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第43話:深まる陰謀とギルドの決断
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リオが「影狼」の仕掛けた失墜の罠を逆手に取り、逆にその評判を高めた一件は、フロンティアの街に大きな波紋を広げた。人々は「賢者リオ」の奇跡の力を称賛し、彼への信頼をさらに深めた。しかし、その裏で、王国の闇はより深く、そして巧妙に動き出そうとしていた。
リリアナの研究室で、三人は改めて状況を分析していた。
「まさか、リオさんが【マテリアル・クリエイト】をあんな風に応用するなんて……本当に驚いたわ」
リリアナは、興奮冷めやらぬ様子で言った。リオが仮病の男に施した「治療」は、彼女の目から見ても、極めて高度な魔法技術だった。単に治癒エネルギーを送るのではなく、体内の異質な魔術構造を直接「書き換える」など、常識では考えられない芸当だ。
「俺も、ぶっつけ本番でした。失敗すれば、取り返しのつかないことになっていたかもしれません……」
リオは苦笑いを浮かべたが、その表情には確かな手応えも感じられた。啓示によって示された新たな力の片鱗を、彼は確かに掴み始めていたのだ。
「だが、そのお陰で、奴らの企みは完全に裏目に出た」グレイが言った。「しかし、安心するのはまだ早い。今回の件で、奴らはリオの力をさらに危険視するだろう。そして、より強硬な手段に出てくる可能性が高い」
「ええ……。特に、王都の宰相が関わっているとなると、国家規模での圧力も考えられるわ。ギルドや領主を通じて、リオさんの活動を制限したり、最悪の場合、拘束しようとしたり……」
リリアナの懸念は、現実味を帯びていた。フロンティアは辺境とはいえ、王国の統治下にある。王都からの正式な命令があれば、ギルドや領主も逆らうことは難しいだろう。
「俺たちは、どうすれば……」
リオの言葉に、重い沈黙が流れた。彼らは、個々の力では到底太刀打ちできない、巨大な権力と対峙しようとしているのだ。
その時、研究室の扉が控えめにノックされた。驚いて顔を見合わせる三人。こんな時間に訪ねてくる者など、心当たりがない。グレイが用心深く扉に近づき、声をかける。
「……誰だ?」
「冒険者ギルドのサラです。リオさん、いらっしゃいますか?」
サラの声だった。しかし、その声にはいつもの快活さはなく、どこか緊張した響きが含まれている。グレイが扉を開けると、そこには案の定、少し青ざめた表情のサラが立っていた。
「サラさん、どうしたんですか?」
「……急ぎ、お伝えしたいことがありまして……。長くなりそうなので、中へ入れていただけますか?」
サラを研究室に招き入れると、彼女は深呼吸をしてから、重々しく口を開いた。
「実は……先ほど、王都からギルドマスター宛に、緊急の通達があったんです」
「王都から……?」
リオたちの間に、緊張が走る。
「はい……。その内容は……『フロンティアで活動する冒険者、リオ・アシュトンについて、その能力と行動に不審な点が見られるため、ギルドは彼の活動を一時的に差し止め、王都からの調査団の到着を待つこと』……というものでした」
サラの言葉に、リオは息を呑んだ。やはり、来たか。王国の直接的な介入だ。
「活動の差し止め……! なんて横暴な……!」リリアナが憤慨したように声を上げる。
「調査団……。おそらく、『影狼』の別働隊か、あるいはもっと上の連中だろうな」グレイは冷静に分析する。
「ギルドマスターは、どう対応されたんですか?」リオが尋ねた。
「それが……マスターは非常に困惑されていました。リオさんのこれまでの功績や、街の人々からの信頼はよくご存知ですから。しかし、王都からの正式な通達となると、完全に無視することもできず……」
サラは言葉を濁らせた。ギルドマスターも、板挟みになっているのだろう。
「それで……マスターは、こう決断されました。『リオ・アシュトンの活動は、ギルドとしては一時的に『監視下』に置く。ただし、緊急性の高い依頼や、人道的な見地から必要と判断される活動については、マスターの裁量で許可する場合がある』……と」
「監視下……」
「はい。つまり、完全に活動を禁止するわけではないけれど、常にギルドの目が光っている状態、ということです。そして、王都の調査団が到着次第、彼らに身柄を引き渡す、ということになるかもしれません……」
サラの声は、申し訳なさで震えていた。彼女自身も、この決定に納得していないのだろう。
