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第57話 効率の果てに見つけたもの
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レンの城には、再び、完璧な日常が戻ってきた。
『神々の黄昏』との戦いで得られた、膨大な戦闘データ。それを元に、レンはシステムの脆弱性を一つずつ潰し、ガーディアン・プロトコルを、さらに洗練された、難攻不落のものへとアップデートしていた。
彼の日常は、もはや、完全にパターン化されていた。
システムのメンテナンス、ヒマリのバフ料理による自己強化、そして、次なるシステムの設計。
その、閉じたサイクルの中で、彼のレベルと資産は、もはや意味をなさないレベルにまで、上昇し続けていた。
サーバーランキングの1位の座に、『レン』の名が刻まれるのも、もはや時間の問題だった。
だが、レンの心には、以前のような、熱狂的な探究心は、薄れつつあった。
完璧なシステムを構築し、最強のギルドを退けた。
彼の、当初の目標は、ある意味で、達成されてしまった。
それは、彼にとって、初めて経験する『目的の喪失』だった。
「レンさん、見てください! 水耕栽培ユニットのお花、咲きましたよ!」
そんな、彼の思考を中断するように、ヒマリの明るい声が響いた。
彼女が指差す先には、レンが作った無骨な水耕栽培ユニットから、一輪の、青く、そして儚げな花が、健気に咲いていた。
それは、この無機質な司令室の中で、唯一、生命の色を持つ、異質な存在だった。
「……そうか」
レンは、興味なさそうに、それだけ答えた。
花が咲いたところで、彼のシステムの効率が上がるわけではない。それは、彼にとって、価値のない情報のはずだった。
「すごく、綺麗ですね。名前、なんていうお花なんでしょう?」
「知らん。君が植えた種だろう」
「えへへ。実は、私も知らないんです。道具屋さんで、『何が咲くかお楽しみの種』っていうのを、買ってみただけなので」
何が咲くか分からない種。
レンの思考回路では、到底理解できない、非効率の極みのような行動だった。
だが、ヒマリは、その、結果の分からないプロセスそのものを、心から楽しんでいるようだった。
「ねえ、レンさん。このお花で、新しいお茶を淹れてみますね! きっと、すごくリラックスできますよ!」
ヒマリは、そう言うと、嬉しそうに花を摘み、キッチンへと向かっていった。
レンは、その背中を、ただ黙って見つめていた。
リラックス。
効率を追求する彼にとって、それは、無駄な時間、排除すべきものだと、ずっと思っていた。
だが、本当に、そうだろうか。
彼は、ふと、自分の作業を振り返った。
彼は今、『オートマテッド・キル・システム Ver.3.0』の設計に取り組んでいた。
それは、モンスターのドロップ品から、さらに高価値なアイテムを自動で生産する、二次加工ラインの追加。
ダンジョン内で、生産から加工、販売までの全てを完結させる、究極の工場。
その設計図は、完璧だった。
ロジックに、一切の無駄はない。
だが、彼の心は、以前のように、踊っていなかった。
それは、もはや、情熱を傾ける『創造』ではなく、ただの『作業』になってしまっていた。
その時、ヒマリが、ティーカップを手に、彼の元へやってきた。
カップの中には、摘みたての花びらが浮かんだ、美しい青色のお茶が入っている。
「どうぞ、レンさん。『安らぎのフラワーティー』です」
レンは、無言で、それを受け取った。
カップから立ち上る、甘く、そして優しい香り。
彼は、そのお茶を、一口、飲んだ。
味は、ほとんどなかった。
バフ効果を知らせる、システムメッセージも、表示されない。
何の、効果もない。ただの、色付きのお湯だ。
非効率。
彼の頭の中で、いつもの思考が、そう結論づけようとした。
だが。
その、優しい香りと、温かさが、彼の張り詰めていた思考を、ふわりと、解きほぐしていくのが、分かった。
ずっと、オンの状態だった、頭のスイッチが、ゆっくりと、オフになっていくような、穏やかな感覚。
彼は、初めて、設計図から、目を離した。
そして、目の前で、嬉しそうに、同じお茶を飲んでいる、ヒマリの顔を見た。
彼女の、屈託のない笑顔。
彼女がいる、この空間の、穏やかな空気。
その瞬間、レンは、気づいてしまった。
彼が、本当に、手に入れたかったもの。
彼が、この長い戦いの果てに、無意識のうちに、守り続けてきたもの。
それは、完璧なシステムでも、無限の富でも、サーバー最強の称号でもない。
この、何でもない、非効率で、しかし、温かい、日常。
それそのものだったのかもしれない、と。
効率を、突き詰めた。
無駄を、全て、排除した。
その、果ての果てに、彼が見つけたのは、一人の少女と、一杯のお茶がもたらす、ただの、穏やかな時間だった。
それは、彼が、人生で初めて経験する、『安らぎ』という名の、最高の報酬だった。
「……悪くない」
レンは、ぽつり、と呟いた。
「このお茶も。……この日常も」
その、彼の、あまりにも珍しい、素直な言葉に。
ヒマリは、きょとんと、目を丸くした。
そして、次の瞬間、これまでで、一番、幸せそうな、満開の笑顔を、咲かせた。
