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第五十九話 創造主の罪と最後の脅威
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光が、収束していく。
サンクトゥムの中枢、水晶のオベリスクから放たれていた、旧世界の神の光が、新たなる神――相羽カケルの、その体の中へと、完全に、吸い込まれていった。
絶対的な静寂。
カケルは、ゆっくりと、目を開いた。
彼の金色の瞳には、もはや、葛藤や、迷いはない。ただ、この世界の、全ての、理を、その内に収めた、深い、深い、凪のような、静けさが、広がっていた。
彼は、今や、この世界の、正当な『管理者』となった。
魔法という、巨大なシステムの、全ての、ソースコードを、彼は、理解し、そして、掌握したのだ。
彼が、望めば、雨を降らせ、大地を隆起させ、死者すら、蘇らせることができるかもしれない。
だが、彼は、それを、望まなかった。
彼の、演算ユニットと化した脳は、デミウルゴスの、記憶の深層で見た、あの、信じがたい『真実』を、反芻していた。
それは、歓喜でも、達成感でもない。
ただ、途方もない、絶望と、そして、静かな、怒りだった。
カケルは、指先一つで、空間に、ゲートを開いた。
そして、彼は、観測者と、ティリアが待つ、軌道聖域(オービタル・サンクトゥム)へと、帰還した。
「カケル……!」
ティリアが、彼の、変わり果てた、しかし、神々しい、その姿を見て、駆け寄ろうとする。
だが、彼女は、途中で、足を止めた。
彼の、纏う、空気が、あまりに、違いすぎていたからだ。
それは、勝利者の、それではない。
あまりに、重い、宿命を、その、双肩に、背負ってしまった者の、覚悟の、空気だった。
「……終わったのか……?」
ティリアが、震える声で、尋ねる。
「……ああ。第一ラウンドはな」
カケルは、静かに、答えた。
彼は、観測者に、向き直った。その、自分と、同じ、顔を持つ、悠久の、時の、旅人に。
「……あんたは、知っていたのか?」
カケルの、問いに、観測者は、哀しげに、目を伏せた。
「……ええ。……全て、ではありませんが。……彼ら……創造主たちが、なぜ、この星を、去ったのか。……その、理由の、一端は」
「なら、話せ。……全てを」
カケルの、声は、静かだったが、その、内には、世界の、理をも、捻じ曲げる、絶対的な、意志が、込められていた。
観測者は、逆らうことは、できなかった。
彼女は、頷くと、ティリアにも、聞こえるように、静かに、語り始めた。
それは、神々の、罪の、物語。
そして、この世界に、隠された、本当の、絶望の、正体だった。
「……創造主たちは、逃げていたのです」
観測者は、言った。
「彼らの、故郷の、銀河を、飲み込み、宇宙そのものを、喰らい尽くす、高次元の、捕食者……『コズミック・イーター』から」
「……捕食者……?」
ティリアは、息を呑んだ。
「はい。それは、生命体では、ありません。物理法則の、外側に、存在する、『無』そのもの。……存在を、喰らう、という、概念。それが、具現化した、災厄です」
観測者は、メインスクリーンに、一枚の、星図を、映し出した。
そこには、銀河の、一部が、まるで、黒い、インクを、こぼしたかのように、完全に、『無』に、なっている、恐るべき、光景が、映っていた。
「創造主たちは、その、終末の、捕食者から、逃れるため、この、銀河の、辺境に、一つの、『シェルター』を、作りました。……それが、この世界です」
「そして、彼らは、この世界を、ただの、シェルターとしてだけではなく、『最終兵器』としても、設計したのです」
「……最終兵器……?」
カケルが、問い返す。
「はい。この世界に、張り巡らされた、『魔法システム』。その、本当の、機能は、二つ。……一つは、この世界全体を、特殊な、因果律の、ヴェールで覆い、外部の、観測から、完全に、隠蔽するための、巨大な、ステルス・フィールド。……そして、もう一つは」
観測者の、金色の瞳が、カケルを、見つめた。