「そんな……!」リオは愕然とした。これでは、実質的に軟禁状態ではないか。アストライオスの儀式も、他の遺跡の調査も、何もできなくなってしまう。
「マスターは、これがギルドとしてできる、ギリギリの抵抗だとおっしゃっていました。リオさんを完全に守ることはできないかもしれないけれど、少なくとも、不当な扱いや、即座の拘束だけは避けたい、と……。そして、私に、このことを内密にリオさんに伝えるように、と……」
サラは、涙ぐみながら言った。ギルドマスターも、そしてサラ自身も、リオのことを案じてくれているのだ。その気持ちが、リオには痛いほど伝わってきた。
「……分かりました、サラさん。伝えてくれて、ありがとうございます。マスターにも、よろしくお伝えください」
リオは、努めて平静を装い、礼を言った。
サラが帰った後、研究室には再び重苦しい沈黙が訪れた。
「……いよいよ、追い詰められてきたわね」リリアナが、か細い声で言った。
「ああ。王都の調査団が来るまで、時間はあまりないだろう。おそらく、数日……長くても一週間といったところか」
グレイの予測は、厳しい現実を突きつけていた。
「どうすれば……。このままフロンティアにいれば、いずれ捕まってしまう……。かといって、逃げれば、王国の追手はどこまでも……」
リオは、絶望的な状況に頭を抱えそうになった。しかし、その時、彼の脳裏に、騎士団長ダリウスの言葉が蘇った。
『君のような若者が、理不尽な理由で才能を潰され、危険に晒されるのを見るのは、忍びない』
『王都から、君の力を探る動きがあるのは間違いない。……くれぐれも、用心することだ』
ダリウスは、敵ではなかったのかもしれない。少なくとも、個人的にはリオに同情的だった。そして、彼は王国の内部事情にも詳しいはずだ。
(……もしかしたら……彼なら、何か助けになってくれるかもしれない……)
危険な賭けだ。しかし、このまま座して待つよりはマシかもしれない。
「……一つ、試してみたいことがあります」
リオは、意を決して顔を上げた。
「王国の騎士団長……ダリウス・グレイフォード氏に、接触してみようと思います」
「騎士団長に!?」リリアナとグレイが、驚いて声を上げた。
「正気か、リオ? 彼は王国の人間だぞ。信用できるとは限らん」グレイが懐疑的な目を向ける。
「分かっています。でも、彼は以前、俺に忠告をくれました。そして、バルカスのやり方を快く思っていないようでした。もしかしたら……彼なら、今の状況を打開するための、何か情報を持っているかもしれない。あるいは、ほんの少しの時間稼ぎくらいは、してくれるかもしれない」
「でも、どうやって接触するの? 彼がフロンティアにいる保証もないし、もしいたとしても、王国の監視の目がある中で……」
リリアナの不安ももっともだ。
「それについては、考えがあります」リオは言った。「【言語魔法】の応用です。直接会うのではなく、思念を通じて、彼にメッセージを送るんです」
それは、以前リオが誘拐された時に、リリアナとグレイに助けを求めたのと同じ方法だ。距離や障害物に関わらず、特定の相手に意思を伝えることができる可能性がある。ただし、相手がその思念を受け取る準備ができていなければ、効果は薄い。
「ダリウス騎士団長は、俺の『特殊な力』に気づいている節がありました。もしかしたら、俺からの思念を、何らかの形で感じ取ってくれるかもしれません」
それは、一縷の望みにすぎないかもしれない。しかし、今のリオたちにとっては、数少ない可能性の一つだった。
「……危険な賭けだが、他に有効な手も思いつかんな」グレイはしばらく考え込んだ後、渋々といった体で言った。「やるなら、早くしろ。時間はあまりない」
「ええ……。でも、もし失敗したら……」リリアナはまだ不安を拭いきれない。
「大丈夫です」リオは、仲間たちの顔を見つめ、力強く言った。「俺たちには、まだやるべきことがある。こんなところで、終わらせるわけにはいきません」
彼の瞳には、絶望ではなく、困難に立ち向かう決意の光が灯っていた。ギルドの決定は、彼らにとって大きな打撃だったが、それは同時に、彼らを新たな行動へと駆り立てる引き金にもなったのだ。
リオは目を閉じ、精神を集中させた。目標は、王国騎士団長ダリウス・グレイフォード。彼に向けて、救援を求めるのではなく、情報を求める、切実な思念を送り始めた。
『ダリウス騎士団長……リオ・アシュトンです……。どうか、この声が届けば……助言を……』
