鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第10話:路地裏の出会い

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真新しい銅のギルドカードを手に、俺はギルドを後にした。まずは街の様子をもっと見て回ろう。依頼は焦らなくてもいい。焦って失敗すれば、それこそ元も子もないのだから。

ラトナの街は、どこか雑然としていながらも、活気に満ちていた。メインストリートは冒険者や商人、街の住民でごった返している。俺は人波に紛れ、市場を歩いた。色とりどりの野菜や珍しい果物、干し肉や香辛料が並ぶ。王都では見かけなかったような異国の品も多い。

【万物解析】を使えば、それぞれの品の産地や鮮度、相場までが手に取るように分かる。俺はそれらを参考に、いくつか保存食と、安くて品質のいい果物を買った。

ふと、肉屋の前で視線が止まる。山積みにされた獣肉の中に、見慣れない種類の肉があった。

【名称:ロックバイソンのモモ肉】
【品質:極上】
【備考:解体処理が完璧。保存状態も最高】
【思考:『うーん、この肉は今日中に売り切りたいんだが、結構値が張るからなあ』】

肉屋の主人の思考を読み、俺は思わず口元を緩めた。この品質の肉なら、本来もっと高値で売れるはずだ。少し交渉すれば、安く手に入るかもしれない。だが、今は食料には困っていない。

俺はそのまま、市場を抜けて住宅街の方へ向かった。木造の家々がひしめき合い、洗濯物がはためいている。子供たちが路地で鬼ごっこをして、楽しげな声が響き渡っていた。

【子供A:今日の晩ご飯がハンバーグだと聞いて嬉しい】
【母親B:夕飯の献立を考えている。もう少し野菜を増やしたい】

平和な光景だ。王都を追放されてから、こんな穏やかな日常を目にするのは初めてだった。この街なら、俺も平穏に暮らしていけるかもしれない。

そんなことを考えながら歩いているうちに、いつの間にかメインストリートから一本外れた、人気のない細い路地裏に入り込んでいた。日が陰り、昼間とは打って変わって薄暗い。壁には落書きがされ、ゴミが散乱している。獣人の子供たちの声も聞こえない。

ここには、街の光の部分とは違う、影の部分があるのだろう。

俺は特に目的もなく、その路地を奥へと進んでいった。どん詰まりかと思ったその時、右手に薄汚れた木製の扉が見えた。そこから、何やら怒鳴り声のようなものが聞こえてくる。

「おい、てめえ! さっさと荷物を運べって言ってるだろ! ボケっと突っ立ってんじゃねえ!」

その声は、明らかに怒りに満ちていた。そして、その後に続くのは、か細い「ひっ」という悲鳴のようなもの。

嫌な予感がして、俺は扉の隙間からそっと中を覗き込んだ。そこは、小さな裏庭のような場所だった。

そこにいたのは、見るからに質の悪そうな男と、小柄な少女。男は肥満体型で、赤い顔をしており、腰には鞭をぶら下げている。いかにも、荒くれ者といった風体だ。

そして、少女は……。

俺は息を呑んだ。彼女は両手両足を縛られ、地面にうずくまっている。年齢は俺よりもかなり幼く見える。何よりも目を引いたのは、その銀色の髪と、頭から生えたぴんと立った猫の耳、そして背後で揺れる長い尻尾だった。獣人の少女だ。

男は少女の髪を掴み、無理やり顔を上げさせていた。

「この役立たずが! 食い扶持を稼げないなら、せめて荷物くらい運んでみせろ!」

男の顔は醜く歪み、少女は恐怖に顔を歪ませている。

「ごめ、なさい……もう、力が出なくて……」

少女の声は、か細く震えていた。その体には、服の上からでも分かる無数の傷跡と、新しい鞭の痕が生々しく浮き出ている。

奴隷だ。一目見て、俺はそう確信した。

激しい怒りが、心の奥底から込み上げてくる。勇者パーティーに追放された時の理不尽な感情とは違う、もっと純粋な、根源的な怒り。目の前で繰り広げられているのは、まさに外道と言える行為だった。

あの男が振り下ろした鞭が、少女の細い背中を打ち据える。

「きゃああっ!」

悲鳴が路地裏に響き渡った。少女の体は、小さく痙攣する。

俺の体は、すぐにでも飛び出して男を打ちのめしたい衝動に駆られた。だが、待て。今の俺はレベル3の新人冒険者だ。相手の素性も分からないまま無謀に飛び出せば、返り討ちにあう可能性が高い。それでは、少女を助けるどころか、俺まで危険に晒してしまう。

俺は震える手で、男と少女に【万物解析】を向けた。まずは男からだ。

【名称:ザック(奴隷商人)】
【職業:奴隷商人】
【レベル:18】
【状態:興奮、怒り】
【思考:『この銀髪の猫獣人はなかなか値が張るはずなんだが、体力がないせいで仕事にならねえ。早く売っちまいてぇ』】
【スキル:鞭術(Lv.4)、交渉術(Lv.3)、精神支配(Lv.1)】
【装備:革の鞭、錆びた短剣】

レベル18。俺よりもはるかに強い。しかも精神支配のスキルまで持っている。まともに戦えば、勝ち目はないだろう。

次に、少女へ。俺は彼女の無惨な姿から目を逸らさず、スキルを使った。

【名称:ルナ】
【種族:猫獣人】
【職業:奴隷】
【レベル:1】
【状態:極度の疲労、飢餓、精神的苦痛】
【感情:恐怖(-20/黒色)、わずかな希望(+5/薄い白色)】
【思考:『もう、嫌だ……誰か、助けて……』】
【スキル:なし】
【潜在能力:『縮地』(未覚醒)、高い身体能力、暗視】

レベル1。俺よりも弱い。だが、『潜在能力』という見慣れない項目に目が止まる。未覚醒のスキル『縮地』。高い身体能力。この少女は、本来は強大な力を持っているのかもしれない。そして、彼女の感情……。

恐怖を示す『黒色』の中に、かすかに『薄い白色』で示された『わずかな希望』。

その希望が、俺という存在に向かっているのか、それとも漠然としたものなのかは分からない。しかし、その小さな光が、俺の心を強く突き動かした。

このまま、見過ごすことなどできない。

俺はそっと扉の隙間から目を離し、物陰に身を隠した。どうすれば、この少女を救い出すことができるのか。正面からの戦闘は不利だ。知恵を使え。そう、俺には【万物解析】がある。

俺は奴隷商人のザックの情報を脳内で反芻した。『賭け事好き』という、俺のプロットにはないが、スキルで得られた情報が俺の頭の中で新しい道を切り開く。彼の思考の中にも「早く売っちまいてぇ」という言葉があった。金に汚い男なら、交渉の余地はあるはずだ。

路地裏の薄暗い影の中で、俺は静かに、しかし強く決意した。

この少女を、俺が助ける。

それが、追放された俺に、今できる唯一のことだと信じて。
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