レンの、完璧な城の中で。
二人の、完璧な日常が、静かに、そして、確かに、完成した。
彼の、長かった探求の旅は、今、ここで、一つの、温かい答えに、たどり着いたのかもしれない。
『神々の黄昏』との戦いで得られた、膨大な戦闘データ。それを元に、レンはシステムの脆弱性を一つずつ潰し、ガーディアン・プロトコルを、さらに洗練された、難攻不落のものへとアップデートしていた。
彼の日常は、もはや、完全にパターン化されていた。
システムのメンテナンス、ヒマリのバフ料理による自己強化、そして、次なるシステムの設計。
その、閉じたサイクルの中で、彼のレベルと資産は、もはや意味をなさないレベルにまで、上昇し続けていた。
サーバーランキングの1位の座に、『レン』の名が刻まれるのも、もはや時間の問題だった。
だが、レンの心には、以前のような、熱狂的な探究心は、薄れつつあった。
完璧なシステムを構築し、最強のギルドを退けた。
彼の、当初の目標は、ある意味で、達成されてしまった。
それは、彼にとって、初めて経験する『目的の喪失』だった。
「レンさん、見てください! 水耕栽培ユニットのお花、咲きましたよ!」
そんな、彼の思考を中断するように、ヒマリの明るい声が響いた。
彼女が指差す先には、レンが作った無骨な水耕栽培ユニットから、一輪の、青く、そして儚げな花が、健気に咲いていた。
それは、この無機質な司令室の中で、唯一、生命の色を持つ、異質な存在だった。
「……そうか」
レンは、興味なさそうに、それだけ答えた。
花が咲いたところで、彼のシステムの効率が上がるわけではない。それは、彼にとって、価値のない情報のはずだった。
「すごく、綺麗ですね。名前、なんていうお花なんでしょう?」
「知らん。君が植えた種だろう」
「えへへ。実は、私も知らないんです。道具屋さんで、『何が咲くかお楽しみの種』っていうのを、買ってみただけなので」
何が咲くか分からない種。
レンの思考回路では、到底理解できない、非効率の極みのような行動だった。
だが、ヒマリは、その、結果の分からないプロセスそのものを、心から楽しんでいるようだった。
「ねえ、レンさん。このお花で、新しいお茶を淹れてみますね! きっと、すごくリラックスできますよ!」
ヒマリは、そう言うと、嬉しそうに花を摘み、キッチンへと向かっていった。
レンは、その背中を、ただ黙って見つめていた。
リラックス。
効率を追求する彼にとって、それは、無駄な時間、排除すべきものだと、ずっと思っていた。
だが、本当に、そうだろうか。
彼は、ふと、自分の作業を振り返った。
彼は今、『オートマテッド・キル・システム Ver.3.0』の設計に取り組んでいた。
それは、モンスターのドロップ品から、さらに高価値なアイテムを自動で生産する、二次加工ラインの追加。
ダンジョン内で、生産から加工、販売までの全てを完結させる、究極の工場。
その設計図は、完璧だった。
ロジックに、一切の無駄はない。
だが、彼の心は、以前のように、踊っていなかった。
それは、もはや、情熱を傾ける『創造』ではなく、ただの『作業』になってしまっていた。
その時、ヒマリが、ティーカップを手に、彼の元へやってきた。
カップの中には、摘みたての花びらが浮かんだ、美しい青色のお茶が入っている。
「どうぞ、レンさん。『安らぎのフラワーティー』です」
レンは、無言で、それを受け取った。
カップから立ち上る、甘く、そして優しい香り。
彼は、そのお茶を、一口、飲んだ。
味は、ほとんどなかった。
バフ効果を知らせる、システムメッセージも、表示されない。
何の、効果もない。ただの、色付きのお湯だ。
非効率。
彼の頭の中で、いつもの思考が、そう結論づけようとした。
だが。
その、優しい香りと、温かさが、彼の張り詰めていた思考を、ふわりと、解きほぐしていくのが、分かった。
ずっと、オンの状態だった、頭のスイッチが、ゆっくりと、オフになっていくような、穏やかな感覚。
彼は、初めて、設計図から、目を離した。
そして、目の前で、嬉しそうに、同じお茶を飲んでいる、ヒマリの顔を見た。
彼女の、屈託のない笑顔。
彼女がいる、この空間の、穏やかな空気。
その瞬間、レンは、気づいてしまった。
彼が、本当に、手に入れたかったもの。
彼が、この長い戦いの果てに、無意識のうちに、守り続けてきたもの。
それは、完璧なシステムでも、無限の富でも、サーバー最強の称号でもない。
この、何でもない、非効率で、しかし、温かい、日常。
それそのものだったのかもしれない、と。
効率を、突き詰めた。
無駄を、全て、排除した。
その、果ての果てに、彼が見つけたのは、一人の少女と、一杯のお茶がもたらす、ただの、穏やかな時間だった。
それは、彼が、人生で初めて経験する、『安らぎ』という名の、最高の報酬だった。
「……悪くない」
レンは、ぽつり、と呟いた。
「このお茶も。……この日常も」
その、彼の、あまりにも珍しい、素直な言葉に。
ヒマリは、きょとんと、目を丸くした。
そして、次の瞬間、これまでで、一番、幸せそうな、満開の笑顔を、咲かせた。
レンの、完璧な城の中で。
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