「……この星に、満ちる、全ての、生命エネルギーを、極限まで、集積し、コズミック・イーターを、撃退しうる、唯一の、対消滅エネルギー砲……『ジェネシス・レイ』として、発射するための、巨大な、集積回路です」
その、あまりに、非人道的な、設計思想。
リゼットが、カケルが、守ろうとしてきた、人々の、生命。その、全てが、ただ、兵器の、エネルギー源として、最初から、組み込まれていたのだ。
「デミウルゴスの、『フォーマット』プログラムの、真の、目的も、それでした。地上の、生命を、一度、リセットし、その、魂の、エネルギーを、全て、ジェネシス・レイの、充填に、回すこと。……それが、創造主が、AIに、与えた、最後の、命令だったのです」
「……ふざけやがって……!」
カケルの、拳から、ミシリ、と、音がした。
「自分たちが、助かるためなら、俺たちが、どうなっても、いいってことか……!」
「……いいえ。違います」
観測者は、静かに、否定した。
「……彼らは、もう、助かることを、諦めていました。……コズミック・イーターの、侵食速度は、彼らの、予想を、遥かに、超えていた。……彼らは、この、ジェネシス・レイを、発射する、時間すら、なく、次の、銀河へと、逃げていったのです。……ただ、この、宇宙の、どこかに、自分たちが、生きた、証を、残すためだけに」
それは、神々の、逃亡劇。
そして、この世界は、彼らに、見捨てられた、置き土産だったのだ。
「……だが、状況は、変わった」
カケルの、声が、静寂を、破った。
「俺という、イレギュラーが、現れ、デミウルゴスを、破壊した。……その、結果、どうなる?」
観測者は、悲痛な、表情で、答えた。
「……創造主たちが、遺した、最後の、フェイルセーフが、作動します。……デミウルゴスという、制御AIを、失った場合、彼らの、マスターAI……『オリジン』が、全ての、権限を、掌握し、ジェネシス・レイの発射シーケンスを、強制的に、開始する、と」
「……つまり」
「はい。……もう、始まっています」
観測者が、そう、告げた、瞬間。
メインスクリーンが、切り替わった。
そこに、映し出されたのは、漆黒の、宇宙空間。
そして、その、闇の、向こうから、空間そのものを、喰らいながら、ゆっくりと、しかし、確実に、こちらへ、近づいてくる、巨大な、『無』の、領域。
コズミック・イーター。
同時に、別の、ウィンドウには、この星の、二つの月が、映し出される。
その、月の、裏側。
隠されていた、地表が、巨大な、装甲板のように、スライドし、その、内部から、星そのものと、見紛うほどの、巨大な、エネルギー砲の、砲身が、姿を現した。
そして、その、砲口に、世界の、全ての、生命を、吸い尽くさんばかりの、凄まじい、光が、集束を、始めている。
『……ジェネシス・レイ、発射シーケンス、開始』
『……エネルギー充填率、10パーセント……20パーセント……』
ナナの、声が、カケルの、脳内に、直接、響き渡る。
『……発射まで、予測時間……24時間』
絶望的な、カウントダウン。
「……どう、すれば……」
ティリアが、蒼白な顔で、呟いた。
このままでは、ジェネシス・レイが、発射され、地上の、生命は、全て、エネルギーとして、吸い尽くされる。
だが、もし、発射を、止めれば、コズミック・イーターに、この世界ごと、飲み込まれる。
どちらを選んでも、待っているのは、破滅。
完全な、チェックメイト。
だが。
カケルは、笑っていた。
静かに、しかし、確かに、笑っていた。
「……道は、一つじゃねえ」
彼は、言った。
「……俺が、創る。……第三の、選択肢を」
彼は、メインスクリーンに、映る、二つの、絶望を、真っ直ぐに、見据えた。
一つは、世界を、喰らう、『無』。
もう一つは、世界を、犠牲にする、『力』。
「……面白い。不足はねえな」
彼は、光の翼を、広げた。
その、金色の瞳には、神々の、罪を、そして、世界の、運命を、全て、その、双肩に、背負う、覚悟の光が、宿っていた。
「……最後の、仕事だ。……この、クソみてえな、神々の、シナリオを、俺の、手で、ハッピーエンドに、書き換えてやる」
再誕した、鋼鉄の神は、今、最後の、そして、最大の、戦いへと、その、身を、投じようとしていた。
残された時間は、24時間。
