異世界転移した俺のスキルは【身体魔改造】でした ~腕をドリルに、脚はキャタピラ、脳はスパコン。 追放された機械技師は、神をも超える魔導機兵~

夏見ナイ

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第六十章 リビルド・ザ・ワールド

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残された時間は、24時間。
絶望的なカウントダウンが、静かに、しかし、確実に、進んでいく。
軌道聖域(オービタル・サンクトゥム)の、メインスクリーンには、二つの、終末の光景が、映し出されていた。
一つは、宇宙の闇を、喰らいながら、ゆっくりと、この星系に、迫り来る、絶対的な『無』――コズミック・イーター。
もう一つは、星の、全ての、生命を、犠牲にして、それを、迎え撃とうとする、創造主の、最後の、悪意――ジェネシス・レイ。
どちらを選んでも、待っているのは、破滅。
その、究極の、選択を、前に、ティリアは、言葉を失い、観測者は、静かに、目を伏せた。

だが、カケルだけは、違った。
彼の、金色の瞳には、絶望の色はない。
ただ、目の前に、聳え立つ、あまりに、巨大で、そして、解きがいのある、『問題』を、見つけた、技術者の、興奮と、闘志が、燃え盛っていた。
「……面白い。……本当に、面白いじゃねえか」
彼は、誰に言うでもなく、呟いた。
「……システムが、クソなら、作り直しちまえば、いい。……世界が、終わるってんなら、その、終わる前に、新しい、世界を、創っちまえば、いいだけの話だ」
彼の、あまりに、常軌を逸した、発想。
ティリアと、観測者が、呆然と、彼を、見つめる。

「……マスター。……貴方は、何を……?」
カケルの、脳内から、ナナの、問いかける、声が響く。
『……説明してやる。俺の、最後の、『設計図』をな』
カケルは、指先を、宙に、かざした。
すると、彼の、意志に、呼応して、メインスクリーンの、横に、新たな、ホログラムが、浮かび上がった。
それは、信じがたい、光景だった。
カケルの、新たなる、神の、体。
それが、ジェネシス・レイの、巨大な、砲身と、融合し、そして、軌道聖域(オービタル・サンクトゥム)そのものを、取り込み、さらに、二つの月をも、その、パーツとして、再構築していく、壮大な、三次元の、設計図。
「……これは……」
観測者が、息を呑んだ。
「……俺自身が、新しい、世界の、『サーバー』となる」
カケルは、静かに、告げた。
「……この、星系、全体を、俺の【自己魔改造】の、対象とする。……ジェネシス・レイの、エネルギーを、破壊のためではなく、創造のために、使うんだ。……コズミック・イーターの、『無』を、ただ、防ぐんじゃない。……その、『無』を、取り込み、新たな、宇宙を、生み出すための、『素材』として、利用する」
それは、もはや、神の、御業ですら、ない。
宇宙の、理そのものを、書き換える、創造主を、超えた、創造主の、所業。
『……無茶です、マスター!』
ナナが、叫んだ。
『貴方の、魂が、持ちません! 宇宙の、全ての、情報を、受け止め、再構築するなど……! 貴方の、自我は、完全に、霧散し、消滅します!』
「ああ。そうだろうな」
カケルは、あっさりと、それを、認めた。
「……だが、俺の、『心』は、消えねえ」
彼は、ティリアに、向き直り、その、美しい、白い、義手を、そっと、握った。
「……ティリア。お前が、俺を、呼んでくれる限り。……リゼットが、俺の、帰りを、待っていてくれる限り。……俺の、魂は、決して、消えたりはしない。……俺は、必ず、お前たちの、元へ、帰ってくる」
その、金色の瞳には、絶対的な、自信と、そして、仲間への、深い、深い、愛情が、宿っていた。
ティリアは、もう、何も、言えなかった。
ただ、涙を、流しながら、力強く、頷くことしか、できなかった。

「……観測者。……あんたには、最後の、観測を、頼む」
カケルは、言った。
「……俺が、創る、新しい、世界の、誕生を、その、目に、焼き付けてくれ。……そして、もし、俺が、道を見失い、ただの、破壊の、化身に、なりそうになったら……」
彼は、観測者に、一つの、データを、転送した。
それは、彼の、存在そのものを、完全に、消去するための、最終、コマンドコードだった。
「……この、スイッチを、押してくれ」
観測者は、その、あまりに、重い、役割に、静かに、頭を垂れた。
「……承知、しました。……我が、友よ」
彼女は、初めて、カケルを、『友』と、呼んだ。