フロンティアの小さな研究室から放たれた微弱な思念の波。それが、遠く離れた王都の騎士団長の元へ届くのか、そして、どんな反応が返ってくるのか……。それは、誰にも予測できない、運命の糸を手繰り寄せるような、か細い試みだった。しかし、彼らは信じるしかなかった。仲間との絆と、自分たちの持つ力の可能性を。
リリアナの研究室で、三人は改めて状況を分析していた。
「まさか、リオさんが【マテリアル・クリエイト】をあんな風に応用するなんて……本当に驚いたわ」
リリアナは、興奮冷めやらぬ様子で言った。リオが仮病の男に施した「治療」は、彼女の目から見ても、極めて高度な魔法技術だった。単に治癒エネルギーを送るのではなく、体内の異質な魔術構造を直接「書き換える」など、常識では考えられない芸当だ。
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リオは苦笑いを浮かべたが、その表情には確かな手応えも感じられた。啓示によって示された新たな力の片鱗を、彼は確かに掴み始めていたのだ。
「だが、そのお陰で、奴らの企みは完全に裏目に出た」グレイが言った。「しかし、安心するのはまだ早い。今回の件で、奴らはリオの力をさらに危険視するだろう。そして、より強硬な手段に出てくる可能性が高い」
「ええ……。特に、王都の宰相が関わっているとなると、国家規模での圧力も考えられるわ。ギルドや領主を通じて、リオさんの活動を制限したり、最悪の場合、拘束しようとしたり……」
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「俺たちは、どうすれば……」
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その時、研究室の扉が控えめにノックされた。驚いて顔を見合わせる三人。こんな時間に訪ねてくる者など、心当たりがない。グレイが用心深く扉に近づき、声をかける。
「……誰だ?」
「冒険者ギルドのサラです。リオさん、いらっしゃいますか?」
サラの声だった。しかし、その声にはいつもの快活さはなく、どこか緊張した響きが含まれている。グレイが扉を開けると、そこには案の定、少し青ざめた表情のサラが立っていた。
「サラさん、どうしたんですか?」
「……急ぎ、お伝えしたいことがありまして……。長くなりそうなので、中へ入れていただけますか?」
サラを研究室に招き入れると、彼女は深呼吸をしてから、重々しく口を開いた。
「実は……先ほど、王都からギルドマスター宛に、緊急の通達があったんです」
「王都から……?」
リオたちの間に、緊張が走る。
「はい……。その内容は……『フロンティアで活動する冒険者、リオ・アシュトンについて、その能力と行動に不審な点が見られるため、ギルドは彼の活動を一時的に差し止め、王都からの調査団の到着を待つこと』……というものでした」
サラの言葉に、リオは息を呑んだ。やはり、来たか。王国の直接的な介入だ。
「活動の差し止め……! なんて横暴な……!」リリアナが憤慨したように声を上げる。
「調査団……。おそらく、『影狼』の別働隊か、あるいはもっと上の連中だろうな」グレイは冷静に分析する。
「ギルドマスターは、どう対応されたんですか?」リオが尋ねた。
「それが……マスターは非常に困惑されていました。リオさんのこれまでの功績や、街の人々からの信頼はよくご存知ですから。しかし、王都からの正式な通達となると、完全に無視することもできず……」
サラは言葉を濁らせた。ギルドマスターも、板挟みになっているのだろう。
「それで……マスターは、こう決断されました。『リオ・アシュトンの活動は、ギルドとしては一時的に『監視下』に置く。ただし、緊急性の高い依頼や、人道的な見地から必要と判断される活動については、マスターの裁量で許可する場合がある』……と」
「監視下……」
「はい。つまり、完全に活動を禁止するわけではないけれど、常にギルドの目が光っている状態、ということです。そして、王都の調査団が到着次第、彼らに身柄を引き渡す、ということになるかもしれません……」
サラの声は、申し訳なさで震えていた。彼女自身も、この決定に納得していないのだろう。
「そんな……!」リオは愕然とした。これでは、実質的に軟禁状態ではないか。アストライオスの儀式も、他の遺跡の調査も、何もできなくなってしまう。
「マスターは、これがギルドとしてできる、ギリギリの抵抗だとおっしゃっていました。リオさんを完全に守ることはできないかもしれないけれど、少なくとも、不当な扱いや、即座の拘束だけは避けたい、と……。そして、私に、このことを内密にリオさんに伝えるように、と……」