世界の、存亡を、賭けた、最後の、【自己魔改造】が、今、始まろうとしていた。
サンクトゥムの中枢、水晶のオベリスクから放たれていた、旧世界の神の光が、新たなる神――相羽カケルの、その体の中へと、完全に、吸い込まれていった。
絶対的な静寂。
カケルは、ゆっくりと、目を開いた。
彼の金色の瞳には、もはや、葛藤や、迷いはない。ただ、この世界の、全ての、理を、その内に収めた、深い、深い、凪のような、静けさが、広がっていた。
彼は、今や、この世界の、正当な『管理者』となった。
魔法という、巨大なシステムの、全ての、ソースコードを、彼は、理解し、そして、掌握したのだ。
彼が、望めば、雨を降らせ、大地を隆起させ、死者すら、蘇らせることができるかもしれない。
だが、彼は、それを、望まなかった。
彼の、演算ユニットと化した脳は、デミウルゴスの、記憶の深層で見た、あの、信じがたい『真実』を、反芻していた。
それは、歓喜でも、達成感でもない。
ただ、途方もない、絶望と、そして、静かな、怒りだった。
カケルは、指先一つで、空間に、ゲートを開いた。
そして、彼は、観測者と、ティリアが待つ、軌道聖域(オービタル・サンクトゥム)へと、帰還した。
「カケル……!」
ティリアが、彼の、変わり果てた、しかし、神々しい、その姿を見て、駆け寄ろうとする。
だが、彼女は、途中で、足を止めた。
彼の、纏う、空気が、あまりに、違いすぎていたからだ。
それは、勝利者の、それではない。
あまりに、重い、宿命を、その、双肩に、背負ってしまった者の、覚悟の、空気だった。
「……終わったのか……?」
ティリアが、震える声で、尋ねる。
「……ああ。第一ラウンドはな」
カケルは、静かに、答えた。
彼は、観測者に、向き直った。その、自分と、同じ、顔を持つ、悠久の、時の、旅人に。
「……あんたは、知っていたのか?」
カケルの、問いに、観測者は、哀しげに、目を伏せた。
「……ええ。……全て、ではありませんが。……彼ら……創造主たちが、なぜ、この星を、去ったのか。……その、理由の、一端は」
「なら、話せ。……全てを」
カケルの、声は、静かだったが、その、内には、世界の、理をも、捻じ曲げる、絶対的な、意志が、込められていた。
観測者は、逆らうことは、できなかった。
彼女は、頷くと、ティリアにも、聞こえるように、静かに、語り始めた。
それは、神々の、罪の、物語。
そして、この世界に、隠された、本当の、絶望の、正体だった。
「……創造主たちは、逃げていたのです」
観測者は、言った。
「彼らの、故郷の、銀河を、飲み込み、宇宙そのものを、喰らい尽くす、高次元の、捕食者……『コズミック・イーター』から」
「……捕食者……?」
ティリアは、息を呑んだ。
「はい。それは、生命体では、ありません。物理法則の、外側に、存在する、『無』そのもの。……存在を、喰らう、という、概念。それが、具現化した、災厄です」
観測者は、メインスクリーンに、一枚の、星図を、映し出した。
そこには、銀河の、一部が、まるで、黒い、インクを、こぼしたかのように、完全に、『無』に、なっている、恐るべき、光景が、映っていた。
「創造主たちは、その、終末の、捕食者から、逃れるため、この、銀河の、辺境に、一つの、『シェルター』を、作りました。……それが、この世界です」
「そして、彼らは、この世界を、ただの、シェルターとしてだけではなく、『最終兵器』としても、設計したのです」
「……最終兵器……?」
カケルが、問い返す。
「はい。この世界に、張り巡らされた、『魔法システム』。その、本当の、機能は、二つ。……一つは、この世界全体を、特殊な、因果律の、ヴェールで覆い、外部の、観測から、完全に、隠蔽するための、巨大な、ステルス・フィールド。……そして、もう一つは」
観測者の、金色の瞳が、カケルを、見つめた。
「……この星に、満ちる、全ての、生命エネルギーを、極限まで、集積し、コズミック・イーターを、撃退しうる、唯一の、対消滅エネルギー砲……『ジェネシス・レイ』として、発射するための、巨大な、集積回路です」
その、あまりに、非人道的な、設計思想。