全ての、覚悟は、決まった。
カケルは、ティリアに、微笑みかけると、その、身を、翻した。
そして、光の、翼を、広げ、彼自身が、開いた、空間の、ゲートを、通って、ジェネシス・レイが、待つ、宇宙空間へと、飛び出していった。
一人、残された、ティリアは、観測者と、共に、メインスクリーンを、見つめる。
そこに、映し出されるのは、これから、始まる、一人の男の、たった一人の、神話。
世界の、終わりと、始まりを、賭けた、最後の、戦い。

宇宙空間に、躍り出た、カケルは、二つの月を、従え、巨大な、エネルギー砲――ジェネシス・レイと、対峙した。
『エネルギー充填率、90パーセント……。発射まで、あと、一時間……』
無機質な、カウントダウンが、彼の、脳内に、響く。
そして、その、遥か、彼方からは、漆黒の、『無』が、この世界を、飲み込もうと、迫ってきていた。
「……時間は、十分だ」
カケルは、呟くと、その、神の如き、体から、無数の、光の、触手を、伸ばした。
その、触手は、ジェネシス・レイに、軌道聖域に、そして、二つの月に、絡みつき、その、制御システムを、掌握していく。
【自己魔改造(リビルド・ザ・ワールド)】
カケルの、最後の、スキルが、発動した。
星々が、軋む。
空間が、悲鳴を上げる。
カケルの、意識が、星系全体へと、拡大し、その、全ての、原子と、情報が、彼の、一部と、なっていく。
凄まじい、負荷。
彼の、自我の、輪郭が、溶け、崩れ、消えそうになる。
(……ティリア……リゼット……ナナ……)
彼の、心の、奥底で、仲間たちの、顔が、浮かぶ。
その、想いが、彼の、魂を、繋ぎ止める、最後の、錨となる。

そして、ついに。
コズミック・イーターの、先端が、この、星系に、到達した。
全てを、喰らい尽くす、『無』が、ジェネシス・レイの、砲口に、触れようとした、その、瞬間。

ジェネシス・レイが、放たれた。
だが、それは、破壊の、光線では、なかった。
それは、全てを、包み込み、全てを、受け入れ、そして、全てを、新しく、創り変える、創造の、光。
カケルの、意志そのものと、なった、再構築の、奔流だった。
光は、『無』を、飲み込んだ。
そして、『無』すらも、その、エネルギーとして、取り込み、さらに、その、輝きを、増していく。
やがて、光は、星系全体を、包み込み、そして、静かに、収束していった。

後に、残されたのは。
眩いほどの、光に、満ちた、新たなる、宇宙。
そして、その、中心で、静かに、輝く、一つの、新しい、星。
その星には、緑が、蘇り、青い、海が、広がり、そして、二つの、美しい、月が、穏やかに、それを、見守っていた。
魔法と、科学が、争うことなく、手を取り合い、調和する、世界。
カケルが、夢見た、新しい、世界が、そこに、誕生していた。

数年後。
ガルダ公国は、大陸の、諸王国を、まとめ上げ、新たなる、『アークライト連合国家』の、中心となっていた。
その、初代、元首の、座には、リゼット・フォン・ガルダが、就いていた。
彼女の、傍らには、常に、ティリアの、姿があった。
人々は、この、奇跡の、世界を、創りたもうた、神の名を、知っている。
彼の名は、相羽カケル。
人々は、彼を、畏敬と、親しみを込めて、こう、呼んだ。
――『鋼の創造神』、と。
彼は、今や、この、新世界の、システムそのものとなり、その、意識は、世界の、隅々にまで、満ちている。
時折、彼は、仮の、体を、作り出し、リゼットや、ティリアの、前に、そっと、姿を現すことが、あった。
その姿は、かつての、無骨な、機械の体ではなく、ごく、普通の、人間の、青年の、姿だった。

ある、晴れた日の、午後。
アストリアの、城下町に、新しく、作られた、小さな、工房。
そこで、一人の、青年が、楽しそうに、ハンマーを、振るっていた。
彼は、ある、少女のために、新しい、義手を、作っているのだ。
カン、カン、という、心地よい、金属音が、響く。
青年は、額の汗を、拭うと、満足そうに、呟いた。
「……モノ作りは、やっぱり、やめられねえな」
その、笑顔は、かつての、皮肉屋の、それではない。
全てを、乗り越え、そして、大切な、ものを、守り抜いた、一人の、男の、穏やかな、笑みだった。
彼の、物語は、ここで、終わる。
だが、彼が、創った、新しい、世界の、物語は、今、まさに、始まったばかりなのだ。

――『異世界転移、俺のスキルは【身体魔改造(セルフ・リビルド)】でした ~腕をドリルに、脚をキャタピラに、脳はスパコン。追放された機械技師は、やがて神をも超える魔導機兵となる~』
【完】

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