鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第12話:救出計画

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ギルドを出た俺は、迷わず街の東門へと向かった。太陽はまだ高い位置にあるが、油断はできない。ギルドが閉まるまでに戻らなければ、報酬は水の泡だ。

記憶を頼りに森の中へ入る。王都周辺の整備された森とは違い、ここは手つかずの自然がそのまま残っていた。下草が生い茂り、巨大な木々が空を覆っている。

俺は【万物解析】を常に発動させたまま、慎重に歩を進めた。

【前方五十メートル、右手の樫の木にスリープビー(眠り蜂)の巣。刺激すると麻痺毒を持つ針で攻撃される。迂回推奨】

脳内に響く警告に従い、俺は静かに進路を変える。以前の俺なら、気づかずに巣を刺激していただろう。このスキルは、戦闘だけでなく、探索においても最強の武器だった。

やがて、小さな沢のせせらぎが聞こえてきた。俺の記憶が正しければ、この沢沿いに群生地があるはずだ。

【目標地点まで残り二百メートル。周辺に大型の魔物の気配なし】

安全が確認できたことで、俺の足取りは少し軽くなる。そして、視界が開けた先に、目的のものを発見した。

沢のほとりの、日当たりの良い場所に、数十本の白い花が群生していた。夜にしか咲かないはずの月光草が、なぜか昼間なのに花を開いている。

【名称:月光草(亜種)】
【備考:この地域の土壌に含まれる特殊な魔力の影響で、昼夜を問わず開花する珍しい亜種。薬効は通常のものと変わらない】

なるほど、そういうことか。これなら夜を待つ必要はない。俺は麻袋を取り出し、素早く採取を始めた。一本一本に鑑定をかけ、根を傷つけない最適な角度を割り出しながら、丁寧にナイフを入れる。

三十分ほどで、依頼された量をはるかに超える月光草を採取することができた。ついでに、周囲に生えていた他の有用な薬草もいくつか鑑定し、袋に詰めておく。これも金になるかもしれない。

帰り道も【万物解析】で安全なルートを選び、俺は日が傾き始める前にラトナの街へと帰還した。その足で、まっすぐ冒険者ギルドへ向かう。

俺が麻袋いっぱいの月光草をカウンターに置くと、受付のミリーは目を丸くした。

「えっ、もう戻ってきたの!? しかも、こんなにたくさん……」

彼女は信じられないといった様子で月光草を手に取り、その品質を確かめている。彼女の思考が、驚きと共に俺に流れ込んできた。

『すごい……。これ、全部Aランク品の月光草じゃない。しかも亜種だから、昼間に採取できたんだわ。まさか、あの群生地を知っていたなんて。この子、一体何者……?』

「約束通り、日没前に納品しました。これで依頼達成ですよね?」

俺が言うと、ミリーはハッと我に返り、慌てて笑顔を作った。

「え、ええ! もちろんよ! 依頼達成、おめでとう! こんなに早く、しかもこれだけの品質のものを納品してくれるなんて、薬草店も喜ぶわ。はい、約束の報酬、銀貨二十枚よ!」

彼女はカウンターの下から革袋を取り出し、俺に差し出した。チャリン、という心地よい重みが手のひらに伝わる。これが、ルナを救うための軍資金だ。

「ありがとう、アレンさん。あなた、すごいじゃない! もしかして、薬草採取が得意なの?」

ミリーの俺を見る目が、明らかに変わっていた。ただの新人を見る目から、何か特別なものを持つ冒険者を見る目へ。彼女の頭上には、俺への好感度を示す数値が微かに上昇していた。

【ミリーからアレンへの好M感度:25/100(興味/薄い水色)】

同情から、興味へ。小さな変化だが、俺にとっては大きな一歩だった。

「まあ、少しだけ知識があるだけです。では、これで失礼します」

俺は余計なことは言わず、ミリーに一礼してギルドを後にした。これからが本番だ。

まずは、決戦の舞台となる酒場『猪の牙』の場所を確認する。街の人に尋ねると、そこは街の北側、少し治安の悪い地区にあることが分かった。俺は日が完全に落ちる前に、その場所を下見しておくことにした。

『猪の牙』は、噂に違わぬ荒くれ者の巣窟といった雰囲気だった。まだ宵の口だというのに、中からは酔っ払いの怒声や下品な笑い声が聞こえてくる。俺は中には入らず、外からその様子を窺った。

鑑定するまでもなく、ここはあらゆる欲望が渦巻く場所だ。賭け事にはうってつけの舞台だろう。

俺は一旦安い宿を取り、部屋で計画の最終確認を行った。

奴隷商人ザックは、金に汚く、賭け事が好きで、そして短気だ。彼の性格を利用する。

まず、俺はカモを演じる。世間知らずで、少しばかり金を持った新人の冒身険者を装う。そして、彼の得意なサイコロ賭博のテーブルに座る。

最初は、わざと負け続ける。彼の警戒心を解き、優越感に浸らせるためだ。俺の懐が寂しくなってきたところで、「サイコロは運すぎる。俺の得意なポーカーで勝負しないか」と持ちかける。プライドをくすぐられた彼は、その誘いに乗ってくるはずだ。

ポーカーが始まったら、そこからは俺の独壇場だ。【万物解析】で、相手の手札、山札の順番、彼の心理状態、全てを読み切る。勝ちすぎず、負けすぎず、絶妙なバランスで勝負を長引かせ、彼の射幸心を煽り続ける。

そして、彼がなけなしの金までつぎ込み、完全に熱くなったところで、最後の大勝負を仕掛ける。

「金がないなら、他のものでもいい。例えば……あんたが持ってる、あの銀髪の奴隷とか」

そう切り出すタイミングが、勝負の分かれ目になるだろう。

完璧な計画だ。だが、それは全て、俺のスキルが十全に機能するという前提の上に成り立っている。万が一、何らかの理由でスキルが使えなくなれば、俺に勝ち目はない。

リスクは大きい。失敗は許されない。

俺は窓の外を見た。空は深い藍色に染まり、一番星が瞬き始めている。今頃、ルナはどうしているだろうか。あの薄暗い裏庭で、恐怖と絶望に耐えているのだろうか。

彼女の瞳に宿っていた、『わずかな希望』という小さな光を思い出す。

「待っててくれ、ルナ。必ず、助け出すから」

俺は誰に言うでもなく呟き、固く拳を握りしめた。革袋の中の銀貨二十枚が、じゃらりと音を立てた。それはまるで、これから始まる戦いのゴングのように、俺の耳に響いた。
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