Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第86話 アレンの告白

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リーナと別れたリリアは、クレリア村を後にした。その足取りは来た時と同じように重かったが、心の中にはわずかな変化が生まれていた。リーナがくれたパンの温もりと、「あなた自身の足で」という言葉が、彼女の中で小さな灯火のように揺らめいていたからだ。

一方、村の広場では、アレンが仲間たちと共に祭りの後片付けを手伝っていた。彼の表情はすっかりいつもの穏やかなものに戻っていた。だが、ソフィアとカイは彼が時折、村の入り口の方へ何かを探るような視線を送っていることに気づいていた。

「……リーナの奴、遅いな」
ソフィアが心配そうに呟いた。
「あの女に何かされたんじゃ……」

「いや、それはない」
アレンは静かに首を振った。
「リーナの魔力の気配は穏やかだ。それに……リリアの気配も、もうこの村にはない。どうやら本当に立ち去ったようだ」

その言葉に、ソフィアはほっとしたように息をついた。
だが、アレンの表情はどこか晴れないままだった。
彼は後片付けの手を止めると、仲間たちに向き直った。

「……少し、いいか」
その改まった口調に、ソフィアとカイは顔を見合わせた。リーナもこてんと首を傾げる。
アレンは三人を広場の隅にある井戸の縁へと促した。そして、そこに腰を下ろすと、まるで自分自身に言い聞かせるようにゆっくりと語り始めた。

「……俺は、リリアのことが嫌いだったわけじゃない」

それは意外な告白だった。
「むしろ、その逆だ。彼女は俺の、たった一人の……初恋の人、だったんだ」

「……はあ!?」
ソフィアが素っ頓狂な声を上げた。カイも、さすがに驚いたのかわずかに目を見開いている。リーナだけが、きょとんとした顔でアレンを見上げていた。

アレンは照れくさそうに頭を掻くと、遠い目をして続けた。
「俺たちは幼馴染だった。ヒーラーとしての才能がない俺を馬鹿にせず、いつも隣で励ましてくれたのは彼女だけだった。彼女の笑顔を見るためなら何でもできると思っていた。冒険者になったのも、彼女と一緒にいたかったからだ」

その声には、懐かしむような優しい響きがあった。

「【熾天の剣】に入ってからも、最初はそうだった。ガリウスたちにどれだけ罵倒されても、彼女が時折見せる心配そうな顔や優しい言葉だけで、俺は救われた気になっていた。いつか彼女にふさわしい男になりたい。その一心で俺はどんな理不尽にも耐えてきた」

だが、彼の表情が次第に曇っていく。

「……だが、いつからか気づいてしまったんだ。彼女の優しさはただの『同情』なのだと。彼女は俺という弱い存在を可哀想に思うことで、自分の聖女としての優位性を確認していただけなのかもしれない。彼女は俺が本当に助けを求めている時には、決して手を差し伸べてはくれなかった。彼女は自分の地位と俺の存在を天秤にかけて、いつも自分を選んだ」

その声には、深い、深い悲しみが滲んでいた。

「そして、あの追放の日。俺は彼女に完全に裏切られた。俺の淡い恋心も、彼女への最後の信頼も、全てが砕け散った」

アレンはそこで一度言葉を切った。
そして、自分の胸に手を当て仲間たちに語りかけた。

「俺はパーティに尽くしたかった。本物の仲間だと思ってほしかった。ただ、それだけだったんだ。なのに返ってきたのは、無能という烙印と無慈悲な追放だけだった。それがどれだけ辛かったか。どれだけ悔しかったか……」

彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは彼が仲間たちの前で初めて見せる弱さだった。
ソフィアもカイもリーナも、何も言わなかった。
ただ、黙って彼の魂の告白に耳を傾けていた。

アレンは涙を手の甲で拭うと、顔を上げた。
その顔にはもう悲しみの色はなく、吹っ切れたような穏やかな笑みが浮かんでいた。

「……すまない。格好悪いところを見せたな」
彼は仲間たちに向かって言った。
「だが、これで本当に終わりだ。リリアに会って自分の本当の気持ちと向き合えたことで、俺の中の最後のわだかまりも消えた気がする」

「俺はもう過去の幻影に恋い焦がれたりはしない。俺の好きになる人は、俺が本当に大切にしたい人は、もっと……強くて、優しくて、そして俺と一緒に未来を見てくれる人だ」

彼の言葉は誰に言うでもなく、ただそこにある真実を語っているかのようだった。
ソフィアは、なぜか居心地が悪そうに顔を赤らめてそっぽを向いた。
カイは静かに、そして深く頷いた。
リーナは、その言葉の意味を完全には理解できていないようだったが、アレンの顔に笑顔が戻ったことが嬉しくてにこにこと笑っていた。

アレンは立ち上がった。
そして、西の空を静かに見つめた。
リリアが去っていった方角。

(……さようなら、リリア)
彼は心の中で最後の別れを告げた。
(君がこれからどんな道を歩むのか、俺は知らない。だが、願わくば君が君自身の足で本当の幸せを見つけられることを祈っている)

それは、もはや恋心でも憎しみでもない。
かつて同じ夢を見た幼馴染への、人間として捧げる最後の手向けだった。
アレンの告白は、彼の心に残っていた最後の過去の傷を完全に癒した。
彼はもう振り返らない。
ただ、目の前にいる新しい仲間たちと、共に歩む未来だけを見つめて。
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