無能と罵られ追放された落ちこぼれ魔術師、実は世界で唯一【言語魔法】を使える最強賢者だった〜古代魔法と失われた知識で成り上がり見返してやる!~

夏見ナイ

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第40話:旅路の再開と忍び寄る刺客の影

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「静寂の森」シラーナ・リンでの滞在は、リオたち三人に大きな成果と成長をもたらした。リリアナは「共鳴魔法」の基礎を習得し、アストライオスとの繋がりを深め、リオとグレイもまた、エルフたちとの交流や森での経験を通じて、精神的にも技術的にも一回り大きくなったように感じられた。儀式に必要な「月光苔」も手に入れ、アストライオス復活への道筋は、より確かなものとなりつつあった。

しかし、森を出て再びフロンティアへの帰路についた彼らを待っていたのは、安堵だけではなかった。エルフの隠れ里という聖域から一歩外へ出れば、そこは依然として危険と陰謀が渦巻く世界だ。

「……やはり、監視の目があるな」

山脈を越え、比較的開けた街道に戻って数日後、グレイが低い声で呟いた。彼の鋭い視線は、後方の、一見何もない荒野に向けられている。

「え……? 本当ですか、グレイさん?」

リオが【言語魔法】で気配を探るが、明確な敵意や殺気は感じられない。しかし、グレイほどの経験を持つ戦士が言うからには、何かがあるのだろう。

「ああ。直接的な殺気はない。だが、巧妙に気配を消した斥候が、複数、我々を尾行している。おそらく、王国の息がかかった連中だろうな。我々が『静寂の森』に出入りしたことを、すでに掴んでいるのかもしれん」
「そんな……! エルフの結界は完璧だったはずなのに……」リリアナは顔を曇らせた。「もしかして、私たちが森を出るのを、どこかで待ち伏せていたのかしら……」
「可能性は高い。あるいは、フロンティアから既につけられていたか……。いずれにせよ、奴らは我々の行動を探り、情報を王都へ送ろうとしているのだろう。そして、隙あらば……」

グレイの言葉の続きは、言わずとも明らかだった。リオの持つ力、リリアナの知識、そしてアストライオスという存在。それらは、王国にとって、あるいは宰相派にとって、喉から手が出るほど欲しいものか、あるいは排除すべき脅威なのだ。

「どうしますか? ここでまきますか? それとも……」

リオは緊張しながらグレイに尋ねた。

「まいたところで、いずれまた追いつかれるだろう。それに、奴らの目的が情報収集だけとは限らん。むしろ、こちらから仕掛けて、何者なのか、そして何を企んでいるのかを探る方が得策かもしれん」

グレイは、意外にも好戦的な提案をした。彼の瞳には、ただ逃げるのではなく、積極的に脅威に対処しようという、強い意志が宿っていた。

「でも、危険ではないかしら……? 相手の人数も、実力も分からないのに……」リリアナは不安げに言った。
「だからこそ、慎重に、そして有利な地形で仕掛ける必要がある。幸い、この先の街道筋には、待ち伏せに適した岩場が多い」

グレイは地図を広げ、ある一点を指差した。

「ここで、奴らを迎え撃つ。リオ、お前は【言語魔法】で敵の数と配置、そして可能なら奴らの思考を読み取れ。リリアナ、お前は後方から魔法で援護し、リオを守れ。俺が前に出て、奴らを叩く」

作戦はシンプルだが、三人の連携が鍵となる。リオは頷き、精神を集中させた。

数時間後、三人はグレイが指定した岩場に到着した。そこは、道が狭まり、両側を高い岩壁に挟まれた、見通しの悪い場所だった。待ち伏せには最適だが、同時に、逃げ場のない危険な場所でもある。

三人は息を潜め、追手の到着を待った。リオは【言語魔法】のアンテナを最大限に広げ、近づいてくる気配を探る。

(……来た! 三人……いや、四人か? 気配の消し方が巧みだ。かなりの手練れ……)

リオは、指で仲間に敵の数と接近方向を伝える。グレイは無言で頷き、岩陰に身を潜めた。リリアナも、古代の杖を握りしめ、いつでも魔法を放てるように準備している。

やがて、黒っぽい軽装鎧に身を包んだ、フードを目深にかぶった男たちが、慎重に岩場へと足を踏み入れてきた。彼らの腰には剣が下げられ、背中には弓矢を背負っている者もいる。その動きには一切の無駄がなく、明らかに専門的な訓練を受けた者たちであることが窺えた。

(……思考が読みにくい。感情を抑え、任務に集中している……。王国の……特殊部隊か……?)

リオは、彼らから発せられる冷徹な気配に、背筋が寒くなるのを感じた。バルカスのような個人的な感情ではなく、任務として自分たちを追っているのだとしたら、それはより厄介な相手だ。

追手たちが、三人が潜む岩場のほぼ中央まで来た、その瞬間だった。

「今だ!」

グレイが合図と共に、岩陰から疾風のように飛び出した。彼のロングソードが、月光を反射して鋭く煌めく。

「なっ!?」

追手たちは、突然の奇襲に驚き、咄嗟に武器を構えようとする。しかし、グレイの動きはそれよりも速かった。彼は最も近くにいた男の剣を弾き飛ばし、続け様にその鳩尾に強烈な蹴りを叩き込んだ。男は短い呻き声を上げて、その場に崩れ落ちる。