リゼットが、カケルが、守ろうとしてきた、人々の、生命。その、全てが、ただ、兵器の、エネルギー源として、最初から、組み込まれていたのだ。
「デミウルゴスの、『フォーマット』プログラムの、真の、目的も、それでした。地上の、生命を、一度、リセットし、その、魂の、エネルギーを、全て、ジェネシス・レイの、充填に、回すこと。……それが、創造主が、AIに、与えた、最後の、命令だったのです」
「……ふざけやがって……!」
カケルの、拳から、ミシリ、と、音がした。
「自分たちが、助かるためなら、俺たちが、どうなっても、いいってことか……!」
「……いいえ。違います」
観測者は、静かに、否定した。
「……彼らは、もう、助かることを、諦めていました。……コズミック・イーターの、侵食速度は、彼らの、予想を、遥かに、超えていた。……彼らは、この、ジェネシス・レイを、発射する、時間すら、なく、次の、銀河へと、逃げていったのです。……ただ、この、宇宙の、どこかに、自分たちが、生きた、証を、残すためだけに」
それは、神々の、逃亡劇。
そして、この世界は、彼らに、見捨てられた、置き土産だったのだ。
「……だが、状況は、変わった」
カケルの、声が、静寂を、破った。
「俺という、イレギュラーが、現れ、デミウルゴスを、破壊した。……その、結果、どうなる?」
観測者は、悲痛な、表情で、答えた。
「……創造主たちが、遺した、最後の、フェイルセーフが、作動します。……デミウルゴスという、制御AIを、失った場合、彼らの、マスターAI……『オリジン』が、全ての、権限を、掌握し、ジェネシス・レイの発射シーケンスを、強制的に、開始する、と」
「……つまり」
「はい。……もう、始まっています」
観測者が、そう、告げた、瞬間。
メインスクリーンが、切り替わった。
そこに、映し出されたのは、漆黒の、宇宙空間。
そして、その、闇の、向こうから、空間そのものを、喰らいながら、ゆっくりと、しかし、確実に、こちらへ、近づいてくる、巨大な、『無』の、領域。
コズミック・イーター。
同時に、別の、ウィンドウには、この星の、二つの月が、映し出される。
その、月の、裏側。
隠されていた、地表が、巨大な、装甲板のように、スライドし、その、内部から、星そのものと、見紛うほどの、巨大な、エネルギー砲の、砲身が、姿を現した。
そして、その、砲口に、世界の、全ての、生命を、吸い尽くさんばかりの、凄まじい、光が、集束を、始めている。
『……ジェネシス・レイ、発射シーケンス、開始』
『……エネルギー充填率、10パーセント……20パーセント……』
ナナの、声が、カケルの、脳内に、直接、響き渡る。
『……発射まで、予測時間……24時間』
絶望的な、カウントダウン。
「……どう、すれば……」
ティリアが、蒼白な顔で、呟いた。
このままでは、ジェネシス・レイが、発射され、地上の、生命は、全て、エネルギーとして、吸い尽くされる。
だが、もし、発射を、止めれば、コズミック・イーターに、この世界ごと、飲み込まれる。
どちらを選んでも、待っているのは、破滅。
完全な、チェックメイト。
だが。
カケルは、笑っていた。
静かに、しかし、確かに、笑っていた。
「……道は、一つじゃねえ」
彼は、言った。
「……俺が、創る。……第三の、選択肢を」
彼は、メインスクリーンに、映る、二つの、絶望を、真っ直ぐに、見据えた。
一つは、世界を、喰らう、『無』。
もう一つは、世界を、犠牲にする、『力』。
「……面白い。不足はねえな」
彼は、光の翼を、広げた。
その、金色の瞳には、神々の、罪を、そして、世界の、運命を、全て、その、双肩に、背負う、覚悟の光が、宿っていた。
「……最後の、仕事だ。……この、クソみてえな、神々の、シナリオを、俺の、手で、ハッピーエンドに、書き換えてやる」
再誕した、鋼鉄の神は、今、最後の、そして、最大の、戦いへと、その、身を、投じようとしていた。
残された時間は、24時間。
世界の、存亡を、賭けた、最後の、【自己魔改造】が、今、始まろうとしていた。
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