サラは、涙ぐみながら言った。ギルドマスターも、そしてサラ自身も、リオのことを案じてくれているのだ。その気持ちが、リオには痛いほど伝わってきた。
「……分かりました、サラさん。伝えてくれて、ありがとうございます。マスターにも、よろしくお伝えください」
リオは、努めて平静を装い、礼を言った。
サラが帰った後、研究室には再び重苦しい沈黙が訪れた。
「……いよいよ、追い詰められてきたわね」リリアナが、か細い声で言った。
「ああ。王都の調査団が来るまで、時間はあまりないだろう。おそらく、数日……長くても一週間といったところか」
グレイの予測は、厳しい現実を突きつけていた。
「どうすれば……。このままフロンティアにいれば、いずれ捕まってしまう……。かといって、逃げれば、王国の追手はどこまでも……」
リオは、絶望的な状況に頭を抱えそうになった。しかし、その時、彼の脳裏に、騎士団長ダリウスの言葉が蘇った。
『君のような若者が、理不尽な理由で才能を潰され、危険に晒されるのを見るのは、忍びない』
『王都から、君の力を探る動きがあるのは間違いない。……くれぐれも、用心することだ』
ダリウスは、敵ではなかったのかもしれない。少なくとも、個人的にはリオに同情的だった。そして、彼は王国の内部事情にも詳しいはずだ。
(……もしかしたら……彼なら、何か助けになってくれるかもしれない……)
危険な賭けだ。しかし、このまま座して待つよりはマシかもしれない。
「……一つ、試してみたいことがあります」
リオは、意を決して顔を上げた。
「王国の騎士団長……ダリウス・グレイフォード氏に、接触してみようと思います」
「騎士団長に!?」リリアナとグレイが、驚いて声を上げた。
「正気か、リオ? 彼は王国の人間だぞ。信用できるとは限らん」グレイが懐疑的な目を向ける。
「分かっています。でも、彼は以前、俺に忠告をくれました。そして、バルカスのやり方を快く思っていないようでした。もしかしたら……彼なら、今の状況を打開するための、何か情報を持っているかもしれない。あるいは、ほんの少しの時間稼ぎくらいは、してくれるかもしれない」
「でも、どうやって接触するの? 彼がフロンティアにいる保証もないし、もしいたとしても、王国の監視の目がある中で……」
リリアナの不安ももっともだ。
「それについては、考えがあります」リオは言った。「【言語魔法】の応用です。直接会うのではなく、思念を通じて、彼にメッセージを送るんです」
それは、以前リオが誘拐された時に、リリアナとグレイに助けを求めたのと同じ方法だ。距離や障害物に関わらず、特定の相手に意思を伝えることができる可能性がある。ただし、相手がその思念を受け取る準備ができていなければ、効果は薄い。
「ダリウス騎士団長は、俺の『特殊な力』に気づいている節がありました。もしかしたら、俺からの思念を、何らかの形で感じ取ってくれるかもしれません」
それは、一縷の望みにすぎないかもしれない。しかし、今のリオたちにとっては、数少ない可能性の一つだった。
「……危険な賭けだが、他に有効な手も思いつかんな」グレイはしばらく考え込んだ後、渋々といった体で言った。「やるなら、早くしろ。時間はあまりない」
「ええ……。でも、もし失敗したら……」リリアナはまだ不安を拭いきれない。
「大丈夫です」リオは、仲間たちの顔を見つめ、力強く言った。「俺たちには、まだやるべきことがある。こんなところで、終わらせるわけにはいきません」
彼の瞳には、絶望ではなく、困難に立ち向かう決意の光が灯っていた。ギルドの決定は、彼らにとって大きな打撃だったが、それは同時に、彼らを新たな行動へと駆り立てる引き金にもなったのだ。
リオは目を閉じ、精神を集中させた。目標は、王国騎士団長ダリウス・グレイフォード。彼に向けて、救援を求めるのではなく、情報を求める、切実な思念を送り始めた。
『ダリウス騎士団長……リオ・アシュトンです……。どうか、この声が届けば……助言を……』
フロンティアの小さな研究室から放たれた微弱な思念の波。それが、遠く離れた王都の騎士団長の元へ届くのか、そして、どんな反応が返ってくるのか……。それは、誰にも予測できない、運命の糸を手繰り寄せるような、か細い試みだった。しかし、彼らは信じるしかなかった。仲間との絆と、自分たちの持つ力の可能性を。
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