「敵襲! 囲め!」

残りの三人が、素早く反応し、グレイを取り囲もうとする。弓を構えた男が、後方から矢を放とうとした。

「させないわ! 【ウィンド・カッター】!」

リリアナが、古代の杖から風の刃を放つ。それは正確に弓兵の手元を狙い、矢を放つ寸前にその弓を弾き飛ばした。弓兵は驚き、後ずさる。

「リオ! 敵の連携は!?」グレイが叫ぶ。
「右翼の剣士が突出してきます! 左翼は距離を取って魔法の準備!」

リオは【言語魔法】で読み取った情報を即座に伝えた。右翼の剣士は、グレイの強さを警戒しつつも、果敢に斬りかかってくる。左翼の男は、フードの下で何やら呪文を唱え始めている。

グレイはリオの情報を元に、右翼の剣士の攻撃を冷静に捌きながら、魔法を唱えている男へと牽制の剣閃を送る。男は詠唱を中断せざるを得ず、後方へと飛び退いた。

(こいつら、手強い……! 単なる斥候や情報収集部隊じゃない。戦闘のプロだ!)

リオは、彼らの洗練された動きと連携に、これまでの相手とは違う質の高さを感じ取っていた。

「リオさん、気をつけて! あの魔法使い、何か厄介なものを準備しているわ!」

リリアナが警告する。魔法使いの男の周囲に、黒い靄のようなものが集まり始めている。それは、触れたものの生命力を奪うような、不吉な気配を放っていた。

「【プロテクト・ウォール】!」

リオは、自分とリリアナの前に光の壁を展開する。同時に、グレイにも警告を送る。

『グレイさん、魔法が来ます! 回避を!』

魔法使いの男が、ついに呪文を完成させた。

「【ダーク・スフィア】!」

黒い靄が凝縮し、漆黒の球体となってグレイ目掛けて高速で飛んでいく。グレイはリオの警告を受け、紙一重でそれを回避した。黒い球体は岩壁に激突し、岩を腐食させるように溶かしていく。まともに食らえば、ただでは済まない威力だ。

「くそっ、避けられたか!」

魔法使いが忌々しげに舌打ちする。その隙を、グレイは見逃さなかった。彼は一気に距離を詰め、魔法使いの懐へと飛び込む。ロングソードが閃き、魔法使いは反応する間もなく、その脇腹を峰打ちで強かに打たれ、地面に倒れ込んだ。

残るは、最初に弓を弾かれた男と、グレイと斬り結んでいた剣士の二人。剣士はグレイの実力を悟り、仲間がやられたのを見て、一瞬怯んだ。その隙を、リオは見逃さなかった。

(今なら……! 【マテリアル・クリエイト】!)

リオは集中し、剣士の足元に、ごく薄い、しかし非常に滑りやすい氷の膜を瞬時に生成した。

「なっ!? うわっ!」

剣士は予期せぬ足元の変化に対応できず、バランスを崩して大きく体勢を崩した。そこへ、グレイの追撃が容赦なく叩き込まれる。

「終わりだ」

グレイの峰打ちが、剣士の意識を刈り取った。

残るは弓兵一人。彼は仲間たちが次々と倒されていくのを見て、完全に戦意を喪失し、逃げ出そうとした。

「逃がさないわ! 【エア・バインド】!」

リリアナが風の魔法で男の動きを封じ、グレイが駆け寄り、無力化する。

こうして、王国の刺客と思われる四人組は、三人の連携の前に、完全に制圧された。戦闘は激しかったが、幸い、リオたちに大きな怪我はなかった。

「……ふぅ。思ったより手こずったな」グレイは息を整えながら、倒れた刺客たちを見下ろした。「こいつら、ただの兵士じゃない。おそらく、王国の特殊部隊……『影狼(シャドウウルフ)』の連中だろう」
「影狼……? 聞いたことがあるわ。国王直属の、暗殺や破壊工作を専門とする、闇の部隊……」リリアナは顔を青くした。「そんな連中が、なぜ私たちを……?」
「目的は、やはりリオの力か……あるいは、我々が『静寂の森』で何かを掴んだと感づいたか……。どちらにせよ、王国の本気度がうかがえる」

リオは、気絶している刺客の一人に近づき、【言語魔法】でその意識を探った。

(……王命……。賢者リオ……確保……。不可能なら……排除……。情報は……宰相閣下へ……。……『星の鍵』……探索……)

やはり、王命によるものだった。そして、「確保、不可能なら排除」という冷酷な命令。「星の鍵」という新たなキーワードも出てきた。それは一体何を指すのだろうか?

「……どうやら、俺たちは、とんでもないものに首を突っ込んでしまったようですね」

リオは、読み取った情報を二人に伝えながら、乾いた笑みを浮かべた。王国の闇は、彼らが思っていた以上に深く、そして広範囲に広がっている。

「星の鍵……。それが、宰相が探している『遺物』なのかもしれないわね。そして、私たちも、知らず知らずのうちに、その争奪戦に巻き込まれてしまった……」

リリアナの言葉に、三人は改めて事態の深刻さを認識した。

フロンティアへの帰路は、もはや安全とは言えない。王国の刺客は、またいつ、どこで現れるか分からない。そして、彼らの背後には、国家規模の巨大な陰謀が渦巻いている。

「……行くぞ」グレイが、短く言った。「長居は無用だ。フロンティアに戻り、対策を練る」

三人は、気絶した刺客たちを街道脇の茂みに隠し(彼らの処遇は後で考えるしかない)、再び歩き出した。空には、不吉な暗雲が立ち込め始めているように見えた。彼らの旅路は、ますます困難なものとなろうとしていた。しかし、同時に、この危機を乗り越えた先にこそ、求める答えがあるのかもしれない。三人の心には、不安と共に、戦いへの決意が、静かに、しかし力強く燃え上がっていた。
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