてもう決して届くことのない「もしも」の言葉。
過去をやり直したいという叶わぬ願い。
そのあまりにも痛々しい魂の叫びを、リーナはただ黙って受け止めていた。
彼女は、泣き崩れるリリアの隣にそっと座った。
そして、持っていたパンを半分にちぎると、その片方をリリアの震える手に無理やり握らせた。
「……これを食べて」
その声は優しく、しかしどこか諭すような響きを持っていた。
「そして、行きなさい」
「……どこへ……?」
「分からない」
リーナは静かに首を振った。
「でも、ここじゃない。アレン兄のいないどこかへ。そして、自分で見つけるの」
「……何を……?」
「あなたがこれからどうやって生きていくのかを。アレン兄に頼るんじゃなくて、あなた自身の足でどうやってその罪を償っていくのかを」
その言葉はまるで、幼い少女の姿を借りた賢者の言葉のようだった。
リリアは、ハッとしてリーナの顔を見た。
その小さなエルフの少女は、自分よりも遥かに強く、そして気高かった。
もしも、の言葉はもう意味がない。
過去は変えられない。
変えられるのは未来だけ。
そして、その未来は誰かに与えられるものではなく、自分自身で切り開いていくしかないのだ。
リリアは握らされたパンを、強く、強く握りしめた。
それはまだ温かかった。
まるで彼女の凍てついた心に灯された、最後の小さな希望の炎のように。
(……帰ろう)
力なく立ち上がり、よろよろと歩き出す。だが、どこへ帰ればいいというのか。彼女にはもう帰る場所などどこにもなかった。
ただ当てもなく、来た道を戻る。その足取りはまるで死刑場へと向かう罪人のように重かった。
数歩歩いた時だった。
「……待って」
背後から少女のか細い声がした。
リリアが振り返ると、そこに立っていたのはエルフの少女、リーナだった。彼女はアレンたちから離れ、一人でリリアの後を追ってきたらしかった。
その小さな手には、焼き立てのパンが一つ握られている。
「……あなた、お腹すいてるでしょ?」
リーナは、おずおずとそのパンをリリアに差し出した。
そのあまりにも純粋で無垢な善意に、リリアは言葉を失った。
自分は彼女の大切なアレンを苦しめに来た敵のはずだ。なのに、この子は……。
「……どうして……?」
リリアの口から、かすれた声が漏れた。
「どうして私に親切にしてくれるの……?」
リーナは少し不思議そうな顔で首を傾げた。
「だって、あなたは泣いていたから」
そのあまりにも単純な答えが、リリアの荒んだ心をちくりと刺した。
「悲しい顔をしている人には優しくしなさいって、アレン兄がいつも言ってる」
アレン。
その名を聞いただけで、リリアの胸がまた痛んだ。
彼はこんなにも優しい子を育てている。
それに比べて自分は……。
「……ありがとう。でも、いらないわ」
リリアはリーナの差し出す手をそっと押し返した。
「私にはあなたの優しさを受け取る資格なんてないから……」
「……どうして?」
リーナの純粋な瞳がリリアを見つめる。
「あなたはアレン兄のお友達だったんでしょ?」
「……友達なんかじゃないわ」
リリアは自嘲気味に首を振った。
「私は……彼を裏切った。彼が一番辛い時に見捨てた……。最低の裏切り者よ」
その初めて口にする自分への断罪の言葉。
それを聞いたリーナは何も言わなかった。
ただ、じっとリリアの顔を見つめているだけだった。
その瞳は彼女の心の奥底まで全てを見透かしているかのようだった。
やがて、リーナはぽつりと呟いた。
「……私も一人だった」
「え……?」
「オークに、お父さんとお母さんを殺された時。もう世界に私一人だけなんだって思った」
リーナの瞳が悲しげに揺れる。
「すごく寒くて、怖くて……。もうどうでもいいやって思った」
「……」
「でも、アレン兄が助けてくれた。死んじゃったお父さんとお母さんを生き返らせてくれた。私に温かい場所をくれた」
その信じられない告白に、リリアは息を呑んだ。
死者を生き返らせた?
噂は本当だったのだ。
アレンは本当に、その禁忌の力を持っているのだ。
「だから、分かる」
リーナはリリアの目をまっすぐに見つめた。
「あなたが今、すごく寒くて一人ぼっちだってこと。だからアレン兄に助けてほしかったんでしょ?」
そのあまりにも的確な言葉に、リリアはもう何も隠すことができなかった。
彼女の堪えていた感情が、再び堰を切ったように溢れ出した。
「……そうよ……」
彼女は、その場に崩れ落ち子供のように泣きじゃくった。
「私は……ただやり直したかっただけなの……!もう一度皆と……!」
そして、彼女の口からずっと心の中で繰り返してきた、決して口にしてはならないはずの後悔の言葉が漏れ出した。
「もしも……もしも、あの時私が……!」
「私がガリウス様の横暴に逆らって、あなたを庇っていたら……!」
「もしも私があなたを見捨てずに、一緒にパーティを出ていたら……!」
「そしたら、こんなことにはならなかった……?私たち、まだ仲間でいられた……?」
それはあまりにも独り善がりで、そしてもう決して届くことのない「もしも」の言葉。
過去をやり直したいという叶わぬ願い。
そのあまりにも痛々しい魂の叫びを、リーナはただ黙って受け止めていた。
彼女は、泣き崩れるリリアの隣にそっと座った。
そして、持っていたパンを半分にちぎると、その片方をリリアの震える手に無理やり握らせた。
「……これを食べて」
その声は優しく、しかしどこか諭すような響きを持っていた。
「そして、行きなさい」
「……どこへ……?」
「分からない」
リーナは静かに首を振った。
「でも、ここじゃない。アレン兄のいないどこかへ。そして、自分で見つけるの」
「……何を……?」
「あなたがこれからどうやって生きていくのかを。アレン兄に頼るんじゃなくて、あなた自身の足でどうやってその罪を償っていくのかを」
その言葉はまるで、幼い少女の姿を借りた賢者の言葉のようだった。
リリアは、ハッとしてリーナの顔を見た。
その小さなエルフの少女は、自分よりも遥かに強く、そして気高かった。
もしも、の言葉はもう意味がない。
過去は変えられない。
変えられるのは未来だけ。
そして、その未来は誰かに与えられるものではなく、自分自身で切り開いていくしかないのだ。
リリアは握らされたパンを、強く、強く握りしめた。
それはまだ温かかった。
まるで彼女の凍てついた心に灯された、最後の小さな希望の炎のように。
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